Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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3-6《異形のもの》

 そこには鉱山と呼べるものは無く、ただ抉られた土地があるだけだった。しかしロッカブは「ここに確かに炭鉱が在った」とユンファたちにいった。

 

 ユンファには予感があった。しかも悪い予感であった。『紫の力』に関わって死んだものは多くいる。しかし『全員が死んだ』という事は無い。ユンファが知る限り、誰かしら生存者がいるのだ。例えば今回は、この惨事を港に伝えに来た者がいた。

 

 本当に、その人だけだろうか。ユンファにはそうは思えない。誰かしら、その宝石に魅力に『魅入られた』者がいるはずだ。あの生存者は普通に死んでしまっている。

 

 ユンファのポシェットが怪しく光った。既に日は落ち辺りは遠くの星からの光が照らしているだけであったので、紫の発光は恐ろしいほど美しかった。

 

 光が消え、刹那、地面が揺れた。地面の中から――元炭鉱の入り口から――巨大な丸い物体がせり出してきたのだ。

 

 最初3人ともその正体がつかめなかったが、その塊から発せられている肉の腐った臭いと、星明りの加減で所々に《バーバリアン》《ゴブリン》と思われる顔が見え隠れすることから、大体の正体を推測できた。

 

「なんじゃありゃ!死体が繋がっているのか!?」

 

 ロッカブは苦渋の表情を浮かべた。《異形のもの》を目の当たりにしながら冷静な判断ができる所は、流石、商人団体のリーダー的存在というところか。

 

「ええ。しかも……どうやら魂まで繋げているみたい。」

 

 ユンファもロッカブと同様の表情であっただろう。彼女が、奴が魂までも繋いでいると確証を持ったのは、その物体から時折聞こえてくる、《死を懇願する嘆き》からである。精神力の乏しい人間なら簡単に死に取り込まれるであろう、強力な念が込められている。

 

 突然《異形のもの》の下方に足が生え、ユンファに近づいてきた。思ったより速く、一息遅れていたらユンファがいた地面ごと、取り込まれていたかもしれない。《異形のもの》は巨大な体で体当たりし、ぶつかったものを体内に取り込んでいるようだ。

 

 テンザは刀を抜いた。相手は『死者』である。死体に対してはテンザは躊躇しない。銀色の光が一閃、肉塊から足を奪い去った。

 

 しかし塊はすぐに足を再生させ、同時にくの字に大きく曲がった腕を発達させた。《異形のもの》は巨大な腕を振り回しテンザをなぎ払った。

 

 とっさにテンザは刀で防御したが、体重の軽いテンザは水平方向に吹き飛ばされた。岩がむき出しの場所に叩きつけられ、数秒の間全く動かなくなった。だがすぐに咳き込み、意識があることが遠くからでも確認できた。彼の白衣は砂埃と腐敗した肉片、そして血液で汚れていた。

 

 その間にユンファは召喚符を取り出し、既に10羽ほどのカラスと、強靭な肉体をもつジンを召喚していた。

 

 カラスがいっせいに肉塊にまとわりつき動きを阻害しようとしたが、しかし肉塊から無数の触手が伸び、あっという間に全羽取り込まれてしまった。続いてジンが、ある程度放れた位置から真空の刃を発生させ肉塊を切り刻もうとしていたが、傷はすぐに回復してしまい、全くダメージを与えているようではなかった。これでは時間稼ぎにしかならない。

 

 ロッカブはテンザの元に向かった。テンザは、意識はあるがすぐには立ち上がれないようだった。致命傷ではない。

 

「戻れ!ジン!」

 

 ユンファはジンを召喚符に戻した。肉塊は風刃から逃れることができると、ユンファの方向に体を向け彼女を取り込もうと突進してきた。

 

 その姿を遠目で見ていたロッカブは、まるでユンファが『取り込まれようとしている』ように見えた。それはテンザも同じだった。

 

 危険な賭けだったが、ユンファには勝因があった。カラスが取り込まれる際、そして、取り込まれた後しばらくは、カラス達には『意識があった』。だとすれば……

 

 

 

 ユンファが立っていた場所に肉塊がぶつかった。ユンファは肉塊にあっさり取り込まれた。

 テンザは、唖然としているロッカブに言った。

 

「ユンファはあなたを遠ざけようと時間稼ぎをしていたんでしょうね。あの場では、あの《異形のもの》があなたに対して攻撃してくる可能性もありましたから。」

 

 刹那、塊の中から眩い閃光が走った。いや、光が爆発した、のほうがたとえが良いだろう。それだけ激しい光が《異形のもの》の中から発せられ、《異形のもの》はばらばらに……文字通り『肉片』になった。

 

 光の中心にユンファがいた。死体を浄化する術法を使ったのだろう。体内から使用すれば一番効率が良かったのか。

 

 いや、そうではかった。彼女は右手の人差し指と親指で、彼女の爪以上に小さい、小石程度の『紫の石』をつまんでいた。《異形のもの》はその石を中心に『繋がっていた』のだ。

 

 彼女は浄化の術を、その石の力を借り、使用した。その石に少しでも近づくために、彼女はあの肉塊に取り込まれたのだ。

 

「あまりやりたくなかったけど。これが一番効率的だったのよ。」

 

 ユンファは右手に持つ『紫の石』を見た。ほとんど発光していない。まるで力を使い切ったような弱弱しい光であった。

 

「……ただ、この方法には、大きな欠点があるのよ……。ああ、早くシャワーを浴びたいわ。」

 

 ユンファの体と黒髪は、腐った肉片と砂埃で汚れてしまっていた。

 

「あーあ。このズボン、お気に入りだったのに……。残念、洗っても落ちないわね、この汚れ。」

 

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