マチカネタンホイザが普通なトレーナーと頑張るお話 作:うまむすび
パラ…パラ…
トレーナー室に紙をめくる音が静かに響く。
僕は、マチカネタンホイザから借りた手帳のある部分に目が釘付けになっていた。
昨晩も読んだ箇所だが朝になってもう一度読み直している。
ちなみに今は朝の7:30、出勤時間までは1時間程あるが、家にいてもやることがないので、こうしてトレーナー室で過ごしている。
「すごいな…」
何度読んでも感心するばかり。
それもそのはず、マチタンから借りた手帳。
マチタン帳には、自分の同期であるウマ娘たちのデータが記録されていただけでなく、そのデータが半端なく詳細なのだ。
本来、トレーナーがやるべきことを彼女は既に自主的に取り組んでいた。それだけでも彼女が努力家であることが確信できる。
データを取れるような場所は、今の時点では選抜レースだけだ。
自分の出走するレース以外は全て観戦していたのだろう。
日付、出走メンバー、誰がどこで仕掛けたかなど、彼女のわかる範囲のことが全て書かれていた。
たまにかわいらしいイラストが挟まれていたりして、読んでるだけでちょっと楽しくなる。
昨晩はそんな彼女の手帳から得たデータを元に同期のウマ娘達について研究を深め、ついでに今日からのトレーニングメニューを考えていたら日付を跨いでしまった。
今はそのメニューを見直しながら、自分で煎れたモーニングカフェオレを飲んでいた。
実はミルクを入れてカフェラテ(無糖)が一番好きで、朝食を摂らずに飲むこともしばしば。
エスプレッソマシンが無いので、仕方なく濃いめのカフェオレになっている。
しかし、いつもどおりに作ったつもりだが…
なぜだろう、マチタンに煎れてもらったブラックコーヒーの方が格段においしかった気がする。
トレセン学園に在席するウマ娘にも学生の本分がある。
日中は勉学に励んでいるため、必然、トレーニングは放課後に行うことになるのだが、今日は土曜日なので一日中、自由に使えるのだ。
そういえば、昨晩「また明日」とか言って別れたけど、何時に集合とか決めてなかったな。
まぁ、疲労が抜けるくらい寝たら自然に目覚めるだろう。
目覚めたらこっちに来るだろうたぶん。
あまりに遅ければ、たづなさんあたりに連絡する方法を聞こう。
なんて思った矢先、トレーナー室の扉がノックされた。
「はーい」
「ばばーん!」
マチカネタンホイザ登場!である。
「おはよう、トレーナーさんっ!」
「おはようさん」
朝からとても元気が良い。
やる気もあるようで、良いことだ。
「じゃ早速だけど…」
「トレーナーさんっ!」
「?」
トレーニングメニューについて話そうとしたら、食い気味に遮られた。
どうしたんだ、何かあったのか?
「朝ごはん食べた?」
なんだそんなことか。
「食べてないよ」
「わたしもなんですっ!」
なんてこった。トレーナーが食べなくても何も問題ないが、君は今からエネルギーを使いまくるんだぞ。
「ちゃんと食べないと!」
「その言葉、そっくりそのままお返しだねぇ」
たしかに。
なんてこった。言い負かされそうだぞ。
「でもマチタン?君は今からトレーニングなんだから、ちゃんとエネルギー摂っておかないと」
「そこで私に名案がありますっ」
ほぅ?聞こうじゃないか。
「カフェテリアに行きましょー!」
「ふぁっ?」
「いらっしゃい」
半ば強引にカフェテリアに連れて来られた。
ていうか土曜日なのに開いてんの?なんで?
