マチカネタンホイザが普通なトレーナーと頑張るお話   作:うまむすび

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俺が

俺自身が

アイテムになることだ


#7 アイテムは僕だ!

「さぁ、マチタン!僕が相手だ!」

パワートレーニングに必要なアイテム。

そう、僕自身がアイテムだ。

 

「えっ?…えぇっ!?どゆこと!?」

メイクデビュー前のウマ娘に最も不足しているのは何か?

それは実践経験だ。

デビュー前に経験するちゃんとしたレースなんてのは、せいぜい選抜レースが良いところだ。

つまり実践経験を積むことができれば、それだけデビュー戦で勝ちやすくなるということである。

 

「僕と走ってもらうぞマチタン」

「いやいやいや、トレーナーさんってヒトだよね?」

「あぁ、純粋なヒト息子だ」

「ヒト息子さんはねぇ、ウマ娘に走りでは勝てないんだよ?」

諭すように言うマチタン。

そんなことは知ってるさ。

 

「何も僕とレースしようってんじゃなくてな」

「?」

「”誰かを追い抜く”感覚を身につけよう」

「ほほぅ…?」

 

僕が考えたメニューはこうだ。

僕が先に走る。

走っている僕をマチタンが追う。

当然、僕に合わせてもらうのでマチタンからしたらジョギング以下かもしれない。

この状態で僕が合図を出したら、瞬間的に加速して僕を抜き去る。

これを繰り返すのだ。

 

思いついたは良いものの、当然だが“ただ抜かれるだけの役”をやってくれるウマ娘なんているわけがないので、僕が走ることにした。

 

「なるほどぉ!楽しそうだね!」

手をポンとして、合点が行った様子。

「相手が弱くて申し訳ないけどな、感覚をものにしてくれ」

「は〜い!」

「じゃぁ行くぞー…よーん、どん!」

 

ザッ

 

…スタートで点にされた。

そりゃそうだ。そもそものスペックが違いすぎる。

スタートダッシュから違うことを念頭に置いてやるべきだった。

 

「トレーナーさん…」

「何も言わないでくれ」

 

僕がスタートしてから3秒後に走り出し、速度を抑えて後ろをついてくるようマチタンに指示…

いや、お願いした。情けねえ。

 

今、僕の後ろにはマチタンがいる。

そして僕は走りながら左手を誘うように動かした。

 

ドンっ!

 

破裂音のような音を立てて、マチタンが加速する。

僕を見ながら、まだ見ぬ他のライバルをイメージしているのだろう。

その表情には手を抜いている様子など全くなく、まるで本番さながらのようだった。

 

その後も、何度か同じトレーニングを繰り返してるうちにお昼を迎えたので、僕らはまたもやカフェテリアにいる。

当然、マチタンにはスポドリで水分補給をさせてからの移動である。

 

「ぜぇ…はぁ…」

カフェテリアで息の荒い人間が一人。

僕のスタミナはまだ回復していなかった。

普段全く運動しない人間が、全力で走ったらそりゃこうなる。

笑えよマチタン…

 

さすがお昼どきと言うべきか。

土曜日でありながら、それなりの賑わいを見せているカフェテリア。先程レース場で見かけたウマ娘もいる。

 

「トレーナーさん何食べるの〜?」

いや、待て。

なんで僕は自然と、マチタンと二人でカフェテリアにいるんだ?

マチタンも年頃の女の子だ。友達と食べたいお年頃なんじゃないのか。

見たところカフェテリア内に、他のトレーナーの姿はない。

先程までトレーニングしていたウマ娘も友達と食べているじゃないか。

ただでさえ、既に毎朝一緒にご飯を食べることになっているんだぞ。

いや、それは嫌じゃない。むしろこんなおっさんと一緒に食べてくれてありがとうまで言いたいくらいだ。

担当バとの仲が深まるのは良いことだが…

よし、ここは大人として、適切な距離を保とう!

 

「じゃ、マチタン。1時間後くらいにまた集合な!」

「え?」

「ほらほら、友達と食べておいで」

「え〜、どうせ後でまた会うんだから、一緒に食べればいいのに〜」

 

あかんねん。

 

おっさんなんかと食べてたら、変な噂されたりするぞ?

マチタンちゃん、おじさん趣味なの?とか言われちゃうぞ。

 

そう思い、並んでいた列から抜け出ようとする。

なのにどうしたことか、左腕が固まったように動かない。

 

見ると、マチタンが肘のあたりを掴んでいた。

なるほど。ウマ娘の力はやっぱり凄いナァ。

 

「ほらほら、早く頼まないと後ろがつかえてるよ〜。おばちゃーん、カツカレー2つくださいっ!」

「えっ、ちょ」

 

列に並んでいる他のウマ娘たちの目には、年下の女の子にオロオロさせられる情けない男が映っていたことだろう。

 

「いただきます」

「いただきます♪」

 

チラチラ…

ヒソヒソ…

 

落ち着かねぇ!!

 

周りのウマ娘から、チラチラ見つつヒソヒソと話されているのがわかる。

自意識過剰か?とも思ったが、気配を感じてそちらを見れば、慌てて目を逸らすウマ娘が気のせいではないことを物語っていた。

 

「カツカレーおいしぃねぇ〜」

目の前のウマ娘は気に留めずモグモグ食べてるけどな。

 

しかしまぁ、周りを気にしても仕方ない。

やれやれといった具合に、カレーに生卵を落とす。

黄身をそっとスプーンでつぶし、カレーと一緒に口へ運ぶ。

うん、やっぱりカレーには卵やわ。

 

「じー」

どうしたマチタン?

そんなに僕のカレーを見て。

僕のも君のも同じ味カツカレーだぞ。

量以外はな。

マチタンのは当然ウマ娘サイズだからな。

 

「生卵、カレーに落とすひと初めて見たよ〜」

「あぁ、たまに気持ち悪がられるな。でもこれが好きなんだよ、なんというか、まろやかになるんだ」

ふーんとわかったような、わかっていないような声を出すマチタン。

 

「ちょっと失礼するね」

マチタンは突然席を立ち、配膳のカウンターへと向かっていった。

「どうしたんだ?」

まぁいっかと気にせず自分の分を食べ進める。

すると、すぐにマチタンが戻ってきた。

 

「ふっふっふ〜」

ニコニコと微笑みながら、何やらしたり声を出している。

手元を見るとそこには生卵。

まさか…と思った次の瞬間、

コンコン

「えいっ」

勢いよくパカッと卵を割った。

 

めっちゃ卵割るの上手いやんこの娘。

違う、そこじゃない。

「えっ?何してんの?」

「先に卵落としてたトレーナーさんがそれ言うー?美味しそうだなって思って、試してみたくなったんだよ〜」

 

そう言いながらスプーンで黄身を割り、カレーと一緒に掬って食べ始める。

なぜかわからないが、僕はそれをヒヤヒヤとした気持ちで見守っていた。

美味しくなかったらどうしよう…なんてどうしようも無い心配をしながら。

 

「んん!おいしいねこれ!」

「それはよかった…」

心からの安堵が声に出たような気がする。

マチタンは嬉しそうにパクパクと食べているので、本当に美味しいと感じたんだろう。

自分の好きなものを、好きと言ってくれるのは人間いくつになっても嬉しいものだな。

 

「さ、食べ終わったら一旦トレーナー室に戻ろっか」

「はーいっ」




感想、評価等々、ありがとうございます。
作者のやる気アップに繋がっております!
そろそろメイクデビューしよう、マチタンちゃん。
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