Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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第4章
4-1《路地裏の出会い》


 もうすぐ朝日が山から顔を出し町を照らそうとしていた頃。

 《エクリド》は、ある女と、人気のない《路地裏》へと足を運んでいた。彼女は先程まで海賊達と酒場で飲んでおり、特にエクリドと親しく話をしていた。彼女がこの場所までエクリドを連れてきたのだ。エクリドも幾分お酒が入っていたこともあり、また、エクリドが彼女を信用していたことも相まって、簡単にエクリドは付いていってしまった。

 

 彼女はエクリドに惚れていた。エクリドはそれを知っていた。だからこんな人気のない場所にまで彼女についてきたのだ。

 エクリドは彼女と楽しげに会話をしていたが、その楽しげな会話時間は一瞬にして崩れた。

 

 突然、彼女の右腕全体が鋭いナイフのように変形し、エクリドの体を突き刺した。

 

 あまりにも突然のことで、エクリドは何が起こったのかわからなかった。そしてまた、エクリドを刺した本人、《セルバ》も、全く意味がわからなかった。何故突然、自分の腕が剣になって、エクリドを刺しているんだろう。

 

「……あ、え?」

 

 セルバは混乱していた。しかしエクリドは、とりあえず今の現状から推測されることから、『敵』が誰なのかを彼なりに理解した。腰に付けていた《鉈》を素早く取り出し、彼女の…《セルバ》の右腕(なのだろうか)を切断した。

 

 派手に血しぶきが上がった。セルバは右腕の切断の痛みから、大きな悲鳴をあげた。必死に、切られた腕から流れる血を止めようと、残った左手で傷口を押さえていたがあまり効果がないようだ。

 

 エクリドの傷もかなり深かった。刺さっていた彼女の右腕だったものは、切断後には、元の彼女の白く細い右腕に姿を戻し、傷口から抜け落ちた。傷を塞いでいたものがなくなったため、エクリドの出血もひどい。周囲は2人の血で、赤く染められていった。

 

 程なく、周囲の家々の窓から住人が姿を見せ始めた。彼女の悲鳴を聞いたのだろう。エクリドは、ここで「助かった」と思った。誰かが憲兵や、医者を連れてきてくれるだろう。そう思ったからだ。セルバの真意はわからないが、とりあえず『生き残る』ことが先決である。

 

 彼女のほうが気になり、うずくまり呻いているセルバに目を向けると、彼女の周りにはその住民が集まっていた。

 いや、そうではない。住民が、セルバとエクリドを囲むようにして立っていた。

 

「…な……?」

 

 エクリドは彼らの行動が理解できなかった。するとセルバが静かに立ち上がった。先程までの出血は止まっていた。悲鳴ももう、あげていない。

 

「さて、どうでしたでしょうか。私が作り上げた至極の舞台は?」

 

 エクリドは、ここで《セルバ》という人間……人間ではないかもしれないが、の手の平で踊らされていたことを知った。

 しかし多くの疑問が残る。いつセルバは、『敵と入れ替わった』のだろう。セルバがエクリドに向けていた、セルバが抱いていた『恋心』が、偽者であるはずがない。あまりに自然すぎる。また、船長《ユンファ》もそのセルバの心中を理解していた。偽者であるなら、特に勘の鋭いユンファが気づくはずだ。

 

「……種明かしをしましょうか。」

 

 質問を口にしていないが《セルバ(?)》には通じていた。

 

「《多相の戦士》ってご存知かしら。私はそれの《進化》したもの。でいいかしら。」

 

 しかし、相手の『心の中』まで真似できるはずがない。

 

「しかも、私は単に姿かたちを真似るだけではないの。その人の『感情』、『価値観』、『考え方』、『好きな食べ物』、『友人との接し方』から『普段の口癖』まで。私は完璧に演じられる。」

 

 《セルバ》の姿をしたものが、エクリドの顔に自らの顔を近づけた。楽しそうなセルバの顔である。エクリドは、もっと別な方法で明るい彼女の顔を見たかった。

 

「もちろん、『男の好み』もね。ただ、勝手に動いてしまうの。私の欠点ね。だから、表面は全く違わない《セルバ》という人間で、中身も彼女。ただ、深層心理に《私》がいて、『価値観』で勝手に動こうとする《セルバ》を、後ろで操っていた。ま、『演出家』って所ね。」

 

 《奴》の言い分では、どうやら右腕を変化させ突いたのが《奴》で、それ以外は《セルバ》だったという。

 

「てめえ……。それで…。」

 

「そう、《私》は最初から《私》だった。」

 

 《奴》はさらに続けた

 

「結構危険な綱渡りだったわ。最初の船内に、まさかアレだけ強力な結界が張られているとは思わなかったもの。あなたたちの船に乗れたのは、本当、運が良かったわ。ま、《あの力》は盗られたけどね。」

 

 さらに《奴》の話は止まらない。舞台から降りた《俳優》は台詞以外のことを喋るのが好きなようだ。

 

「ちなみに、この周囲には私たちの仲間しかいません。よって、誰もあなたを助けませんし、逆に私は助けられます。このまま、《アルデモ》に帰ろうかと思います。」

 

「へえ、演出家さんは、結構おしゃべりだな。俺が生きて帰ったら、大事になるぜ」

「大丈夫です。私の演出に間違いはありません。あなたはここで死……」

 

 刹那、《奴》の台詞が終わる前にエクリドは鉈で、彼女の体をなぎ払った。彼女は横に真っ二つになり、同時に後ろにいた奴の仲間の人間も数人、同時に息絶えた。

 

「残念、俺の丈夫さに関して情報不足だったな」

 

 エクリドの傷は癒えてなかった。出血も止まっていない。しかし無理矢理に起き上がり薙いだのだ。

 残った人たちは恐怖したのか、一斉に全員がその場から逃げ去った。彼らを追う体力は既に残っていない。残ったのは、数人の死体と、エクリド、なぎ払われた《セルバ》と、血の海である。

 

 エクリドは《彼女》の死体に近づいた。上半身と下半身が分かれていたが、彼女の顔はいまだに美しく、肌は透き通るような白をしていた。血の気が引いているためさらに白色が際立っていた。

 

 エクリドは油断していた。突然《奴》の上半身がエクリドの体にしがみついてきた。《奴》は生きていた。

 

「もう離さないわ。エクリド」

 

 そういうと《彼女》はエクリドにキスをした。毒を含んだキスだった。

 エクリドはそれに気づき、《奴》を振りほどき鉈で頭蓋骨をばらばらに砕いた。流石にこれで死んだだろう。

 《彼女》の口から移された毒は神経性のものらしく、すぐにエクリドは体がしびれ、その場に倒れこんでしまった。静かにエクリドは目を閉じた。

 

「そういえば、今夜は寝てなかったなあ……。」

 

 

 夜が明け、朝日がエクリドの周囲を、赤く照らした。

 

 

 その後、すぐに《ザイカ》と《コーダ》、海賊達がその場に集まった。そこには身元不明の死体が3つ。そして、ほとんど虫の息である《エクリド》がいた。彼はまだ生きていた。

 海賊達は《ザイカ》の情報から、タンカを持ってきていたので、急いでエクリドを海賊船に運ぶこととなった。《テンザ》が戻るまで、エクリドの体力が持てば良いのだが。

 

 朝日が、道をドス黒く染めた血の池を、さらに引き立てるかのように眩しく照らす。

 

 そこには、《セルバ》の死体らしきものは、無かった。

 

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