突発的な思いつきの結果、こうなりました。
対象:
東京エリア・プロモーター
インタビュアー:U.S.氏
記録者:[削除済み]
付記:特筆すべき点は無し。
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U.S.氏:それではインタビューを始めます。始めに、どういった経緯でこの事件にかかわることになったのかを話してください。
塩崎氏:分かった。話す。金も貰ったしな。……確かあれは春の始め頃だったか。ある日俺の勤め先の会社*1に掛かってきた一本の電話が始まりだった気がする。俺のところは規模が割と小さくてな、オペレーターとか雇ってなかった。だからそん時は社長が出た。最初は普通に営業モードで話してたんだが途中から妙に言葉が詰まり始めてな。何て言うかこう……緊張してるみたいだった。
U.S.氏:それで電話のお相手は誰でしたか?
塩崎氏:もちろんそれは俺も気になった。電話が終わってすぐに俺は聞いたさ。そしたら社長は顔を白くして声を震わせながらこう答えたんだ。「防衛省」って。
U.S.氏:防衛省ですか。これはまた珍しい。
塩崎氏:……ああ。俺のペアは確かに序列も千番台だし会社が抱えてた他のペアもほぼ全部一万よりは上だったが、そんな国関連の機関からお呼びが掛かるほどの実績はなかった。いわゆる『THE 民間』みたいなレッテルがお似合いの会社だった。だからそん時は会社創設以来一番会社が揺れた気がしたな。俺も目ん玉が飛び出るくらい驚いた。
U.S.氏:ちなみに電話の内容は?
塩崎氏:あぁ、電話の内容ね。確か「防衛省に来い」しか言われてないって社長が言ってたな。
U.S.氏:それだけですか?
塩崎氏:あ、ああ。それだけ。それだけだ。少なくとも俺はそう聞いてるし、それ以外は記憶にない。
U.S.氏:なるほど。では先に進みます。
[塩崎氏が顔を苦しそうに歪ませる]
U.S.氏:実際に防衛省を訪問した際の様子を詳しくお聞かせください。
塩崎氏:[約10秒間沈黙後、ため息を吐く] …………やっぱやめだ。金も返す。インタビューは終わりだ。話したくない。
U.S.氏:何故でしょうか?
塩崎氏:単純に思い出したくないからに決まってるだろ。どうせ事前に調べてるはずだからお前も知ってるよな? 俺があの事件で一体何を失ったのかを。
U.S.氏:はい。存じ上げております。しかしそれはインタビューを中断するに足る理由にはなりません。少なくとも私はそう考えております。
塩崎氏:[4秒間沈黙] は? いや、何故だ? 意味がわからない。なんだお前。なんでお前がそんなこと言えるんだ? 頭おかしいだろ。
U.S.氏:いいえ。私は正常です。あなたは契約に同意したはず。インタビューを中断するということはその契約を反故にするのと同義です。いいのですか? インタビューに答えて頂かなければ貴方は更に何かを失うことになりますが。
塩崎氏:[10秒間沈黙] ……なるほどな。これは取材じゃない。尋問だろ。
U.S.氏:何とでもどうぞ。全ては契約に同意した数分前の貴方自身を恨んでください。では、続きを。
塩崎氏:[深いため息] ……分かった。話す。防衛省には俺らの他に幾つも会社が呼ばれてた。それで全員一つの部屋に集められてた。でけぇ部屋だった。楕円形の大きな机が中央に置いてあって、正面の壁には壁一面覆い尽くすくらいでかいモニターが貼っつけられてた。それぞれの会社の社長は机の決められた席に座ってた。部屋に入ってしばらくすると、自衛隊か何かのお偉いさんが一人、部屋に入って来た。そんで……えっと、何だっけな。
U.S.氏:ゆっくりで構いません。時間はたっぷりあります。
塩崎氏:うるさい。そんなことは分かってる。……そうだ。お偉いさんは「依頼を聞いた後に辞退はできないから辞めたいヤツは出てけ」って言った。……おかしな話だよな。普通民警の依頼ってのは緊急のヤツ以外は依頼を聞いた後にやるかやらないかを決めるんだ。だけどそん時は順序が丸っきり逆だった。多分、そこにいたヤツらほぼ全員思っただろうね。「これは普通の依頼じゃねぇ」って。実際、依頼は普通じゃなかった。
U.S.氏:普通じゃない、とは?
