とある終焉の絶対零度《アブソルート》   作:重石塚 竜胆

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この作品では、時系列をアニメ版超電磁砲を基準に、設定の一部を原作小説版から抜粋して構成しています。


とある夏日の裏外七席(アウターセブン)

七月上旬。学園都市のとあるファミレスの一角に、三人の少女の姿があった。

その内の二人は、学園都市内でも有名な《常盤台中学》の制服に身を包んだ少女達。

強能力者(レベル3)以上の能力強度が無ければ入学すら出来ない、卒業までの間に必要な教育を総て済ませる……等々、様々な観点から見て学園都市でも五本の指に入るだろう程に有名な学校であり、

《休日であろうと外出時は制服を徹底する》という校則も相まって、230万人もの人間が暮らす学園都市にあっても《常盤台の制服は駅の人混みの中でも分かる》などと噂されている。

 

それを想えば、同じ常盤台の二人がファミレスに居るのは(そもそもお嬢様学校で有名な常盤台の生徒がファミレスに居るという点を除けば)おかしくはない。

 

━━━━おかしかったのは、最後の一人。

私服姿である事から、恐らくは常盤台の生徒では無いだろう。

 

……だが、その()()()()()()()()()()()()

 

真っ白なワンピースを着こむ少女の、白蛇のように長く伸びた長髪(ロングストレート)は、光の総てを弾くかのような銀色であり……

なによりも、そう。純白、とそう評するのが相応しい少女の眼の《血のように昏い紅》の色が、その存在が異常そのものだと知らせている。

 

「━━━━黒子さんの方から呼んでくれるのは珍しいかしら……ね?」

 

そんな少女が、飲んでいた紅茶━━━━この暑いさかりにも関わらずカップに収まったホットの紅茶━━━━から口を離し、対面に座る常盤台の少女の片割れに話しかける。

 

「は、はいッ!!()()()()()においてはご機嫌麗しゅう……!!」

 

《ご機嫌麗しゅう》。

そう、畏まって答えた少女━━━━白井黒子の言葉に、純白の少女は、その()()な顔を少し顰めて言葉を紡ぐ。

 

「もう……そんなに畏まらなくていいって言っているじゃない……ね?

 ()()()()()()()なんだから……ね?」

 

「そうよー黒子。()()()()()()ってば、なんかそういう風に扱われるのは苦手だって言ったじゃない。

 なんか緊張してる?」

 

ガチガチに……とはいかないまでも、少々居心地が悪そうな黒子に対して、その隣でアイスティーを飲みしなに軽く言葉を返す少女━━━━御坂美琴の言葉は軽い。

目の前の純白の少女とは似ても似つかない(というより、純白の少女の外見が浮世離れし過ぎている)ながら、彼女と目の前の少女の関係性は()()()だった。

 

(確かパパが『茨城に行った時に拾って来た!!』って言って連れて来たのよね……)

 

御坂美琴の母は《非常に》若く、本来であれば目の前の純白の少女の母には似つかわしくない。だが、御坂美琴の父が旅先で《彼女》を拾って来たといい、養子縁組を行った事で……彼女は、《義理の姉》となったのだ。

 

「えぇ……普通であればそうなのですが……本日は、《美麗さん》をも呼び出させていただいた用件が用件でして……」

 

━━━━そして、白井黒子はその名前を口にする。

少女の名前。かつて、純真な眼差しで彼女の美貌を褒めた《妹》の言葉に感銘を受けて両親が付けたその名。

 

━━━━御坂美麗(みさかみれい)、と。純白の少女は今は、その名で呼ばれていた。

 

「用件……というと?」

 

「えぇ……実は、《風紀委員》でわたくしのバックアップをお願いしている後輩がお二人に会いたがっておりまして……お二人が超能力者(レベル5)として好奇の視線にさらされるのが苦手なのは承知の上なのですが……」

 

「後輩想いな黒子ちゃんとしては無碍にしたくはない……という事、ね?」

 

「えぇ……はい……」

 

「んー……ま、私は良いわよ?確かに誰彼構わずってのは嫌だけど、黒子の友達だって言うなら大丈夫でしょ。

 お義姉ちゃんは?」

 

「お、お姉さま……ッ!!」

 

あっけらかんと……いや、どちらかと言えば黒子への信頼ゆえだろうか?

