思ったよりもすごい反響があったので蛇足です。
不定期にはなりますが時間がある時に更新する予定です。
書ききれなかった前話の最後までの間にあった出来事。
僕たちが何も知らなかった時のソールズベリーのお話。
改めて聴くとfgo後編の主題歌の『躍動』が6章のイメージソングすぎる。
「────驚いた。まさかモース化した妖精を元に戻すなんて」
そう言ってオベロンは現れた。
彼の簡単な自己紹介を終えて、コーンウォールの村外れの森から抜けたアルトリア一行。
ウェールズの森の領主を名乗る妖精オベロンと合流し、一行はソールスベリーへと向かう。
ひたすらに広がる平原をオベロンの案内で歩く。
「……」
「大丈夫?」
記憶の戻ったショックでこたえているわたしにリツカさんが話しかける。
「……大丈夫、というと嘘になりますね」
わたしはヘラっと笑みを返す。
「あらためてリツカさん。アルトリアさん。わたしの名はホープ。かつては希望の妖精と呼ばれていました」
「希望の妖精……」
アルトリアが複雑な表情で彼女をみる。
「はい。色んな人々に希望を与えることを生業としています。幸運になれるように祝福を与えたり、喜ばれることをするのが好きでした」
好き『だった』。それはもう────。
「……大変だったね」
「何がですか?」
驚くほど冷たい声が出た。
けどリツカの表情は変わらない。
「あれだけ辛そうな声をあげていたから」
「……っ」
どうして。もうほんとにどうして今さら。
その温かな声がどうして今になって。
嬉しいと感じるのに。苛立ちも感じる。
「────もうやるつもりなんてなかったんですよ。良いことなんて。どうせ嫌なことでしか返されないので」
「……」
アルトリアは歩きながら曇った表情を浮かべる。オベロンは前を向いたまま。
トリスタンは『……悲しい』と小さくつぶやいて弦を弾いている。
「リツカさん」
急に名前を呼ばれて彼は驚く。
「ここから見える景色は綺麗ですか?」
「……そうだね」
彼の視界にはきっとどこまでも続く緑と花々が映っていることだろう。
誰も知らぬものが見れば、きっと美しいと思うのだろう。
「そうですか。なら、覚えておいてください、リツカさん。この妖精郷は……あなたが思うような美しい世界ではありません」
────どこまでも残酷で、救いようの無い世界です。
「それが数百年、わたしの感じた全てです」
「……!!」
「色んな場所を見てきましたから。けれど、どこも同じ────あなたのような善い人にはどこまでも冷たい世界ですよ。『此処』は」
力なく口元が緩む。こんな世界、今でも大嫌いだけれど────
「けど────風は誰も裏切りません」
さぁっと優しい風が平原を撫でる。草が揺れ心地の良い音を立てる。
立香は気づいたように顔を上げる。
「踏みしめる土は足に拠り所を。地は美しい緑と美しい花々をつくる。彼らは誰も裏切りません。それが────わたしが知ったことです」
風に当てられ、暗い水色の髪とボロボロの翅が揺れ動く。
……街が見えてくる。
「……あぁ。この風は」
忌むべき故郷。されど愛しき故郷。
「────ソールズベリー。帰って来るときはモースになった後かと思っていたのに」
*****
「触れられないように気をつけてね」
そう言われてわたしは緑の外套を羽織る。
道中の戦闘時に、リツカさんの不思議な力で呼び出した弓矢の男性に渡されたものだ。
『マスターがアンタに、ってさ』
ロビンフッドという方だ。戦闘が終わると彼は言葉を交わす前に消えてしまった。
「すごい……本当に見えてない」
リツカさんは本当に不思議な方だ。
どこからともなく強力な妖精を呼び出し、巧みに指揮をして自分よりも強大な敵を倒していく。
呼び出される妖精の力。まさに圧倒的。
一薙ぎで数十の敵が跡形も無く消え去り、
仮にわたしたちが百人いても倒せないだろう魔獣を一撃で持って倒していく。
一人一人が一騎当千の戦士だ。
たしか……妖精騎士……といったか。このブリテンのソレに匹敵するのかも。
「よし! 怪我はない?」
「は……はい……」
透明になれる『ほうぐ』というものがあるから大丈夫と。
ソールズベリーに入るなら、わたしは外で待つという無茶な願いは断られてしまった。
けどこの力があるなら……。
「たしか、キミはソールズベリー出身なんだよね? いつから?」
オベロンさんがわたしに尋ねる。
「……覚えてないです」
「そ、そっか。それくらい前なんだ。けど、新参者の僕よりは詳しそうだね!」
街の妖精たちがオベロンに気づき寄ってくる。
『オベロン! オベロン!』
と。
