犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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 犯人グループの中で、身元が分からない者が2人いたが、警察の捜査によって正体はすぐに判明した。どちらも、元自衛官だったのだ。

 拳銃を片手に十三階へ乗り込んで来た男。黒マスクを着けた、主犯格の男は「ディエン」と呼ばれていた……本名は、畑野(はたの)大司(ひろし)(34)

 

・畑野大司(34)

 元自衛官。立て籠もり事件の実行犯にして、かき集めた補充要員たちの指揮役。人質たちと揉み合った拍子に発砲し、流れ弾で成美が射殺されている。

 

「畑野……お前、三丸村の出身だな」

「……」

「調べはついているんだ。5年前の土砂災害で飲み込まれた村の三世帯家族は、お前の両親と母方の祖父母と、姉家族だ」

「そうです。最初から、無理な計画だったんだ。村の地盤は大規模なゴミ処理場を建てられるほど頑丈じゃないのに……みんな、飲み込まれた。姪はまだ6歳だった。俺も救助に従事したんだ! 土砂から突き出た父親の腕を掴んだ瞬間の冷たさは、今でも手に残っている……! 『黒倉建設』は簡単な慰謝料を支払って終わりだ。今でも、家族の写真も姪のランドセルも、土砂の下に埋もれて掘り出せていない。誰かを守る仕事がしたくて自衛官になった。でも、俺の手は家族にも届かなかった! でも本当は、肝心な時に家族を助けられなかった自分が許せなかったんでしょうね……だから、「SS」の計画に乗った。実行犯をやると立候補しました。まさか、金崎が参加してくれるとは思わなかった」

 

『ラウンドシティ東都』の八階にて、木刀片手に北條の警護役をしていた男、「フレイ」と呼ばれていた彼は金崎(かねざき)剣一(けんいち)(35)

 彼もまた元自衛官であり、畑野とは元から面識があった。金崎は畑野より一足先に退官してからは、優れた身体能力を活かして傭兵紛いの仕事をしながら裏社会を転々としていたようだ。

 

・金崎剣一(35)

 元自衛官。立て籠もり事件にて、防犯システムを操作する北條の護衛をしていた。八~十二階に他の人間がいた場合は確保する役割も担っており、拳銃や爆弾の原材料は彼が手配をした。

 

「俺自身は『黒倉建設』に何の恨みもない。金で雇われた実行犯役だ。報酬を支払ってくれれば、爆弾も作るし犯行の手伝いもする……つもりだったが。畑野や他の連中の話を聞いていたら、絆されたのかなー……損得勘定抜きで、手伝いたくなったんだ」

「金を貰って犯罪に加担したけれど、最後には彼らには同情したってことか」

「そういうことになるか。誰かを助ける仕事が煩わしくなったから、自分勝手に生きようとしたのによ。計画では、畑野が黒倉の妻を、サムスが黒倉を殺す手筈になっていた。その後に、娘も()っちまえって。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってことだろ。特にサムスは、黒倉一族を根絶やしにしたいって感じに、復讐に逸っていたからな」

 

 以上が、主犯である6人が証言した動機である。

 この事件は、身代金目当ての立て籠もり事件ではなく、『黒倉建設』への復讐劇。『黒倉建設』を貶め、世間からのバッシングの嵐に放り込み、創始者である黒倉の一族を皆殺しにするための復讐計画だったと、素直に証言したのだ。

 

「彼らの計画は、半分以上は成功したってことかな」

「『黒倉建設』へのバッシングが凄いことになっています。手引きされた被害者の会の方々の主張もそうですが、身代金を出し渋った場面が切り取られて全世界に拡散されています」

 

 立香たちは警視庁の一室にいた。円卓の面々と共に、聴取の一環で同地に留まっていたのだ。

 そこのホワイトボードに事件のあらましを書き連ね、盗聴器式神が持って来る取調室の情報を整理しつつネットニュースに目を通すと、『黒倉建設』が大炎上を起こしていた。「#私も黒倉建設の被害者です」というハッシュタグと共に、被害者の会の会員と思わしき人々がSNSで大声の主張を繰り返している。

 犯人グループによって『黒倉建設』は大ダメージを負った。だが、当初の目的である黒倉一族の根絶やしは阻止された。令愛だけが生き残ったのだ。

 

「でも……未然に防げたとは言え、令愛さんまで殺す必要はあったのかな? 彼女はまだ学生で、『黒倉建設』の企業運営にも関わっていないのに」

「一族根絶やしは普通だろ」

「遺恨を刈り取る意味もありますが」

「うわぁ、ブリテン脳!」

「政治的な判断からの血統の処刑はあり得ることです」

「家茂君まで!」

「令愛まで殺害するかしないか、未遂に終わったからどっちでもいいけどさぁ……問題は、()()()()()()()()よ!」

「ニャー」

 

 モードレッドとガウェイン(+家茂)の発言にドン引きしながら、本題に戻ろう。

 探偵助手として犯人たちの情報を書き連ねていたジャンヌが、ホワイトボードの三分の一に区切り線を引いた。残った空白部分に記したのは、プルートーが告発した犯人の名前……事件現場にいた被害者たちの中に、新鮮な罪の臭いを放つ“犯人”がいたのである。

 

「現場に人が多かったので、色々な罪の臭いはしましたが、めっちゃ新鮮な臭いを放っていたのはこの人です。事件に関係あるかどうかは不明ですが、可能は高いんじゃないんでしょうか?」

