「堕ちろよ、人間」
名も知らぬアニメの、悪役の、その言葉だけ覚えてる。その方の、名前だけ覚えている。
ゲームを仕掛けて、人間を惑わせて、言い捨てる。
いいなあ。とってもいい。
私だって、悪いこと、してみたい。
それが、最後の記憶。
異世界召喚されて、勇者として担ぎ上げられて、邪神退治させられて、相討ちした私の最後の願い。そして、邪神の呪いを受けた私はそのまま捨てるかのように送還された。
私は邪神としての力を孕んで生まれ落ちた。
「堕ちたわ、フェムト様♡」
邪神のように魔物を生み出し!
女神のように勇者共を生み出す!
例えその先が破滅だとしても。
一回くらい、好きにしてもいいよね!
せっせせっせと準備して。
高校一年生のハロウィン。
私は、渋谷で事を起こすことにした。
顔の3分の2を鉄仮面で覆い。ごちそうを載せた食卓の前。ドレスを着て、椅子を傾けて座る。お、21:00! 渋谷のテレビとスマホをジャックして、放送開始!!
「はぁーい♡ はっぴはーろうぃーん!! 初めまして! 私は堕落乙女ピコ! 堕落王フェムト様に恋する羽虫! 今日は、皆さんにぃ、私とゲームをしてもらおうと思います! 拍手ー!!」
ぱちぱちぱち、と自分で手を叩く。
「じゃあ、まずは♡ 力に目覚めてもらおうか♡」
パチン、と指をぱっちん。潜在能力を目覚めさせる。
めっっっっっっちゃ疲れたけど、そんな姿見せない!!
「あっ 気に入った子は力をお持ち帰りさせてあ♡げ♡る♡ せいぜい媚を売ってね♡」
チュッと投げキッス。
「ゲームルールはかんたん! 勇者的に! 格好よく! 敵を倒す! それだけ!!」
ぶんぶんとナイフとフォークを振る。敵を切るように。
「私ね♡ 人間が堕ちるのを見るのが♡ 大大大好きなの♡ 特に勇者様が堕ちるのなんてキュンキュン来ちゃう♡ でもね、そんな勇者、いないからね。だからね。まず高みに登ってもらわないと♡」
くねくねと身体をくゆらせる。
「高ーいところまで、登って登って、はるか頂上に立った後で……堕ちろよ、人間」
決まった!
「げーむすたーと♡」
そして、私はスライムたちをドバッと出した。
配信をストップ。さてさて。料理に手を伸ばしながら、無数の画面を見る。
「ん? なんだかギュウギュウ? 人の死体がいっぱい?」
それがなんだか気に入らなくて、アンデットとして復活させながら状況を見る。
人が見えないなにかに殺されていく。なにげにホラーである。
「んー? 何あれ」
人をぽちぽち生き返らせながら、ひとまず、携帯で渋谷で調べてみる。
あった。五条 悟を呼べと騒ぎが起きていたらしい。
五条悟誰やん。
どちらにしろ気に入らない。今日の主役は私だ。
ぽちぽちぽち。私は人をアンデット化させ続けながら、四苦八苦しながら調べた。
この世界の人々の潜在能力。それは大体呪力だったりする。
人々は、呪霊の姿を見てパニックになる。更に足元から湧き出るスライムに驚き、阿鼻叫喚になる。
非術師のみならず、呪術師達も慌てた。わらわらと呪力を感じないが半透明な球体が襲ってきて、なんだか、身体に力が張ってくる。
逃げ惑う人々と、戦い始める人々。
スライムを倒すと、人々の頭の上にゲージが出る。まるで、ゲームのように。
ゲージが貯まるとレベルアップだ。
虚空にウィンドウが現れて、スキルが出現し、選択すると取得できる。
そのゲージもウィンドウも見ることが出来る。
少しずつ、戦う人が増えてきた。
「なんだ? これは何なのだ!?」
漏瑚が動揺する。夏油はどうした、と周囲を見回すと、いた。
夏油が、よろめいて歩いてきて、ナイフで頭をこじ開けて、悲鳴を上げる脳味噌を踏み潰す。
「傑!? 一体……!!」
「悟。こんな姿を見られることになるとはね。私の身体は、乗っ取られていたみたいだ」
驚愕する五条に、苦笑する夏油。
「馬鹿な!? 脳味噌もなしに、どうやって生命活動をしている!?」
「生命活動、してないよ。完全に死んでる。それで、何かに仮初の命を与えられた」
「傑……!」
その時、電車が来た。
降りてきた改造人間達が、次々と人間の姿に戻っていく。ただし、生きてはいない。
夏油はニコリと笑う。
「『何か』が主役は自分だと怒っている。私も怒っているんだ。八つ当たりさせてよ」
最強コンビが、ここに復活した。
呪霊を取込み祓い、夏油と電車から降りてきた者達と、血だらけになった者達、要するに死人達はしゃがみ込む。スライムは彼らを襲わない。
「私達はリタイア組だからね。参加は許されない。悟はイベントを楽しんでおいで。一時間ごとにポップする敵がレベルアップするから、気をつけて」
「そこにいろよ、傑!!」
傑も気になるが、この異常事態をどうにかせねばならなかった。
スライムを倒すと、ゲージが上がる。
『魔眼を習得しますか?
転移をレベル2に上げますか?』
「は、なんだこれ」
魔眼を選択すると、スライムたちや夏油から同じ気配がすることがわかった。
結局、呪詛師と呪霊を片付けた後、警察や自衛隊を投入する事で事態は収束した。
魔物には普通に物理攻撃が聞いたのだから、仕方がない。レベルが上がると、呪霊も退治できるようになるし。
なお、ハイパー呪術師タイムは24時に消えた。
得たスキルなどはもちろん、呪霊を見る力も消え失せている。
ただ、一部の者は力が残ったようだった。
渋谷のテレビやスマホに、堕落乙女ピコが映る。
『ああっ もう! 調べている間に終わったじゃないのよ! 誰なのよ、五条 悟! なんなのよ、人が勝手に死んでく現象! ホラーなの? ホラーなの!? 悪霊がやりましたとでも言うつもり!? あーもう! 私のデビュタントが台無しだわ! とにかく! 来年のハロウィンは私以外イベント禁止! もうふて寝する!』
そして、映像は消えた。
――来年のハロウィンもやるのかよ。
問いかけに答えるものはいない。