Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~ 作:黒片大豆
「私達を連れて行って。」
ロッカブが語った、ユンファにとって最重要キーワード『紫の光』。それに敏感に反応したユンファ。
こうなってしまったら、誰がなんといっても、彼女は意見を変えない。
「私たちを、その鉱山跡に連れて行って。」
「俺はすぐにでも、自分の鉱山の現状を知りたいさ。」
興奮気味のユンファを宥めつつ、ロッカブが話した。
「でもなユンファ。俺たちは山登りのプロだが、あんたたちはどうだ?」
うっ、とユンファは渋い顔をした。さらにロッカブが、ユンファたちの登山を制した。
「鉱山はそこそこの距離にある。今から行っても、山の麓で一夜を過ごすことになるぞ。」
自慢の髭をさすりながら、ロッカブが話を続けた。
「それに最近、山の動物たちが荒れているんだ。夜中に襲われたら、俺たちでも危険なんだよ。」
「ならば、せめて夜が明けてから、私たちを連れて行ってよ。」
ロッカブはユンファの実力を知っていた。しかし山登りに対しては経験が無いと思っていた。事実、その通りであったのだが、
「もちろん、あんたたちを連れて行くのであれば、夜明けに出発するつもりだったがね。」
暗くなる前であれば、ロッカブたちが着いていけば大丈夫であろう。
そう思って、ユンファたちの登山を了承した。
そしてユンファも、ロッカブの提案に同意した。
―――
かくしてその日のうちに、登山メンバーが決まった。
ユンファはもちろんのこと、一部の海賊達も着いていくことになった。そして驚いたことに、船医である《テンザ》が今回、山登りに同伴したいと言い出した。
「鉱山の爆発で、生存者がいたのでしょう? だとすれば、まだ生きている人が居るかもしれませんし。」
「それもそうね。」
ユンファはそれに対し、二つ返事で了承した。
「あなたは船にいなさい、ザイカ。多分に危険だからね。」
ザイカはユンファの命令で、船に残された。天候を察知できる以外、特に戦闘に必要な能力を持っているわけも無く、当たり前な判断であった。
しかしそれなら、テンザはどうなのであろう。船医であるテンザは大丈夫なのであろうか。
「エクリド、あなたはどうする?」
「今回、俺は船に残るさ。」
エクリドは自ら、船に残る旨をユンファに伝えた。
「あら、珍しいわね、エクリド。」
「戦闘員が残っていないと、船が心配だろ?」
確かにその通りであった。が、それ以上の理由を、ユンファは読み取っていた。
「いいわ、エクリド。あなたみたいな頼りになる人が居ないと、こちらも心細いけど、そちらにも事情があるものね。」
―――
その日の夜。ロッカブとその部下たちが、海賊船に詰まれた財宝類を素早く確認し、ユンファたちとの取引を開始した。
そしてロッカブは、ユンファの言い値で品物を引き取った。思った以上に、ユンファは値を付けなかったからだ。取引はいともあっさりと終了した。
取引後にロッカブはユンファに言った。
「何を企んでいる?言い値が安くて驚いたわい。」
まあね、とユンファはロッカブにウィンクをした。
「交渉する時間も惜しいし……。あと、ちょっと頼まれごとをやって欲しいの。」
むむ、とロッカブが渋面になった。海賊が商人に頭を下げているのだ。簡単なお願いではないだろう。
しかしユンファの願いは、ロッカブにとっては造作の無いことだった。
「実はね、捕虜たちを《ラスロウグラナ》へ返して欲しいの。もちろん秘密裏で。」
なるほどと、ロッカブは自慢の顎鬚にふれ、即、返答した。
「ま、頼まれてもよいぞ。あなたとの仲だしな。」
「ありがとうロッカブ。白いお髭がとってもステキよ。」
そういうとユンファはロッカブに顔を近づけ、自慢の白髭をなで始めた。
「な、なんじゃい。これ以上は何にも出んよ。」
ロッカブの口元は緩んでいた。まんざらでもなく嬉しそうであった。
―――
そして夜のうちに、捕虜達は全員《ラスロウグラナ》行き船の乗船許可を得た。丁度ロッカブの知り合いがラスロウグラナに行くというので、その船に便乗させてもらった。
船の出航は明後日であるため、2日間は海賊船の中で捕虜を寝泊りさせることにした。
《セルバ》は、何度もお礼を言っていた。涙を流しながら、何度も頭を下げていた。他の捕虜も自分の国へ帰れるということから、安堵の声を上げていた。
セルバはしかし、幾つか心残りがあるようだ。
もちろん自分の今後の人生のこともそうだが、セルバはこの航海の間、ずっと《エクリド》のことばかり見ているようであった。エクリドはエクリドで無関心ではなく、セルバの視線に幾らか気づいていた。
「……ま、恋愛は自由だけど。あんまり熱くならないでね。」
ユンファは、そのことを知りながら、エクリドを登山隊に選ばなかったのだ。
セルバとの最後の夜を楽しんでもらおうという配慮だったのか。それとも、単なる気まぐれか。
いずれにしても、ユンファは確信犯である。
エクリドは海賊であっても、意外に紳士的な部分がある。現在のエクリドは女性には優しい(ユンファが船に乗る前は違ったらしいが)。エクリドは彼女の視線に対して、しっかりとした答えを返すであろう。
「……はぁ。若いっていいわねえ。」
年齢不詳の《蒼の魔女、ユンファ》は、うーんと波止場で背伸びをし、深呼吸をした。潮風を一度に吸い込んだため、ちょっと咽そうになった。
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爆発のあった鉱山後に、1人の男が立っていた。
周囲の小屋は全て吹き飛び、鉱山があったとも思われる部分は、土砂崩れで元の形をとどめていない。
「……む。これだけ小さな欠片で、ここまでの力が出るとは予想外でした。」
男は右手に、親指の爪ほどの宝石を持っていた。それは紫に光り輝く、ユンファたちが求める宝石であった。
「しかし、この爆発で、最高の来賓を呼んでくれました。」
その男は黒いマントを翻し、元鉱山に深々と礼をした。
「私の野望も、すぐに達成できそうです。」
男はそのまま宝石を掲げた。すると空中に、紫色の渦が巻き、空間がいとも簡単に歪んでしまった。
「さて、次は何処に行きましょうか。《ラスロウグラナ》の様子が気になりますね。まずはそこに……。」
男は、そのねじれた空間に吸い込まれるように入っていった。が、
「あ、そうだ。せっかくの来賓に、手土産でも置いておきましょうか。」
男は、空間から上半身を戻し、持っていた紫の宝石を手放した。
宝石は、クレーターとなった鉱山の中央に向かい転がっていき、そして音もなく、地面に吸い込まれた。
「さあ、皆さん。もう一仕事ですよ。」
男がそう呟くと、ねじれた空間に体を戻した。そしてその空間は音も無く縮み、消えていった。