「しかし、一体どうして?」

 

 Whydunit

 アルトリアが、納得がいかないと言わんばかりにそう呟いた。「探偵」であるエドモンも同じだ。

 あの場にいたのは、事件に巻き込まれた6人。

『秀学館』の編集者であり、優作の学友である士門統矢。

 

「折角のサイン会だったのに。でも、工藤が無事でよかった。世界中のファンに殺されるところでしたよ……あの女性、『黒倉建設』に夫を殺されたって言っていましたね。あの時、夫が待っているって言いながら泣いていたのは、演技じゃなかったのか」

 

 サイン会のスタッフであり、主にアナウンス業務を担当していた渡部紅生。

 

「うちのイベント会社に、『秀学館』から委託が来て。元々、別の人が担当する予定だったんですけど、体調不良で出られなくなったから急遽、私が……こんな、こんな怖い目に遭うなら、断ればよかった。右肩は、逃げる時にぶつかられて痛めました。骨には異常がないって。凄い、怖かったです」

 

 令愛を狙撃から救い、彼女に懐かれていた警備員の響陽多。

 

「ええ、『ラウンドシティ東都』の警備には施設が開業した当時から従事しています。今の会社自体は、高卒で就職したので長いですね……それなりに長く警備員をやっていたはずなのに、本当にこんな事件に巻き込まれてしまうなんて、今でも信じられません。怪我、ですか? 足首を少し痛めただけなので問題ありません。腫れもしていませんし」

 

 青井の目的を知らずに利用され、結果として事件現場の映像を拡散することになってしまった動画配信者の内筒竜騎。

 

「あおみー……美弦とは、大学で出会いました。お互いに動画配信をやっていましたけど、全然再生数が伸びなくて。それで、一緒にやろうって。秋田から上京したって聞いてましたけど、父親が亡くなっていたのは知りませんでした。今日、『ラウンドシティ東都』に行ったのは、彼女に誘われたからです。再生数が伸びそうな事件に遭遇してラッキーって思ってましたけど、まさか彼女が犯人の一味だったなんて」

 

 黒倉の第一秘書であり、『黒倉建設』の暗部も熟知しているであろう吾代一雄。

 

「当時、社長からは会社への被害を()()()に抑えろとの指示を受けていました。やり方は、甲さんの直属の者に任せましたが……自殺に追い込んだのか、それとも直接手を下したのかは、そこまでは分かりません。奥様……佳恵さんとは、一応の面識があります。病院へ見舞金を持って行った際に。病室中に紙幣をばら撒かれて拒絶されました」

 

 そして、この事件の一番の被害者であり、自身も犯人たちの標的であった黒倉令愛。

 

「……もう、何が何だか、訳が分かりません。成美さんは気に食わなかったし、父とは不仲でしたけど……私には、唯一の肉親でした。死んで欲しいなんて、思ってなかった。これからどうすればいいんだろう。さっきも、会社の弁護士から運営とか株とか相続とかの電話がかかって来て、急にそんなこと言われてもできるはずないのに」

 

 この中に、もう1人犯人がいる。しかし、どうして犯罪に加担したのか――動機が分からなければ、証拠もないのである。

 黒猫が出した結果にうんうん唸りながら頭を捻らせていると、会議室のドアがノックされたので慌ててホワイトボードをくるっと裏返した。

 

「失礼しまーす」

「コナン君たち、どうしたの?」

「刑事さんが飲み物をどうぞって」

「すいません、手伝ってもらっちゃって」

 

 コナンだけではなく、ペットボトルのミネラルウォーターを抱えた蘭と園子と、申し訳なさそうな高木も会議室を訪ねて来た。ミネラルウォーターを袋に入れて運んでいたら、袋が破けて廊下にぶちまけてしまったところを手伝ってもらったらしい。

 

「ありがとうございます、レディ。重かったでしょう」

「いいえー! 全然!」

「……女子高生相手に下心ですか、お父さん!」

 

 園子からミネラルウォーターを受け取ろうとしたランスロットに、マシュから厳しい声が飛んだ。「お父さん」の部分が非常にとげとげしく聞こえる。

 

「い、いや。ただ、彼女たちに感謝の言葉を伝えただけだが」

「女性なら見境なく声をかけるの、やめてくれませんか。今日だって急にいなくなったじゃないですか。迷子の女の子はどうなったんですか!」

「少女なら、インフォメーションに駆け込んだ父親に無事に引き渡した」

「良かったです!」

「こちらで配ります。どうもありがとうございます」

「いいえ。これぐらいどうってことないですよ」

「プルートー用に紙コップも持って来たので、使ってください」

「ニャー!」

「……あれ」

 

 黒猫のことも考えてくれた高木の気配りには感謝しかない。ガレスからミネラルウォーターを受け取り、マシュとランスロットのやり取りを眺めていたら……立香は小さく声を上げた。何とも言えない感覚に襲われたのだ。

 

「どうした、立香?」

「いや、何ていうか……デジャヴ、みたいな? よく分からないけど。マシュとランスロットを見ていたら、そんな感じがして」

「?」

 

 今度は隣に座るアンリマユが首を傾げた。この感覚は、立香もよく分からなかった。




蘭「鼻の下が伸びやすい父親がいると大変ですよね!」
マ「ええ、本当に!」
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