犯罪多重奇頁 米花【特別編】   作:ゴマ助@中村 繚

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さあ、最後まで振り切るぜ!


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「……風見か。この事件、公安(我々)が介入する必要はない。それと、『ラウンドシティ東都』のセキュリティのことだが。北條永斗が開発した防犯システムは、以降の対テロシステムとして採用する余地がある」

 

 降谷が入れた一報により、此度の事件には公安は介入せず傍観者という立場で後にファイリングされた捜査資料を眺める立場で終わることとなる。

 多くの被害者を巻き込んだテロ紛いの立て籠もり事件は、大企業とそのトップ一族への怨恨による犯行だ。それで、結論付けられて終了……するはずだった。

 

「ねぇ、高木刑事。何で現場には、拳銃が九丁あったのかな?」

「拳銃の数がどうしたんだい?」

「だって、十三階にいた犯人たちは、人質に紛れていた女の人を入れて8人だったんだよ。なのに一丁多いって、何だかおかしくない?」

 

 立香たちへ飲み物を届けた先で、コナンが高木に尋ねてみた。子供の素朴な疑問と言わんばかりな細かい疑問であるが、コナンにはどうしても引っ掛かっていたのだ。

 

「そのことについて毛利さんが意見を言っていたけど、何かあった時のための予備だったんじゃないかって」

「予備?」

「予備で一丁、余っていたとは……一丁だけというのは違和感があります。何故、一丁だけだったのか?」

「他に、捜査で判明した情報はありますか?」

「え、え~と」

「ミャア!」

 

 ベディヴィエールが疑問を口にし、パーシヴァルの圧が高木を襲う。足元のプルートーも急かしているように一声鳴いた。

 

「九丁の拳銃は全部9mm拳銃で、内五丁は銃弾が全部装填されていました」

「他の四丁は?」

「三発発砲されていたのが一丁、二発発砲されていたのが一丁、一発発砲されていたのが二丁です」

「全部で七発の銃弾が発砲されていた……動画では、()()が発砲されていませんでしたか?」

 

 トリスタンの言う通り、事件で発砲された銃弾は六発だ。

 畑野が開幕で天井へ撃った一発。

 人質に紛れていた佳恵へ、威嚇のために床に撃った一発。今思えば、彼女のこの行動は、自分は無辜の人質であると印象付けるための行動だったのだろう。

 数合わせの金髪が令愛へ向けて撃った一発。

 人質たちの反撃に遭った畑野が撃ち、成美を射殺した一発。

 そして、佳恵が黒倉を射殺した二発。

 七発目は、どこで発砲したのだろうか?

 

「そのことについても毛利さんが言及していましたが、事件の予行練習のために試し撃ちしたんじゃないかって」

「そうだ。あの画像、何か事件に関係ありましたか?」

 

 蘭が言うあの画像とは、青井がトリスタンに取り押さえられた際に落とした彼女のスマートフォンの画面だ。蘭は、自身の足元に滑り落ちてきたそれを写真に撮っており、事件の証拠として警察に提出していたのである。

 

「蘭さんが撮ったスマートフォンの画面は、犯人たちが連絡を取り合っていたメッセージグループの会話画面をスクショしたものだったよ。どうやら、青井美弦はメモ代わりに画像として保存していたみたいなんだ」

「蘭、やるじゃん!」

「蘭姉ちゃん! その写真、まだ持ってる?」

「うん。これよ」

 

 蘭がコナンに見せた写真には、見慣れたメッセージアプリの画面が写っていた。エドモンもコナンの頭上から覗き込む。

「SS」と名乗る人物の発言に、何人かの人物が返事を返していた。青井のアカウントの画面なので、「Mon」が彼女のことだろう。他にも、「Sams」や「Frei」などの名前がある。

 

「この名前」

「犯人たちは、「SS」を名乗る人物が与えた名前をコードネームのように使っていたんだ」

「そう言えば、あおみーさん誰かの名前みたいなのを呟いてたよね」

「確か、「ディエン」とか「サムス」とか」

「どういう意味だろう?」

「ドイツ語だな」

 

 コナンの背後から画像を目にしたサリエリの言葉に、コナンもエドモンも何かに気づいたかのように振り向いた。

 

「発音が拙く気づかなかったが、このスペル……犯人たちに与えられた名は、ドイツ語だ」

「サリエリさん! ドイツ語で、どんな意味なの?」

「ああ、これは……」

 

 それは偶然か、それとも必然か。犯人たちに与えられた名前にはきちんと意味あった。

 まさか、「SS」ってそういうことなのか……?

