ゲッターロボ・王魔‹O-MA› ―獣の咆哮―   作:ヒモトラマンロープ・ダーク

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厄災の翼

「ふぃぃ〜〜、ヒデェ目にあったぜ。」

 

 

 ゲッター強盗の事件から数時間後、誤解が解けて警察から解放された男…『津上 覚馬』は行きつけの蕎麦屋やでズルズルと蕎麦を啜っていた。店は生憎、綺麗とは言い難いが味は逸品で特に天ざるは彼のお気に入りで、そこそこな頻度で通っていたりする…特に、気分転換したい時はうってつけだ。

 

 

「お、大将! そばがまた一段とうまくなったな?」

 

「わかるかい、かくちゃん! 蕎麦粉が前よりいいモノが手に入ってね。怪獣大戦役前とはいかないが、質は段違いさ!」

 

 

 今じゃ店の主人とも見知った仲…『値上げは勘弁な?』と歳は離れていれど、軽口を叩けるくらいの親密な覚馬の友人だ。この店は覚馬にとっても数少ない心の拠り所であり、店主にとっても立地が芳しくない店に贔屓にしてくれる客であり、バランスのとれた関係といったところである。

 

 

「そういえば、かくちゃん…さっき中々の大捕物ものがあったんだってな。なんかニュースでやってたぞ?なんでも、ゲッターロボに乗った強盗だとか。」

 

「……ああ、全くバチ当たりな連中だったぜ。おかげで、こっちまで間違われて豚箱おくりにされるところだったんだぞ。」

 

「あー、かくちゃん人相悪いもん…災難だねぇ。にしても、ゲッターロボにわざわざ乗らなくたって。」

 

 

 先のゲッターロボによる強盗事件は既に店主も知っていたが、特別に驚いている様子もない。

 

 昨今、ゲッターロボに限らずスーパーロボットを利用した犯罪が世界的に頻発しつつあるのだ。別に、何処ぞの悪の秘密結社が暗躍しているわけでもない…理由は簡単、怪獣大戦役である。怪獣大戦役には多くのスーパーロボットが投入され、パイロット以外にもそれに関わる技術者もそれに比較して増えていったり、時には国の組織に所属せず独自に活動する義勇軍やジャンク屋になる者が多くいた。

 しかし、怪獣大戦役が終わればどうだ? 膨らみ過ぎた軍備は国家や生活再建の重荷になり、縮小…予算・人員・機材がゴリゴリと削られていった。正規の軍人などなら、そのまま組織に所属するなり転職の斡旋などあっただろう…されど、脆弱になった社会の受皿はあまりに小さい。

 

 

「あのモヒカンどもだって、元は義勇軍なりジャンク屋まがいだったんだろうよ。そう思えば奴等も可哀想ってもんだ。」

 

 

 怪獣と戦ったのは軍だけじゃない、民間人も一部は武装して義勇軍として決起したり、戦場漁りのジャンク屋で一山当てようと模索する者たちもいたのである。

 彼等の働きが無益ではなかったのは事実だが、正規軍や企業ではない彼等は怪獣大戦役が終わるやあっという間にその役割を失うことになる。軍縮が進み、生活が安定してくればスーパーロボットや戦闘用に改造された銃火器・作業重機も邪魔でしかなく、素人のジャンク屋より人々は企業から正規の品を求めるのは自然の流れだろう。

 

 …そして、生活がおぼつかなくなった者たちは怪獣大戦役時代に獲たスキルで犯罪に手を染めていく。まだ戦場跡には乗り捨てられたスーパーロボットがゴロゴロ転がっていたりする……廃品回収で端金をひもじくしゃぶるよりかは…と思えばわかるかもしれない。

 

 

(まあ、そんな連中を狩るのが俺達の仕事のひとつなんだが…)

 

 

 可哀想だからといって、犯罪を赦してはならない。あのモヒカンたちがどんな成り立ちにせよ、恐らく戦場に打ち捨てられたであろうとはいえ、『ゲッターロボ』という人々を守る力を一般人に向け悪事を働いた以上は然るべき罰を受けるべき。不幸な者が他人に理不尽をして良い道理はない。

