千恋*万花 〜桜の約束〜   作:紅葉555

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86話 諦めない心

 

……色々なことを知った。俺の存在も、歴史の過去も、そして……鬼の秘密も。

 

そして、この状況も俺にとっては有利だ。信頼を得られている所まではいかないが、完全に仲間達を裏切ったと思われているだろう。それならそれの方が都合がいい。

 

ここでの俺の目的は、この組織の殲滅。全員を殺してでも阻止すること。

 

ただ、未だになんの理由があって穂織の町を狙うのかはわからない。でも、朝武さんや常陸さん、他にも俺の大切な友達を狙う理由は理解出来た。

 

だとするとそれを止めなきゃ。例え俺が犯罪者になってしまうとしても、俺の人生が狂ってしまうとしても、俺はみんなを守りたい。

 

その為には力が必要。あの『記憶』の通りなら、俺はまだ先のステージへと上がることが出来る。鬼の力とやらが中途半端に覚醒している今、より完全なものへと昇華することが重要だろう。

 

まずはあの眼をどうにか自在に扱えるようになりたい。般若の面の男を撃退した時に垣間見た、鬼の一族の中でも極めて特殊な力。

 

『鬼ノ眼』

 

記憶で見た中で、この鬼ノ眼を扱えているのはいなかったが、特異体質として語られていた。

 

俺はその眼の所有者である可能性がある。……事実それっぽいことを経験してるからな。

 

蓮太「蒼鬼として、蓮太として、大切な人達を守る為に、俺は最善を尽くす」

 

この言葉は忘れない。もう戻ることは出来ない代わりに、俺が全てをひっくり返す。

 

雪音「その意気だよ、蓮太君」

 

……!?

 

いきなり聞かれたっ!?やっべ!カッコつけてる場合じゃなかった!やっべ!

 

なんて馬鹿みたいに焦っていると、天井からスタッと雪音がほぼ無音で俺の前にやってきた。

 

聞かれたか……?って思っきし返事されただろ、何考えてんだ俺。

 

蓮太「その意気…?」

 

今俺の言葉を肯定したよな?どういうことなんだ?

 

雪音「今は誰にも聞かれていないし、タイミングも丁度いい。警戒しないで……って言いたいところだけど、すぐには無理でしょ?だからとりあえず話を聞いてくれるだけでいいよ」

 

そういった雪音は部屋の隅においてある座布団を敷いて、その上に座る。

 

蓮太「タイミング?聞かれていない?どういうことなんだ?」

 

雪音「とりあえずは詳しいことは言えないけど、ボクは蓮太君の味方だよ。今までずっと蓮太君を騙してた。まずは……ごめんなさい」

 

雪音は星座の体制から額を床に擦り付け、綺麗な土下座でいきなり俺に謝ってきた。

 

え?何?どゆこと?

 

蓮太「……どういう風の吹き回しなんだ?」

 

雪音「まぁ、そうなっちゃうよね。許して欲しいなんて思ってないよ。ただ…謝っておきたかっただけ。ボクの要件は別にあるんだ。まずは……これ」

 

懐から何かの巻物を取り出すと、それを俺の手元に渡してくる。

 

その中身をとりあえず見てみると……

 

蓮太「……こりゃあ、剣術指南書…?しかも、『常陸流』!?」

 

常陸流の流剣術!?なんでそんなものがこんな所に……つか、なんでそんなものをコイツが持ってるんだ!?

 

雪音「驚いちゃうよね。でも、それは偽物なんかじゃないよ。その指南書は「ボクが生きていた時代」の常陸流の指南書。それ蓮太君にあげるよ」

 

蓮太「…ちょ、ちょっと待て!?生きていた時代ってなんだ!?それになんで常陸流!?」

 

雪音「だから詳しいことは言えないって言ったでしょ?時期が来たらちゃんと説明するから、今は自分を信じて行動してよ、お兄……蓮太君!」

 

蓮太「自分を信じろつったって……まずお前が信じられないのになぁ…」

 

雪音「むぅ〜……わかったよぅ!もう面倒だなぁ!紅鬼にバレても知らないからね!?ボクは過去から飛んできたの!」

 

蓮太「はぁっ!?」

 

なんだコイツ!?いきなりやってきて味方だの過去からやってきただの、わけわからんこといいやがって。

 

雪音「証拠はないけど……言うならボク達の存在がその証拠!紅鬼もあの忍者達も過去の世界から現代にやってきたの!」

 

蓮太「いやまぁ……あの記憶と照らし合わせると信用せざるを得ないというか……でも……」

 

雪音「別に信じなくてもいいよ!とにかく、君にはもっと強くなってもらわなきゃ困るの!時間が無いんだよ!?穂織の町がなくなっちゃってもいいの!?」

 

蓮太「待て待て待て待て!急に出てきて、急にそんなこと言って「はい分かりました」って納得しろって方が無理だろ!第一お前敵だったじゃねぇかよ!」

 

雪音「だーかーら!騙してたの!ごめんなさいって言ったじゃん!」

 

……えぇ。逆ギレやん…………

 

雪音「それに本当に敵だったらわざわざこんな事しないし、あの時にとっくに殺しているよ!」

 

蓮太「え、あ、まぁ…………」

 

雪音「とにかくどうするの?少しでも強くなる為に『常陸流』を学ぶ気はあるの?ないの!?」

 

蓮太「だから話がいきなり過ぎるんだよ!打ち切り前の漫画かっ!」

 

頭の中の整理に時間がかかる……

 

でも、仮にこれも嘘だったとしても、上手くやれば利用できるかも?少なくとも俺も強くする気はマンマンだし……接近してみるか。

 

雪音「どうするの!?男なんだからしゃんとしてよ!もうっ!」

 

蓮太「じゃあ最後に信用に値する証拠とかないのかよ…。お前今めっちゃ怪しいぞ?」

 

雪音「えぇ……うぅーん………………」

 

 

 

 

 

雪音「ボクの名前は、四代目常陸流伝承者『常陸雪音』。これで十分でしょ!」


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