そして俺は祟り神に向かって真っ直ぐに走る。
握りしめた刀には蒼い輝きが発せられている。
俺のその動きに反応するように祟り神は触手を数本伸ばす。
触手……!?そんな攻撃昨日はしてなかっただろ…!
だが、別に初めて見る攻撃じゃない。今までの祟り神はこの攻撃が基本だった。そのおかげで少しはまともにこっちも対応できる。
俺は触手を弾きながら、横へ横へと移動していく。
俺に集中してくれているおかげで遅れてきた将臣が祟り神にファーストアタックを当てる。
将臣「はっ!!」
叢雨丸が付けた傷の部分は、一太刀入れただけで溢れんばかりの黒い泥が吹き出てきた。
ムラサメ『よし!祟り神は守りの面も脆くなっておる!』
そういえば結界が張られているんだったな。それでか…心做しか動きが前よりも遅く見える。
すぐさま追撃をしたいが、触手の攻撃に誘導されて祟り神と距離が…………ってあの技があるか…!
将臣の攻撃で警戒心が宿ったのか、祟り神は標的を俺から将臣に変更して俺に攻撃はこなくなった。
俺は刀を回して肩に乗せ意識を山河慟哭に集中させる…………
山河慟哭の光の色が蒼から翠に変わる。
そして軽くジャンプして山河慟哭を地面に叩きつけるように振るい、祟り神に向かって斬撃を飛ばす!
蓮太「破晄…撃ッ!」
繰り出された斬撃は地面を這うように真っ直ぐに祟り神に向かう。
しかし祟り神は尻尾で叩きつけるようにその斬撃を容易く消してしまう。
蓮太「………やるな」
やっぱりあの尻尾が邪魔だな……!
と、その時、上空から常陸さんがあの時のように少し短い尻尾をクナイで刺して抑え込む。
茉子「もう油断はしませんっ!」
祟り神は少し声を荒らげて、常陸さんを鋭い前脚で襲う!
俺は蒼い心の力を両足に送り急いで祟り神に急接近するが………
常陸さんの顔には焦りの色は全くなく、祟り神の攻撃を避ける素振りも見せなかった。
その視線の先には………
鉾鈴に付いた刃を祟り神に向け、常陸さんと挟むように攻撃を仕掛けていた朝武さんが。
そして朝武さんが鉾鈴で祟り神を一突き。
芳乃「やあっ!!!」
見た目はあまり効いて無さそうだが、朝武さんの力が非常に強いのだろう。
今日一番の雄叫びを祟り神は上げて苦しんでいる。
そして祟り神に急接近している俺は、そのまま祟り神に向かって真上に山河慟哭を構えて、タイミング良く叩き斬る!
蓮太「まだまだぁッ!!」
朝武さんの攻撃でかなり怯んだ祟り神に向かって、俺は力を溜めながらその場でゆっくりと回転する。
2週ほど回った後、俺は真上に跳び上体を横に反らし、遠心力を乗せて刀を思いっきり振る。
その時、山河慟哭は蒼色に光っていた。
蓮太「インフィ二ットエンドッ!」
山河慟哭が祟り神に当たった時、激しい音とともに凄まじい衝撃波が響き渡る。
そして吹き出される黒い泥に、視界を遮られ、俺は気付かなかった。
祟り神の触手が生えていて、俺に向かって素早く近づいていることに。
その攻撃を俺が認識できた時は、もう既に手遅れ、間違いなく避けきれないと思った時。
茉子「んっ…!!!」
俺は常陸さんに抱きかかえられるようにして祟り神に対して後ろに移動していた。
蓮太「ッ!?」
それでも尚襲ってくる触手を将臣と朝武さんが二人で弾く。
茉子「大丈夫ですか!?」
蓮太「あぁ…助かったよ、ありがとう」
そして朝武さんと将臣も後ろに下がる。
芳乃「にしても、結界内で…この人数差でやっと有利に戦えているなんて…」
本当に信じられないな……あの時に分けにまでもっていけたのが……あの祟り神の強さが……
蓮太「それに……まだまだ祟り神は元気そうだ」
祟り神は威嚇するように俺達を睨み、唸り声を上げる。
その時………祟り神の頭上に桜色の葉がひらひらと舞っていた。
将臣「さて、どうでるか…」
茉子「……?あの葉は?」
あれは…祟り神を祓った時に出てきた葉じゃないか?
