戦国時代の某日
とある女剣士が鬼である弟との最初で最後の死合が行われた
黒死牟と名乗る弟は私との遭遇をはじめは驚きはすれどすぐに私と認識したようだ。
ただ鬼と鬼狩りが相まみえてやることはただひとつ。
だったのだが、、、
私は鬼となってしまった弟に怒るでも嘆くでもなかった。
「や、やあひさしぶりだね。巖勝、今は黒死牟って呼んだほうがいいのかな?」
久しぶりの再会に何を話せばいいかわかんないけどとりあえず何か言っておくべきか?
「お久しぶりです、姉上。お元気そうで何よりです。」
かつての姉と弟のような会話が行われていた。
かつての会話という割には姉の方が少々たどたどしいが、
またこれでは
これから殺しあうようには到底見えない光景だった。
「その六眼かっこいいね。人前には出れないけど私は好きかな?」
と、気になったので言ってみる
変わった弟の姿に私も驚いたがまあこんなものかなと。あれはあれでかっこいい気がするし。
このような他愛ない言葉を投げかければ黒死牟も
「六眼なのは鬼としての力をふるう時だけです。普段は擬態も可能です。」
「そりゃ、便利だ」
擬態できるのなら夜の街は出歩けそうだなと。
こうした会話の応酬がしばらく続いた。久々の再会を懐かしむように。
これが最後の会話になるのだ。弟の方はともかく私的にはしばらく話していたい。
しかし目を見て話すのが礼儀というけど黒死牟の場合はどの目をみればいいのだろうか?
位置的に真ん中の目の場所だろうか。
ついにその時はきた。
「それじゃあ、そろそろ始めようか黒死牟」
「はい、始めましょう姉上」
間合いを詰めるがすぐには攻め込まない
ていうか攻め込めない。この弟まったく隙が無いのだ。
どうなってるんだ?と感じるくらいに強い。
あれ?こいつ透き通る世界みえてるんじゃね?と錯覚する程度に隙が無い
脳内で何度も可能性を精査し却下してはまた考える。
この繰り返しののち活路を見出すのだ。
きっかけは何だったか
二人の剣士はまるで示し合わせたかのように同時に動き出した。
初めに仕掛けたのは黒死牟だった。
月の呼吸・陸ノ型 常夜弧月・無間
鬼の腕力で放たれる、剣士としてによる極限にまで磨かれた技はもはや災害の域だ。
無数の斬撃が地面をえぐり獲物目がけて驀進する。
に対して私も呼吸を集中させ型を出す
「はあ、、はあ、、」
防御に用いたのは、星の呼吸・十一ノ型 静夜
守りにとても重宝する受け専用の技だ
透明な世界による動きの先読みと相まってたいていの攻撃であればたやすく受け流せるのだが、、、
我が弟の攻撃はそうたやすくはないらしい
受け流しきれなかった分の反動で腕がしびれる
軽いダメージで防ぎ切ったがそれもつかの間
「甘い!」
間髪入れずに放たれる月の呼吸に防御するより先に私は近くにあった岩場に身を隠した
月の呼吸・漆ノ型 厄鏡・月映え
とんでもない攻撃範囲で速さもさっき以上である。
斬撃が身を隠した岩を撃砕して石片の雨をふらせた。
いくつもの斬撃は岩を撃砕するのみならず身を隠していた私にも襲いかかる。
「あわわわああああああ」
転がるように回避してすぐさま反撃の一撃を放つ
このままやられっぱなしは腹が立つ
今度はこっちのターンとばかりに呼吸を整えて
跳躍により間合いを詰める
急迫する自身の敵に対して黒死牟もすぐさま反撃の構えをとる
星の呼吸・漆ノ型 流星・星河一天
流れ星のごとく上から降り注ぐ斬撃
無数の星空のように星空より放たれる星々は無尽蔵だ
無限のごとく放たれる連撃のすべてが黒死牟へと叩き込まれる。
ここで相手に何発か入れれていればまた展開が有利だったのかもしれないがそうは問屋が許さない
月の呼吸・弐ノ型 珠華ノ弄月
弄月とは月を眺めて楽しむことという通り下から上に放たれる技
私の放った斬撃もことごとく撃ち落とせれるが一部は流星となり黒死牟へと降り注ぐ
だが私もまた反撃の無数の刃を食らってしまう。
こうした攻防をへて私は確信した。
これは弟は私同様、透き通る世界がみえていますね。
お互いに動きの読みあいから放たれる無数の剣技はし並みの剣士では到底たどり着けない至高の領域であり、
そう思うのは不思議ではなかった。
つまりこの戦いは読み負けた瞬間に肉体的に劣る私が致命傷を負う可能性が高い。
技と駆け引きにおいて常に相手の上をいき続けることが最低ラインだ。
自分だけが透き通る世界を見ているという優位性がない今より考えることしかできない。
と安易な考えをしている場合ではない。
突如、黒死牟が右手を薙いだ。
透き通る世界の読みあいから何とか刀でそれを受けるが
私の思考の隙をついたその一撃は衝撃波を生み私の体をいとも簡単に弾き飛ばした。
その衝撃波だけで体が悲鳴を上げているのがわかる。
すぐさま回復の呼吸に専念する、、、と私の全身からの警告か?
