マチカネタンホイザが普通なトレーナーと頑張るお話   作:うまむすび

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#4 マチタンの距離と手帳

ーーー

僕らはトレセン学園内のコースにやってきた。

そこかしこに練習しているウマ娘がいる。

トレーナーもちらほらいるな。

 

「じゃ、走ってくるねっ」

早速駆け出そうとするマチタン。

 

「待て待て、まずは準備運動だ!」

「あ、はいっ!」

張り切り気味なマチタンを慌てて止める。

 

持ってきたスピーカーとスマホを接続し、いそいそを準備をする。

流すのはみなさんおなじみ”ラジオ体操”。

魂に刻まれた小気味良い前奏が始まる。

しかし、マチタンを見ると、またもや目をパチクリさせていた。

 

「どうした?」

「えっと、これラジオ体操ですよね?」

「うん。そうだけど?」

「なんでラジオ体操!?」

「おいおい知らんのか。ラジオ体操はめちゃくちゃ効率のいい準備運動なんだぞ」

「でも私やったことないですよぉ…」

え、今の娘はラジオ体操やらないの?

夏休みの公園とかで集まってさぁ、ジュースもらえたり…

え?そんなの無い?うそ…

 

「よーし、じゃあ一緒にやろう!僕の動きを真似してくれたらいいから!」

「は、はいぃ〜…」

恥ずしそうにしながらも素直に応じてくれる。

本当にいい娘だな、この娘。

 

二人で、ラジオ体操をする。

マチタンは僕の動きを見ながらのため、向かい合って。

 

他のウマ娘たちが何事かとこちらを見ているが、話しかけてきたりはしない。

しばらくこちらを気にした後、バクシンバクシン!と叫びながら走っていったり、ロボのような感情のよくわからない目で見ていたかと思えば、トレーナーの指示に「はい、マスター」と答えて走っていった。

あの娘は契約に基づき召喚でもされたのか?

あと担当トレーナー腹筋バキバキやんけ、なんやあの札束風呂の広告に出てきそうなやつ。

あ、あれ先輩やったわ。やっべ。

 

観察している間にラジオ体操を終えたマチタンに、柔軟体操を指示。これも一緒にやる。

その後、軽くジョギング程度にトラックを走ってもらい、筋肉を十分に温めさせる。

 

素直にジョギングするマチタンをしばらく見守り、近くのウマ娘とトレーナー達に声をかける。

マチタンの脚質や今の能力を見極めるために、どうしてもしたいことがあったのだ。

「そこのウマ娘さん。いきなりだけど、うちの娘と併走しませんか?」

「ふぅ、トレーナーさん!いい感じにあったまってきたかもっ!ってえぇ何事ぉ!?」

マチタンが戻ってくるなり、僕を見て驚く。

表情がコロコロ変わるし面白いな。

まぁ驚くのも無理はない。

併走相手を名乗り出てくれたウマ娘2人が待ち構えているからね。

ハッピーミークと、ミホノブルボンというらしい。

 

「よろしくお願いします」

「マスターのご指示とあらば、たとえ併走であっても勝ってみせます」

「と、トレーナーさん…?」

 

静かに挨拶するハッピーミークと、静かに燃えるミホノブルボンにマチタンが困惑している。

 

「この二人もちょうど併走相手を探していたらしくてな。トレーナーの二人も快く応じてくださった。話し合った結果、短距離と長距離を1回ずつ走ってもらおうと思う」

「ひぇぇ、よろしくお願いしますっ!」

わけのわからない悲鳴を上げながら深々とお辞儀。

「さ、早速始めよう!せっかくだから、ゲートも用意するね」

 

「先輩、桐生院さん、ありがとうございます」

「おう」バキィ

「いえいえいえっ!ここここちらも同期の頼みであれば望むところですよっ!」

 

そう。桐生院さんは同期らしい。

本当に申し訳ないが、同期の名前と顔をぜんぜん覚えていなかった。

なんか一人だけ女の子がいるなぁとは思ってたけど、それだけだった。ごめんね桐生院さん。

でもどうしてそんなに緊張してるんだい?

