マチカネタンホイザが普通なトレーナーと頑張るお話   作:うまむすび

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この作品はマチカネタンホイザの実装を切望するあまりに産み落とされたものです。
競馬の知識は浅く、独自設定モリモリ出進行するので、そういうのがお嫌いな場合は戻られた方が良いかと。
それでも良いのだというトレーナー様方は、お目汚しではありますがお読みいただけると幸いでございます。
なお、この世界の我らがマチタンはチームに所属しておりません。


#1 普通なトレーナー、転生する。

真面目にやっている人間がバカを見る。

人はそれを大人の世界だと言うが、ならば僕は大人になりきれない子供なのか?

 

“普通”であることこそが美徳。

出る杭は打たれる。

 

そう教わって生きてきたし、実際才能や実力を率直に示せば、妬み嫉みは避けられない現実も見てきた。

大人の世界…のはずなのに、大人と思えないような人間は本当に多い。

 

京都競馬場を擁する淀の地で生まれ育った僕は、幼い頃から競馬が近くにあった。

土日になれば家のテレビは競馬中継モニターとなり、それを食い入るように見る父。

 

競馬自体は良い。ドラマがある。

父に連れて行ってもらった競馬場で見た光景は目に焼き付いている。

 

しかしそれが賭博の側面を持つ以上は、どうしても大人の汚い部分が目立った。

毎週のように電話で加入者番号を入力する父はまだ良い。馬券を購入したあとは、レースを見て純粋に楽しんでいた。

 

ゴールの瞬間、聞こえるのは歓声と、いくらかの罵声。

まるで紙吹雪のように千切られ、その場に撒き散らされる馬券。吸い殻や飲みかけのドリンクがそこら中に散らばる。

 

ーーーそれを誰が掃除すると思ってんだ。

 

自分のゴミを他人に押しつけてもなんとも思わない人間。いや、そもそも誰かが掃除していることに考えが至ることすら無いのだろう。

そんな“大人”がのさばっているのが、この世の中だ。

 

「ほんま…何もかも嫌になるわ」

 

この世の不条理を憂いてみても、何もならない。

世の中や、会社を変えてやろうなんて気概も無い。

 

両親も既におらず、独身である自分には支えるべき家庭も無い。

せいぜい、誰にも害なすことなく、“普通”に生きていくことが、僕にできること。

 

枕元にアラームをセットしたスマホを置き、

明日は今日よりも良くなっていますようにと願いながら目を閉じる。

 

せめて良い夢でも見られたらなぁなんて祈りながら。

 

「目が覚めたら異世界でしたーとかあれば良いのにな」

 

ーーーその願い叶えさせてください

 

意識が起きる直前、そんな声が聞こえた気がした。

 

「そこ!居眠りするとは良い度胸だ」

 

頭を何かで叩かれる衝撃で目覚める

「えっ」

僕は独身。起こしてくれる人なんかいないはず。

 

「寝ぼけているのか?講義中だぞ」

目の前の女性は今、講義中と言ったか?

ならこの人は先生なのか。

周囲を見ると、大学と思われる講義室。

30人程度の生徒が着席している。

「こんな夢を見るとは…よっぽど人生やり直したかったんやろか」

自嘲気味に笑う。

「まだ寝ぼけているようだな。せめて静かにしていろ。」

めっちゃ怒られた。

えぇやん、これ僕の夢やねんし。

にしても、この人叩く力強すぎやろ、頭めっちゃ痛いねんけど。

 

…痛い??

 

何かがおかしい。

夢なのに痛い?

それに、あの先生らしき人は、僕の発言に対してちゃんとレスポンスした。

あと周りの生徒は僕を見てクスクスと笑ってる。

 

なんでそんなにも人間味があるんや君たち。

 

疑問に思い、先生が何事かを書いているホワイトボードを見る。

(ウマ娘トレーナー 基礎編)

ウマ娘??

ウマ?娘?

自分の手元にある教科書の背表紙を見ると、そこにも「ウマ娘トレーナー基礎編」と書かれていた。

え。なにこれ、どゆこと?ウマ娘って何さ。新しいケモ耳フェチ?

 

ーーーキーンコーンカーンコーン…

 

混乱している間に講義が終わった。

「今日はここまで。月末には一度小テストを行うからな。基礎編といえど真剣に聞くんだぞ。トレーナーはウマ娘と一蓮托生の存在だ。初日から居眠るのはやめとけ」

僕を見ながら先生が言う。

周りから笑いが起こるが、僕は混乱したままだった。

 

どうやらちょうど昼ごはん時のようだ。

少し散歩でもするとしよう。

 

ふらふらと、一人であてもなく歩いていると、女神のような像のあるところに辿り着いた。

ここは、中庭のようだ。

像はよくある校長っぽい人のものでも、何やら偉い人のものでもなく、頭にウマ耳、腰からは尻尾の生えた女の子のものだった。

 

「これがウマ娘…か…?」

呟くと同時、像が眩い光を放った。

「!?」

とっさに目を覆うが光はすぐに消え、手を退けるが…

何もない真っ暗な空間に僕だけが立っていた。

 

「こんにちは」

 

どこからともなく声が聞こえる。

いや、聞こえるのではない。

頭の中に直接声が響いている?