とっさに呼吸を攻撃に切り替えたのは偶然だったのか先読みによる必然だったのか
まだ黒死牟とは弾き飛ばされた分距離があるはずと意識では感じているがそれより先に私は体の感覚に従った。
月の呼吸・壱ノ型 闇月・宵の宮
鬼の肉体と月の呼吸にのより爆発的に高められた脚力によって詰められ必殺の間合いから放たれる居合
相手の攻撃を受けた反動か、手のしびれがひどい
だが!ここで引けば確実に殺られると私の本能が告げる
本能的に放った一撃は奇しくも相手と同じ居合
星の呼吸・壱ノ型 天流乱星
剣と剣との間で火花が散り、反動でお互いに刹那の硬直がみられる。だが四の五の言っている場合ではない。
この一瞬に必殺の一撃を相手に叩き込む!
「うおおおおりゃああああああああ!!!!!!」
星の呼吸・弐ノ型 星砕天穿
星を砕き天を穿つがごとく赤く輝く灼刀
先ほどの火花の影響か刀が燃えるように熱いことなど気にしてはいられない
一撃一撃に殺意を載せて放たれるこの一撃は単なる連撃とはわけが違う
文字通りの連撃、つまり呼吸などによる切れ目のない無酸素攻撃
使用者の身体的な限界が来るまでこの連撃は止まらない
寸のところで刀で防御をとる黒死牟
そして黒死牟によって放たれる反撃の無数の斬撃
知ったことか!!
それでも私の連撃は止まらない
黒死牟の刀は度重なる私の斬撃により砕け散る
いける!と思うのもつかの間、体が鉛のように重い
私の体はこのわずかな攻防で限界をむかえてしまったのか??!!
違う、黒死牟の攻撃により血を失いすぎただけだ。
だったらまだいける
これ以上動くのは度重なる攻防ですでに限界に等しいことはわかっている。
「知ったことか!!!」
ここで攻めねば剣士の名が廃る
最後の一撃が鬼の、弟の首筋へ誘われ終わるはずだった、、、
今まで通りの姉と弟の試合であったのならこれで終わっていただろう。
だが鬼となり何倍にも強くなった弟には肉体の強化のほかに血起術とのちに名付けられる異形の力も発現していた。
無数の刃が弟の体から文字通り生えてきたことにより必殺の私の連撃は防がれる。
その刃一つ一つが弟の血起術であり私を打ち取らんと攻撃してくる。
そして刃の一つが私の体を貫き、あっという間にいくつもの刃が私の体を貫いた。
軽い擦り傷から致命傷まで、まるで怪我の市場のようだと場違いなことを考えていた。
致命傷だ。これはもう覆らない。それに呼吸によって抑制していた出血も新たな出血によりいよいよ追いつかなくなってきた。全身があり得ないくらいに重く、そして眠い。だが!!