塩崎氏:まず依頼人が破格だった。お偉いさんがモニターを起動した時、そこに映し出されたのは、あろうことか聖天子様だった。俺はぁもうビックリして姿勢を正すことも忘れて固まったね。周りから見れば俺の姿はさぞ滑稽だったろうよ。
U.S.氏:結局、どんな依頼だったのですか?
塩崎氏:お前、ホント要点しか言わないのな。もうちょっと話にノってくれてもいいだろうに。まあいいや。依頼はとある一匹のガストレアの駆除。そして、そのガストレアに取り込まれているはずのアタッシュケースの回収だ。
U.S.氏:アタッシュケースですか。どうも、そのアタッシュケースはかなりワケアリな品のように思えますね。
塩崎氏:お、今度はノったな。ああ。じゃなきゃ政府はわざわざ直接俺たちに依頼する理由がないからな。で、気になるのが中身だが、ここで先陣を切って聖天子様にケースの中身について質問したのが天童木更だ。
U.S.氏:ほう。天童木更はその場にいたと。となると、里見蓮太郎もそこにいたということでよろしいですか?
塩崎氏:ああ、そうだ。ヤツは天童木更の後ろに立ってた。妙に酷い不幸面貼っつけてイヤに気ダルそぉな感じで突っ立ってたよ。
U.S.氏:ありがとうございます。では、天童木更の問いに対する聖天子の答えはどんなものでしたか?
塩崎氏:ま、流石に聖天子様が素直に質問に答えなかったことくらいは想像つくよな。そうさ、聖天子様は元の依頼者のプライバシーがどうのこうの言って天童木更の質問を軽くあしらった。つまりアタッシュケースの中身について伏せた。が、天童はそこで引き下がらずに聖天子様に噛みついた。一番重要な情報が不明瞭なまま依頼を受けるわけにはいかねぇからな。一人の民警の社長として。だが…… [深いため息] そのすぐ後だったな。アイツが現れたのは。
U.S.氏:アイツ……とは、蛭子影胤のことでしょうか?
塩崎氏:ああ。……突然、まさに何の前触れもなく、会議室に笑い声が響き渡った。何というか……この世の全てを嗤い飛ばすかのような笑い方だった。……ヤツは、欠員でひとつだけ空いていた席に堂々と座ってた。気配なんて微塵も感じなかった。いつの間にか、そこにいた。まるで幽霊みたいなヤツだった……あ、そういえば。
U.S.氏:どうしましたか?
塩崎氏:いや……そういえば、そのお前がさっき言ってた里見蓮太郎ってやつ。あの日よりも前にヤツに会ってたようだった。
U.S.氏:つまり、二人の間には既に面識があったと?
塩崎氏:ああ、おそらくな。あの時、二人はそんな感じで話を進めてたから多分そうだろう。
U.S.氏:なるほど。ありがとうございます。では続きを。
塩崎氏:[ため息] ヤツは……民警だった。イニシエーターがいやがったんだ。本人は娘と言ってた。イニシエーターは短めの刀を二本持ってて……その先っちょから血が滴ってた。まるで直前に辻斬りでもしてきたみたいだった。
U.S.氏:蛭子小比奈ですね。因子はカマキリ。近接戦闘においては最強だとか。恐ろしいですね。
塩崎氏:……俺はもうその時点でただただ怖かった。あの白い仮面がいつこっち向くかと思うと足の震えが止まらなかった。……それでヤツはケースの中身について話始めた。なぁ、アンタらは『■■■■■』って聞いたことあるか?
U.S.氏:いえ……。その『■■■■■』はどういった物なのですか?
塩崎氏:聖天子曰く、使い方によってはモノリスを破壊できる力を持ってる東京エリアの封印指定物なんだと。
U.S氏:モノリスの破壊ですか。それは興味深い。
塩崎氏:興味深いってオイ……。
U.S.氏:まあ、それはそれとして。続きをどうぞ。蛭子影胤も宣戦布告してそのまま帰ったわけではないのでしょう?
塩崎氏:あ、ああ。正確には
U.S.氏:と、言うと?