 

「でも、何故だ? 犯人たちが証言した目的から、あの人は真っ先に犯人から除外されるはずなのに」

「おまえも暗闇の中で足掻いているのか。名探偵」

「エドモンさん」

 

 犯人は分かったが、動機が分からない。数学の答えは分かったが、証明するための方程式が分からず点数はもらえない。

 コナンはそんなもやもやを抱えながら警視庁の廊下の陰で頭を回転させていると、エドモンに声をかけられた。彼もコナンと同じだ。真実という名の光が見えない暗闇に迷い込み、それでも足掻き続けて真実を見つけ出そうとしている。

 動機、そして証拠……それがなければ、探偵は犯人に罪を突き付けられない。

 

「どうしてあの人は、この事件を手引きしたんだ?」

「ああ、腑に落ちない。あの行動を目にしたからこそ、尚更……っ!」

「え?」

「まさか、まさか! ()()()()()()か! 局長(マスター)が抱いたソレが、答えだったのか!」

 

 丸眼鏡を外したエドモンが、瞠目しながら真実を飲み込んだ。彼は一足先に真実を見つけてしまったのだ。

 コナンはまだ、エドモンが飲み込んでしまった真実を覚れなかった。しかし、新一名義のスマートフォンに入った連絡を推理のパーツに組み込んだその瞬間、あまりにも哀しい事件の根源を知ってしまったのだ。

 暗闇の中で足掻いて光を見つけたその先にあったのは、楽園などではなかった。

 連絡を入れて来たのは「親父」……つまり、優作。何を思ってか、彼はコナン――息子に事件の重要な情報を与えた。これを突き付けるのが探偵の役割なのだ。見方によっては、誰よりも傷ついた人がもっと傷つくことになる、ささくれだらけの真実を明らかにしなくてはならない。

 

「エドモン! 外を見張っているヘシアン・ロボから連絡が来た! あの人が、外に出たって!」

 

 焦って駆け込んで来た立香からの連絡で、それが“今”だと確信する。

 警察の聴取を終えて、病院に行くとでも言ったのだろう。否、病院に行くはずはない……怪我を負ったその人の身体に、事件の証拠が刻まれているんだ。

 

「待てよ。最後の犯行がまだ残ってるぜ」

「……」

「今は無理でも、これからいくらでもチャンスは巡って来そうだ。何せ、標的である令愛さんがあっちから近づいて来たんだからよ……アンタなんだろう。彼らを集めて、黒倉社長夫妻の殺害を煽った事件の黒幕」

「……」

「そうだよな、響陽多さん。いや、「SS」って呼んだ方が良いかな」

 

 警視庁の敷地を出た街灯の下。すっかり夜を迎えた都市が人工的な光に照らされ、犯人の正体を明らかにする。

 街灯に照らされた犯人――響は、左足をぎこちなく動かしながら振り向き、コナンを見下ろしていた。

 

「何ですか、犯人って。それに、エスエスって」

「彼らの共通点に気づいて、アンタが名乗った名前だよ。犯人グループを集めて『黒倉建設』への復讐計画を煽動した黒幕「SS」は、彼らにコードネームのような名前を与えた。青井さんは「Mon」、畑野さんは「Dien」、甲さんは「Sams」……これらはドイツ語で曜日を意味する単語だ。偶然にも、集めた人たちの名前に曜日を意味する漢字があったのに気づいたアンタは、自ら日曜日「Sonntag」と名乗って彼らを犯罪に招いたんだ」

 

「青」井美弦=Montag

「畑」野大司=Dienstag

「泉」翔一=Mittwoch

 北「條」永斗=Donnerstag

「金」崎剣一=Freitag

 甲「佳」恵=Samstag

 そして、響陽多は「響」と「陽」に日が二つあるため、「Sonn」が二つ。だから彼女は、「SS」と名乗ったのだ。

 

「甲さんが自分が「SS」だと名乗ったのは、警察に捕まったら身代わりになって欲しいとでも密約を交わしていたってところか。黒倉さん殺害の権利でもちらつかせて、夫の仇だと憎悪をむき出しにしていた甲さんを利用した。彼女の名前の「佳」の字にも、土が二つあるからな」

「そんなクイズみたいな理由で犯人扱いですか。証拠もないのに」

「証拠ならあるんだろ。その引きずった左足に。犯行と動機、()()の証拠がな」

 

 コナンが現場の柱で発見した銃弾。よくよく考えればおかしい位置にあった。

 天井に向けて撃たれた一発も、成美の頭部を撃ち抜いた一発も、コナンの身長で目視できる位置に被弾することはあり得ない。かと言って、令愛が撃たれそうになった場所は柱と真逆の位置にあるから当たるはずがない。黒倉を撃った銃弾も同じだ。