『金払え!』という声も聞こえるが。
いや大半だ。大半が料金の催促だ。
オベロンはのらりくらりとそれを躱す。
────あ、この妖精、典型的なダメ男だ。
「困ったなぁ、どっか落ち着けるところはないかなー。僕もずいぶんと詳しくなったけど、キミほどではないと思うな」
ちらりとオベロンはこちらを見てくる。
「────ホープちゃん、案内を頼めるかな?」
リツカさんはオベロンへの苦笑も交えて、屈託の無い笑みを返す。
「……! は、はい! 任せてください!」
……バカだな、わたし。
もう誰かの『お願い』なんか聞くのは嫌だったのに。
────どうしてこんなに嬉しいんだろう。
つい笑顔で細めてしまった瞳を、アルトリアは穏やかな目で見ていた。
*****
わたしがリツカさんに案内したのはマイクさんの経営する酒場。
よかった。彼は元気そうだ。
いや……前よりずっと生気に溢れている。
「あれ!? 立香くん!?」
「ダヴィンチちゃん!?」
どうやら立香さんの仲間のようだ。
「ダビンチ! 見てくれよ! 以前教えてくれた料理! あれがすごく評判いいんだ! 宿の使い方も教えてくれたお陰で────」
マイクさんは彼女のことをすごく慕っていて、まるで母親に関心の出来を見せる子供のようにはしゃいでいた。
「だ・か・ら! 私の名前はダヴィンチだって!! そろそろ言えるようになってよ!」
ダヴィンチさんは困った顔をしていたけれど、笑うマイクさんを見て、とても喜んでいるようにも見えた。
「……そっか。いい出会いがあったんですね、マイクさん」
わたしは何もしていない。最後に会ったあの時、ただ彼の幸せを想い祈っただけ。
……けど、なんだか旧友に何か返せた気がしたのだ。それはとても嬉しく、自分が少し誇らしく思えた。
*****
ダヴィンチさん……ダヴィンチちゃんと秘密の話があるみたいで酒場は貸しきり。
話に参加してはいけなそうな雰囲気だったので、私は部屋に入ることにした。
宿の個室に移動し、わたしは少しでもリツカさんやアルトリアさんたちの助けになりたいと思い、荷を解いていた。
「さてさて、ベッドメイキングでもするかなっと────」
「!?」
しまった。透明化に必要な『ほうぐ』とやらを油断して外していた。
「……あ、お、おひさしぶりです……」
「……ホープ……ちゃん?」
あまりの驚きにマイクさんは持っていたベッドシーツを落としてしまった。
「おまえ────いったいどこに行ってたんだよ!? もう何年も姿を見ないからてっきり……!」
マイクさんは泣きながら頬をつねる。
それもダヴィンチちゃんに教わった習慣か何かなのだろうか?
「……えと。その色々あってね。戻ってきたの」
「!! おまえ、翅が……ボロボロじゃないか! 前よりも酷くなって……顔もこんなにやつれてるじゃないか!! 待ってろ! すぐに飯を作ってやる!」
「あ、ちょっと」
声をかける暇もなく、彼はドタドタと階段を降りていってしまった。
「……別にお客さんの一人なんだから、そんなに心配しなくても……」
ぽたりと床に何か落ちるのが見えた。
床が雨漏りをしたかのように濡れている。
雫がどんどん増えていく。
「……え? わたし?」
その雫は自分の目から流れていると気づいたのは────自分の目元に触れた時だった。
「そうなんだ……『居た』んだ……」
妖精に死の概念はない。
次の代として転生するか、そのまま死骸を自然として残すかしかないから。
消えるということは無いのだ。
モースにならない限りは。
惜しむはずがない。ないのだ。
普通は。
────わたしが居なくなって悲しんでくれる人がいたんだ。
だから嬉しかった。
わたしが愛したソールズベリーに。
わたしが憎んだソールズベリーに。
まだ暖かい人がいた。
一介の下級妖精を案じてくれる良き友がいてくれた。
「……ただいま、ソールズベリー」
────ありがとう。
そう溢れた笑みと涙と共に震える声で呟くと、マイクさんが熱々の料理を運んできた。
「お待たせ。疲れたろ! ダビンチちゃんのこととか、おまえのこととか! 話したいこと沢山あるんだ!」
妖精は飢えることはない。
妖精にとって食事は娯楽。読書と同類なのだ。
けれど、温かな気持ちと共に作られた料理は心をも温めてくれる。
「すごいだろ!? フレンチトーストっていうんだぜ! これもダビンチちゃんが教えてくれたんだ!」
「はいっ! とっても美味しいです……!」
「そうだろ! ダビンチちゃんはさ────」
わたしたちは以前のように笑って世間話をした。
読了ありがとうございます!
感想を送ってくれると励みになります!
では、また!