そしてその桜色の葉が祟り神と重なった瞬間……
祟り神がその葉を取り込み、赤黒く身体が光り、激しい雄叫びを上げる。
祟り神「グオオオオオッッ!」
あまりにもの大音量の咆哮に、思わず耳を抑える。
耳鳴りと共に、空気が揺れるように見えた。
そして咆哮が収まった後、視線を戻すと…
祟り神がいない!?
芳乃「どこに…!?」
と朝武さんの方を見ると、その横から、祟り神が赤黒い前脚で朝武さんを引き裂こうとする。
即座に俺は素早く心の力を使い、朝武さんに飛びついてギリギリのところで躱す。
言葉を発する余裕もなく、激しく転がりながら身体を打ちつける。
それでも朝武さんを傷つけないようにしっかりと抱きしめる。
勢いが止まり、身体に痛みが走る中、なんとか怪我がなく死ななかった事に安堵する。
蓮太「だ、大丈夫か?朝武さん」
芳乃「はい…ありがとうございます…!?」
朝武さんは俺じゃなく、その奥の空を見ている。そのことに気づいた時、俺達が倒れている地面に大きな影ができる。
急いで振り返ると祟り神が襲いかかってくる。
しまった!朝武さんを助ける時に、山河慟哭を投げ捨てて武器がない…!
そんな俺に遠慮なく前脚を突き立てて襲ってくる祟り神に、俺は右足に心の力を送り、思いっきり横にそらすように祟り神の前脚を蹴ってギリギリの所で祟り神の攻撃を逸らす。
芳乃「きゃっ!」
そしてすぐに駆けつけてくれた常陸さんが必死に祟り神に向かって何度もクナイを突き刺す。
少し遅れてきた将臣も叢雨丸を何度も斬りつける。
その流れに乗って、俺も祟り神に向かって逆立ちの状態で祟り神を8発以上蹴りつける!
蓮太「
そして俺の隣で朝武さんも鉾鈴を祟り神の顔に勢いよく刺す。
しかし祟り神はそれでも怯まずに身体を勢いよく回転させ、俺達四人を吹き飛ばす。
蓮太「くっ!」
少し大きな岩に身体を叩きつけられ、俺の身体は悲鳴をあげる。
痛みを我慢して祟り神を見ると、体勢を崩した朝武さんに向かってまっすぐに突っ走っていた。
俺は即座に朝武さんの前に急接近し、全力で祟り神の頬を蹴る。
蓮太「
数メートル吹き飛ばすつもりで思いっきり蹴ったが、祟り神は頭を少しだけ捻らせて、そのまま尻尾で腹を薙ぎ払われる。
蓮太「うぐっ…!」
俺の身体はそのまま常陸さんの方へ吹き飛び、血を撒き散らしながら転がっていく。
茉子「竹内さんっ!?」
蓮太「ごほっ!ごほっ……!だ、大丈夫…!傷口が複数開いただけだ」
それよりも朝武さんがっ!
俺を払いのけた祟り神は、すぐさま朝武さんを狙って前脚を大きく振り上げる。
蓮太「くそっ!間に合わ…!」
しまった、と思った瞬間。激しく弾かれるように大きな音が境内の中を響き渡る。
芳乃「あ、有地さん…!」
朝武さんと祟り神の間に割り込んでいた将臣が、叢雨丸であの祟り神の攻撃を弾いていた。
明らかにあの桜色の葉を取り込んでから強くなった祟り神の攻撃を…弾いた!?
その手に握られた叢雨丸は見た事のない輝きを放ち、ゆらゆらと刀身が揺らめいているように見える。
蓮太「チャンスだ…!」
俺は一気にこのお祓いを終わらせようと、祟り神に向かって急接近する!
そして俺が蹴りを放とうとした時、俺の移動スピードよりも早く前に出る影があった。
その影は、両手で大太刀を持ち、その刀身はやや朱く光っている。
蓮太「常陸さんッ!?」
なんで俺の山河慟哭を!?
でも今はそんなことを考えている暇はない!
そう思い俺は、地面を強く蹴って上空に跳び、常陸さんの真上に身体を浮かばせる。
茉子「はぁッ!」
大きな掛け声とともに、常陸さんは朱く染めた山河慟哭で三度祟り神を斬りつけて、股下から頭上に斬り上げるように刀を振るい、そのまま上空へ刀を投げる。
その刀が俺の元へ届いた時、しっかりと右手で山河慟哭を掴み、心の力を込める。
落下していく中、持てる全ての力を使うために、更に深く刀に集中する!