御坂美琴はあっさりとそれを了承する。

 

「私も、特に問題はありませんよ?むしろ、此方としても黒子ちゃんの後輩さんとはお知り合いになりたいですし……ね?」

 

「おおお、大お姉さままで……ッ!!黒子は……黒子は幸せですわーッ!?」

 

「わーッ!?飛びつくな引っ付くな手を入れるなァァァァ!?」

 

感極まった事を表現する為に、何故か……いや、()()()()()()()黒子は隣に座る美琴の元へと飛びついた。

 

「お姉さまお姉さまお姉さま~!!、ッて冷たァ!?」

 

だが、その頬擦りは中断される。

━━━━いつの間にか、彼女の首元に()()()()氷の冷たさが、彼女の狂騒に文字通り《水を差す》事で。

 

「はぁ……ありがとね、お義姉ちゃん……」

 

「どういたしまして……ね?

 黒子ちゃんもほら……此処はお店なのだから、ね?」

 

カップに口を付けながら、美麗は義妹へと優雅にウィンクする。

同時に、手の動きで退出を促そうとしていた店員への制止も行う手際は見事としか言いようがない。

 

「うぅ……申し訳ございませんの……」

 

(そもそもの目的はともかく)今の一件は全面的に自分が悪いと分かっているからだろう。頭を冷やした黒子は、そそくさと座り直す。

美琴に対する過剰極まるスキンシップと大暴走を除けば、なんのかんのと彼女も常盤台に相応しいレディなのであった。

 

「━━━━いらっしゃいませー!!何名様でしょうかー?」

 

「あ、待ち合わせです。」

 

「畏まりましたー!!」

 

そんな折に、ファミレスの中へと入店してくるセーラー服の二人組。片方は長く伸ばした黒髪に、人懐こい雰囲気を纏う少女。

そして、もう片方は……何故か、頭に花冠を被った少女。待ち合わせと答えたのも此方の少女だった。

 

「……おっと、来ましたわね……初春、此方ですわ。」

 

「あ、白井さん……と、も……もしかして……!?」

 

「ん、あの子達が黒子の後輩?」

 

「えぇ。ご紹介致しますわ。柵川中学一年の初春飾利さんですの。」

 

黒子の手招きに応じて近づいて来た少女達。彼女達こそ

 

「は、はじめまして!!初春飾利……です……!!」

 

「えー、それから……」

 

「どうもー、初春のクラスメイトの佐天涙子でーす!!

 何だか知らないけどついて来ちゃいましたー。因みに能力値は《無能力者(レベル0)》、でーす!!」

 

「佐天さん!?そんな投げやりな……」

 

恐らくは、初春が無理矢理に引っ張って来たような形なのだろう。半ば投げやりに放られたその自己紹介は、ともすれば彼女の印象をも悪くしかねない。

だが、しかし。

 

「初春さんに……佐天さんね。

 私は御坂美琴。知ってるかもしれないけど……隣の白井黒子の先輩をやらせてもらってるわ。よろしくね。」

 

「私は美琴ちゃんの義理の姉の御坂美麗よ。よろしく……ね?」

 

『ほぇ……?』

 

━━━━《超能力者(レベル5)》は、その程度では動じない。

何故ならば、彼女達にとっての同類である超能力者達はその一人一人が強靭にして屈強、なおかつひん曲がった《自分だけの現実(パーソナルリアリティ)》を持っている変人奇人の巣窟……

つまり、()()()()()()()()()()()()。そういった事もあり、高位能力者にとっては《自己紹介の仕方が独特である》程度の事など《本人の個性の内》として流されてしまうのだ。

 

「んで?この後どこ行く?ゲーセン?」

 

「フッフッフ……こんな事もあろうかと、この黒子が完璧なデートプラン(計画)を……ってあァ!?」

 

「なになに……黒子?私の見間違いじゃ無ければ、この()()とやら。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って書いてあるんだけど?

