Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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5-2《マナを見守るもの、エレーシャ》

 目的地が近づいてきたのが、感覚的にわかった。

 マナの流れを読めないザイカや、エルフでないユンファさえ、『それ』が感じられる程である。

 

「コレが、マナの流れなの?」

 

 ユンファがリト=ハクに質問した。ユンファの質問に対し、リト=ハクが肯定した。

 

「ここはマナが濃い。だからこそ、ここがエンヴィロントの中心になったのよ」

 

 空気の対流とは違う、なにか言葉にできない、雰囲気的な流れを感じることができる。この流れを読み、自在に操ることができるエルフは、やはりユンファのような人間には理解しがたい能力をもった種族のようだ。

 

 集落が見えてきた。昨日泊まった、滅んだ集落とは比較にならないほど大きな場所であり、しっかりと木材が組まれた建築物が立ち並んでいた。

 

「森の中にこんな町があるとはね」

 

 道も、舗装こそされていないが、しっかりと土が押し固めらいる。脇には小さな木が植えられていた。

 

「この道の先、集落の中央に我々の長が居る。」

 

 町のエルフたちはこちらを避けているようだった。いままで他国との交流を退いてきた人種であり、人間が物珍しいのだろうか。

 リト=ハクもその意図を判ってか、できるだけ人の通りが少ない場所を選んで中心部に向かっているようである。

 

 が、

 実際は違った。

 

 エルフたちはむしろ、リト=ハクを避けているようである。エルフたちの決別の目はリト=ハクに向けられていた。

 

「……。」

 

 それらを黙殺し、目的地に向かうリト=ハク。

 ザイカも周囲の反応に気がついたようだ。

 

「船長……」

「……やっぱりね。」

 

 ユンファは、昨日からずっと違和感を覚えていた。

 

「私も理由はわからないけど、一つの確信を得たわ。ま、理由を知りたいなら、直接彼女に聞くといいわ」

 

 ユンファはこの大陸――《エンヴィロント》に着いてから、ずっと《異変》を感じていた。既に魔物がいないこの街中でも、異常なほどに《紫の石》は輝き続けていた。

 

「あとでお茶でもしながら、事情を聞いてみたいわね」

 ユンファの考えは、あながち冗談ではなかった。

 

―――

 

 町の中心ではあったが、その建物は周囲を森に囲まれていた。町の中央に森があり、その中に、エルフの長が住んでいるのだという。

 

「たいそうな建物だこと。」

 

 岩とも、レンガとも、植物とも違う、深緑の鉱物で作られた建物であった。この大陸で見た建物の中でも特異な風格を持つそれは、長が住むにふさわしいものといえよう。

 建物の中に案内された。建物の中には何人かのエルフが働いていたが、全員、リト=ハクを避けているようである。

 

 応接間であろうか、長いテーブルが置いてある部屋に案内されて長の到着を待った。

 

 程なく、軽鎧をまとった男性エルフとともに、女性のエルフが現れた。見た目だけはユンファよりも若く感じられたが、エルフは長寿であることを考慮すると、ユンファよりも年上であろうか。緑の色を基調とした、シックなワンピースを着こなし、銀でできた髪留めと、同じく銀製のペンダントを身に着けていた。

 

 特に目立つようなアクセサリーをつけないのは、彼女の前ではどんな装飾品でも、彼女の美貌の前には色あせてしまうからだろうか。詩人でなくとも、詩的な台詞が浮かんでしまう。それほど美しい女性だった。

 

 ユンファは彼女が入室するや否や、挑発的な態度をとった。

 

「あら、長が来るまでの間、演舞でも見せてもらえるのかしら。」

 

 ユンファの発言に、軽鎧のエルフは絶句し、しかしすぐに声を荒げてユンファに言った。

 

「な、なんということを!! このお方が、われわれエルフの長だ!」

 

 あら、と、ユンファは驚いた仕草を見せた。しかしザイカは、ユンファのその仕草はわざとだなと思った。彼女がこの部屋に入った瞬間、比喩ではなく『空気が変わった』のだから。

 

