Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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4-5《尋問》

「いろいろなことが同時にありすぎだ。」

 

 エルフの《ホフロ》は頭を抱えた。額には汗がにじんでいた。今回、《エルフの長、エレーシャ》から外交を任されたが、外の世界がここまで混沌としていたとは考えていなかった。

 

「ぼ、ボクのこと、知りませんか!?」

 

 《ザイカ》は、エルフの住まう大陸《エンヴィロント》から来たエルフに問いかけた。しかしホフロは彼を無視した。女王の命令以外のことには興味は無い。

 

「どういう意味だ?」

 代わりに、ホフロたちの横に立っていた《リト=ハク》がザイカに聞いた。

「あ、あのっ」

 

 ザイカは一瞬、美しいエルフの女戦士に見惚れてしまった。

 

「彼の名は《ザイカ》。記憶喪失らしいの。私が《エウルべ海》で拾ったのよ」

 

 口篭ったザイカの代わりにユンファが回答した。

 《エウルべ海》は、《エンヴィロント》と《ノウルオール》の間にある海の名前である。エウルベ海は比較的穏やかな潮の流れであるが、その周囲の潮流は複雑なため、ノウルオールから直接、エンヴィロントへ行くのは難しい。

 

 リト=ハクは、ザイカのことを知らなかった。その場にいたほかのエルフも、彼のことを知らなかった。

 落ち込む《記憶喪失のエルフ》に、リト=ハクはひとつの希望を与えた。

 

「《緑の桃源郷》には数多くの《記憶》が眠る。その中に君の事も残されているかもしれない」

 

********************

 

「彼は《ツエイド》。エルフ1の地図作りだ。彼が海図を描いている。」

 

 ホフロがもう1人のエルフを紹介した。後ろにいたエルフがフードを脱ぎ挨拶をした。老けても無く、若くも無い。

 ツエイドは早速海図を広げ、エンヴィロントへの道程を説明し始めた。

 

「現在この海域には、季節潮がこのように流れています。我々の国には、この潮流に乗らないと……」

「ちょっとストップ」

 

 ユンファが遮った。

 

「私は、一言も『そこに行く』とは言っていないわ。私が行く必要が無いしね。それにまだ、大きな問題がひとつ残っているの。」

 

 それを聞いて一番驚いたのは《ザイカ》だった。

 ザイカはユンファに言い寄ったが、黙殺された。

 

「あなたが、わが国に行く理由はありますよ。」

 

 ホフロがユンファの目を見ながら言った。ホフロの言い方や考え方が、ユンファは気に入らなかったが、ユンファがエンヴィロントに出向く十分な理由をホフロが述べた。

 

「女王は、《紫の力》の秘密を知っています。もちろんあなた以上にね。」

 

***********************

 

「ということで、私達はエンヴィロントに向かうわ、いいわね《エクリド》」

 

 ベッドで横になっている大男に、ユンファは問いかけた。

 

「好きにしな。これはもう、お前さんの船だ。」

 

 包帯で体中を巻かれた大男は、ベッドで横になりながらユンファに答えた。

 エクリドが目を覚ましたのだ。彼の回復力には、船員全員が驚かされた。

 

「ありがと、エクリド」

 

 ユンファは礼を述べた。隣にはテンザがいて、新しい包帯を持っていた。さらに隣にザイカがいた。彼はお湯の張ってある桶を持っていた。

 包帯を取り替えられているエクリドに、ユンファは本題を繰り出した。船内に現れた《偽者》のことである。

 

「船員はみんな疑心暗鬼。誰もが疑いあって、信頼関係を築けない状態よ。」

「偽者は見つからないのか?」

「本当にそっくりに化けるのよ。本物よりも本物っぽいわ。私さえ騙されたのよ。」

「それは、驚きだ」

 

 エクリドは白い歯を見せて笑った。が、腹部の傷口に響いたのか、直ぐに険しい顔になった。

 そしてエクリドは、ユンファの言わんとしている事を理解した。

 

「で、俺を疑っている、ということかな?」

「ビンゴ。悪いけど、簡単な質問をさせてもらうわね」

 

 ユンファはエクリドに質問をし始めた。先ずは彼の名前、出身国から、好きな食べ物、趣味などなど。

 どれも、本人なら簡単に答えられるものである。

 エクリドは淡々と、しかししっかりと答えていった。テンザの手伝いをしていたザイカは、エクリドの中にある、知らない一面を見れて嬉しかった。

 

 包帯を取り替え終えたとき、ユンファは最後の《尋問》をした。

 

「私と最初に会った時のことを、具体的に説明できる?」

「……」

 

 エクリドの動きが止まった。ザイカの心臓が高鳴った。先程まで明瞭に答えていたエクリドが口篭ったのだ。

 エクリドの視線はザイカを見ていた。ザイカもそれに気づいていた。

 

「説明できるが、ね。」

 エクリドが口を開いた。

「『ここで説明したくない』。では、回答にならないか?」

 

 ユンファの口が緩んだ。笑ったのだ。

 

「十分よ、エクリド。私は、あなたを本物と認識したわ。」

 

 

 

「ユンファ船長、先程のエクリドさんの回答、アレでよかったのですか?」

 

 ザイカが病室の外でユンファに問いただした。

「ええ、そうよ」

 

 そういうとユンファは自室に向かって歩き出した。ユンファはザイカの質問の回答を、彼には聞こえない声で囁いた。

 

「プライドの高い彼なら、性格上、絶対『あのこと』は、部下の前では口にしないもの。」

 

 

*******************

 

 

 男は、独り言のように呟いた。

 

「ばれた、ということですか?」

「ええ。でも、見つかっていません」

 

 矛盾する回答が、男の頭のなかに響いた。《テレパシー》だ。男はテレパシーで何者かと会話していた。

そして男は、相手の回答を理解できなかった。

 

「ばれましたが、見つかってません。まだ騙せています。ということです。」

 

 ほう、と男が顎に手をやった。感心しているのだ。

 

「流石、変幻のエキスパートですね」

「ありがとうございます」

 

 相手は、今乗っている船が《エンヴィロント》に向かっている事を伝えた。

 

「すこし、予定と違っていますねえ」

 

 男が困ったようなそぶりを見せたが、実際男は困ってなどいない。自分の力では入れなかった《エンヴィロント》に、部下の1人が入れるのだ。これは今まで以上のチャンスである。

 

「そのまま、船の中に溶け込んでいてくださいね。」

「ええ、判りました。」

 

 テレパシーは途絶えた。男は彼の変幻能力をかっている。変幻相手の『趣味』や『クセ』までコピーでき、しかも変幻対象は『人間である必要もない』のだから。

 男は、海賊の事は彼に任せ、自分は《ラスロウグラナ》の《白の審問所》前に来ていた。

 

「私のこと、入れてもらえるでしょうか」

 

 男は、審問所の正面門へ、堂々と向かっていった。

 

 

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