あまのじゃく鬼人正邪はその反転する能力を使い、お茶碗とお椀の位置を反転させる異変を起こす。しかし、幻想狂の少女達はその異変に気づきもしない食生活を送っていた。

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鬼人正邪のお膳異変

鬼人正邪のお膳異変

 

人目が無いのをいいことに、彼女はお膳を前にし嬉しそうな笑みを浮かべ、挙げ句の果てに頂きますと手まで合わせた。しかし…

「ん、なんか食べにくいな。」鬼人正邪は少し考え込む。やがて顔をぱっと明るくさせぽんと手を打つ。

「そうか、お椀と茶碗の位置が反対なんだ。」

鬼人正邪は右手を後ろについて、体をひねり後ろの台所の方へ顔を向ける

「ちょっと姫~」

「なーに」姫と呼ばれたのは少名針妙丸で、エプロン姿で台所の奥から居間に出てくる

「お椀と茶碗の配膳が反対ですよ」と鬼人正邪

「おやおや。どうしたの九十九神達」と少名針妙丸はお膳に話しかけてみる。お膳はなんと動き出し、彼らの胸の内を姫に吐露した。

ふんふん。と腕組みをして聞く少名針妙丸

「あまのじゃくだから反対の方が食べやすいとおもったんだってさ」と少名針妙丸はあまのじゃくである鬼人正邪に教えてやる。

「馬鹿な、その理屈で言えば私はお風呂場で服を着てそれ以外の場所で服を脱いでいるでしょう…まてよ、その手があったか」鬼人正邪はすっくと座布団の上に立ち上がる。

「駄目だよ、せいじゃ!」少名針妙丸は間髪入れずに注意を喚起する

「おやおや、何を考えているんです?」鬼人正邪は半目になった目で姫の方を見た。

「お椀とお茶碗を反対にする異変を起こすつもりでしょ」と少名針妙丸。

「…あれ、当たった。てっきり私は」と鬼人正邪は言いさして黙る。

「そんな恥ずかしいことはできないでしょ」少名針妙丸はさきほどの風呂場の話と見当を付けて言う。

「ふふん、…まあ、できないか。」と鬼人正邪。

 

それより、お膳の上の茶碗とお椀を反転だ!!!

世界の混乱ぶりを観察するぞ、えいえいおー!

 

突撃お宅の晩ご飯

大きなしゃもじを持ったせいじゃが断りもなく家宅侵入

 

まずは魔法の森のアリスの家。 

「お宅の晩ご飯拝見させてもらいます!」鬼人正邪がことわりも無く突撃すると台所のあたりが人さわがしい気がする。

大勢の人が居る気配を感じて、鬼人正邪はちょっと口元に力を入れる。いたずらをしてても大勢が待ち構えていると緊張してしまう小物なのだ。

鬼人正邪はがんばって台所に入っていく、そこには……。

美しいシャンデリアの下、木造のテーブル。その上にはレース編みのテーブルクロス。そしてその上に土鍋がしかれ、美しく切りそろえられたパンや野菜が目に入る。そして銀色の長いフォーク。

チーズフォンデュだ 

席に着くのはアリスと―――

人形と人形と人形。無論人形は食べるふり。それでもアリスは人形に向かって楽しそうにおはなしをしている。

正邪に気がついても人形とする談笑をやめようとしない。

断っておくが、談笑といえどもしゃべるのはアリスばかりで、人形は当然の理を持ってひたすら沈黙している。それでもアリスは、「やっだ~」とか「またまた~」とか返すのである。

誰かに、至極まともな人が誰か別のあまのじゃくに反転の呪いをかけられたのではないか、そうとすら思えるアリスの狂態。

 

恐ろしくかつまた悲しい光景

 