 まったく……後輩を押し付ける相手としてお義姉ちゃんまで呼び出すなんて……計画的なんだか短絡的なんだか分かんないわねアンタ……」

 

「……も、黙秘権を行使致しますわ……」

 

「フフフ、黒子さんったら……あんまりおイタするようですと、ヒヤッとしてしまいますから……ね?」

 

「ヒェッ……」

 

━━━━だが、その対応は、高位能力者と関わった事など殆どない(コレは珍しい事では無く、そもそもの人口比率を考えれば一度も高位能力者に出逢わない事など《普通》の範疇である)初春と佐天にとっては新鮮だった。

一般に、能力者という者は増上慢に陥りがちである(というより、《自分だけの現実》を研ぎ澄ます以上、そうでもなければ《世界を変える》事など夢のまた夢である)。

そういった《数が多い》能力者が暴れる事で、学園都市内には高位能力者と無能力者の心理的分断が()()()()()()()

佐天が投げやりな態度を取った理由もまさしくそれであり、美琴たちの事を『お高く止まったお嬢様』と思っていたのだが……

 

「……なんか」

 

「思ってたのと違いますね……美麗さんを除いて……」

 

「……アレ?でも、美麗さんだけ私服……ですよね?」

 

「ん?あぁ、そうよ。お義姉ちゃんは常盤台の学生じゃないもの。

 ……まったく、なんであんな《普通の学校》なんかに通ってるんだか……」

 

「フフフ……色々理由はあるのだけど……ね?」

 

『けど……?』

 

「一番は━━━━愛する人が居るからなのよ……ね?」

 

『……えええええええええ!?』

 

━━━━美麗のいきなりの爆弾発言に四人は一同驚愕し……結果としてファミレスを追い出される事となったのであった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━んあ?」

 

━━━━同時刻。同ファミレス内にて。

二人の少年が壁際の席に並んで座っていた。

 

━━━━その外見は、一言で言えば対照的。

片方は、黒髪の少年。これまた学園都市では五つの指に入る長点上機学園の制服を着ている事以外、さしたる特徴は無い……()()()()()()

もう片方は、金髪の少年。同じく長点上機学園の制服を着こんではいるものの、此方は染めたのかやけにけばけばしい色の金髪を逆立たせ、更には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一見すれば不良にも見えるそんな少年たちの名は、黒い少年が《御伽源氏(おとぎげんじ)》。

もう一人の、今もダルんと壁際のカウンターに伸びている金髪の少年は《永久悠希(とわゆうき)》。

 

「なんだ?事件か?」

 

「いや、どうも《御坂姉妹》らしい。おおかたどっちかが爆弾発言でもしたんじゃないか?」

 

「あぁ……あの義姉妹、似てねぇようで似てるっつーハナシだしな……」

 

「少なくとも、事件では無さそうだ……ところで悠希。()()()()()()の進捗は?」

 

━━━━その名を口にした瞬間、弛緩していた空気が一変する。

 

「……《時間穿通(パイルバンカー)》による()()()()()()()()()は継続中だ。もうすぐ……()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「そうか……となれば、俺達とアウレオルスの《契約》ももうすぐ完了、というワケだ。

 ━━━━そうすれば、俺達は《異能とは異なる異能》に触れる機会を得られる……あの()()()()()()()()()()()()()()()()()()に関する知識をようやく手に入れられるって事だ。」

 

「……お前の《次元減算(ディメンション・アウト)》で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そうやって辿り着ける限界点まで潜った時に見て来たっつー《なんか》か……

 何者なんだ?」

 

「分からん。というか、()()()()()()()()()()()()()()()()と悟って、俺は本能的にダイヴをやめたんだ。

 だから言える事といえば……アレは、この街の《科学》だけで説明するのが困難な《ナニカ》だ。」

 

