Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~   作:黒片大豆

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5-3《エルフの企み》

「昔、この世界――エジュレーンは、全く秩序が存在しない世界でした。」

 

 エルフの長、エレーシャはユンファたちに淡々と語り始めた。

 

「しかし、そこに現れたのは神。神のごとき力を持つものが、この世界を取りまとめ、人々に『秩序』と『知識』を与えたのです。」

「しかし、世界の全ての知が集まるとされる《青の図書館》には、そんな記録は残ってないわ。人は自然から知を得て、そして国を築いたと書かれている。神様論なんて、馬鹿馬鹿しい。」

 

 ユンファはエレーシャの『神様降臨説』に真っ向から反論した。が、エレーシャも負けてはいなかった。

 

「もしその書物が……図書館にある書物が、間違いであったら? もしくは意図的に、捏造されていたとしたら?」

「……。」

 

 ユンファは、あまり良い顔をしなかった。エレーシャの言いたいことが良く理解できたからだ。

 

 青の図書館は、膨大な知識を得るために、影で様々なことを行ってきた。その中には非人道的な所存も少なからずあった。

 

 『知識の量』が、青の図書館の国――《ノウルオール》を支えるための糧であったためだ。そして、その国が栄えるために得られた知識の中には、いくつもの『怪しい知識』があった。

 あまりに多量に知識が集まってしまったため、その情報の真偽が、明確でないものも多々存在していた。

 

 そしてユンファは、青の図書館の知識には一部疑問を抱いていた。

 

 本当に『全ての知識』が集まっているのだろうか。

 では、彼が求めていた《あの力》とは何なのか?

 

 さまざまな文献を漁ったのに、その力についての文献は1つも無かった。

 

 ユンファは、その力……《紫の力》の真意を探るために、図書館から独立した。

 

「……納得、したわ。」

 

 ふぅと、ユンファは深いため息をついた。そしてユンファはエレーシャに確認を取った。

 

「つまりあなた方エルフ族は、あの《紫の力》を、その神様……《プレインズウォーカー》の力だと、言いたいのね?」

「……あら、判ってもらえましたか、ユンファさん。お話は非常に早く決着しそうですね。」

 

 ザイカは、全く話に付いていけなかった。しかし、実際に紫の力の効果を目にしていることもあり、それが『神様の力』であるといわれても合点がいっていた。

 

 普通の人間には扱えないほどの強大な力を発揮する石ころである。それが、世界を造った『神様の力のかけら』であるとすれば、今までの出来事がつじつまが合ってしまえるように感じてしまう。

 

「……でも、じゃあ、なぜその『神様の力』が、『紫の石』として存在しているのですか?」

 

 ザイカは自分が疑問に思ったことをストレートに聞いた。するとエレーシャは途端に悲しそうな顔をし、目を伏せ首を横に振った。

 

「この世界の外側から、《次元渡り》して攻めて来たのです。この世界を我が物にせんと企む輩が。」

 

 エレーシャの回答に対し、ユンファが思ったことを口にした。

 

「つまり、神のごとき力を持つ《プレインズウォーカー》がもう一人現れた。そして、元から居たプレインズウォーカーの世界を奪おうとした。」

「そうです。その戦いは、当時の世界の生命すべてを巻き込んだ、とても大きなものであったと伝えられています。」

 

 エレーシャは険しい表情で語った。

 

「そしてその戦いの終焉……。2人のプレインズウォーカーは、互いの力がぶつかり合い、結果、両者とも消滅しました。」

「……相打ちだったってこと?」

「はい。しかし互いの力がぶつかり合った際に、その力が結晶化し、世界に飛び散ったと。」

「それが、『これ』ね。」

 

 ユンファは腰につけた麻袋をはずし、その袋ごとテーブルに置いた。ほのかに紫色に光を放っているのが、袋の外からも判る。

 エレーシャの側近のエルフたちがざわつき始めた。あまりに無神経にユンファが《紫の石》を取り出したからだろう。エルフ族には『神の力』と伝えられているモノが、粗末な麻袋に入れてあるのだ。エルフたちが驚くのも頷ける。

