Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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4-2《歌鳥》

 怪我をした部下達を介抱中、一羽の鳥が飛んで来た。ロッカブはその鳥の名前を知らなかったが、テンザはその鳥が何なのか知っていた。

 ユンファは自分の右腕を水平に伸ばし、鳥はユンファの腕を止り木のように使い降りて来た。

 

 鳥は美しい声で歌った。《歌鳥》と呼ばれる所以だ。

 ユンファも同じく歌鳥のように歌った。美しいハーモニーが山に響く。傷口が開き苦しんでいた者も歌に聞きほれ、皆が歌に耳を傾けた。

 

 やがて歌が止まり、ユンファは歌鳥の頭を左手で撫でると、まるで手品のように歌鳥を『札』へと換えた。

 

「何か、船のほうで起こったようね」

 

 ユンファが口を開いた。

 異変が起こったら、ユンファの部屋の鳥篭に入れている《歌鳥》を離すように、と《コーダ》に命じていたのだ。

 

「ユンファ、あなただけでも先にお帰りください」

 

 テンザがユンファを急かした。怪我人を置いていけない。テンザはさらに提案をした。

 

「ユンファ、あなたは背中に《光の羽》を作ることができましたよね。それで先に町に帰ってください。」

 

 しかしユンファは、その提案を拒否した。理由は3つある。

 

「ひとつは、恐らく誰かが倒れた、っていう類の事だと思うの。だからあなたを…テンザを置いていけない。」

 

 2つ目

「あのへんちくりんな肉の塊を《昇華》したとき……。結構魔力を消耗してね。実はもう、羽を作るどころか、呪文ひとつも打ち消せないの。」

 

 3つ目

「……私……。高いところ、苦手なのよね。」

 

 

 

 ユンファたちは結局歩いて下山した。先にロッカブが先行し町から部下を連れてきて、怪我人の対応をさせた。テンザは、自らも怪我を負っていたが、走りながら下山した。先行したロッカブから、《エクリド》の事情を聞いたため、テンザは急いでいたのだ。

 

 ユンファの疲労の色が、時間を経つごとに濃くなってきた。ゆっくりスローペースで彼女は下山していた。横にはロッカブが連れ添っている。辺りは、山に登ってから2回目の夕焼けを迎えていた。

 

「《蒼の魔女》さんも、大した事無いな。」

 

 ポロッとロッカブが洩らしたのをユンファは聞いていた。

 

「それだけ、あの力がやばいって事。あーあ。たいした冗談も返せないわ。」

 

 先ず船に帰り、現状を把握する。船長として成すべき事をしなくては。気力だけがユンファの足を動かしているようだった。

 

 

 テンザが文字通り船の甲板に滑り込んできた。直ぐに《エクリド》が寝ている医務室へと足を運び、先に来ていた町の医者に代わりエクリドの治療を始めた。治癒に関してはテンザの右に出るものはいないだろう。

 

 日が落ち星が輝き始めた頃、船長が帰ってきた。

 

「エクリドは? どう?」

 

 ユンファを待っていた《ザイカ》に質問を投げかけた。

 

「い、医務室で治療中です。テンザさんが言うには、『峠は越えた。命に別状はない』との事です。」

 

 ほ、とユンファが胸を撫で下ろした。そして部下達に、緊急時に頭が不在だったことを詫びた。同時に、休憩を取れるものは取る様に促したが、逆に海賊達は、船長の方が休むべきだと反論し、半ば強引にユンファは自室に戻された。

 

*****************

 

 この日 一隻の船が《ラスロウグラナ》へ向けて出港していた。

 ロッカブがユンファとした約束。捕虜達を乗せて国に帰す。

 

 この船にロッカブが秘密裏に乗せる予定だったのは、女性が3人、子供が2人。

 実際に乗ったのは。女性が2人、子供が2人。

 

 ここにも《セルバ》はいなかった、が、船員は誰も詳しい人数を知らされていなかったので、ユンファやロッカブに連絡が行くことも無かった。

 そして捕虜達もそれについては一切口にしなかった。

 