「知ったことか!!!!」
血反吐とともに咆哮のように叫んだ私の連撃は止まらない。
たとえこの先がなくとも今体が少しでも動くのならまだ戦える。
もう一人の弟、縁一のように戦えなくとも動けなくともまだ戦える。
私の最後の連撃は黒死牟の無数の刃を砕き、叩き折りそして一撃また一撃と黒死牟の体へ灼刀が切り刻まれる。
当然、黒死牟も反撃してくる。
だが、私は止まらない。ここで止まるわけにはいかないのだ。
ここで止まれば私には次はない、最後に姉としてそして剣士として有終の美を飾るために。
ーーーーー黒死牟サイドーーーーーー
私には姉がいる。
鬼に身を墜とし弟としてはもはや会うことがないと思っていた姉が目の前にいる。
鬼となった私を見て姉上は失望するのだろうか
そんな姉から出た言葉は極めて普通のものだった。
「や、やあひさしぶりだね。巖勝、今は黒死牟って呼んだほうがいいのかな?」
かつての姉の姿がそこにあった。
「お久しぶりです、姉上。お元気そうで何よりです。」
そんな私もついかつての巖勝としてのように会話してしまう。
あぁ、、姉上は変わっていない
変わってしまったのは自分だけ
鬼として遥かなる高みを目指して縁一を追い越すために
「その六眼かっこいいね。人前には出れないけど私は好きかな?」
ふと問いかけられたその質問についつい返事をしてしまう
「六眼なのは鬼としての力をふるう時だけです。普段は擬態も可能です。」
これから殺さねばならない相手との会話は不要だ。
そうわかってはいるのだがなぜか心地のよさを感じてしまう。
私は姉上のことを慕っていたのだろうか
すべてにおいて前をいく弟と違い姉上は隣を歩いていた
駆け引きや速さにおいては姉上が私の上をいっていたが剣術や力に関しては私の方が上だった
姉上は弟同様に私には見えない世界が見えているようだった。
それゆえに駆け引きや読みあいではほとんど勝てたことはない
それでも私は姉上に勝ち越していたことだけが何より私を満足させた。
勝ちたい
姉上に勝ちたい
縁一に届かないことは心のどこかで分かっていた
だが!この姉上にだけは勝ちたい
この思いがより強くなったのは呼吸を習得したあたりだ。
残念ながら私の月の呼吸は縁一の呼吸から派生した模倣に過ぎなかった。
私にはそれがたまらなく屈辱だった
また状況が変わってしまった。
姉に勝ち越せていたのは私が男だからだ。
単純な肉体差によって勝利していたにすぎない
呼吸により肉体の差が埋まってしまい私は姉にすら追いつけなくなるのではないかと焦りが積もった。
私はひたすらに鍛錬と鬼狩りにいそしんだ。
そのころからか姉上と疎遠になりだしたのは
ただ私は弟だけでなく姉上にまで置いて行かれたくなかったのだ
私は力をつけた。あのお方の力によって更なる力を手に入れた。
そして時がたち私たちが再会したのはもう引き返せないとこまで来た時だった。
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私の鼓動に呼応するように灼刀が輝く。
透き通る世界をより深く対応しているせいだろうか
自分の鼓動の音が聞こえる。
体が熱に包まれる。
そのなかで私の思考はこれ以上ないくらいにクリアだ。
決める
狙うのは黒死牟の首筋
鬼にとっての絶対の有効打になりうるその弱点のみを狙う。
極限までに濃縮された時間の中で私の最後の一撃が放たれる。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
真っ赤に燃え盛る赤の刃が黒死牟の首を切り飛ばす、、、、
はずだった。
いや、、、浅い、、、、
肉を焼き切った感触についで私が感じたのは目の前でいまだに存在する鬼の存在感だった。
この鬼をまだ殺しきれていない。
寸のところで首を切り飛ばすところまでは届かなかったのだ。
居合を振りぬいた反動に耐え切れず地面を派手に転がる。
泥まみれになりながらも必死に次の攻撃を出そうともがく。
動け!動いてくれ
みたところ黒死牟にとっても痛恨の一撃だったように再生がほとんど進んでいない。
今次の一撃を当てれれば確実に仕留められる。
この今だけでいい
たった一太刀でいいから動いてくれ
私の体は無慈悲にもうんともすんとも言わない
正真正銘最後の一撃だったのだ。
その事実をやっと認識できたとたんどっと眠気が押し寄せてきた。
不思議と痛みはあまりない
倒しきれなかった悔しさは押し寄せてくるが、、、
私は最後の戦いに敗れたのだ
もうろうとする意識の中で気が付いたら言葉を発していた
「強くなったね、巖勝」
これが私からの最後の賛美だ
願わくば勝ちたかった。
勝負の世界に二度目はないけれど次は私が勝つ。
そう考えながら私の意識は闇の中に沈んだ。