Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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3-3《密会》

「私達を連れて行って。」

 

 ロッカブが語った、ユンファにとって最重要キーワード『紫の光』。それに敏感に反応したユンファ。

 こうなってしまったら、誰がなんといっても、彼女は意見を変えない。

 

「私たちを、その鉱山跡に連れて行って。」

「俺はすぐにでも、自分の鉱山の現状を知りたいさ。」

 

 興奮気味のユンファを宥めつつ、ロッカブが話した。

 

「でもなユンファ。俺たちは山登りのプロだが、あんたたちはどうだ?」

 

 うっ、とユンファは渋い顔をした。さらにロッカブが、ユンファたちの登山を制した。

 

「鉱山はそこそこの距離にある。今から行っても、山の麓で一夜を過ごすことになるぞ。」

 

 自慢の髭をさすりながら、ロッカブが話を続けた。

 

「それに最近、山の動物たちが荒れているんだ。夜中に襲われたら、俺たちでも危険なんだよ。」

「ならば、せめて夜が明けてから、私たちを連れて行ってよ。」

 

 ロッカブはユンファの実力を知っていた。しかし山登りに対しては経験が無いと思っていた。事実、その通りであったのだが、

 

「もちろん、あんたたちを連れて行くのであれば、夜明けに出発するつもりだったがね。」

 

 暗くなる前であれば、ロッカブたちが着いていけば大丈夫であろう。

 そう思って、ユンファたちの登山を了承した。

 そしてユンファも、ロッカブの提案に同意した。

 

―――

 

 かくしてその日のうちに、登山メンバーが決まった。

 

 ユンファはもちろんのこと、一部の海賊達も着いていくことになった。そして驚いたことに、船医である《テンザ》が今回、山登りに同伴したいと言い出した。

 

「鉱山の爆発で、生存者がいたのでしょう? だとすれば、まだ生きている人が居るかもしれませんし。」

「それもそうね。」

 

 ユンファはそれに対し、二つ返事で了承した。

 

「あなたは船にいなさい、ザイカ。多分に危険だからね。」

 

 ザイカはユンファの命令で、船に残された。天候を察知できる以外、特に戦闘に必要な能力を持っているわけも無く、当たり前な判断であった。

 しかしそれなら、テンザはどうなのであろう。船医であるテンザは大丈夫なのであろうか。

 

「エクリド、あなたはどうする?」

「今回、俺は船に残るさ。」

 

 エクリドは自ら、船に残る旨をユンファに伝えた。

 

「あら、珍しいわね、エクリド。」

「戦闘員が残っていないと、船が心配だろ?」

 

 確かにその通りであった。が、それ以上の理由を、ユンファは読み取っていた。

 

「いいわ、エクリド。あなたみたいな頼りになる人が居ないと、こちらも心細いけど、そちらにも事情があるものね。」

 

―――

 

 その日の夜。ロッカブとその部下たちが、海賊船に詰まれた財宝類を素早く確認し、ユンファたちとの取引を開始した。

 そしてロッカブは、ユンファの言い値で品物を引き取った。思った以上に、ユンファは値を付けなかったからだ。取引はいともあっさりと終了した。

 

 取引後にロッカブはユンファに言った。

 

「何を企んでいる?言い値が安くて驚いたわい。」

 

 まあね、とユンファはロッカブにウィンクをした。

 

「交渉する時間も惜しいし……。あと、ちょっと頼まれごとをやって欲しいの。」

 

 むむ、とロッカブが渋面になった。海賊が商人に頭を下げているのだ。簡単なお願いではないだろう。

 しかしユンファの願いは、ロッカブにとっては造作の無いことだった。

 

「実はね、捕虜たちを《ラスロウグラナ》へ返して欲しいの。もちろん秘密裏で。」

 

 なるほどと、ロッカブは自慢の顎鬚にふれ、即、返答した。

 

「ま、頼まれてもよいぞ。あなたとの仲だしな。」

「ありがとうロッカブ。白いお髭がとってもステキよ。」

 

 そういうとユンファはロッカブに顔を近づけ、自慢の白髭をなで始めた。

 

「な、なんじゃい。これ以上は何にも出んよ。」

 

 ロッカブの口元は緩んでいた。まんざらでもなく嬉しそうであった。

 

―――

 

 そして夜のうちに、捕虜達は全員《ラスロウグラナ》行き船の乗船許可を得た。丁度ロッカブの知り合いがラスロウグラナに行くというので、その船に便乗させてもらった。

 船の出航は明後日であるため、2日間は海賊船の中で捕虜を寝泊りさせることにした。

 

 《セルバ》は、何度もお礼を言っていた。涙を流しながら、何度も頭を下げていた。他の捕虜も自分の国へ帰れるということから、安堵の声を上げていた。

 

 セルバはしかし、幾つか心残りがあるようだ。

 

 もちろん自分の今後の人生のこともそうだが、セルバはこの航海の間、ずっと《エクリド》のことばかり見ているようであった。エクリドはエクリドで無関心ではなく、セルバの視線に幾らか気づいていた。

 

「……ま、恋愛は自由だけど。あんまり熱くならないでね。」

 

 ユンファは、そのことを知りながら、エクリドを登山隊に選ばなかったのだ。

 

 セルバとの最後の夜を楽しんでもらおうという配慮だったのか。それとも、単なる気まぐれか。

 いずれにしても、ユンファは確信犯である。

 

 エクリドは海賊であっても、意外に紳士的な部分がある。現在のエクリドは女性には優しい(ユンファが船に乗る前は違ったらしいが)。エクリドは彼女の視線に対して、しっかりとした答えを返すであろう。

 

「……はぁ。若いっていいわねえ。」

 

 年齢不詳の《蒼の魔女、ユンファ》は、うーんと波止場で背伸びをし、深呼吸をした。潮風を一度に吸い込んだため、ちょっと咽そうになった。

 

 

*******************

 

 爆発のあった鉱山後に、1人の男が立っていた。

 周囲の小屋は全て吹き飛び、鉱山があったとも思われる部分は、土砂崩れで元の形をとどめていない。

 

「……む。これだけ小さな欠片で、ここまでの力が出るとは予想外でした。」

 

 男は右手に、親指の爪ほどの宝石を持っていた。それは紫に光り輝く、ユンファたちが求める宝石であった。

 

「しかし、この爆発で、最高の来賓を呼んでくれました。」

 

 その男は黒いマントを翻し、元鉱山に深々と礼をした。

 

「私の野望も、すぐに達成できそうです。」

 

 男はそのまま宝石を掲げた。すると空中に、紫色の渦が巻き、空間がいとも簡単に歪んでしまった。

 

「さて、次は何処に行きましょうか。《ラスロウグラナ》の様子が気になりますね。まずはそこに……。」

 

 男は、そのねじれた空間に吸い込まれるように入っていった。が、

 

「あ、そうだ。せっかくの来賓に、手土産でも置いておきましょうか。」

 

 男は、空間から上半身を戻し、持っていた紫の宝石を手放した。

 

 宝石は、クレーターとなった鉱山の中央に向かい転がっていき、そして音もなく、地面に吸い込まれた。

 

「さあ、皆さん。もう一仕事ですよ。」

 

 男がそう呟くと、ねじれた空間に体を戻した。そしてその空間は音も無く縮み、消えていった。

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