 

「では、ゴール役、お願いします」

「おぅ」バキィ

「わ、わたしは何をすれば」

「桐生院さんは僕と一緒にゲート係をお願いします」

「は、はいっ!」

 

ミホノブルボントレーナーは(目立つから)ゴール役を買って出てくれた。サングラスしてて帽子も被ってて、目線見えないから怖いし、腹筋も出てるけど、案外良い人みたいだ。

時折腹筋の締まる音が聞こえるような気がするけど、たぶん気のせいだろう。

 

ウマ娘の中にはゲートが苦手な、いわゆるゲート難の娘もいるため、そういった克服や今みたいな併走に使えるよう、練習用のゲートが用意されている。

必要な時に出してきて使うので開閉は当然手動で行う必要がある。

僕らが設置したゲートに3人とも真剣な目をして収まる。

ゲートイン完了。

 

少し間を開けてゲートを開ける。

 

バッカン

 

ゲートが開くと同時に3人とも飛び出した。

いいスタートだ。レースといえば選抜レースしか経験が無い娘たちのはずだけど、誰も出遅れたりしなかった。

 

まずは短距離。

スプリンターズステークスなどの1,200mで設定した。

1,200m先には威圧的な風貌をしたゴール地点(先輩)がいる。

 

先頭を走るのはミホノブルボン。

それを追うハッピーミークと、その後ろにマチカネタンホイザ。

前二人の差はほとんど無い。

対してマチタンは二人をかわすタイミングを伺っているが、どうにも走りづらそうな雰囲気だ。

くしゃみが出そうで出ない時みたいな顔をしている。

 

あれはまさか…短距離が苦手なのか?

 

残り400mのあたりで先頭がハッピーミークになった。

1/2バ身差でミホノブルボンが続く。

桐生院さんが隣で

「ミーク…!がんばれ…!」

と囁くように応援している。

この子(肉体的には同い年)から漂う、“ええとこのお嬢さん”感はなんだろう?

 

マチタンはまだ仕掛けるタイミングがわからず困っているように見えるが、もうゴールまで距離が無い。

と思っていたら仕掛けた。

足に力を込め、弾けるように前へ飛び出そうとする。

しかし距離が足りない、これでは加速が間に合わない。

 

着順は変わらず、

1.ハッピーミーク

2.ミホノブルボン

3.マチカネタンホイザ

 

ミホノブルボンも短距離のリズムが掴めず困っているように見えたが、マチカネタンホイザはそれ以上に難しそうにしていた。もう少し手前で仕掛けていれば…というよりも、感覚的に短距離が身体に合わない、そんな感じに見えた。

 

ハッピーミークは桐生院さんに向けてVサインを見せて「ぶいっ」などと呟いている。

 

ーーー

続いて長距離2,500m

スタート直後から飛ばすミホノブルボン。

なるほど、さっきも先頭を走ろうとしていたし、彼女は逃げを得意とするウマ娘か。

ハッピーミークは、ミホノブルボンの直後に付けている。

そしてそれを追うマチカネタンホイザ。

だが、ハッピーミークとマチタンとの間はほとんど離れていない。

 

レースを見守りながら、桐生院さんに気になったことを聞いてみる。

「ねぇ、桐生院さん。ハッピーミークってどの距離が得意なんですか?」

「え?ミークは苦手な距離なんてありませんよ?」

「は?」

 

いやいやいや、おかしくね?

どんなウマ娘でも苦手距離くらいあるやろ。

全距離が適正距離とか、なにそれ怖い。

 

「え、おかしいんですか!?」

やっべ、声に出てたわ。

「いや、おかしいっていうか。どんなウマ娘でも苦手な距離があるはずって…」

「じゃあミークはやっぱりすごい娘なんですね!」

目がキラキラしている。

桐生院さんの衝撃発言は置いといて、3人の様子はっと…

 

1,800mを超えたあたりで、ミホノブルボンが後続を離し始めた。ぐんぐんと加速していく。

ハッピーミーク、マチカネタンホイザも負けじと食らいつき…最終コーナーでマチタンが仕掛けた。

ハッピーミークもそれに追従する。

「えいっ!」

「させないっ!」

追うマチタン、それを追うハッピーミーク。

逃げ続けるミホノブルボン。

さながら本当のレースを見ているかのようなヒートアップだ。

マチタンとハッピーミークが並び、互いに一歩も譲らぬままゴールイン。

 

