George Gregory 拙作集 作:George Gregory
新生活というものは、いつだって希望に満ち溢れている。
新たな土地。新たな仲間。少なからずの緊張感と、それと同じだけの期待感。先に待つ華やかな生活に心を躍らせながら学舎の門を潜る者は決して少なくない事だろう。
だが、全員が全員、意気揚々と教室の戸を開けられるかと言うと、そうでもない訳で。
(大丈夫。大丈夫。アイツ等はここにはいないんだ。大丈夫。大丈夫)
彼は、俗に言う“いじめ”の被害者だった。生来の気の小ささが災いし、他人を見下し傷つける事でしか自身を保てない阿呆に目を付けられ、つけ込まれてしまった。シャツの下に青痣をつけられた回数は、もう両手両足の指でも数え切れないほどだし、眼鏡は何度修理に出されたか、考えたくもない。
避けるために必要なのは、財布だった。連中に見つかったら最後、なけなしの気力を振り絞り、歯を食いしばって痛みに耐えるか、酷く屈辱的だけれども、“それ相応”の対価を支払うか、その2つに1つしか無かった。
こんな事で金を使うなど実に馬鹿馬鹿しいが、誰だって好き好んで痛めつけられたくなど無い。ごくまれにそういった趣向の者もいるにはいるが、少なくとも彼にそういった趣味はない。ただでさえ少ない小遣いを、保険とは名ばかりの“浪費”に回すのは、悔しくて悔しくて仕方がなかった。
だが、ここにはもう、アイツ等はいない。今度こそ変わろう。このままではいけないのだ。その為に、何が出来るだろう。そう考えて、こう思った。
“気が大きい”振りをすればいい。
「お、俺は荒っぽくて、気が早いから、あまり話しかけないでくれよなッ!!」
あぁ、失敗した。それはもう盛大に失敗したよ。静まり返った教室と、皆のぽかんとした顔が何よりも如実にそれを物語っていたともさ。
それからずぅっと、休み時間の度にさっさと教室から逃げて、誰もいないところで時間を潰していた。授業もサボってしまえたらと思いもしたけれど、実際にサボれるほど図太くもなれなかった。屋上でも、校舎裏でも、はじっこで体育座りで丸くなり、膝を抱え込んで外界を遮断して過ごす。眠れてしまえる時はまだいマシだけれど、そうじゃあない時の方がずっと多い。あぁ、いじめられることはないけれど、これはこれでとてもツラい。
(これがあと、3年も)
そんな未来を憂いて、いつものように更に気を滅入らせていると。
「ねぇねぇ」
「ッ」
まさか、こんな自分にわざわざ声をかけるような物好きがいるなんて。びくりと大きく肩を震わせ、恐る恐る顔を持ち上げた先で。
「キミかな? 面白い自己紹介で有名になったっていう、1年の転校生くんは」
何故か、そんな自分を爛々と輝かせた瞳で見ている、多分先輩の女生徒が、そこにはいた――――
つづかない(その2)