塩崎氏:デカい剣を持った大柄な民警がヤツに向かって斬りかかったんだ。名前は覚えてないがかなりの高ランカーだった気がする。ソイツは流石というべきか一瞬で間合い詰めて縦に斬りかかった。……けど当たらなかった。ヤツと剣の間に何か透明な壁みたいなものが出現して弾かれた。
U.S.氏:透明な壁ですか。SF物でいうバリアみたいな?
塩崎氏:ああ、まさにそんな感じだ。斬りかかった民警が下がったあと俺は──というか、俺達はヤツ目掛けて銃を撃った。俺らの社長も撃ったし天童木更も撃ってたし、里見なんちゃらってやつも撃ってた。室内にいたやつほぼ全員撃ってた。……でも無駄だった。ヤツとヤツのイニシエーターを覆うようにドーム状にバリアが展開されていて俺達が放った銃弾は全てソイツに弾かれた。壁は穴だらけになって椅子も粉々になった。運悪く跳弾に当たったやつもいた。もう……何もかも滅茶苦茶だった。
U.S.氏:とても人間技とは思えないですね。
塩崎氏:アイツは人間じゃねぇよ。まあ、本当に人間じゃねぇとは当時は思わなかったがな。
U.S.氏:本当に人間じゃない、とはどういうことですか?
塩崎氏:俺は今でもあんまり信じてねぇというか……信じたくねぇというか……。アンタは『新人類創造計画』って知ってるか?
U.S.氏:『新人類創造計画』……ですか。いや、特には……。
塩崎氏:そうか。ま、結局俺も名前しか分からなかったが、ロクでもねぇ計画ってことは確かだな。
U.S.氏:その『新人類創造計画』について、知っている範囲で構いませんので語ってくれませんか。
塩崎氏:知ってるぅつってもこの目で見たことしか話せないぞ?
U.S.氏:もちろんそれで構いません。
塩崎氏:そうか、ならいいが。『新人類創造計画』ってのはな、多分だが……サイボーグを作ってるんだと思う。
U.S.氏:サイボーグ?
塩崎氏:ああ。蛭子のヤツも『内蔵の大部分をバラニウムの機械に詰め変えている』っつってたし。多分間違いない。つまり、ヤツはサイボーグだったのさ。人間じゃねぇってのはそういうことだ。先に言っておくが、その計画がいつできたのか、被験者の同意はあったのか、とか他の情報なんて知らないし知りたくもない。
U.S.氏:分かりました、ありがとうございます。それでは続きをお願いします。
塩崎氏:……ヤツは一通り暴れたあと、里見にプレゼントとか言って、人の顔一つ分くらいの大きさの箱を置いて逃げた。
U.S.氏:里見蓮太郎に、ですか。ほう。
塩崎氏:で、里見がゆっくりと箱を開けると中に──本当に人の首が入ってた。あれは多分……欠席してた会社の社長だったな。おそらくそうだ。……分かるだろ? お土産に人の首を置いてくようなヤツが関わってる計画だ。ロクなモンじゃねぇって。
U.S.氏:えぇ、分かります。分かりますとも。
塩崎氏:とりあえず、これが防衛省での出来事だ。ヤツはそれっきり姿を消して、一週間も経たないうちに再補足された。だが、もうその頃にはいろいろ手遅れだったわけだが……なぁ、やっぱ話さなきゃダメだよな?
U.S.氏:もちろんです。さぁ、続けて下さい。蛭子影胤テロ事件であなたが見たものを全て話して下さい。
塩崎氏:[大きくため息をつく] 防衛省の一件から一週間も経たないうちに、また俺達は政府に呼び出された。まあ厳密には『俺達の社長が』だがな。俺は社長の付き添いみたいな感じで同行を許された。
用件は端的に言うと「蛭子影胤を見つけたからぶっ潰そうぜ」ってな感じだった。呼び出された中には防衛省にいた奴らじゃない他の連中も含まれてた。だいたいあの時の2、3倍の人数がいた気がする。そんで、全員漏れなく民警だった。もちろん天童木更もいた。だが、里見蓮太郎はいなかった。
U.S.氏:いなかった?つまり、作戦から外されたということですか?