ゴール先輩が着順を発表する。

 

1.ミホノブルボン

2.マチカネタンホイザ・ハッピーミーク

 

まさかの同着2位。

写真判定ができる設備は無いので、先輩の肉眼での判定だが、あのサングラスの下ではギラついた目がゴールの瞬間を捉えていたのだろう。

 

こちらから見ていても、マチタンは最後まで失速していなかった。

つまり、やや遅れて仕掛けたハッピーミークの方が加速してきたということになる。

それはハッピーミークの方が加速力があることの証明だ。

 

これは…二人とも驚異だな。

 

パチパチパチーーーー

 

レースを見ていたらしい周囲のウマ娘やトレーナーたちから拍手が上がる。

マチタンは恥ずかしそうにはにかんでいた。

ハッピーミークはなんとなく悔しそうに見える。

ミホノブルボンは……こちらも表情が乏しいが、うん。なんとなく嬉しそうだ。

 

「ありがとうございました!」

併走してくれた二人とそのトレーナーに、マチタンと二人揃ってお辞儀をする。

「いいってことよ」

「お互いさまですからっ!ま、また走りましょうね?」

良い先輩と同期を持った…

「また、一緒に走ろう」

「ステータス【高揚】を確認。またお手合わせ願います」

良い同期たちだなマチタン…

 

マチタンにスポーツドリンクを渡すと、素直にコクコクと飲んでくれる。

その後、しっかりと整理運動をしてトレーナー室へ移動してきた。

 

「さて、本日の振り返りです」

「はーいっ!」

コクリとマチタンが頷く。

「まずはおつかれさま。よく頑張った」

「いやぁ、それほどでも〜、結局勝てなかったしねぇ」

今回の併走で?

「君は短距離よりも長距離のほうが向いているね」

ウンウンとうなずくマチタン。

「短距離はぜんぜん!なんていうか、リズムがわかんなかったよー」

「たぶん中距離もいけるだろう。でもマイルは苦手だろうなぁ」

「ふむふむ」

「あと、脚質は差しが向いているね。先行でも行けると思うけど、特定の相手を追うのが走りやすいんじゃない?」

「たしかにっ!ブルボンさんを抜けば勝ちだって思ったら、脚が前に出た気がするっ!」

「じゃ、今後はそれを踏まえた上で出走するレースを決めていこう」

 

意外だな。ふだん大人しい彼女でも競争相手がいると燃えるようだ。これがウマ娘の本能ってやつなのだろうか。

見た目も、雰囲気もゆるふわって感じなのに。

 

「じゃあ今日はこんなところかな。おつかれさま」

「はいっ!ありがとうございましたっ」

「寮まで気をつけて帰るんだぞー」

 

もう暗いからね。学生寮は学園敷地内にあるとはいえ、一応注意を促しておく。

ウマ娘たちは皆、かわいいから変な輩が狙っていないとも限らない。まぁ、手を出せば歴然とした力の差が襲いかかるだけだが。

ところでマチタンが止まったまま動かないな。

こちらをキョトンと見つめてくるのはかわいいが、君は帰る時間だぞ?

 

「どうした?」

「トレーナーさんは帰らないの?」

なるほど。心配してくれてたのか。

 

「あぁ、残ってやることがあるからね」

「なにするの?」

「そりゃ日報書いたり、他のウマ娘の研究したり、色々と」

「じゃあこれっ」

そう言って彼女は自分の手帳を渡してくる。

 

「え?」

「私が研究した他の娘たちのデータが書いてありますっ!トレーナーさんの参考になるかはわからないけれど…」

つまり、自分の研究したデータを渡すから、少しでも早く帰れということか?

なんてトレーナー思いなウマ娘なんだこの娘は!

「ありがとうマチタン。参考にさせてもらって、なるべく早く帰るようにする」

「はいっ!じゃあまた明日っ!」

「ん、また明日。ゆっくり休むんだぞー」

「はーいっ!」

そう言ってマチタンはトレーナー室を出ていく。

明日は土曜日だから、たくさんトレーニングできるな。

明日用のメニューも考えないと。

そう思って何気無しにマチタンから貸してもらった手帳をペラペラとめくっていく。

 

「こ、これは…!!」




#5へ続く
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