Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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4-6《死の爪、アルナード》

 偽者騒動はまだ終わっていなかった。犯人が見つからないのだ。

 そのため、ディーピッシュの船員の、全員が疑心暗鬼になってしまっていた。他が他を疑うことが船内で繰り返され、誰もが精神的に参っていた。

 しかしその状態でも、ユンファは船を出航させた。理由はエルフ達の言い分にあった。 

 

 エルフの地図作り《ツエイド》が言う潮流を使えば、《エリス港》からエンヴィロントに直接いけるという。しかしこの潮流、一時期しか流れないという。そのチャンスを逃すと、次は3月ほど待たなくてはならない。

 ユンファは考えたが、結局《紫の力》への探究心が勝り、出航を決意した。

 

 エリス港を出航し、3回目の朝を迎えたころ、突然に潮の流れが変わった。コレがエルフ達の言う潮流なのだろう。前方のエルフ達の船が、文字通り潮流に流されていったのが肉眼でも確認できた。

 

「あとは待つだけだ。この潮が、我々を《エンヴィロント》に連れて行く」

 

 リト=ハクが述べた。彼女は《ディーピッシュ》に乗っている。リト=ハクがこちらの船に乗っているのには訳があった。《ユンファ》たちの監視である。

 ユンファはただただ、自分が知らなかった潮流に感心していた。

 

「どの本にも、どの海図にも、この潮は書かれていないわ。実際に体感して、私もやっと真実だとわかったわ」

 

 

 

 緊迫した船内で、《ザイカ》は倉庫の整理をしていた。遠目の力が必要ない時は、ザイカは雑用をこなす事で船員としての役目を果たしている。

 整理を終え、倉庫から出てきたザイカを待っていたのは、ブロンドの髪の女の子だった。

 

「ザイカ、こんにチは!」

「あ、えーと、ノウンクンだっけ?」

 

 ハイ!と手を挙げ《ノウンクン》が返事した。実に微笑ましい。

 

「ザイカ、私、今日はアナタに会わせタイ人がいるの」

 

 そういうとノウンクンはザイカの腕を取り、いきなり引っ張り出した。突然のことでザイカは驚き、つい勢いで腕を振り払ってしまった。

 

「あ、ご、ごめ……」

 

 ザイカは咄嗟に謝罪の言葉が出たが、しかし、既に対象はいなくなっていた。目の前にいた彼女は、もう居なかった。

 

「…?」

 

 何処に行ったのだろう。ザイカは不思議に思いながらも、倉庫に忘れ物をしたことを思い出し、倉庫に戻った。

 

 倉庫の中には明かりはない。そのためランプを灯しての作業となるが、そのランプが見当たらない。

 

「おかしいなあ」

 

 倉庫の奥にもランプがあったことを思い出し、手探りで倉庫奥に行こうとしたが、

 

「……こんなに広かったか……?」

 

 先程と勝手が違う。壁の手触りも違っている。丸い金属が壁に埋め込まれているようだ。しかも仄かに暖かい。

 

 ふとザイカは、天井付近に赤い光を見つけた。

 しかしそれは、血の色に似ていた。

 

 そして、その赤い色は唐突に動き出した。こちらに近づいている。

 次第に暗闇に目が慣れたこともあり、ザイカは近づいてくるものが、目であることがわかった。そして直ぐにそれが何の目であるかも理解した。

 

 ドラゴンだった。

 赤い瞳。黒光りする鱗。白い牙も見えた。

 

 ザイカが壁だと思って触っていたのは、そのドラゴンの皮膚だったのだ。

 

 と、案外冷静に状況を分析していたザイカであったが、目と鼻の先にドラゴンの顔が来た瞬間、叫び声を上げた。情け無いと思っていたが。

 

「……っと、なにやっているのよ。」

 

 後ろに何故かユンファがいた。叫んでいるところを見られた格好だ。

 

「せせせせ、船長!!」

 

 ザイカは訳が判らなかった。ドラゴンのことも、ユンファがここにいることも。

 ユンファに気が付いたのか、ドラゴンが顔をユンファに向けた。そして突然、そのドラゴンは人語を喋りだした。

 

「ちょいと、からかっていただけだ」

「私の大切な仲間だからね、《アルナード》。」

「判っている。」

 

