『帝丹のプリンセス』と呼ばれた高校時代のアイドルからの同窓会のお誘い。これで行かねば男が廃る。
ということで、クリーニングから返って来たばかりの背広に袖を通した小五郎は、嬉々として有希子主催の帝丹高校の同窓会へと出かけていった。蘭からそれとなく聞き出した情報によると、同じく招待されているであろう同級生は仕事で東京を離れるらしいので、またとない千載一遇のチャンスでもあったのだ。
あったはずなのに、東京にいないはずの『帝丹のクイーン』が会場にいた。依頼者のドタキャンで出張が中止になったのだ。
「毛利君久しぶり~! ねぇ、今度うちのホームパーティに来てよ。名探偵の事件簿聞きたい~!」
「勿論、是非と……いやぁ、生憎事件続きでして。残念!」
美人セレブインフルエンサーとしてその界隈で有名な同級生の誘いに乗りかけると、背後から絶対零度の視線が突き刺さる。蘭によく似ているが、蘭よりも年季が入っているし蘭よりも鋭い……そりゃそうだ、親子なんだから。
「まあまあ。英理、そんなに眉間に皺刻まないの」
「有希子! この人が来ること知っていて、私を誘ったでしょ」
「でも、仕事がドタキャンになって参加したのは英理でしょう。いいじゃない、まだ夫婦なんだから。それに、私だってたまには毛利君とも交流を深めないと~将来、親戚になるんだし」
うふふふ、と何か含みがあるような可愛らしい笑顔を浮かべる有希子の言葉に、何故親戚?と小五郎は首を傾げた。
英理と同席してしまうというハプニングはあったが、朝から良い酒が飲めるのだからしっかり飲むとしよう。とした矢先、同級生の1人がスマホを見ながら悲鳴のような声を上げたのだ。
「有希子、大変! これ見て!」
「どうしたの? ……え」
「な、何があった?」
「動画サイトに変なライブ配信が上がってて。有希子の旦那さんがいる『ラウンドシティ東都』で爆弾テロが起きてるって」
「何だって?! っ! それって、まさかサイン会……蘭たちもいる場所じゃねーか!」
「ええっ!?」
監視カメラからの映像だろうか。どういう訳か『ラウンドシティ東都』の十三階で起きている事件が、多くの人々と世界的に有名な小説家を人質に取り、10億円の身代金を要求するという事件の様子が拡散し始めていた。
幸いにも、蘭たちは整理券の関係で人質にはなっていない。しかし、この動画が拡散し始めると、『ラウンドシティ東都』の八階以下にいる者たちは、現場で起きている異変に気づき始めたのだ。
「リューキと!」
「あおみーの!」
「「実況! リューみーちゃんねる~!」」
「急なライブ配信だけど、入ってくれたフォロワーさんたちありがとう! 今日はね、今、大変なことが起きてるのよ。俺とあおみーは今、『ラウンドシティ東都』にいます!」
「何だ、あのやかましい連中は」
「あ、あの2人、動画配信者コンビのリューキとあおみーよ! 今、人気が出始めているって」
「そっか、どこかで見たことあると思ったら。賑やかな可愛い系か~ちょっとわたしの好みとズレてるのよね」
「何で急にライブ配信やってんのよ。迷惑ね」
『ラウンドシティ東都』の五階、女性向けのショップが多く並ぶフロアにて、自撮り棒にセッティングされたスマートフォンを手に急な動画配信を始めた男女2人。わざとらしい甲高い声に、耳が刺激されたかサリエリが苦言を漏らした。両手には、少女たちが姦しくショッピングを楽しんだ証であるショップバッグが握られている。
蘭、園子、そしてジャンヌの3人は、午後の整理券を手に優作のサイン会にやって来ていた。発起人は蘭である。園子に言わせてみれば、「礼儀正しい息子の嫁」とのこと。
午前中は、話題のスイーツの行列に並んだり意外な人と遭遇したりしながら、サリエリを荷物持ちに楽しいショッピングタイムを満喫していたが、それに水を差した2人は人気が出始めている動画配信者コンビらしい。
「ワイプ見て! さっきからライブ中の動画! ここ『ラウンドシティ東都』の十三階で、今日は有名な作家先生のサイン会があったんだけど、そこで立て籠もりが起きてるって! マジだよ、マジ! みてエレベーター! 八階から十三階まで押せないの!」
「ってか爆弾あるって!」
「ええ~流石にそれじゃ嘘っしょ」
「でもマジだったら、俺たちもヤバいじゃん」
「ば、爆弾!?」
2人の配信の様子を野次馬していた人々がライブ中の動画を目にすると、十三階で起きている事件はあっという間に現場で拡散された。小さく悲鳴を上げた女性グループは「どうしよう」と相談し合い、若者カップルは「どうせ嘘だと」と賑やかに笑い合っている。が、中には焦りに焦って誰よりも早くこの場から脱出しようと、近くにいた人を押しのけて駆け出した中年男性もいた。