 悪が芽吹くのを阻止しきれないとしても、摘み取って踏み潰すのも人の道。それが、覚馬の仕事。火力と暴力で正義のヒーローというには、いささか物騒すぎるが…

 

 

(ゲッター…か…。何故こう、縁が切れないんだろうな俺は…)

 

 

 そばを啜りながら思いを馳せる覚馬…。

 

 自分もかつては軍人だった。スーパーロボットを駆り、怪獣と戦い…死線に近づく度にゲッターロボに救われた。何度もゲッターチームと戦場を共に駆け抜けて…

 

 

 

 

 ―――津上 覚馬、お前を国連ゲッターβ部隊・ライガー2号機のパイロットに命じる

 

 ―――おい、ドラゴン!? 合体速度が速すぎ…うわああああああああ!?!?

 

 

 ――――逃げろ、ゲッターチーム!? アルテミスの矢が…!

 

 

 

 ―――――ゲッターチームはあいつのせいで…

 

 

「…っ」

 

 

 やめよう、良くない思い出のほうが多い…折角の食欲も失せてしまいそうだ。

 

 胃袋が拒否体勢に入る前に、残りの麺を流しこみ茶を含んで一息。それから、勘定を済ませて外に出ると…空は雲の絨毯を敷いたような曇天だった。

 

 

「コイツは一雨くるかな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 太平洋側 日本近海…

 

 

「応答せよ、応答せよ! これ以上の警告を無視するようなら、撃墜する。」

 

 雲のヴェールに身を隠しながら日本本土へ向かう未確認飛行物体に近づく2機の戦闘機…。再三、彼らは通信で呼びかけているが、反応は無い上に勢いは減衰すらしない未確認飛行物体にとうとうロックオンがかけられようとしていた。

 

 

「なあ、これってまさか…」

 

「滅多なことを言うな。」

 

 

 嫌な予感が過るが口にはしてはいけない…言葉にするという行為が眼の前の現実を変えることはなくても、自分のモチベーションや周囲の精神に意図せず影響を与えることだってあるのだから。

 されど、このまま黙って見ているわけにも行かないと雲を巻き上げる未確認飛行物体へ接近していく戦闘機。

 

 

「もう少し接近して、目視で確認する。万一、民間機だった場合は大事件だからな…」

 

「民間機がこんなスピードで飛ぶかよ…!」

 

 

 ゆっくりと機体を近づけ…そのシルエットを窺おうとする…

 

 が、察したようにボッと未確認飛行物体は雲の海へ潜る。

 

 

「!? 目標ロスト…!何処に行きやがった…?」

 

 

 辺りを見渡す…レーダーにも反応が無い。忽然と姿を消した巨影…その時

 

 

「! 後ろ!」

 

「!」

 

 

 戦闘機の真後ろからドバァ!と雲を突き破って現れた黒い翼。鳥のようだが羽毛は無く、翼膜を張った禍々しさは翼竜や蝙蝠を彷彿させるワイバーンだが、頭はブクブクと泡立つように並ぶグロテスクな眼に二又の舌がちらつく、牙がずらりと並ぶ口が涎を垂らしていた…。間違っても民間機ではない。

 

 

「か、怪獣ッッ!?!?」

 

『シャァァァァァァ!!!』

 

 

 実に怪獣大戦役より3年の月日が経ち、ついに現れた新たなる人類に仇なす厄災の象徴にして天敵。飢えた獣は本能が赴くまま、愚かにも自ら近寄ってきた獲物に襲いかかるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 早乙女研究所 作戦司令室

 

 

「ついに現れたか…」

 

 

 研究所と言いつつ、軍組織と大差ないオペレーターと通信設備群がズラリと並ぶこの場所。中央には黑髭の厳しいオヤジが首を捻りながら、大画面モニターに映る怪獣を観察している。

 

 

「データ照合…『エビルバーン』、はじまりを告げる凶鳥。」

 

「敵、数1…このまま進行ルートをいけば、10分後には首都圏内に侵入する可能性86%! 国防軍の戦闘機で敵う相手じゃありません!」

 

「早乙女司令! ゲッターチームスタンバイ完了。ゲッターエネルギーの充填を開始します。」

 

 

 

 

