Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~ 作:黒片大豆
0. プロローグ
そこには何も無かった。
死を纏う暗き闇さえ、
希望を指し示す光さえ、
生命あふれる草木さえ、
命の根源たる水でさえ、
心に灯される炎でさえ、
そこでは存在し得ない、「何もありえない」場所であった。
プレインズウォーカーはそこにいた。3人のプレインズウォーカーは、何も無いこの空間で、静かに、何とも触れることなく、存在していた。
時間だけが刻一刻と、過ぎていった。
いや、この空間自体に、時間という概念がこの場所にあるのかどうか、怪しいところだ。そんな中で彼らは、全く微動だにしなかった。
三人とも皆、目を瞑り動かなかった。
何か熟考しているかのようであった。
何かに向かって黙祷をしているかのようでもあった。
何分、何時間、何日、何ヶ月、そして何年もの刻が過ぎていったと思われた。時間という概念が明確でないこの場所では、それは判らないが、少なくとも、普通の人間では耐えられないほど長い時間。彼らはその場所にいた。
不意に、永遠に続くと思われていた静寂が終わった。
一人が、誰とも話すわけでもなく、静かに、しかしはっきりと、語り始めた。
「わたしは……。そう。夢だ。夢を作りたい。」
彼は――もしくは彼女だろうか。この場所では性別さえはっきりと認識できない――、話を続ける。誰にとも聞かせるような話し方ではなく、独白に近かった。
しかし、彼の声はしっかりと、他のプレインズウォーカーには届いているようだ。そして聞き手の二人は、ほぼ同時に目を開け、話し手に視線を向けた。
「夢……。生き物の願望、希望、欲望、絶望……。全てを映し出す夢。皆がそれを追い求め、そしてそれに囚われ、それを捨てきれない世界。そして皆が力を合わせ、それを実現させる世界。私は、それを望む。」
また長い沈黙があった。そして、
別の一人が語り始めた。何も無い空間に彼の声が、しかしはっきりと響き渡る。
「わたしは、もう小さな世界に囚われたくない……。」
力強い意思を感じる、芯の通った声だった。彼はその後上を向き、言葉を続けた。
「そう、空……。現在軸に囚われない、まるで、果てなどない世界。そして人は、最後に自らの世界を脱し、自身で新たな世界を見つけ、作り出す世界。わたしは……それを望む。」
沈黙。
「わたしは……」
最後に残った人物が口を開いた。この空間に、声の大きさという概念が存在していたのなら、声のトーンは明らかに他の二人と比べ、小さく弱々しいものであった。そして、彼の発した言葉はまた、他の二人とは結びの言葉が異なっていた。
「わたしは……。そう。海を見たい。青い……、真に蒼い世界を、もう一度だけ、見てみたい。」
この話を聞いていたプレインズウォーカーは、顔を見合わせ、そして、
そして、
そして彼らは、
『自らが望んだ世界を作り出した』
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この大陸はひとつだった。
そして、とても小さな世界だった。
ひとつの存在。小さな存在ゆえに、些細な違いから争いになることは必死だった。
違いから生まれた、小さな種火はやがて、大きな戦火と広がり、
人が死に、
森は枯れ、
大地は沈み、
海は涸れ、
世界はとても、多くのものを失った。
やがてこの世界は、自らの手で終焉へと向かった。
新たな世界として作り直されるために。
大陸の亀裂に海を作り、大部分を海に沈め、そして新たに5つの大地が生まれた。
正義を愛し、
秩序を慈しみ、
法を律する《ラスロウ・グラナ》
大地を愛し、
緑を慈しみ、
命を律する《エンヴィロント》
光を愛し、
機械を慈しみ、
炎を律する《ゴルゴロ=イクー》
海を愛し、
文化を慈しみ、
知を律する《ノウルオール》
闇を愛し、
深淵を慈しみ、
死を律する《アルデモ》
この世界は5つの大地それぞれに役目を与えられることで均衡を保つことができていた。
しかしこの均衡は、脆くも崩れ去ろうとしていた。
「6つ目の色」によって、脆くも崩れ去ろうとしていた。
これは、5つの大陸を股に駆ける女海賊と、
記憶をなくしたエルフの青年の物語。