Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~ 作:黒片大豆
夜になり、海の上は冷え込んできた。空気が澄んでいるためか、月が眩しいほど輝き海を照らしている。
船倉の窓から光り輝く星を見ながら《ザイカ》は医務室に向かっていた。船長から呼ばれたのだ。昼に囚われた捕虜が目覚めたらしい。
医務室に入るとそこには、船長《ユンファ》、《エクリド》、《テンザ》の他にベッドの端に腰掛けている女性がいた。催眠術から冷めた捕虜の1人である。
「……さて、話してもらえるかしら?」
ユンファが彼女に問いかけた。彼女は一瞬『ビクッ』と体を震わしたが、暫くすると落ち着いたのか、ゆっくり話し始めた。
「……私は《ラスロウ・グラナ》で宝石商をしています。今回、《ノウルオール》に宝石を輸出するため、あの船に乗っていました。」
彼女は話を続けた。
航海中に突然、濃い霧に覆われたこと。
心配になり船室に入ったら、そこには船長の『ゾンビ』があったこと。
そのゾンビが突然『ココに紫の宝石は売っていますかね?』と喋ったこと。
霧に紛れて黒い「ガス」が発生し、それを吸った船の中の人たちがバタバタと倒れていったこと。
倒れた人のほとんどが、船長のような『ゾンビ』になり立ち上がったこと。
そのゾンビが何かに操られるように船の中を物色し始めたこと。
彼女は休むことなく、さらに話を続けた。
「私達は、出発前に『ラスロウ・グラナ』で偶然、祝福の儀式を受けていました。そのため助かったのかもしれません。」
そういうと彼女はブローチを掲げた。ザイカが不思議そうに、その天使の羽根をモチーフにしているブローチを眺めていると横から小声でテンザが説明してくれた。
「それは白金でできているのですよ。そして祝福の儀式とは、それを購入し身につけることです。」
白金には「邪」を振り払う力があるというが、しかし庶民一般は手が出せないくらい高価なものである。彼女の「宝石商」という職業は伊達ではなかったことがわかった。
彼女は話を続けた。
「私も、その黒い霧を吸い、気を失いかけました。しかし失われる意識の中、倒れた人たちが何かを探すように船を物色し始めたのが見えて……。私は、そこで意識を失いました。」
ふうん、と、ユンファがさも興味がなさそうに相槌を打った。
「私としては、ゾンビ云々よりも……。その『紫の宝石』が気になるわね。」
ユンファの発言に彼女はドキリとした。しかしそんなことは全く気にせずにユンファは腕を組み、彼女を睨んでいる。
程なく彼女は口を開いた。
「その宝石は、私がブラックマーケットで手に入れたものです。とても妖艶な美しい輝きをした、今まで私が見た宝石の中で一番のものです。これは極秘裏に《ノウルオール》で買い手も決まっています……。」
「で? その宝石は今何処に? まさかゾンビに持っていかれたの?」
「い、いえ。それは無いと思います。あれは特別なところに、厳重に保管していますから。」
ザイカは「あれ?」と思った。船の中の物は、宝石食糧その他、あらかたこっちの船《ディーピッシュ》に運んだはずだ。保管してあるような場所さえその時は見当たらなかった。
「……なるほどね。」
ユンファはくすりと笑った。部下達に物を運ばせておいて、そういった保管場所さえ見つけられなかった理由をユンファは理解したのだ。すると、捕虜の女は保管の方法を説明し始めた。
「『結界』を、船室のひとつに張ってもらいました。外からでは入り口のドアさえ見つけられません。」
「……じゃあ、早速、その結界の場所と解き方、教えてもらいましょうか?」
ユンファはグイと顔を彼女の顔に近づけた。まるで強要だなあと、ザイカは思ったのだがユンファは海賊である。当たり前の行為といえば当たり前だった。
「残念ながら……それはできません。」
本当に残念そうに、彼女は答えた。「あの結界の解き方は《ノウルオール》の取引先しかわかりません。」
しばしの沈黙があった。
テンザは静かに目を閉じ、時が過ぎるのを待っているようだった。
エクリドは「はぁ?」という顔で、あっけにとられている。
ユンファは頭を抱えてしゃがみ込み、そして苦虫を噛み潰したような顔で「あのクソジジイ……」とつぶやいた。
ユンファの目的、それは『紫の宝石』を見つけ、手に入れることである。
この世界……《エジュレーン》には大きくわけて5つの大陸が存在し、それぞれの大陸は土の質、鉱石の材質が大きく異なるのが特徴である。
例えば《白の審問所》が存在する《ラスロウ・グラナ》。そこでは白く柔らかな光を放つ鉱石が主に採取される。《白金のブローチ/Platinum brooch》などの白金のほか、チタンなども採取できる。《赤の憤怒山》がある《ゴルゴロ=イクー》では鉄鋼が多く採取でき、またほかにルビーや石炭なども得られる。
そしていつからか、採取できる鉱物の色で大陸が自然に「色分け」されるようになった。同時に、その土地ごとがもつ「マナ」の力もその色に染まっていったという。
しかしそんな中、この『紫の宝石』というのは何処の大陸から採取されたとか、どんなマナを持っているのかなどが全く不明なものである。いつの間にかこの《エジュレーン》の世界に登場し存在していたとだという。そしてそれは、5大陸がそれそれ持つ「5つの色」をはるかに越える力を持つ色であるともいわれている。この『紫のマナ』を扱えるようになれば、「願いをかなえることができる」、「永遠の機関を手に入れられる」、「神聖なる神の領域へ旅立てる」らしい。
だが実際問題、「紫マナ」は何れも伝説の中の話であった。特に《青の図書館》が存在する《ノウルオール》では「作り話」「御伽噺」とされている。
そしてその「御伽噺」を、ユンファは捜し求めていた。ついに「それ」が目前にあるというのに、文字通り「壁に阻まれた」のだ。
「……あのう……。」
捕虜の女はユンファを心配したのだろうか、オドオドと声をかけた。
すると突然ガバッとユンファは立ち上がり、また顔を彼女の目前に持っていってこう言った。
「場所だけ教えなさい。もういいわ。私が《解呪》してやるわよ。」