とにかく膳を使っていないから参考にならない。鬼人正邪がたたずんでいると、

「一緒に食べる?」とアリスに聞かれた。

「うん」と静に答えて人形と人形の間の席に座る。

(怖ぇ)と思いつつ一緒に食事。人形が気になって味を覚えていない。

アリスの輝かんばかりの屈託のない笑顔が物語っているのは、これが彼女の日常だということ。凍てつく孤独に鬼人正邪は考える。

「抱きしめたら泣いちゃうかな?…いや、きょとんとするな、これは」

 

博麗神社の霊夢おうち 

 

「突撃~お宅の晩ご…」

霊夢は雑草を前にして考え込んでいる。

よく見ると湯気が立っており、皿に盛られている。

アレが夜食なのだろうか。

 

恐ろしくかつまた悲しい光景

 

「いいところに来たわね」音もなく立ち上がる霊夢。なぜか草の盛られた皿を手にしている。

よくわからないが死にものぐるいで逃げる鬼人正邪。

とにかく、一汁一菜は愚か膳さえ使っていないから参考にならない

「誰かこのヨモギを餅と調合してくれる人は居ないかしら」」

霊夢の独白は天の邪鬼が開け放していった寒い夜風の吹き込む襖の奥の闇へと消えた。

 

白玉楼

ゆゆこ様のおうち

真珠のように白い階段も夜になると真っ黒になる。

左右に並ぶぼんぼりの明かりはまどろっこしいほど頼りない。

空に飛び上がると枝にぶつかった。あまりに密集して屹立しているため空と枝葉の別が無い。やむを得ず足を使って真っ暗な階段を見当だけで上ってゆく鬼人正邪。

とつぜん、生ぬるくドロッとしたものが足首から下を包み込んだ。

輝く弾幕を撃って足下を確かめると、光沢のないぬめぬめした液体が白い階段を赤く染めていた。

輝く弾幕を上にうち確認すると、階段の上の方が水量が多い。これは館より流れ落ちてきている。

かすかに見える館の前にそびえ立つボーンタワー。動物の骨が積み重なった塔

その前にひときわ鮮やかにかがり火に照らされ浮かぶ西行寺幽々子。そしてその横で立ち尽くしている魂魄妖夢らしき影

 

恐ろしくかつまた悲しい光景

 

膳を使っているかもしれないが食事中のゆゆこに会いに行くのはなんだか怖い。

血だまりから足を引き抜きすっと飛び立つなり鬼人正邪は誰にも顔を見せず夜空に消えた。

 

魔法の森魔理沙のおうち

 

「とっつげーき!お宅の晩ご飯」鬼人正邪は大声を上げながら中に入ろうとドアノブをつかむ。すると、手の甲に蛍が止まった。

そのまま蛍は、すぐまた飛び上がり魔理沙の家の中へと入っていった。ドアは初めから薄く開いていたのだ。物騒なものだ。誰か入ってきたらどうするつもりだろう。天の邪鬼は扉が閉まっていると開けたくなるが、このように開いていると入りたくなくなる。

鬼人正邪が本能と理性の間で躊躇していると、薄く開かれた戸の内側から魔理沙の声がする。

「その声は、天の邪鬼かー」

「違うよ」と鬼人正邪。鬼人正邪は見え透いていてもあまのじゃくゆえ反対のことを言うのだ。

「帰れ」と魔理沙

「お邪魔します」と鬼人正邪は戸を開けて中へ入る。

魔理沙は床の上にうつ伏せに寝っ転がって本を読んでいた。開かれた本の上になにかがぼろぼろとこぼれ落ちている。まりさはぼろぼろ落ちたくずを手首を使って雑にはらうと、まだ目に見えてかすが残っているにもかかわらずページを繰って封じ込めた。汚い。

ぼろぼろ落ちる物体はまりさの右手が彼女の口元に近づく度に落下する法則がある

右手には粘土を持っている。彼女は粘土を食べている。

 

恐ろしくかつまた悲しい光景

 

