Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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3-7《昇華》

 朝が来た。朝焼けが山肌を赤く照らしていた。

 

 ばらばらになった肉片は、それでもまだ動いていた。ユンファはその肉片と、右手につまんでいた『紫の小石』を見比べて、小石に残る力を全て解放させることにした。

 

「力が残っていたら、いつそれが爆発するかわからないしね。」

 

 ユンファは小石に念を込め、開放させた。柔らかな光が肉片ひとつひとつに降り注ぎ、肉片を消滅させていった。まるで《昇華》を起こしているように。そして肉片は全て《昇華》させられ、同時に『紫の小石』は、その輝きを失いただの小石になってしまった。『力』を失ったのだろう。

 

 ユンファの目的は達成された。思ったとおり、事の発端は『紫の力』だった。

 

 あの肉の塊……《異形のもの》がもし町に降りてきたら。そう考えると、ロッカブの背筋は凍りついた。彼女がいてくれて本当に助かった。

 ユンファも、紫の力に触れることができ、そしてそれを『処分』できたことに満足してるようである。

 

 が、ユンファにはひとつ、不満が残る結果になった。それは彼女にとって、先の怪物以上に大変なことであっただろう。

 

「ロッカブ、この辺に、川は流れてないかしら?」

 

 なるほどユンファの体は、かなり汚れていた。ロッカブは川の場所を教えた。といっても爆発で大分地形が変わってしまっているので、川がどうなっているかわからないが。

 

「ありがとう。行ってみるわ。原水が無事なら、その近くに水辺があるはずだしね。」

 

 ユンファは教えられた方向に歩んでいこうとしたが、すぐに回れ右をして、ロッカブとテンザに忠告した。

 

「覗いたら……。死ぬわよ。」

 

―――

 

 朝日が海賊船の甲板を照らしていた。朝焼けが《エリス港》を赤く染める。

 

 エルフの青年《ザイカ》は夜明け前に目が覚めてしまい、仕方なく甲板に出ていた。ほとんど寝られなかったのだ。

 

 エクリドたち他の海賊は、昨夜は町のバーで宴会をしていたらしい。ザイカは船で留守番をさせられていた。だが、元々宴会のような騒がしい場所は好きではなかったので、逆に良かったと思っていた。

 

 寝られなかった理由は船長の不在である。ユンファ船長が今、どうしているのか心配で眠れなかったのだ。

 

「船長はどうしているんだろう。あの山を登るっていってたなあ。」

 

 呟くと、ザイカはいつも朝一で行なう『天候を見る仕事』を始めた。ザイカは遠くの天候を見ることができ、さらにそこから天気予報も行なえる。この海賊船が巨大な嵐を避けて航海できる理由がそこにあった。

 

「南に大きな雷雲があるなあ、風向きがこうだから…。でも、今日のところは曇りで済みそう……。」

 

 はっ! と、ザイカは重要なことに気が付いた。

 

 今まで遠くの天気を見たり、濃霧の中を覗いたりしているこの『能力』を使えば、ユンファ船長が登っているあの山の様子でさえ、見ることができるのではないか?

 

「なんで今まで気が付かなかったんだ!」

 

 早速、ザイカは能力を使い、船長たちが登っている山を「覗いてみた」。

 

 暫くするとピントが合い、山の岩肌がくっきりと見えてきた。海賊とバーバリアンがキャンプを張っている。怪我人がかなりいるようだ。

 その中にユンファやロッカブ、テンザの姿が無かったことから、さらに詮索を行なった。

 

 爆発があったと思われる付近に目をやると、ロッカブとテンザが岩に座り、何か話し合っていた。声が聞こえないのがもどかしい。

 

 そこにも船長の姿は無く、さらに周囲を見渡した。

 

 爆心地らしき部分からそう遠くないところに、川が流れていた。爆発の衝撃か、大きく川縁が抉れたところがあり、そこに川の水が溜まっているようである。

 なんとなく気になり、その周囲をザイカは注意深く確認した。

 

 すると、

 

―――

 

 水浴びをしていたユンファは、鋭い視線を感じ、周囲を警戒した。しかし人の気配は感じられなかった。

 

 自分の気のせいかと思っていたが、先程の視線には覚えがあった。

 『殺意』など微塵も感じられず、むしろ『羞恥』、ついで『好奇心』『欲』などが感じられた。覗きの類だろう。

 

 しかし周囲には誰もいない。既に視線も感じられない。やはり気のせいかと思い、生まれたままの姿である自分の体を丹念に洗い始めた。一緒に、着ていた服も洗濯している。

 

 ふと、船で待っている部下達を思い出した。その中に『遠目』『青年』『好意』のキーワードを持つエルフのことを思い出し、先ほどの視線の真意を理解した。

 ユンファの口元が緩んだ。

 

「これは……。あとでお仕置き、ね。」

 

―――

 

「……!!!」

 

 凝視してしまった。

 

 その後、我に返ったザイカは、すぐに顔を伏せ視線をそらした。一瞬、ユンファがこちらを見たように感じたからだ。

 

 しかし、ザイカは『見た』。恐らくこの船の上で一番の『禁断の果実』であろう。

 

 まだ心臓がどきどきしている。心臓の音しか聞こえない。

 

「!!!……。」

 大分冷静になってきた。

 

 冷静になればなるほど、先程の行為があまりに愚かで恥ずかしいことであることを認知させた。

 しかし、心の中で『また、見たい』と、邪な存在がうごめいているのがわかった。

 

 今、ザイカの頭の中で、おそらく「天使と悪魔」が喧嘩をしているのだろう。

 

 先程まで甲板には自分ひとりだった。船長の現状が(いろいろな意味で)気になる。自分には力がある。皆に船長の無事を報告しなければ! それには、さらに船長の無事を確認しなければ!!

 

 謎の使命感が、頭の中の天使を黙殺した。

 ザイカは山に向かって、視線をむけた!! 

 

「おはようございます。ザイカさん。」

 

 多分、心臓が口から出ていた。それくらい驚いた。

 

 ザイカの後ろにはゴブリンの《コーダ》が立っていた。いつもの美しい声だった。

 

「…!! …!!…!!」

 

 声が出なかった。口パクだった。

 

「あの、何を?天気でも見ていたんですか?」

 

 コーダはザイカの行為に気づいていないらしい。ザイカはコーダに話題に乗った。

 

「そ、そうなんです、天気を見ていました。そう、こうやって、こうやると僕はてんきが見れるデスよ! そう、こうやってですね……」

「あのう、それは皆さん知っていることですけど。説明されても…」

 

 コーダが口を挟んだそのとき、ザイカは一瞬だが、町が見えた。能力を使ったまま視線が町を向いたからだろう。

 

 朝焼けが町を明るく照らしていたが、一箇所だけ、不自然に赤く染まっていた場所があった。

 

 再度確認のため、ザイカはその場所に視線を送った。

 

「…ザイカさん?」

「……人だ。人が倒れている。」

「…え?」

 

 その赤い場所の中央に、人が倒れていた。巨大な体、太い腕、そして横には大きな鉈が落ちており、それらは真っ赤に染まっているのが確認できた。

 

ザイカはその人物に見覚えがあった。

 

「そんな……エクリド……さん!?」

 

 赤く染まる町の中、ザイカの頭は一瞬、真っ白になってしまった。

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