George Gregory 拙作集 作:George Gregory
「げふっ」
これで何個目だろうか。そして、何日目だろうか。
炬燵の中、顎をつけて、食べすぎで仄かに橙色になった気がする指先をボケッと見つめながら、目の前に鎮座する柑橘類の山を恨めしげな視線で見上げる。ここ数日、いや、もう1週間は超えただろうか。正確には覚えちゃいないが、私がこの蜜柑との長期戦を初めて結構な日数が経ったのは間違いない。
発端は、思い出すのもはばかられる先週末の事。一人暮らしの学生である私の元に両親から食料の仕送りがあった。いつも通りの米や野菜、乾麺などに混じって、冬場の日本の風物詩たるオレンジ色は箱の片隅に確かな陣地を築いていた。
『ご近所さんからお裾分けを沢山頂いてね。アナタも好きだったでしょう?』
両親が言うほど好きではないが、確かにあれば食べるし、好きか嫌いかであれば間違いなく前者だったので、この時は喜んだ。そう、この時までは。
翌日。冷蔵庫の食料を補充するために訪れた近所の商店街では年末の催しという事で福引き大会を行っていた。特定の店舗で一定額以上の買い物をしたレシートを持ち寄る事で何度か籤が引けるというもので、ご多分に漏れず自分も挑戦した。そして、見事に当てて見せたのである。青果店提供の一押し賞品、和歌山県産有田蜜柑3箱。
そりゃあ最初は”タダより高いものはない”と喜んだし、暫く困らないな、とも思った。が、すぐにそんな見通しは甘かったのだと痛感した。何せ食べても食べても減らないのである。
正直、蜜柑は主食にするには物足りず、かといって食後に食べるには少々インターバルを置きたい程度の食べ応えはある。せいぜい、一食に2個、よくて3個が限界といったところ。それを毎食続けたと考えてほしい。そう、直ぐに飽きが来るのだ。家族総出で食べたならまだマシかもしれないが、生憎と自分は一人暮らしだ。両隣の住人にもお裾分けを試みたが、まぁ半分減らせたのがいいところだった。大学の友人にも声をかけてみたが、売れ行きは芳しくなく未だに1箱空けられたのが不思議なくらいである。
(あの青果店、絶対捌ききれないと判断して押しつけたな?)
根拠のない怒りを、脳内の青いエプロン姿にぶつける。流石に大好物でもないものを1日にそう何十個も食べられる訳もなく、一学生のコミュニティなどたかがしれている。配れる相手に配れるだけ配りきってむしろ1箱空けることに成功したのが奇跡だと思うくらいだ。
さて、残り2箱。数にして約300前後は鎮座しているこの蜜柑、なんとか腐敗する前に消費しきってしまいたいが、どうしたものか。そう思案に耽り始めたその瞬間。
ピンポーン
「……誰だ?」
夕食を食べ終え、今はもう間もなく深夜という頃合いだ。連絡もなしに人が尋ねてくるような時間ではない。玄関のドアを開けはなってみると、そこには見慣れたしわくちゃの暖かな顔があった。
「大家さん。どうしたんですか?」
「ごめんね、こんな時間に。あのね、これ、息子夫婦が送ってくれたんだけど、私一人じゃあ食べきれなくてねぇ。どうだい?皆にも配っているんだけど」
そう言って、お婆さんが差し出したビニール袋の中身を見て、その確かなオレンジ色を確認して。
「―――あ、はい、折角ですし、もらいます」
ノーと言える日本人になりたいと、切に願うのであった。