Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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3-4《双角獣/Twinhorns》

 山登りはユンファたち海賊にとって過酷以外の何者でもなかった。

 

 ロッカブは確かに「先ほど、生存者が来て、鉱山の現状を話した」といっていた。しかし、日の出とともに出発したのに、既に空に浮かぶ唯一の太陽は頂上を通り越し、傾き始めていた。鉱山はまだ先だという。到着時には夕刻になるだろうと、ロッカブは言った。

 

 ユンファはそのことについて質問をした。何故生存者は、これだけの長い距離を瞬時に来られたのか。

 

「判らない。しかし彼の体はボロボロで、誰が見ても助からないのは明らかだった。もしかして、鉱山の爆発がそれだけ強力で、町のふもとまで吹き飛ばされてきたのかもしれないな。」

 

 まあ、彼が来なくても、爆発は港の高台からはっきり確認できたそうだ。爆音も、町まで届いていたしね。と、ロッカブは付け加えた。

 ロッカブはそのことについては、深く考えていないようであった。

 ユンファは、確信はもてないが、それだけの距離を、誰でも瞬時に移動する方法を知っている。

 

 現に、自らもその方法で命拾いしたのだから。

 

 日が落ちてきた。まだ到着していないが、鉱山の爆発の凄まじさが良くわかった。

 周囲の樹の葉の上に、火山灰のように土ぼこりが乗っていた。

 地面は強烈なつむじ風が通り抜けたように、一定方向に……放射線状に筋が描かれていた。

 

 雑草は根だけが残り、葉は吹き飛んでいた。

 動物の死骸もあった。2本の巨大な角を持つ、《双角獣》という種族らしい。ユンファも図鑑では見たことがあるが現物を見るのは初めてだ。

 

 ロッカブがこの動物について簡単に説明した。

 

「戦士にとって、こいつの角は2つの意味があるんだ。1つはやっかいな盾。もう1つは高値で売れる戦利品さ。」

 

 なるほどこの角は磨き上げれば美しい光沢が出そうだ。そして硬度も半端ではない。生きている彼らと取っ組み合いにだけはなりたくないな。とユンファは考えていた。

 

 角の価値を知っているが、今は別の目的がある。そういってロッカブは、その死骸を横目に見ながら先に急いだ。

 《テンザ》は、その死骸に簡単な祈りを捧げていた。が、すぐに後についていった。

 

―――

 

 最近、ユンファは自分の考えに自信を持つようになった。自分が思ったことが現実として起こるようになったのだ。

 

 双角獣の群れに襲われた。

 

 本来彼らは雑食ではあるが、普段は草を食し大人しい動物である。しかし、食糧がなくなったり教われたりすると、自慢の角を高々と掲げ威嚇し、容赦なく攻撃してくる。

 

 爆発による変化、縄張りに入ってきた生き物。それだけで十分、ユンファ一行は襲われる条件が揃っていた。

 彼らの角は予想以上に強固で、威圧的だった。また群れで生活を営んでいるだけあって、コンビネーションもすばらしいものがあった。

 

 一頭が威嚇をけしかけ、そのため動けないバーバリアンに、他の一頭の角が、躊躇無く突き刺さる。

 逆に、他に気をとられると、威嚇していた双角獣が攻めてくる。

 阿吽の呼吸がしっかりした獣であった。

 

「フン!」

 

 ロッカブは手に斧を持ち参戦した。しかしロッカブの振るう斧は、双角獣の角に阻まれはじかれた。

 ユンファは閃光の呪文を唱え、目くらましとした。が、双角獣はどうやら恐ろしく「鼻」の利く生物であるらしく、あまり効果が無かった。

 

 テンザは、手に持っていた杖で、まるでマタドールのように双角獣の角を退けていた。強固な角は、防ぐのではなく流すほうが良いと考えたからだ。

 

 しかし一行は、少しずつ追い詰められていった。群れの数は少なくなっているが、それでも圧倒的に多い。

 対して、こちらには多くの負傷者、戦闘不能者もおり、数では完全に負けている。

 

「この数は異常だ。これだけ群れになることなど在り得ないし、何より双角獣がココまで凶暴なわけがない……。」

 

 ロッカブ自信も、右腕に怪我を負っていた。斧は既に砕かれ使い物にならなくなっていた。

 

―――

 

「……一騎当千……。」

 

 ユンファはそうつぶやいた。

 

「……?」

 

 ロッカブは良く意味がわからなかったが、ユンファは続けた。

 

「…千人力、英雄豪傑、百戦錬磨……ほかに何かあったかな?」

 

 一通りの言葉を述べた後、ユンファはテンザのほうに向き、目を合わせた。

 

「……お願いできる?テンザ。」

「船長のお願いでは仕方ないですが……。本来『これ』は、彼らを切るために持っているのではないのですよ。」

 

「判っているわ。けど、ここで使わなければそれこそ『切る相手』を見つける前に死ぬことになるわ。」

「……そのとおりです。ね。あなたにはいつも丸め込まれている気がします。」

 

「……そこに、惚れているんではなくて?」

「……それに関しては、ノーコメントです。」

 

 他者から見れば全く意味のない会話であった。しかしテンザは、持っていた杖を自ら胸の前に、水平に持ってきた。

 その動きに感化されてか、一頭の双角獣がテンザの方向に向かってきた。

 

「……では!」

 

 一直線の銀色の光が、ユンファ、ロッカブの横。テンザと双角獣の目の前で走った。

 双角獣は一瞬光に怯んだが、しかしその後、彼は死を理解する間もなく、その強固な「角ごと」、縦に真っ二つになっていた。

 

「……。」

 

 ロッカブは声が出なかった。テンザのあまりの鮮やかの剣閃のためか、それとも、テンザのあまりの恐ろしい剣閃のためかは判らない。

 

 テンザの杖の中に、杖とほぼ同等の長さの刀が入っていたのだ。所謂、仕込み刀である。

 

「いつ見ても、恐ろしいほど綺麗ね。『首切り』のカタナの切れ味は。」

 

 血の通っている獣を切ったというのに、その刀には一滴の血も付いていなかった。これは、何度も生物を切り、そのうえで得ることのできる業であろうか。

 

「……悲しいかな、昔の『カン』というのは消えないものですよ。」

 

 テンザは今まで以上に悲しい目で、自らの右手を見ていた。

 過去に、沢山の血で染めた右手をじっと見ていた。

 

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