塩崎氏:いや、違う。あとから知ったことだが、防衛省で話題に出たアタッシュケースを一度見つけて回収しようとしたらしんだが、そん時に蛭子のヤツに横取りされたらしい。そんで大怪我を負ったんだと。
で、だ。全員集まったところで聖天子様直々に
つまり、未踏査領域。正直耳を疑ったな。
隠れるっつたら普通モノリスの中だろ、何でガストレアだらけの外にいるんだよ、ってな。ま、その疑問も聖天子様の次の説明で解消された。聖天子様が次に喋り始めたのはヤツの目的だった。
U.S.氏:それが、あのアタッシュケースですか?『■■■■■』でしたね。となると、あの時のスコーピオンは蛭子影胤が手引きしたということですか?
塩崎氏:[5秒間沈黙] ……ああ。ヤツの目的は『■■■■■』を使ってステージⅤガストレアを呼び出して大絶滅を引き起こすことだった。聖天子様のがそう言ったあと、俺は人目も
U.S.氏:フラッシュバック?
塩崎氏:そう、それだ。フラッシュバックしたんだ。本当に山のように押し寄せるガストレアとか辺りに誰かの肉や臓物が散らばってる
U.S.氏:なるほど、『■■■■■』の効果は聞いた限りではどうやら本物のようですね。あの時、東京エリアは混乱の極みでした。スコーピオンを肉眼でも確認できた沿岸部は特に混沌としていて、まるでガストレア大戦の再来かのようでした。まさかその混乱を招いたのがたった一人の民警だとは。正直にはかには信じられません。
塩崎氏: [突然声を荒らげる] ヤツは民警なんかじゃねぇッ!俺達と一緒の括りに入れてんじゃねぇよ。
U.S.氏:……急にどうしました?手元にある資料では蛭子影胤は元民警となっていますが。
塩崎氏:違う、違げぇよ。そうじゃない。ヤツが同じ民警だと思うと反吐が出る。そうは思いたくねぇんだ。
U.S.氏:[数秒沈黙した後、蔑むように小さく笑う]
塩崎氏:……なんだよ。
U.S.氏:いや、なんというか滑稽で。
塩崎氏:どういう意味だ。
U.S.氏:あなたは何か勘違いなさっている。
塩崎氏:[再び声を荒らげる] あぁッ!?
U.S.氏:あなたはきっと
塩崎氏:おい、たかがジャーナリストの癖に生意気すぎじゃないか?俺の何が分かるってんだ。何勝手に理解した気でいやがるッ!!
U.S.氏:ですが、あなた方はもうガストレアを金儲けの道具としか見ていないでしょう?毎日居もしないガストレアの出現情報を血眼で探し、やっと見つけたと思ったら我先にガストレアを討伐するためにハエのように
塩崎氏:この野郎ッ!! [椅子を蹴り飛ばし U.S.氏の胸ぐらを掴む]
U.S氏:いいのですか、これ以上は契約違反ですよ?『インタビュアー及びその他スタッフには如何なることがあろうと危害を加えない』。そう約束したでしょう?
塩崎氏:……クソッ! [胸ぐらから手を離す]
U.S氏:……とは言っても、私が出過ぎた発言をしたことは認めましょう。申し訳ありません。では気を取り直して続きを。
塩崎氏:[15秒間沈黙] ……作戦開始は午後九時。ヘリを使って千葉の未踏査領域に移動した。その時の光景は今でもハッキリ覚えてる。地平線のそのまた向こうまで森がびっしり続いてんだ。そこにビルと住宅だらけの千葉はなかった。ヘリは森の真ん中当たりの開けた場所で静止して俺らに降下指示を出した。そんで降ろした後、ヘリはすぐに行っちまいやがった。なんというか……俺らのことをただの道具としか見ていないようだった。
U.S.氏:実際、そう思われても仕方がなかったでしょうね。貴方方民警一人一人と蛭子ペアの戦力の差は歴然。数での総力戦になる以上、末端の犠牲には目を瞑るしかないのです。そして、貴方はその末端の犠牲になる筈だったのでしょう。
塩崎氏:ああ、分かってる。分かってはいるけどよ……なんかやるせないよな。たった二人を殺す為の作戦の筈なのに、最初からその二人に怯えて結局いつも通り生き残ることしか頭に無くなってそれどころじゃなくなっちまうなんて。
U.S.氏:心中お察し致します。
塩崎氏:ご親切にどーも。
[10秒ほど会話が途切れる]
U.S.氏:[U.S氏が一度咳払いをする] ……それでは話を一度整理しましょう。まず、防衛省にて聖天子は貴方方民警に一体のガストレアの討伐と、その体内に取り込まれているアタッシュケースの回収を依頼した。が、突如として乱入した蛭子影胤がアタッシュケースの中身を『■■■■■』だと暴露し、自身もそれを狙っていると宣言して、結果的に貴方方は蛭子影胤と『■■■■■』を巡って一種の争奪戦に巻き込まれることになった。そして数日後に、未踏査領域に潜伏していると判明した蛭子影胤に対し、彼の排除と『■■■■■』を回収する目的で大規模な討伐隊が組織されたと。
塩崎氏:まあ大体はそんな感じだ。
U.S.氏:……しかし、その作戦から帰還できた民警ペアは里見蓮太郎ペア含め僅か7組。それも里見ペア以外は蛭子影胤とは遭遇しなかったという情報があります。ですが貴方は……
塩崎氏:ああ、ヤツを見た。あの森で。そんで、尻尾巻いて逃げ帰ってきた。……イニシエーターを、
U.S.氏:大変酷なことであるのを承知でお願いをしますが、その時の状況を教えてくれませんか?