「ふーん……この科学万能な時代にねぇ……とはいえ、アウレオルスの野郎と《アレ》の時点で今さら、か……

 そういや話変わるけどよ、月詠センセからお前が最近連絡しても出ないって言ってんだけどなにやってんだ?」

 

「……唖ァ?」

 

━━━━その名を口にした瞬間、またもや空気が一変する。

黒髪の少年は先ほどまでの冷静さをかなぐり捨てたかのように怒気を放ち、金髪の少年へと語り掛ける。

 

「お前は何いつの間に小萌先生のアドレスを知ってこまめに連絡を取り合うような間柄にアンダスタンッ!?」

 

「落ち着け落ち着け。お前が月詠先生を信仰してるのは分かってるから。

 単純にお前が連絡しても出ないからって前逢った時に連絡先教えてもらっただけだっての……」

 

「━━━━ふぅー……まさか我が女神をそこまで心配させてしまっていたとは……幾ら俺の能力を使っている間は《電波が届かない状態》とはいえ、もう少し頻繁に信仰を捧げておくべきだったか……」

 

「ほんっと、お前はヘンな奴だな……」

 

━━━━黒髪の少年……御伽源氏は元《置き去り(チャイルドエラー)》である。だが、得意の行動心理学によって家出少女を更生させる途中であった月詠小萌に拾われ、更生に到った経緯を持つ。

……それ故、彼は月詠小萌を信奉し、敬愛している。いっそ行き過ぎ……というか母性(バブみ)を感じて童心に還る(オギャる)レベルで。

なお、余談ではあるが。彼が後に月詠小萌経由で知り合う事になるとある転移能力者(ショタコン)とは、性癖の不一致、能力の方向性の違い、月読小萌への態度その他諸々が正逆である為に不俱戴天の仲となっている。

 

「フン……他人にどうこう言う前にボロを出さんよう自分を見直して見たらどうだ?

 ……というか、そろそろ黄泉川さんに誤魔化すにも限度があるんだからいい加減観念しろ貴様。

 あの様子だと、三沢塾の事を違法な研究施設かなにかと疑ってそうだったぞ?踏み込んで来る前にどうにか説得しておけ。」

 

「うげ……ちゃんと学校にも出席はしてるって言ってんのに……」

 

━━━━金髪の少年……永久悠希もまた元《置き去り》である。此方は《特例能力者多重調整技術研究所(ドブラック機関)》に所属させられていたのだが、

警備員(アンチスキル)》の中でも屈指の実力を持つ黄泉川愛穂の部隊によって通称・特力研が壊滅。()()()()()()()()()、身元の引き取り先の見つからなかった彼を彼女が拾ったのであった。

なお、余談ではあるが。彼が黄泉川愛穂と同棲している事は彼女の職場でも公然の事実なのだが、誰も彼女の貞操の心配をしないどころか、彼の方に同情の視線が集まったという。

 

「阿呆めが。超能力者(おれたち)にとって出席日数なぞ目安に過ぎんだろう?入り浸り過ぎて怪しまれているんだよ。

 ヘタな誤魔化しでは無く《嘘ではない事》を言え。例えばそうだな……《三沢塾内で時間流加速を使って()()()()()()()()を作る実験に協力している》……とかな。」

 

「あー……なるほど。そういうのもアリ、かぁ……やってる事自体は《その通り》だもんな。」

 

ズズズ、と残ったジュースを飲み干し、少年たちは立ち上がる。

 

「……うし、気分転換も出来たし!!