 何故なら彼女達は、

 

******************

 

 夜が明けようとしていた。

 長い2日間であった。

 

 《エクリド》はいまだ昏睡状態である。

 《テンザ》も深い眠りに付いていた。夜を通しての治療だったため流石に疲れたのだろう。

 テンザの助手として動いていた《コーダ》も同じく、医務室のベッドで寝ていた。

 海賊達もまだ眠っていた。昨日の異変がかなりのストレスになったのだろう。

 

 《ザイカ》は、目が覚めていた。これが習慣であるのだからしようがない。

 甲板に出ると、ブロンドの髪の女の子が立っていた。

 《ノウンクン》だ。ザイカは船を襲撃した際のことを思い出した。ノウンクンはレースの付いた、ワインレッドの洋服を身にまとっていた。朝日が照らそうとしている甲板の上で誰かを待っているようである。

 

 ノウンクンと目が合った。彼女はザイカを探していたのだ。小さな手をブンブンと振り、ザイカにアピールした。

 ザイカは腰を据え彼女と話、彼女の正体を暴こうと思い近づいたが、ノウンクンの一声でその目論見が消えた。

 

「ザイカ! あナたのお友達、船に乗っテ、この町、来るよ!」

「友達!?」

「ウン!耳が、コーんなに長い人たち!ザイカとおそろい!」

 

 エルフが、来る!

 

 本来海を渡ることなど無いエルフが、船にのってこの港にくるっていうのか! そんなわけ無い!

 

「デモ、向こうミテ! あの船、おかしいよね」

 

 朝日が海を照らし、地平線の向こうに船影が見えた。見たことの無い船のつくりだ。帆の張り方も、色も独特で、まるで…

 

「大きな樹が、帆を張っているみたいだ」

 

 ザイカは確認のため船を《遠目》した。

 まず船の材質に目が行った。金属は使われていないようであり、また船の帆は、遠くから見て得た感想そのままだった。

 

 布と木の葉を巧みに組み合わせて穂が張られている。

 そして乗組員を見つけた。彼らは緑の洋服に身を包み、そして長い耳が特徴だった。何れの乗組員も顔立ちは気品があった。

 

「……《エンヴィロント》……《緑の桃源郷》」

 

 自分が求めていたものが、向こうから近づいてきたのだ。

 自分は記憶喪失で、自分はエルフであることしかわからない。だからエルフの里…《エンヴィロント》に行けば手がかりが得られると思い、《ザイカ》は海を渡る海賊船に乗っていたのだ。

 

 しかしザイカの心は、嬉しさよりも不安の割合が大きく占めていた。

 本当なら、エルフは造船の知識に乏しく、たとえ船があっても、外との交流を行なうような種族ではない。

 彼らが船を造り、外に出てきた理由。ザイカにはただ事ではない気がしていた。

 

******************

 

『おい。』

 

 ベッドで寝ていたユンファは、何者かの声で起こされた。

 

『面白い奴らがやってくるぞ』

 

 ユンファは眠気まなこで船室の窓から外を見た。

 船影が見えた。今まで見たことの無い、不思議な形だった。

 

『緑が、動き出した。狙いはどうせ、その石だろうな』

 

 低くうなるような声がユンファの頭の中に響いていた。

 

「……ん〜。」

 ユンファは寝癖でぼさぼさになった頭を掻きながら、まだ窓を見ていた。

 

『どうする? 港に着いたら、すぐにこちらに来るぞ?』

「……ん〜。」

 

 ユンファは何か考えているのか、うつむいたまま唸り続けていた。そしてユンファは、この状態で一番自分に都合の良い回答を思いついた。

 

「……ん。興味ない。」

『……は?』

「…寝足りないの。お昼になったら起こしてね、お休み。」

 

 ユンファは白いシーツに身を包み、また眠りに付いた。

 

『……』

 低い声の主はただただ呆れるばかりであった。

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