Azure crew ~エルフと女海賊と6色目のマナ~ 作:黒片大豆
大陸《ゴルゴロイクー》は、「赤の憤怒山」を大陸のほぼ中心に位置する。
火山のふもとは世界でも有数の鉱山があり、鉱物は鉄や亜鉛、鉛やコークスなどのほかに、ルビーやサファイヤ、金や銀などの貴金属も産出している。
この大陸には、山での生活方法を習得した種族「ゴブリン」「ドワーフ」「バーバリアン」がおり、昔からその3者はそれぞれの長所を生かし、それぞれが支えあって生きてきた。
個体数が多く、体が比較的小柄て単純労働に向いているゴブリンが鉱山を掘り進み、体力があり、戦闘や削岩に関しての知識が在るバーバリアンは、主にゴブリンたちが仕事に集中できるように周囲の警護を行い、時には削岩を手伝った。手先が器用で、外交にも長けていたドワーフは、発掘された鉱物を装飾品などに加工し、民芸品、交易品などにしていた。
交易で得た財は、バーバリアンやゴブリンにも対等に振舞われていた。
しかし近年、外交が盛んになったこともあり、均衡のとれていた3者のバランスは、簡単に崩れ果てた。
ゴブリンたちは奴隷のように過酷な労働を強いられ、バーバリアンたちはゴブリンを酷使するようになった。
一方ドワーフには、民芸品の輸出により巨額の富を手に入れたものがおり、様々な理由付けで、対等な報酬をバーバリアンやゴブリンたちに支払わないものも出てきた。酷な者にいたっては、鉱物をさらに掘らせるように促しもした。
自らは、悠々とお茶を片手に、白木のテーブルに座りながら。
―――
ゴブリンたちは自分が生きるので精一杯だった。自分に割り当てられた労働がさらに厳しい条件になることを知り、一時は一揆を起こそうとも考えていたが、まとまりが生まれないのがゴブリンである。
過酷な労働で、仲間が倒れ、死んでいく様を見ていた1人のゴブリンがいた。彼は他のゴブリンと違い、多少「頭が切れる」奴だった。
その頭の回転の速さに、一時は強制労働から開放され事務的な仕事をさせられたこともある。
しかし、その仕事の最中、バーバリアンの考えに真っ向から楯突き、彼はまた暗い炭鉱に戻されてしまった。
先ほど同胞が死んだというのに、彼は悲しくなかった。
悲しみを越え、怒りがこみ上げてきた。
こんな私達を生んでしまった、この世界を恨むようになった。
一心不乱につるはしを振りおろし、彼は他の仲間とともに炭鉱を掘り進んだ。
これを堀り、鉱脈のひとつも見つけないと、次は自分の番だ。
皆、必死だった。生きて日の目を見たかった。そして自由になりたかった。
彼は掘った土の中に、きらりと光る宝石が落ちているのを見つけた。彼は不思議に思った。この鉱山では《アメジスト》などはあるわけないのに。
彼はその宝石を拾い上げた。刹那、紫色の光が洞窟内を照らし、そして彼は、『全てを理解した』。
この瞬間、自分はとんでもない力を得てしまったこと。
周りの皆も、それを理解したこと。
そして
周りの皆も、自分も、「死」というものを理解したこと。
やっと、酷過な労働から、恨めしい世界から、彼らは解放された。
―――
ユンファたち一行は船を港に近づけた。エリス港への下船許可が下りたのだ。
とりあえずではあるが、ユンファたちの本業は海賊ということもあって、皆、マントを羽織るなどの簡単な変装をし、下船していった。
「ザイカさんは、ちょっと大きめのものがいいですね。」
小間使いとして上船していた、麗しの声を持つゴブリン《コーダ》。
彼女はザイカに、大きなフード付きのマントを渡した。
「その耳は、流石に目立ちますから。」
「あ、ありがとうございます。」
マントを見につけ、フードを被ってみた。厚手のフードは、十分にザイカのエルフ耳を隠した。
後ろから、パタパタと足音がした。
この音は、船長のものだ。ザイカは直感し、振り向いたが、そこにはいつものユンファはいなかった。
「あら、ザイカ。あなたも降りるのね?」
そこに立っていたのは、美女だった。いや、声はユンファであるが、彼女の特徴であった、眼帯がなく、彼女には両目が存在していた。
声が詰まって、返事が出来なかったザイカの状態を理解し、
「ああ、これね。《擬態》よ。」
ユンファ自身が、顔の状況を説明してくれた。
「いうなれば、術で仮面を作っている、ってところ。」
彼女が右手を顔半分に当て、そしてそれをおろした。
すると、いつもの眼帯が現れた。いつものユンファ船長がそこに立っいた。
「ちょっと眼帯は目立つからね。エリス港では、こうやって眼帯を隠しているのよ、私。」
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船を下りるとそこには、小柄な、白髭を蓄えたドワーフが立っていた。
「ようこそ、ユンファ。」
「どうも、ロッカブさん。」
ユンファがロッカブと呼んだドワーフと握手をし、簡単な挨拶を交わした。
「さて、ユンファ。見慣れない顔が多いようだが……。」
ロッカブが、ユンファの後ろに立っている人達に目を配る。
ドキリ、とザイカの心臓が鳴った。がしかし、ロッカブが見ているのはザイカのさらに後ろのほう。捕虜たちを見ていたのだ。
ふむ、と顎鬚をいじりながら、ロッカブがユンファに聞いた。
「ユンファ、とうとう人身売買にも、手を出したのか? やっと本格的な海賊業を始めたのかい?」
「笑えない冗談は止めてね。一生商売できなくする?ここで一生を終える?」
しかしユンファは笑っていた。ロッカブも一緒に笑顔になった。
「ふむ、失礼した。軽率だったよ。」
ロッカブは白髭をなで始めた。身なりや言動から、この港でもかなりの資産家であると思える。
「さて、今回は、どういったものを持ってきてくれたのかい?」
「早速だけど、今回は大物が揃ったわ。」
ユンファは親指で、船の方を指した。
「詳しくは、船内で話しましょうか。」
ユンファは船に戻ろうとした。
しかしそれに対して、ロッカブは船に乗ろうとはしなかった。
「すまない、ユンファ。実は急用ができてね。取引は後日にしてくれないか。」
あら、とユンファがよろけた。
「どうしたのロッカブ。あなたに交易以上に重要な用事なんて在ったかしら?」
申し訳なさそうに、ロッカブは髭をいじりながら、考えていた。
初老のドワーフは、一瞬このことを伝えるべきか迷っていたのだ。
ロッカブは、ユンファが海賊をやっている理由を、少なからず知っている。だとすれば、今回の事件は、ユンファには知らせるべきだろう。
それに、理由も無く取引を中止するのは信頼関係が悪くなる。
ロッカブは深刻な顔でユンファたちを見て、こう答えた。
「実はね。つい先ほど、私の持つ炭鉱のひとつが爆発したのだよ。原因は調査中だがね。鉱脈を探している最中だったから、ガスか何かだとは思うのだが……。ちょっと、気になる情報があってね」
ユンファは、下船前の状態を思い出した。あの不気味に光った「紫の宝石」。
そのときの現象と、炭鉱の爆発。それらには何らかの関係があるのでは。
ユンファの疑問は、ロッカブの一言で、確信へと代わった。
「そのときの生存者が、『紫色の光を見た』といっているんだ。ま、そいつも死んでしまったがね。」