 善は急げって事で愛穂に言い訳してから……《アイツ》の詠唱でも聞きに行きますかね!!」

 

「……頼んだぞ。俺は《禁書目録(インデックス)》とやらの方を追う。

 ()()()で聴いた話によれば、どうも極東地域……それどころか此処日本に直で逃げ込んだ可能性があるそうだ。

 その情報の裏取りと共に、学園都市内部への誘導も行う予定だ。」

 

「なるほど……便利だねぇ、お前さんの《次元減算》の限定三次元化(時間・縦・横)は。」

 

「あぁ。コレがあるお陰で外と中の行き来が楽でいい……とはいえ、上層部も《分かってて見逃してる》フシがあるが、な……」

 

「……泳がされてるのは承知の上だろ。その上で、《どうしようもない終わりへの対抗策》を得る。それが、俺達の望みだ。」

 

「……あぁ。そうだな。」

 

━━━━ファミレスを出て歩き出す二人の少年の歩む道は、真逆。内なる世界(ミクロコスモス)と、外なる世界(マクロコスモス)

だがそれでも。彼等が向かう先はきっと━━━━科学と魔術が交叉する瞬間(七月二十日)に合流するだろう。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「━━━━ふわ……暇よねぇ……」

 

━━━━学園都市に数多くあるウワサの一つに、《猫のような少女》という物がある。

気まぐれに、気ままに、ビルの上で昼寝をしている、燃え上がるような緋を猫のような髪型にした少女が居ると。

 

それは、根も葉もないモノではない。

このように、陽射しの気持ちいい日和には、《三卦エルサ(さんけえるさ)》はビルの上で猫のように丸まって昼寝をしている。

 

「むう……其処等の《滞空回線(アンダーライン)》から拾える情報も、今日は特に何も起きないって言ってるし……

 む、スキルアウトの襲撃……あ、こっちはヒーローが解決してくれる可能性大か。んー……見に行くほどじゃあ無いなー。無色くんならともかくー」

 

━━━━その言葉を聴く者が居れば、ごく一部は驚愕を顕わにした事だろう。滞空回線とは、学園都市統括理事長が秘密裏に学園都市に散布している《ナノサイズのシリコンネットワーク》の名前なのだから。

その情報網があるが故に、統括理事長は学園都市という、異様なまでに広い実験室のフラスコを破綻させる事無く運営できるのだ。

 

……そして、その特徴として《ナノサイズの量子ネットワークの一部であるが故に、外部から不用意に観測するとデータが変質する》という秘匿性の高さも存在しているのだ。

驚愕の原因は《ソレ》だ。

通常、特別な器具(ピンセット)を使うか、情報そのものへの干渉でもしなければ読み取れないその滞空回線。

その内部情報をまるで何も無い所を見上げる猫のように猫耳(と便宜上定義する)を震わせるだけで読み解くなど、一体どのような能力であれば叶うのか。

 

「《情報改竄(チェシャディンガー)》のお陰で色々知れるけど……うーん、やっぱり当麻ちゃんの所が一番楽しいんだよなー。

 ……やっぱり、《一年前のあの時》に当麻ちゃんの飼い猫になっちゃうべきだったかなー……なーんて、にゃははー。」

 

━━━━彼女の名は三卦エルサ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

いきなりの愛する人発言に(主に美琴と黒子が)驚いて叩き出されるというアクシデントこそあったものの、少女達の邂逅は上手く行ったと言えるだろう。

御坂美琴という人間の堂々とした在り方は、高位能力者への偏見で凝り固まっていた佐天にとっては新鮮で……そして、眩しくて。

 

「━━━━良かったですね。」

 

「……え?」

 

「御坂さん達は……お嬢様ってイメージに近いのは美麗さんくらいでしたけど、それでも……想ってたよりずっと親しみやすい人で。」

 

クレープを買い食いして、ベンチに座る佐天と初春にとって、目の前で納豆クレープなどという劇物を巡って押し合いへし合いをしている二人の高位能力者の姿は意外性に満ち溢れているモノ。

 

「……どうなんだかねー……」

 

━━━━だからこそ、佐天はいっとう測りかねていた。彼女達との距離感を。

隔意は、ある。自らが無能力者であるからこそ。

 

「あばばばばッ!?」

 

━━━━そんな佐天の悩みを置き去りにするように、目の前では黒子が全身に氷を纏わされていた。

 

「━━━━もう……黒子ちゃんったら……めっ(滅ッ)!!」

 

