マチカネタンホイザが普通なトレーナーと頑張るお話 作:うまむすび
それからも、毎朝マチタンと朝ごはんを食べ、土曜日に至っては朝ごはん〜晩ごはん前まで共に過ごした。
さすがに晩ごはん時はカフェテリアも営業していないので、朝ごはん→トレーニング→昼ごはん→トレーニング→夕方のうちに解散といった流れだ。
トレーニングメニューについては、毎日二人で考えてきた。
互いにメニューを提案し、それに意見を出し合い、お互いの提案をアレンジすることで、色々なトレーニングを考案できた。
マチタンとの信頼が深まったという感覚は確かにある。
噂に聞く、十数人のウマ娘を同時に担当しているチームリギルの東条先輩や、ウマ娘に蹴られているところをしょっちゅう見るのに何故か元気に生きているチームスピカの沖野先輩なら、もっと上手くやるんだろうが、新人の僕にはこれが精一杯だ。
生きている年数はさほど変わらんか、こっちのが長いんだけどなぁ。
あと、腹筋先輩も口数少ないのに、ミホノブルボンからの全幅の信頼を置かれているように見える。
(ま、1年目のひよっことベテラントレーナーじゃ月とすっぽんか)
とても充実していたんだろう。
時がすぎるのは早いもので、明日はマチカネタンホイザ、メイクデビューの日だ。
もともと、自分の限界を超えそうなメニューを考案し、それを実行できた彼女だ。
そんな彼女だからこそ僕は常に言い聞かせてきた。
「怪我だけはしないでくれ。何か異常を感じたら、小さな違和感でもいい。報告してくれ」
いつだったか、レースの録画を見て研究していた時だ。
彼女は言った。
「勝たなきゃ、意味がないんだよ」
とても静かに、しかし重みを伴った言葉だった。
そう言った彼女の瞳には確かに強い光が宿っていて、僕はその瞳に飲み込まれるような錯覚を覚えたものだ。
しかし
僕はその光は同時に、危うさも孕んでいる。
たとえ死に物狂いで勝利を得ても怪我をしてしまって、走れなくなったり、日常生活に支障をきたすことになったウマ娘だっている。
マチタンがそんな事になったら、後悔してもしきれないだろう。
だから僕は今日も聞くのだ。
「身体に異常はないか?」
「大丈夫っ、ピンピンしてるよっ!」
その場でぴょんぴょんと飛び跳ねてみせるマチタン。
(うん。見た感じも大丈夫そうだな。)
トレーニング終わりは毎回、必ずマチタン自身に異常が無いか聞くようにしている。
トレーナーは皆、そのライセンスを取る過程で大学に通い、様々な専門課程を履修する。
当然、その中にはウマ娘の状態を診るための講義もあり、大きく分けて視診と触診の2つがある。
文字通り、ウマ娘に異常が無いか、異常がある場合はどこにあるか、目や手先で診断するのだ。
僕は視診よりも触診の方が得意で、これに関しては「優」の評価が付くほど正確に見ることができた。
故障したウマ娘の実例を講義で見た僕は、自分が将来担当するウマ娘にそんな想いはさせたくないと強く思うようになり、教授にツテを借りたり、講義以外にも実践の場をたくさん得ることができた。
そのため、触診であれば、かなりの精度で異常を見つけられるという自負はある。
視診でも見つけられるが、やはり触診に比べると精度は下がるものだ。
「いよいよ明日だな。」
「そうだね〜、長いようで短い2ヶ月だったよ〜」
いつもの調子で応じるマチタン。
だがしかし、その声は少し震えているように聞こえた。
「不安か?」
「…っ、ううん。不安、なのかな?なんだか心が落ち着かないや」
「大丈夫。この二ヶ月、一緒にたくさん頑張ってきたんだ。君なら勝てるさ」
「……そうだねっ!なんだか上手くいきそうな気がするっ!」
そんな会話を最後に、マチタンを寮へ帰らせる。
「じゃ、また明日な」
「はーい、またあしたね〜」
フリフリと、手と尻尾を振りながら扉に手をかけるマチタンに、僕も手を振って応じると、PCを開いた。
(さて、明日に備えてこっちもできるだけのことはするか!)
そう思い、今日のトレーニング結果やマチタンの成長具合をPC内のデータにまとめる。
トレーナー室を出ようとしたマチカネタンホイザは、真剣な表情でデータを打ち込むトレーナーを見て、胸の前で小さく拳を作って呟くのだった。
(絶対に、勝ってみせるよ)
前回も感想や、誤字のご指摘をいただき、ありがとうございます!
今回はちょっと短いですが、レースに挑む前日談でした。
ところでマチタンは来週実装だと僕は信じていますよ?