 

「それは危険な力です。」

「重々承知よ。」

 

 エレーシャの忠告に対し、ユンファはあっけらかんと答えた。その応対に、少しエレーシャの眉が動いた。

 その時、横からリト=ハクが割って入ってきた。

 

「我らエルフは、その危険性を認識した上で、その力を封印しようとしている。」

 

 よく通る声でユンファに、自分たちが行おうとしていることを、簡潔に伝えた。

 

「封印……ねぇ?」

「はい。我らエルフは、マナの力の制御に関してはエキスパートです。紫のその力も、マナの一種であることには変わりありません。」

「我らエルフ族に、その力の管理を任せてくださいませんか、ユンファさん。」

 

 エレーシャの提案は理に適っていた。ユンファはマナを利用し術を使うことに関しては長けているが、そのマナ自体の扱いは決して得意ではない。

 

 ザイカも、この場合エルフ族に石を託したほうが安心だと考えていた。が逆に、これに対するユンファの答えは安易に予想できていた。

 

「お断りね。」

 

 テーブルに置かれていたはずだった麻袋は、いつの間にかユンファの腰に下がっていた。

 

「なぜ、か。理由をお聞かせ願いますか?」

 

 エレーシャは眉1つ動かさずにユンファをみていた。しかしその余裕が、返って不気味な感じを与えていた。

 

「まあ、理由なんて沢山在るけど。全部を語ると、明日の朝になっちゃうわ。」

 

 ははは、とユンファは笑った。そのまま彼女は席を立った。

 

「そろそろ御暇しなくちゃね。あまり有意義な情報をお聞きすることができなくて、とても残念でした。」

 

 ザイカもユンファの行動につられて席を立ってしまった。が、席を立った瞬間、部屋の中の空気が非常に緊迫していることに気がつき、軽い気持ちで席から離れたことを後悔した。

 

 部屋の出口には槍を構えたエルフ兵が2人。また、部屋の中にはあの《リト=ハク》が居る。

 しかしユンファは、彼らが全く見えていないかのように出口に向かっていった。長槍エルフ兵たちがそんなユンファの行動を見て、一瞬ひるむ。

 

「ユンファさん、お忘れものですよ?」

 

 エレーシャがユンファに声をかけた。

 

「何かしら?」

 

 ユンファは、《冷気》をまとった右手をそのままに、振り向いた。エレーシャが呼び止めなければ、彼女はエルフたちを氷漬けにでもして出て行くつもりだったらしい。

 

 ザイカはユンファの後をついては行かず、席を立った状態で固まっていた。なぜなら、喉元に細い長剣の切っ先が向けられていたためである。

 

「大切な部下を、そんなに簡単に置いていけるのか、あなたは!」

 

 ザイカに剣を向けているリト=ハクが声を荒げた。

 

「せ、船長、すいません……。」

「ええ、置いて行くつもりよ。」

 

 淡白にユンファは言い放った。この答えにはザイカをはじめ、リト=ハクやエレーシャも驚いた。

 

「ザイカ、あなたの目的は『ここ』に来ることだったのでしょ? 目的が果たせて良かったじゃないの。」

 

 ザイカがユンファの言葉を理解するのにしばらく時間がかかった。そしてザイカが理解するよりも先に、エレーシャやリト=ハクのほうが理解した。

 

「リト=ハク。彼を解放しなさい」

 

 エレーシャがリト=ハクに命じた。

 

「賢明な判断ね。」

 

 ニコリと、ユンファは微笑んだ。目は笑ってなかった。

 長剣から解放された途端、ザイカは腰が抜けてしまったのか、また自分の席に座り込んでしまった。心ここにあらず、といったところか。

 

「エレーシャさん、私は信じています。仲間を第一に考える種族であるエルフが、同属を罰するようなことが無いことを」

 