蒼、白、翠と山河慟哭を纏う光の色が加わっていき、俺の鼓動が高鳴る!
蓮太「こっ…れでも…!!くらえっ!!」
そして三つの力を送った刀を祟り神の身体を切り離すように真下に思いっきり振りかざす!
凄まじい轟音が響くと同時に、叩きつけた刀が勢いよく地面に当たり、強く弾かれる。
その手を持って、反発する勢いを殺してくれたのは常陸さんだった。
この時の息の合いようは、本当に完璧だった。
一つの刀を通して常陸さんと心が繋がる。
この呪いを解く!
蓮太、茉子「「はあぁぁぁぁッ!!!」」
俺達二人に振り下ろされる山河慟哭は白と蒼と翠と朱色に包まれるように輝いていた。
しかしその全身全霊の攻撃を祟り神が大量の触手で守る。
将臣「勝機ッ!」
視界が遮られるほどの光を放つ叢雨丸を将臣は祟り神に突き刺す!
将臣のその攻撃に祟り神は激しく声を荒らげて触手を更に増やし、激しく暴れ回らせる。
芳乃「邪気封印ッ!」
朝武さんのその声と共に、祟り神の身体に白い網状の痕が張り付くようにまとわりつく。
そして祟り神の動きが弱まった瞬間を逃さず、将臣が叢雨丸を更に深く突き刺す!
そして弱まった触手を俺達が握る山河慟哭が斬りつけ、とうとう祟り神の身体に深い傷をつける。
そしてその傷口から、噴水のように溢れ出る血のような黒い泥を大量に浴びそうになる瞬間。
またも常陸さんに飛びつかれ、助けられた。
浮かぶ身体が常陸さんの手によって動かされる中、視界に映るのは叢雨丸を祟り神の喉笛を目掛けて突き刺している将臣。
身体を地面に叩きつけられ、痛みを感じる中、俺は叫ぶ。
蓮太「いっけぇっ!将臣ッ!」
将臣「はぁぁッ!!!」
そして更に奥へと将臣は傷口を広げるように叢雨丸を突き刺す。
その瞬間、俺達が斬った場所のように泥のような穢れが大量に溢れ出る。
将臣「いい加減しつこいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
中で何があったのかは、正直見えなかった。
ただ言えることは、将臣は穢れに勝った。魂を憑依されることなく、怨念に勝って見せた。
将臣が叫ぶように声をだいにして叢雨丸を無理やりねじ込む。
その瞬間、今までとは比べ物にならないほど凝縮された穢れの黒い霧が、猛り狂うような勢いで境内の中に吹き荒れる。
そしてようやく視界が戻ってきた時……そこにはあの圧倒的な存在感が消えていた。
竜巻のような黒い霧が吹き荒れたせいで、視界が遮られてどうなったのかわからなかった。
ただ、将臣の足元には大きな欠片が転がっている。
ムラサメ「無事かっ!?ご主人!」
憑依を解いたムラサメが身を乗り出すように将臣に話しかける。
将臣「あ、ああ。大丈夫だ…」
ムラサメ「一瞬、穢れに取り込まれるのではないかと、ひやひやしたぞ」
蓮太「よく、打ち勝ったよ…大した奴だ……」
その確信的な勝利の証を目にした俺は、つい気を抜いてしまってその場に大の字で倒れ込む。
芳乃「これって、終わった…んですよね?」
茉子「祟り神は霧になって、消えました。いつも通りなら……これでお祓いは終わったはず……です」
蓮太「どうなんだ?ムラサメ」
ムラサメ「うむ、先程までの気配は消えておる。それにほれ、芳乃の耳も」
俺はムラサメの言葉を聞き、朝武さんの方を見ると、たしかに獣耳は消えていた。
というか、そういえばずっと耳は生えっぱなしだったな…すっかり馴染んでしまってた。
茉子「あ、本当ですね」
芳乃「憑代の赤い点滅も治まってますね」
蓮太「将臣、後は最後の仕事だ」
そう言って上体を起こし、将臣の足元にある大きな欠片に指を指す。
なんてったって俺は触れないからな。
そして将臣はその落ちている大きな欠片を拾い上げる。
あれが十数体の祟り神分の欠片…か。
元々俺達が持っていた欠片よりも二回りほど大きい。
そしてその二つの欠片を合わせるように近づけると、白い輝きの中で一つになって…
将臣「………あれ?」
感動する場面の中、将臣の呆けた声が聞こえてくる。
将臣「あれぇぇぇぇぇぇぇ!?」