「よし、現状を維持しつつ待機…。まだ出撃はしない。もう時期、お電話が来る筈だ…。」

 

 

 

 この男こそが早乙女研究所の主たる者にして司令官『早乙女 達人』…ゲッター線を発見して研究所を建ち上げた早乙女博士の長男で、今や山男に白衣を被せたばかりのような出で立ちだが…建前上は研究所の総責任者である。 

 彼は予期していた…この状況は自ら動き出すより、沈黙を保つほうが良き風が吹いてくると…

 

 

「司令、国防長官から秘匿回線で通信です。」

 

「(きたか…)まわせ。」

 

 

 ほら、やっぱりだ。まずひとつめ読みは当たった。

 

 

【――達人くん、聞こえているかな?】

 

「国防長官、これはどういったご要件で?」

 

【――っ、わかってるはずだ、どうせ状況も把握しているのだろう…?】

 

 

 司令室に響き渡る焦燥を滲ませる初老の男の声。それは、日本の防衛を担う国防軍の長官である…自衛隊は怪獣大戦役の際に解体・再編されてもう存在しない。国防長官と達人は旧知の仲である…最も、関係は冷え込んではいるが。

 

 

【怪獣が出た… 我々の戦力では…】

 

「S.R.I.U.のスーパーロボットはどうしたんですか? 怪獣大戦役の際に粉骨砕身して勝利をもぎ取った我々を天秤にかけて、手にいれたはずでは?」

  

【……彼等との交渉は暗礁に乗り上げて、配備が思うように…】

 

「やはり、そういうことですか。千本の針を買うために、銃を捨てたようなもんだ。だから警告したのに…奴等は金の亡者だと。我々は奴等のせいで、多くを失った…… 

 

 人命、技術、土地… そして、真ゲッターと最強のゲッターチーム…! 

 

 それなのに、あなた方は我々を切り捨て、金の亡者の手をとった!目先の利益に釣られて…!」

 

【そ、それは、わたしのせいでは…ない…】

 

 

 怪獣大戦役以降、あまりにも周りの環境は変化した…時代の流れというのなら、仕方ないのかもしれない。されど、あまりにもゲッターに関わった者たちには冷たく変わった風当たりには強くなった。無論、この国防長官ひとりの責任では無いのだが…溜まる鬱憤を達人はぶつけずにはいられない……という様子を装っている。ただ、国防長官はかなり揺さぶられている様子だ。

 

 

「自業自得ですよ、こっちも貴重な人員をむざむざ死ににいかせるわけにもいかない。」

 

【…達人くん、そこを押して頼む!】

 

 

 必死だな… 内心、そうほくそ笑みつつ頃合いと目的のカードを切らせてもらおう。

 

 

「ならば、早乙女研究所の独自作戦指揮権凍結を即刻、解除を。でなければ、ゲッターは動かせません。」

 

【! 待ち給え、それは条約に接触する可能性が…!?】

 

「平和な時ならまだ良い、今は有事だ! 早く決めろ、自らの手で護るか、大事な兵隊をむざむざ死なせてS.R.I.U.の連中に尻尾を振るか…時間は無い。」

 

【…】

 

「国防長官…!」

 

 

 …悩むだろう。この判断が日本の国際的な立場や多くの人々の行く末を大きく左右する。しかし、沈黙をしているうちにも末端の戦う者たちの命はこの瞬間も危機に晒されているのだ。

 

 

 さあ、首を縦に振れ…! 縦に…! これしか手段が無いはずだ!

 

 

 

【……わかった。私の権限で早乙女研究所の作戦指揮権の凍結解除を認定する。】

 

 

 …来たッ!!

 

 

 

「聞こえたな、弁慶!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【応さッ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

 

 

「チェェンジ、ドラゴン!!」

 

『!?』

 

 

 突如、獲物を腹におさめようと大口を開けたエビルバーンを頭上から自らと並ぶ質量の塊の突撃を受け大きくバランスを崩す。

 

 慌てふためきながら、背中に飛びついた乱入者を引き剥がすよう暴れまわり…最中、戦闘機のパイロットたちは見た。自分たちを助けに来た紅き『彼』の姿を…

 

 

「あれは…ゲッター…? ゲッタードラゴン!?」

 

 

 

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