「どけ! 俺は死にたくない!」
「痛!」
「きゃっ!?」
「園子!」
何人かを押しのけて人がいるのも気にせずに一直線に逃げ出した中年男性は、園子を突き飛ばしてエスカレーターを駆け下りて行く。今日の園子はヒール高めの靴を履いていたので、突き飛ばされた衝撃でバランスを崩して転倒してしまったが、背後から伸びて来た腕が彼女の身体を支えたため倒れることはなかった。
「お怪我はありませんか、レディ?」
「は……はい! 大丈夫です!」
「それは良かった。まったく、レディ相手になんて粗暴な振る舞いを」
『うわ、イケメン……!』
支えてくれた男性が、背の高い美形だったため園子の顔がほんのり赤くなる。赤い長髪を一本に結った青年だが、日本人ではなさそうだ。
「あ」
「あ」
「あ」
「これは、お2人もショッピングですか。両手どころか三方に花とは、羨まけしからん状況ですねサリエリ卿」
「オルタちゃんとサリエリさんのお知り合いですか?」
「知り合いと言うか」
「強いて言うなら、同じ映画に出演した……仲?」
「懐かしいですね。お2人と共演経験があります、トリスタン・リオネスと申します。ところで……些か空気がおかしな方向になってきている」
トリスタンに言われて初めて、竜騎と美弦が配信している動画に目を通して驚愕する。『ラウンドシティ東都』の十三階と『ラウンドホテル東都』の八階のビュッフェレストランで人々が人質に取られている。蘭は急いでコナンへ電話したが、返って来るのは電波が届かないという機械的アナウンスだけだった。
「そんな、コナン君や子供たちと連絡が取れない。新一のお父さんまで……どうなってるの?」
「駄目、立香とマシュも同じよ。とにかく、警察に通報しないと」
蘭が携帯電話の電話帳を開いて目暮警部の電話番号を出そうとすると、吹き抜けの一階から何やら大声が聞こえて来た。『ラウンドシティ東都』は、一階から五階の中央部分が吹き抜けになっており、六~七階には人工的な庭園が整備されているのだ。
『『黒倉建設』代表、黒倉昭太郎に! 不正と隠蔽の責任説明と謝罪を求める! 黒倉昭太郎は、今までの罪を速やかに認めろーー!』
「認めろーー!」
拡声器の声に賛同して、何人もの怒声が重なった。吹き抜けから一階を覗き込んでみると、揃いの鉢巻きをしてプラカードや看板を手にした老若男女がズラリと揃っていたのだ。手にしたプラカードには、『黒倉建設』に対する罵詈雑言や疑惑の追及について殴り書きされていた。
「何なのこれ? 事態がしっちゃかめっちゃかじゃない!」
「……あ、ベディヴィエール卿たちにも繋がらない」
「黒倉……あ! 人質の中に『黒倉建設』の社長さんがいる! 以前、パーティでお会いしたことがあるけど、奥様や娘さんまで」
ライブ配信され続けている十三階の様子は、未だに犯人グループと人質たちの膠着状態が続いている。10億円の身代金が支払われなければ、『ラウンドシティ東都』にいる者たちもビュッフェレストランで毒を盛られた人質たちも、このままでは無事では済まないだろう。
10億円の身代金を支払える財産を持つ者もいるが、頑なに頷かないため事件が進まない……それでも犯人グループは手荒な真似をして来なかった。1人、トイレに行きたいと人質が手を挙げれば、見張り付きだが許可を出していた。
「駄目です。トイレの通風孔を調べましたが、鉄製の網が張られていました。
「やっぱり、脱出ルートはないか」
「最新の防衛システムを搭載した施設ですからね。火事や毒物によるテロも想定し、場合によっては通風孔も完全に封鎖して真空状態にすることも可能だそうです」
「っ、ミスター工藤!」
「シー、静かに。犯人たちに気づかれてしまいます」
犯人グループの目を盗んで外部との連絡の手段を模索していた立香たちに、優作が声をかけてきた。
まるで世間話をするかのように『ラウンドシティ東都』の最新セキュリティを語ってくれたと同時に、彼もまた、コソコソと立香たちにある提案を出して来たのだ。
「この事件、ただの身代金目当ての犯行にしては腑に落ちないことが多すぎます。しかし、まだまだ推理を組み立てるには情報不足です。不躾な提案で非常に心苦しいのですが、君たちに協力をしていただきたい」
「協力?」
「一時的に、このホームズ気取りの小説家のワトソン役になってくれませんかね」
そう言って、ホームズ気取りの小説家は悪戯を提案する悪ガキのように茶目っ気たっぷりに微笑んだのだった。
ガチャ運壊滅的な未プレイ野郎ですが、どうも戦闘と相性が悪いのです……はっきり言うと、戦闘画面で酔って気持ち悪くなる。
なので動画でも飛ばし気味。アキレウスの宝具とかめっちゃ酔う。
でもテラリンは大丈夫だった。酔う基準が謎な己の身体。