 そういうとユンファは改めて踵を返し、出口へと向かっていった。

 

「ユンファさん。もう1つ、忘れ物がございます。」

「……なによ。」

 

 エレーシャの2回目の静止に、次は明らかに不機嫌な態度で、ユンファは答えた。

 

「ザイカさんもそうですが……、そちらの、『石』を持って返って仕舞われると、非常に困りますの。」

「あ、そう。あなたたちはここを戦場にしたいのね?」

 

 再びエレーシャのほうに向きなおしたユンファは、今度は両手に凍える冷気をまとっていた。

 

 ユンファはさっと周囲に目を配る。

 

(この中での要注意人物は……。やっぱり《リト=ハク》よね。あとあの《エレーシャ》。可愛い顔して、何企んでいるか良くわからないわ。)

 

 ユンファは既に臨戦態勢である。リト=ハクも剣を構えている。が、エレーシャは全く戦うような素振りを見せていない。

 

「エレーシャさん、よろしいの? 私は本気よ。」

 

 ユンファの呼びかけにエレーシャは、妖艶な微笑を返した。

 

「大丈夫です。『誰も傷つかず、このいざこざは終わります』ので。」

 

 

 

 瞬間、ユンファの体から力が抜けた。

 がたっと音をたて、ユンファが崩れ落ちた。

 

「あ、れ。」

 

 ユンファが両手にまとっていた術も雲散霧消してしまった。

 なにが起こったのか理解できていないユンファに、エレーシャが話しかけた。

 

「お茶です。このお茶、エルフが摂取しても害は無いのですが、人間が飲むと、麻酔作用が出るのです。」

(な、そんな……)

 

 ユンファは言葉を発しようとしたが、既に口の周りにまで痺れが来てしまっていた。

 エレーシャの顔は心底嬉しそうであった。子供が大人にいたずらを成功させたときにする顔である。

 

 エレーシャは椅子から立ち上がり、

 

「申し訳ありませんが、ユンファさん。あなたは危険です。牢に入れさせてもらいます。《紫の力》は、我々の力で、責任を持って封印させてもらいますね。」

 

 そういうとエレーシャは、リト=ハクに目で合図をし、リト=ハクはユンファの腰に下げてあった麻袋を取り外した。

 

 ザイカはその間、ただ椅子に座っているだけで何もできなかった。

 

「ザイカさん。あなたもしばらく牢に入ってもらいますね。あなたはお茶の作用を受けなかったということで、あなたがエルフであることは証明されましたが、詳しい正体がわかるまで、あなたも『海賊』なのですから」

 

 はっと、『海賊』という言葉にザイカは反応した。エレーシャたちはまだ自分のことを『海賊の一味』として扱っている。

 つまりエルフから見れば、自分はまだ『ユンファの部下』ということだ。

 

「……はい、わかりました」

 

 ザイカは言われるがままに立ち上がり、と同時に、ユンファを助けようと懐から短剣と抜き出し、リト=ハクを襲撃した。

 

 が、力、技術、戦闘経験の差がありすぎるザイカの奇襲劇は、リト=ハクの、首筋への手刀による一撃で、幕を閉じた。

 

「……危ないですね、やはり。」

 

 エレーシャは悲しい顔をしていた。

 

「たとえ勝てない相手でも、自分の主君の危険には、命を支払ってでも止めようとしますからね、我々エルフという種族は」

 

(つまり、彼はまだ彼女の部下であると思っている、ということか。)

 

 リト=ハクは、気を失っているザイカと、麻痺して動けないユンファをそれぞれ片手で持ち上げ、部屋を出た。

 

「地下の牢に入れておきます。その後に、《紫の石》は祭壇へ。」

「ええ、お願いしますね。」

 

 エレーシャはにこやかにリト=ハクと兵士たちを見送った。その暖かい笑顔の裏には、リト=ハクさえも何も聞かされていない企てがあるのだろうか。

 

 その答えは、エレーシャしか知らない。

 

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