まりさは正邪を見るなり手首をスナップさせて食べかけの粘土を放る。

受け取って沈思黙考。魔理沙の屈託の無い視線に闘志を憶え食べてみる。するとどうだ、粘土はチョコバナナ味のカロリーメイトだった。

「自分で作ってみたんだ。どうだ」と魔理沙

「カロリーメイトを自作する奴なんて初めて見た。」と鬼人正邪

「本物は高いからな」と世知辛いことを言う魔理沙

「チョコバナナ味なんて自作した方が高いだろう。本家カロリーメイトのの方はチョコもバナナも香料だぜ。」と鬼人正邪

「あーん?チョコもバナナも使ってないぜ、原材料はキノコ100%だ。」

正邪は青くなってキノコ100%を返す。魔理沙は無表情で受け取り無表情でそれを食べる。

「わたしが食い物って奴を作ってやるよ」と鬼人正邪は魔理沙の家の台所へと無断で入っていく。

「これだって食い物だぜ」魔理沙は鬼人正邪が入ったことをとがめるどころか見向きもせず、寝転んでキノコ100%を食べ続けている。

お膳に茶碗とお椀とおかずを差し出す鬼人正邪。さあさあ戸惑え。ひひひ。割烹着姿の悪意は笑う。

「おお、ひさしぶりの和食だぜ」

魔理沙はお椀をひっつかむと中の味噌汁をご飯の上にぶっかけて、お椀を膳の外に置く

「お、おい」鬼人正邪は青ざめる。

「せいじゃの家では猫まんまだった?犬まんまだった?」とゴーイングマイウェイな魔理沙。

「そんな下品な食べ方は…もっと女らしく生きたらどうだ」異変を台無しにされて小言を言う鬼人正邪。

「わたしはな、あまのじゃく。その当たり前の生き方に…反逆するぜ。」

よくわからないがとにかく握手をした。憶えているのはそれだけで、今はキノコ100%のカロリーメイトをかかえてマリサの家の外にいた。

 

やってきたのは紅魔館。

紅魔館は洋風だからどうせお膳で飯を食べてはいまい。

「だけどお義理だ。聞いてやるぜ」と鬼人正邪

「なんですか、藪から棒に。」門番紅美鈴は戸惑う

「おい、門番。おまえの所の食事はだいたいどんなだ」とぶっきらぼうに鬼人正邪は聞く

「おにぎりです。そうでないときはサンドイッチです。」と紅美鈴

「いや、おまえの食事じゃなくてだな、本館の連中はどんなか教えてくれよ」鬼人正邪は癒そうな顔をする。

「おにぎりかサンドイッチです。特別な日にはバスケットが出たりしますが、年に二回ぐらいですかね。本館の人達も同じものを食べています。咲夜さんがそう言ってました。あれ、どうして泣くんですか」

どうにかして笑顔を作り、黙ってうなずきまりさからもらったカロリーメイトを与えると

その場を離れた。

 

ただただ悲しい。

 

地霊殿。

かつての命をかけた逃走劇は天の邪鬼の機動性を鍛えた。いまでは数回死ぬ程度で地獄を超え、旧都までたどり着くことが出来るようになった。

 

火焔猫燐は生魚を床で直食い霊烏路空は生肉を床で直食いしている。畜生共めと鬼人正邪は鼻を鳴らず。

古明地さとりと古明地こいしはナプキンをつけ、銀食器を操り、パンとスープとサラダを床で直食い。なんで?鬼人正邪は度肝を抜かれる。

一トンはあろうかという立派なテーブルをわざわざ脇にどけてそんなことをしている。

四人はけたけたっと笑って手招きをした。

正邪は急いで逃げる。地獄はどうも手に合わない。

 

恐ろしくかつまた悲しい光景

 