塩崎氏:……いいけどよ、ここまで来たら全部話せるだけ話してやるけどよ。その前に教えてくれよ。
U.S.氏:教えるとは、何をでしょうか?
塩崎氏:そりゃあ、目的をだ。お前らは俺から事件の情報を引き出して隠蔽された蛭子影胤テロ事件の全容を掴もうっていう建前で俺を尋問しているみたいだが、本音は違うよな。お前らが知りたいのはもっと細かく穿った情報だ。固有名詞の概要だとか、あるシステムや兵器の詳細とか、──とある人物の情報とか。
U.S.氏:[口を閉ざす]
塩崎氏:単刀直入に聞いてやる。お前ら、里見蓮太郎の情報を集めてどうする気だ?
U.S.氏:……それにはお答えできません。
塩崎氏:ってことは認めるわけだな。里見蓮太郎の情報を集めてるってこと。
U.S.氏:お答えできません。事件の情報を開示してください。
塩崎氏:[小さく舌を打つ] クソが。……まあいいや。[深くため息をつき、目頭を揉む] 森に降りた後は本部の大雑把な指示に従ってどんどん奥に進んでいった。熱帯雨林みたいな森だった。シダ系の植物とかか地面を覆い尽くしてたし、それこそ日本じゃまず見ないようなジャングルの木がそこらじゅうに生えてた。素人目から見てもここの生態系はぶっ壊れてるって分かったね。
U.S.氏:日本の千葉に熱帯産と思われる木が生えていたと。それは興味深いですね。
塩崎氏:ああ。端から見てるぶんにはすげぇ面白かった。だけど、その木々を目を凝らしてよく見てみると、木と木の隙間から赤い瞳が俺たちを見つめてたんだ。流石にチビりそうになってパートナーと一緒に一目散にその場から走って逃げたね。ここがどんな場所か、自分達がどれだけひ弱な存在かってのを一瞬で分からせられたな。幸いにも木の隙間から覗いてたヤツは追ってこなかったからある程度逃げたところで休憩出来たんだだが、結局すぐにまた走らされることになった。森のどこかでどっかの馬鹿なペアが爆発物を使いやがったんだ。
U.S.氏:こちらが得た情報によれば、作戦が決行された時間帯は夜でしたよね。……なるほど。
塩崎氏:そういうこった。今まで静かに眠っていた森が、馬鹿が使った爆発物のせいで叩き起こされた。あまりの目覚めの悪さに森の至るところで怒号が響いた。もちろん、俺たちの真後ろでもな。俺はそん時デカい岩にもたれ掛かってたんだがそれが急に動き出したんだ。いやぁ、まさかガストレアとはね。しかもサイのモデルのヤツ。5.56mmじゃ傷一つ付けられない。だから今度も逃げるしかなかった。
U.S.氏:それは災難でしたね。
塩崎氏:逃げて逃げて、たまに撃って。そうやっていくうちに森から市街地みたいな場所に出た。もちろん市街地の廃墟だが。道路もひび割れて雑草がボーボー、三階建てのアパートも左半分全部崩れてた。ああいう光景をポストアポカリプスって言うんだろうな、きっと。……まあそんなことはどうでもよくてだな。
U.S.氏:はい。
塩崎氏:[一度何かを言いかけて、諦めたように口を閉じる] ……その……たどり着いた市街地には他の民警が大勢集まってた。それで、全員同じ方向を向いていた。誰一人、微動だにせず。……俺は嫌だった。その目線を追うのが。何があるのか、
U.S.氏:それで?