ちらほらと他のウマ娘の姿も見えるが、トレーナーらしき人間は一人もいない。
「あら、トレーナーさんも一緒かい?」
いかにも食堂のおばちゃんといえば、な雰囲気をまとって話しかけてくるおばちゃん。
その聞き方からして、マチタンは通ってるな?ここ。
「えぇ、おはようございます」
「おばちゃんっ、朝ごはんいただきに来ました!」
「はいはい、朝定食でいいかい?和・洋どっちがお好み?」
ほほぅ、朝定食なるものがあるのか。
そういうのは好きだ。
某牛丼屋の鮭定食とか大好きだ。
マチタンがどうする?と言った感じで僕を見ているので、先に頼もうかな。
「じゃあ和でお願いします」
「私も同じで!」
「あいよ」
こうして二人して和モーニングをいただくことになった。
学園の生徒と担当トレーナーは無料らしい。
太っ腹かよ。
ちなみにおかわりも無料。
すげぇなトレセン学園。
焼き鮭、味噌汁、お漬物、白ごはんの乗ったトレーを持って、二人がけの席に座る。
「「いただきます」」
ちゃんと手を合わせていただきます、えらいぞマチタン。
育ちが良いじゃないか。
ところでその茶碗の限界に挑戦したような白ごはんは何だい?
そびえ立つ白飯なんて初めて見たぞ。
ウマ娘は大食いと聞いていたが、目の当たりにすると迫力が違うな。
「ありがとう、連れてきてくれて」
「いいでしょー、ここ。私毎朝ここで食べてるんだー。」
「なるほど、それで常連感出てたのか」
「日曜は休みだからね、月〜土!まーいにち!」
たしかに無料で朝ごはんが食べられるなら、毎日来るわなぁ。授業前に腹ごしらえしてる生徒もそれなりにいるんだろう。
「トレーナーさんも気に入った?」
ふむふむと納得して頷いていると、マチタンが首を傾げながら聞いてくる。
「うん。気に入ったよ。一人だと朝ごはん食べるのは億劫でな…まともに食べたのは何年ぶりかな」
「もー、おじさんくさいよー」
しまった。ついこの間まで大学生だったんだ。
まぁ、前世でも一人暮らしを初めてから、食事よりも睡眠が優先になって、適当に済ませてしまうことがほとんどだったからなぁ。
「ははは、すまんすまん」
「ねぇ、トレーナー」
「どうした?」
「朝ごはん、一人じゃ食べないんだったらここで食べるといいよ」
「んー、でも他のトレーナーは見当たらんしなぁ」
平日もたぶん利用しているトレーナーは少ないんだろう。
学生の空間って感じがする。
「それなら大丈夫っ!」
ん?何が大丈夫なんだ。
平日は他のトレーナーもいるのか?
あの腹筋バキバキマンがいたら、飯の味なんかわからんくなるぞ。
「私が一緒に食べてあげるよっ!」
「えっ?」
なんか、この娘割と爆弾発言してない?
「毎朝っ!」
いやいや、待つんだマチタン。
「いや、友達と食べたりしないのか?」
友達少ないってタイプには見えないぞ君。
「皆、朝弱くてねぇ。できるだけギリギリまで寝るタイプの娘ばっかり。あとはルームメイトと食べてる娘がほとんどかなー」
「ルームメイトはほっといていいのか?」
「私、ルームメイトいないよ?」
えっ?
全員ルームメイトと二人部屋じゃないの?
「二人部屋に一人だから広すぎて持て余しちゃうんだぁ」
あぁ、新入生が入ってきたらその空いてるところに入るって感じなのかな。
そりゃそういうこともあるか。
「じゃぁ、その申出はありがたく受けるよ。」
「わーいっ」
「朝から軽いミーティングもできるし、一石二鳥だな!」
「いーねっ、ごはん食べたら軽くコーヒーでも飲みながらミーティングしようっ!」
僕の担当バは、どうやら朝食の相棒にもなってくれるらしい。その時間をミーティングに使えば、平日でも放課後の限られた時間を有効活用ができるから、トレーナーとしては願ったり叶ったりだ。
とりあえず今は、
「「ということでカフェラテください」」
コーヒーブレイク・ミーティングを始めよう。
感想、評価等ありがとうございます。
こんな拙い作品でも読んでいただけるんだという実感があり、大変励みになります。
不定期であれば続けていきたいと思っていますので、今後もよろしくお願いします。
えい、えい、むんっ!