とにかく膳をつかっていないので参考にならない。

古明地さとりが自分の腰をとんとんとたたく。古明地こいしが無邪気に姉にとんとんしてやる。

「ね、さとり様。いつものライフスタイルと違う食事の形式は食べにくいでしょう」と火焔猫燐。

「ふーむ」と古明地さとり考えるような声を出す。

「だから、あたい達がテーブルマナーを好まないことをわかって頂きたいんですけど…どうですか?」と火焔猫燐はおずおずと古明地さとりの顔を伺う。

「さとりさまとこいしさまと一緒にする床食いすっごく楽しいです!」と霊烏路空

「ちょっとお空、話がずれてるよ」と突っ込みを入れる火焔猫燐

「うにゅ?」と霊烏路空の頭の上に大きなクエスチョンマークがでる。

「ところでさっきお尋ね者が来てましたけど、いいんですか」と火焔猫燐。

「お燐、ここは地獄です。地獄は忌み嫌われた者集う場所。たとえ幻想郷のお尋ね者であろうともかくまって欲しいという依頼ならかくまいましたが、どうも違ったようです。」

「あの…」と火焔猫燐は言いさして黙る。

「うにゅ?」と霊烏路空の頭の上には大きなクエスチョンマークが浮かぶ。

「せいじゃはなんでも食事の配膳に関する異変を起こしているらしいのです。そして、その結果を見るためにここまで来たようですが、食事の配膳スタイルが違うので何の効能も見られなかったためがっかりして帰って行ったみたいです」

「いや、そうじゃなくてですね、さとり様が四つ這いで犬食いしているところを見られて恥ずかしくなかったのかなーって」と火焔猫燐。

さとりははっとした後赤くなる。さとり妖怪なのに火焔猫燐の心が分からなかったことも恥ずかしさに拍車をかける。

「あまのじゃくでよかったですね、さとりさま」と霊烏路空

「おお、そういえばあいつあまのじゃくだった。お空、ナイスだよ。よかったですね、さとり様。」と火焔猫燐は胸の前で拳を固める。

古明地さとりはにっこりわらってセーフのジェスチャーをして見せた。

古明地さとりが広げた腕の下を古明地こいしがうれしそうにくぐる。

 

ミスチーなら、それでもヤツメウナギの屋台をしているミスチーならと鬼人正邪は最後の希望を持って、ミスチーのところへ向かう。

 

屋台のどんぶりものは汁を出さない。

炭火は火力が弱く温めはできても沸騰はできないとつまらないことを聞かされた。

 

悲しくも無ければ恐ろしくも無い。

結局誰も膳をつかって食事をしていなかった。

 

「せいじゃー」

姫がお椀ではなくお茶碗の中に入っている。鬼人正邪は天佑を得た気持ちで姫に言葉をかける

「不便でしょう」

「いーや。いつもと変わらないね」と姫こと少名針妙丸

「でも天井がなくなった」

「…?気分転換にお茶碗に入っていただけよ。お椀がよければ、ほら、この通り」

といって茶碗から出てお椀の中に入る。それはそうだ。異変は膳の上の隊列を変えるだけで別に茶碗とお椀の概念を倒錯させたわけではない。

 

「ちぇっ、文化水準の低い連中は嫌になる。ご飯食べよっと」

「あっち!!」

お椀のお汁の中に指を入れてしまい、熱くてひっくり返す。

 

台無しになったお膳をしばし見つめた後立ち上がる。台所から布巾を持ってきて膳から汁まみれの茶碗と椀を下ろしこれらをぬぐう。取り返しのつかない焼き魚は見なかったことにして、とりあえず皿の下だけはぬぐいこれも膳から下ろして、水たまりができている膳をすっかりぬぐい終わった後、奥にぬれた焼き魚をおいて、素早くあたりを見回し、茶碗を左に、お椀を右に配備した。

存在を忘れていた姫とばっちり目が合いせいじゃは赤くなったが、姫は無反応だった。

「姫、焼き魚食べます?」

「わーい。…お味噌汁がかかってる。」

 

こうしてお膳異変は誰にも知られることなく半日で収束したのだった。

 


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