塩崎氏:[10秒間沈黙] ヤツが……影胤の野郎が……桟橋のド真ん中に居やがった。
幸いにも俺らがそこにいるってことはバレてなかったらしくて、デカい剣を持った民警が音頭を取って、そのままトントン拍子にヤツを奇襲する作戦がまとまった。……マジ馬鹿だよな。今思えば本当に馬鹿で間抜けだ。作戦考えたヤツも、それに何の疑問も持たずにただ頷くだけだった俺らも。防衛省でヤツの力を見たことあるなら、奇襲ごときではヤツを倒せないことくらい普通に分かるはずだったんだ。
U.S.氏:そして、その無謀な作戦は決行されたと。
塩崎氏:まず、スナイパーライフル持ってたヤツが狙撃して、怯んだところに一斉に四方八方から攻撃する手筈だった。けれど、それは初っぱなの段階で瓦解した。何十メートル、いや100mくらい離れたところから狙撃したはずなのに、その弾丸はヤツのバリアに弾かれた。……全部お見通しだった。どこから撃ってくるか、どこから何人弾を撃ち込んでくるか、全部全部バレてたんだ。
U.S.氏:それは興味深い。
塩崎氏:そこからはまさに阿鼻叫喚だった。360度全方向からの銃撃も全く歯が立たなくて、撃った弾丸そっくりそのまま全てこちらに跳ね返された。その攻撃でまず半分が死ぬか傷を負った。俺とイニシエーターは物陰から撃ってたからその瞬間は助かった。けど生き残ったヤツを、今度は影胤のイニシエーターが狩り始めた。物陰の向こうから悲鳴とみずみずしい音が聞こえてきた。直接見なくても、イニシエーターが自慢の刀で順番に生存者を斬り殺してる音だって分かった。そしたら……そしたら……[突如、言葉を詰まらせる]
U.S.氏:どうしました?
塩崎氏:パートナーが……佳音がよォ……。ここは自分が足止めするから逃げろって言うんだ……。
U.S.氏:それはまた。
塩崎氏:もちろん俺は反対したッ! 逃げるなら二人でもいいだろって! でもヤツらから無事に逃げ切るには最低でも一人は
U.S.氏:そして、無事に戦線離脱出来たと。
塩崎氏:……ああ。そこから先は……よく覚えてない。気づいたら病院のベッドの上だった。ライフルの弾倉も空になってて、念のため持ってたはずの手榴弾も無くなってた。テレビを見てたらステージⅤが出現して撃滅されたとかよく分からないことがニュースでやってた。俺が逃げて保護されて寝てる間に全部終わってたみたいだった。
これが俺の知ってる蛭子影胤テロ事件の顛末だ。
U.S.氏:ありがとうございます。お疲れ様でした。以上でインタビューを終わります。
[U.S.氏はここで記録の停止を私に指示したが、私独自の判断で記録を続行した]
塩崎氏:これでもう終わりだよな。なら早速だが帰らせて貰うぜ。今日は佳音の命日だからさっさと墓参りに行きたいんだ。
U.S.氏:申し訳ありませんが、その要求にはお応えできかねます。
塩崎氏:……あぁ? どういう意味だ。
S.U.氏:成り行きではありましたが、貴方はこちらのプライバシーを侵害しました。なのでそれ相応の制裁を下させていただきます。
塩崎氏:プライバシー? 侵害? 何のこった。意味分からん。
SU氏:貴方はこちらの真意について深く穿ち過ぎたのです。それに契約にもあったでしょう? 『インタビュアー及びその他スタッフには如何なることがあろうと危害を加えない』と。でも貴方はこちらのプライバシーを侵
塩崎氏:いやいやいや、それはノーカンだろ。ってかそんな理不尽なことがあるかよ!
巣氏:まあつまり何が言いたいかというとですね。貴方はもう邪魔です。 [胸ポケットから拳銃を取り出して一度発砲する]
塩崎氏:[椅子をひっくり返して倒れる]
ネスト氏:[削除済み]さん、これ、片付けておいて下さい。
[記録終了]
この記録がいつか日の目を見ることを願っている。