 リト=ハクもユンファの発言には驚いていたようであったが、しかし何もしなかった。ただ寡黙に、ユンファと、そして長の方を交互に眺めていた。

 ユンファの発言に対し長は、「ふふっ」と微笑みを返し、そして、

 

「不思議な方。お会いできて光栄ですわ」

 

 ワンピースの裾を持ち、会釈をした。

 ユンファは長の行動に、拍子抜けしてしまった。「エルフ一族の長」が、「海賊の船長」に対して、頭をさげてしまったのだ。これに対してはユンファも驚かされた。

 

「お、長! いったい何をしているんですか!」

「エレーシャ様!!」

 

 2つの罵声が飛んできた。先の言葉は、軽鎧のエルフから。後の言葉は、《リト=ハク》からであった。

 

―――

 

 ユンファとザイカの前に、お茶が出された。薄く透き通った黄緑色のそれは、ユンファが今まで一度も見たことのない不思議な香りのしたお茶であった。しかし、その香りは、長旅で疲れたユンファたちの体をやさしく包み込み、驚くほどのリラックス作用を持っていた。

 

(これは大変珍しいものね。もって帰れば高値で売却できるわ。後で交渉しようかしら)

 

 椅子に腰を下ろしたユンファがお茶の香りを堪能していた横で、ザイカは、そのお茶の香りに、失われた記憶の断片を見出そうとしていた。

 このお茶。確かに記憶の片隅に、これと似た香りを嗅いだ事がある。しかし、はっきりと思い出せない。

 

「さて。」

 

 ちょっとした沈黙の後、ユンファの正面に着席していた、美しきエルフの長が口を開いた。

 長の名前は《エレーシャ》。お茶が来る前に、簡単な自己紹介が行われている。

 

「遠い国から、はるばる我がエルフの《桃源郷》にお越しいただき、感謝いたします。《蒼の魔女、ユンファ》。」

 

 ドキリと、動揺を露にしたのは、ザイカのほうであった。ザイカが手にしたお茶が、軽くこぼれた。

 当のユンファは、静かに、物珍しいエルフのお茶を堪能していた。軽く口に含み、舌の上でお茶を転がし香りと味を楽しんでいた。エレーシャはユンファの態度は特に気にせず、話を続けた。

 

「我々はこの大陸で、他国との関係を築くことなく、独自の文化を作ってきました。」

 

 エレーシャはどうやら、自国、《エンヴィロント》の紹介から始めようとしているようだ。記憶喪失エルフのザイカには、エレーシャの会話には非常に興味があった。自分の記憶を少しでも取り戻す手がかりがほしかったのだからだ。

 

 しかし、ユンファがそれをさえぎった。

 

 ユンファは半分ほどお茶を飲み終えており、そのカップをテーブルの上に、わざと音が鳴るように乱暴に置いた。

 

「御託は結構」

 

 乱暴に置いたカップからは、しかし、全くお茶がこぼれていなかった。

 

「長、私たちは、あなた方の生態を調べに来たのではない。」

 

 まっすぐにエレーシャを見ながら、ユンファが言った。さらにユンファは続けた。

 

「正直、私たちには時間がない。お国自慢なら、事が終わった後でなら十分にお時間をとって差し上げられます」

 

 丁寧な言葉遣いをしてはいるが、ユンファの目は全く笑っていなかった。

 

「……これは失礼。では、率直に申し上げますわ、私の目的を。」

 

 エレーシャはユンファの気迫に押された、訳ではないが、長くなりそうな前置きを取っ払い、単刀直入、彼女の目的を述べた。

 

「ユンファさん。あなたには悪いのだけども……」

 

 エレーシャは笑顔でユンファに告げた。しかし、目は笑っていなかった。

 

「『紫の力』は、あなた方ではどうにもならないわよ」

 

 ユンファの眉がぴくりと動いた。冷たい笑顔も美しいエルフの長は、さらに目的をユンファに告げた。重要なキーワードとともに。

 

「『プレインズウォーカーの力』は、人間には扱えませんわよ、魔女さん。我々が責任を持って封印いたしますわ。」 

 

 エレーシャの表情は、冷たい笑顔から、強い意志を持つ族長のものへと変わっていた。

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