 では、この銃弾はどうやって太い柱の低い位置に撃ち込まれたのか……そもそも、何で六発だけの銃撃音で、七発の銃弾が消費されたのか。

 

「人質たちが畑野さんに飛びかかった時に発砲された一発。それって本当に、成美さんを撃ったのかな」

「実際に、撃たれているじゃないですか」

「そう、畑野さんの拳銃から確実に発射されている。でも本当は成美さんを撃ってはいなかった。アンタが撃ったんだ。あのままじゃ成美さんを殺害できないと、隠し持っていた九丁目の拳銃とサイレンサーで成美さんを撃った。あの騒ぎの中なら、他の人間なんて誰も気にしない。監視カメラの死角から成美さんを射殺し、流れ弾に当たった不幸な事故とした。スターターを切ったのは、「SS」であるアンタ自身だったんだよ」

「……」

「柱で発見された銃弾が、あの時の畑野さんの拳銃から撃たれたものなら辻褄が合う。司法解剖すれば分かるはずだぜ。成美さんを撃った銃弾の入射角から、畑野さんの位置では成美さんには届かないってな。それに、着替えていないその制服を調べれば、硝煙反応が出て来るはずだ」

 

 成美を射殺した拳銃とサイレンサーは、最後のどさくさに紛れて現場に落とした。だが、それまではどこに隠していたのか?

 コナンが以前に遭遇した事件で、サイレンサーを靴下に挟んで足首に隠していたという事件があった。発砲したばかりのサイレンサーは熱を持っているため、隠し持っていた犯人は足首を火傷していたのだ。

 

「その引きずっている左足、治療もされてないそうじゃねーか。その足首の怪我は、サイレンサーでできた火傷だ」

「……何で、私が黒倉夫人を殺害する必要があるんですか。私は犯人たちと違って『黒倉建設』に恨みなどありませんよ」

「おまえの動機は、憎悪ではない」

 

 夜に溶ける黒い外套と、煙草の灯る小さな光。丸眼鏡をかけ直したエドモンは、コナンの推理に続くように紫煙を吐き出しながら推理を紡ぐ。

 最初は、金銭目的の犯行かと思われた。だが、本当は『黒倉建設』への怨恨による犯行だった。犯人たちも、そう認識している……だが、優作が目暮に頼んで調べてもらった情報が加われば、犯行の目的が回転する。

 

「黒倉の前妻、令愛の実母は18年前に事故死している。とある推理小説家が、この母親についての調査を警察に依頼していた。彼女、黒倉(くろくら)留利子(るりこ)は初婚ではなく、前夫との間に娘が1人いた。娘の名前は陽多」

「……」

「響陽多と黒倉令愛は、異父姉妹だ。この事件の動機は、身代金10億円でもなければ黒倉への恨みでもない。令愛からおまえに相続される、黒倉家の遺産だ。「SS」が犯人たちを煽った犯行の内容は、黒倉一族の根絶やし。だが、おまえは令愛を助けた。普通に考えれば矛盾している。殺害が目的ならば、あの時点で令愛を見殺しにしていた……だが違う、違う! 黒倉一族の根絶やしは手段でしかなかった。あの行動こそ、おまえが犯人だと示していた。先に令愛が死んだら、遺産を手に入れることができないからだ!」

 

 親きょうだいが生存していない黒倉が亡くなれば、その遺産は妻の成美と娘の令愛で二等分される。だが、先に成美が亡くなり、その次に黒倉が亡くなれば、遺産は全て娘の令愛が相続することになる。

 黒倉と響は赤の他人であるため、黒倉が亡くなっても彼の遺産を響が相続することはできない。しかし、彼女と令愛は母同の姉妹である。現行の相続法では、両親も子供もいない令愛が亡くなれば、彼女の遺産はきょうだいに相続されるのだ。

 

「かのシャーロック・ホームズ(名探偵)は、犯罪を緋色の糸に例えた。おまえも、血縁という名の緋色の糸を強引に手繰り寄せた。自らの元を去った母親の血が遺産を乗せ、巡り巡って円環の如くおまえの前に戻って来るのは、定められた運命(法律)だった」

 

 コナンとエドモンの推理を前に、響は否定も激高もしなかった。ただ、肯定するように制服のスラックスをまくり上げ、左足首を露出させた。

 そこにあったのは、高温のサイレンサーを隠していたために負ってしまった真新しい火傷と、火傷で隠すこともできないほどはっきりした、桜の花弁のような赤い痣だった。




みんな、登場人物の名前の由来に気を取られて曜日の漢字に気づいてなかった説。
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