 

「誰…ですか?」

その声に向かって問いかけてみる。

 

「あなたをこの世界にお招きした者です」

透き通るような女性の声だ。

いや、それよりも気になる発言があった。

 

「この世界?」

まるでここが異世界のようなことを言うじゃないか。

 

「はい。ここはあなたの世界ではありません。ウマ娘たちが生きる、別の世界。あなたは自分のいる世界に絶望していたでしょう?だから願いを叶えさせてもらいました。」

 

何ということでしょう。

これは夢ではなく、僕は本当に異世界転生をしてしまったらしい。

しかし元の世界に戻りたいとは微塵も感じない。

声の主が言うとおり、僕の願いは叶ったのだ。

ならば僕は聞かねばならない。

 

「願いの代価は?」

そう。神社に行けばお賽銭を入れるように、願いを叶えるには代価がいるはず。

何も支払わずに何かを得ることなどできない。

しかも本当に叶っちゃってる場合、お賽銭レベルの相場で済むのだろうか?

 

「代価はいりませんよ。代わりと言ってはなんですが…私の願いを聞いてくださいますか?」

えらく丁寧に聞かれるが、答えは決まっている。

こちらにはその願いを聞く義務があるのだ。

義務を果たさずに権利だけを得ることなどできない。

なかなか抜け目ないじゃないか、この人。

 

「わかりました。あなたの願いを聞かせてください」

脳内ボイスと自然に会話している自分が怖くなってきた。

 

「我が娘たちの夢を叶える手助けをしてほしいのです」

脳内ボイスさん、まさかの娘持ちときた。

 

「娘さん…ですか?」

「はい。」

「えぇと、娘さんはお受験か何か…?」

「ウマ娘ですから、レースに勝ちたいんですよ」

は???

ウマ娘…レース…

え、まさか競馬?

「いえ。あなたの知る競馬とは違いますね」

考えてること判るんかい。

「はい。私は女神ですから」

女神すげぇ。

 

ーーー女神さんの説明を要約するとこうだ。

 

どうやらこの世界にはウマ娘という種族がいる。

人と同じような体格でありながら、並外れた力を持つその娘たちは競馬のようにレースに挑む。

他のウマ娘よりも速く走りたい。レースに勝ちたい。

それは彼女たちの本能的な欲求である。

その欲求を叶えるために、トレセン学園という学校が存在する。

彼女たちは幼い頃からトレセン学園に入学することを目指し、

入学してからはトレーナーの指導を得て、日々レースに挑むのだそうだ。

 

そのレースは競馬のような賭博ではなく、純粋な娯楽として国民に広く認知されており、一種のアイドルのようなものである。

 

そして僕にはーーー

「あなたはトレセン学園のトレーナーとなり、彼女たちの夢を叶えるのです」

だそうだ。

 

「でも、お話を聞くところによると、トレセン学園には何千人ものウマ娘がいるんですよね?」

「そうですね。中央だけで数千人でしたか。」

「中央?あなたの娘さんはその中央のトレセン学園に入学されるのですか?」

「えぇ。中央にも地方にもいますよ。この世のウマ娘すべてが私の娘ですから」

どこか微笑みを感じさせる声で爆弾発言をされた。

 

子沢山すぎんか?

 

「私はウマ娘の始祖のような存在ですからね」

なるほど、女神さんはすべてのウマ娘のご先祖様なのか。

 

「でも僕は競馬の知識があるわけではないですよ。父に連れて行ってもらったとか、その程度です」

そう。僕はレースに賭けていたわけでもなければ、馬の名前も有名どころしか知らない。

「それで良いのです。あなたは本当に大切なものが何かを、よく理解している人ですから」

「?よくわかりませんが、とにかくトレーナーになれば良いんですね」

「はい。今あなたがいるここはそのための大学です。しっかり勉強してくださいね?」

ふふっと笑いながらそんなことを言う。

 

つまり、4年間この大学でトレーナーとしての専門的な知識を学び、

中央のトレセン学園に就職し、ウマ娘のトレーナーとして頑張れと、そういうことか。

「ご明察です♪」

なんか脳内会話、便利やな。慣れてきたわ。

「わかりました、どのウマ娘さんのトレーナーになれば良いのですか?」

僕は一人だ。数千人を見ることはできないだろう。

「あなたが見込んだ娘で良いですよ。長い人生、何人も担当するかもしれませんし、一人だけかもしれません。それはお任せします」

どうやら、完全裁量制らしい。

「わかりました。せっかく転生させてもらったんですから、できるだけ頑張ってみますよ」

「よろしくお願いしますね」

ふふっ

と柔らかい微笑みを感じさせながら、声は聞こえなくなった。

同時にあたりの景色も元に戻っていた。

目の前には物言わぬ女神像が立っているだけである。

 

こちらでの生き方は決まった。

せいぜい僕の願いを叶えてくれた恩義に報いよう。そう思いながら中庭を後にする。

心做しか、軽やかな足取りで。




うまむすびです。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
pixivでも掲載している作品ですが、ハーメルンの方が書きやすそうなので、こちらにもアップしていくことにしました。
不定期更新ですが、もし好評であれば続けたいなと思っています。
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