 ユンファもユンファで、ドラゴンと対等に会話している。一体彼らは何なんだろう。改めてザイカは思った。

 

「で、ザイカ。」

 

 ユンファはドラゴン……《アルナード》との会話を中断し、ザイカに視線を向けた。

 

「あなた、どうやってここに入ったの? ここは私が《鍵》をかけたのに」

 

 ユンファはザイカに疑惑の目を向けた。ザイカが偽者ではと思っているらしい。

 それに気づいたザイカは必死に弁解しようとした。

 

「こ、ここは、あの、《ノウンクン》って子がいて、ええと。」

 

 ザイカの《ノウンクン》の言葉に、その場にいたユンファとアルナードは驚きの表情を見せた。

 

「おいお前、ノウンクンにあったのか?」

 

 アルナードはザイカに顔を近づけた。ザイカなどアルナードの口の大きさから、一飲みだろう。

 ザイカは、喋るドラゴンにいまだおびえながら、状況を説明した。

 物言わず聞いていた二人(1人と1体)であったが、一通りザイカの話をきいたあとは、素直に納得していた。

 

「へえ、あの子に会ったんだ。あの子なら、ここに導けるわね」

「ふん、あいつか。余計なことを」

 

 アルナードと呼ばれたドラゴンが、またザイカに顔を近づけた。

 

「確かに俺は、『お前に興味がある』とは言っていたがね。ただそれだけなのにな。」

 

 その後、そのドラゴンは首を上げ、自分の胴体に乗せた。丸くなり、休んでいる体制だ。白鳥が寝る体制と同じだった。

 

「まあ、あいつに出会えるって事は、少なくとも《ユンファ》と同等ってことだ。こいつは面白い」

 

 そういうとアルナードは、目を瞑ってしまった。寝ようとしているのだ。ユンファがアルナードに聞いた。

 

「アル、眠るのか?」

「ああ、俺みたいな年寄りには、長話は疲れる。」

 

 そういうとアルナードは喋らなくなった。眠ったようである。

 

「さて、と。」

 ユンファはザイカの腕をつかみ、部屋からでた。

 

 そこには、部屋の扉は無かった。あるのは壁だった。

 

「私が、壁と別の部屋を繋いでいるの。だから、普通はあかないはずなんだけど、ね。」

 

 しかし、おそらくその扉を開けたのは《ノウンクン》だ。

 彼女は一体何者なのか。ザイカは思い切ってユンファに尋ねてみた。が、ユンファの回答はこうだった。

 

「実は、私も良く判らないのよ。でも、彼。不思議と悪い奴とは思えないのよね。神出鬼没だけど、幽霊かしら。」

 

 ザイカはまだ、いろいろとユンファに聞きたいことがあった。先程のドラゴン《アルナード》のことも。また、ユンファがノウンクンのことを《彼》と呼んだことに関しても。

 しかし、ユンファは渋面だった。真剣に何かを考えているようで、近寄りがたい雰囲気でもあった。

 そしてユンファはザイカのほうを向いた。渋面ではない。むしろ、好奇心の塊のような顔だった。もっと、もっと知りたい。

 

「ザイカ、あなたどうして、ノウンクンと出会えたの? 昔、ナニカしてた? っと言っても、あなた、記憶喪失だったわね。」

 

 ユンファの顔が残念な感情でいっぱいだった、が、現在この船が向かっている先を思い出した瞬間、ユンファは楽しい気分になった。

 

「……あそこにあなたの手がかりがあれば……。そうね、私があの国にいかなければならなくなった理由が、1つ増えたわ。」

 

 ユンファはそう呟くと、廊下を歩いてどこかに行ってしまった。

 

「……。」

 

 ザイカは1人立ち尽くしていた。ユンファに聞きたいことが山ほどあったのだが、結局彼女の自己完結で会話が終わってしまったのだ。

 しかし、この会話によって、さらにザイカの胸の内に不安の種を蒔いてしまったことになる。

 

「本当に……ボクはなんなんだ? それに、本当に手がかりがあるのだろうか、あそこに。」

 

 突然襲われた不安感。今はただ、コレが気のせいであることを願うばかりであった。

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