「う、うふふふふ……お姉さまの電撃ビリビリも心地よいですが、大お姉さまの氷点凍結もまた……乙、な……もの……がくり」

 

「……その能力……」

 

「あら?この能力の事、気になるのかしら……ね?」

 

御坂美麗という少女は、相も変わらずに浮世離れした姿をしていた。純白のワンピースには汚れ一つ無く、《自らの周囲に氷を浮かべている》。

 

「え、えぇ……」

 

「佐天さんもそう思いますか!?そうですよねそうなりますよねそう思いますよね!?」

 

「ちょ、初春!?流石に喰い付きすぎじゃあ……」

 

佐天にとっては、まるで別世界の人のような彼女が操る氷に少し興味が湧いただけだった。

けれど、その言葉が初春の琴線に触れてしまったようで、堰を切ったように初春の想いが溢れ出す。

 

「だって美麗さんの《絶対零度(アブソルート)》と言えば温度操作系列にある超能力の中で最も強力な異能なんですよ!!

 空気中の水分を温度操作によって凍結、絶対零度まで低下させて操る事が出来るのは紛れもなく大能力者(レベル4)にも収まらない、超能力者(レベル5)()()()の証ですよ!!」

 

━━━━超能力者序列第八位。《絶対零度(アブソルート)》。

それが、()()彼女の背負う肩書。

 

「フフフ……ありがとうね、初春ちゃん。私としてもこの力が褒めてもらえるのは嬉しいわ……ね?」

 

「わ、わ……私の方こそ、能力を間近で見せていただいてありがとうございます……!!」

 

しかし、だからとて何故ここまで初春のテンションが上がっているのか。

その答えは、彼女自身の持つ能力にある。

彼女の能力はレベル1の《定温保存(サーマルハンド)》。

━━━━そう。《温度操作系の能力》である。

つまり、超能力者への憧れ、常盤台のようなお嬢様学校への憧れ、同系統能力者の先達としての憧れ、更には実際に逢ってみればその柔らかく包んでくれるような優しい物腰への憧れと、

多感な女子中学生には酷なほどに多方面からの魅力が叩きつけられてしまったのだ。その結果━━━━()()()()()()()()()()()()()()

 

「ん……?」

 

「ん?どしたの、佐天さん。」

 

「あー、あの銀行、平日の昼なのになんかシャッター閉めてるなーって……」

 

━━━━それ故に。気づけたのは、初春の暴走から目を逸らしていた佐天だった。

 

━━━━瞬間、爆轟━━━━

 

『━━━━ッ!?』

 

内部から広がり、防犯シャッターをブチ砕いて爆炎が道路まで広がる。

 

「━━━━初春ッ!!《警備員》への連絡と、怪我人の確認ッ!!急いでッ!!」

 

「は、はいッ!!」

 

「━━━━黒子!!」

 

「いけませんわお姉さま……治安維持は私達《風紀委員》のお仕事……今度こそ、お行儀よくしてくださいな?」

 

「……しょうがないわねぇ……」

 

「フフフ……よく出来ました、美琴ちゃん。

 黒子ちゃんには黒子ちゃんなりの矜持があるのだから……ね?」

 

「ちょ、頭撫でないでよお義姉ちゃん!?」

 

「━━━━でも初春ちゃん、私達も避難誘導くらいは手伝ってもいいわよ……ね?そうしないと()()()()がまた首を突っ込んできかねませんし……ね……」

 

後半は小声で。前半は通報を終えた初春に語り掛けるように彼女は告げる。

 

「あ、はい!!協力していただけるならありがたいです!!」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

『━━━━第七学区ふれあい広場前の銀行にて強盗事件発生!!付近の《警備員》は急行せよ!!

 繰り返す━━━━』

 

「……んァあ?」

 

空の上で、少年は耳に付けた通信機から情報を得る。

 

「第七学区かァ……近ェな。

 ()()()が言うには《起こるとすれば今年》らしいし……ちっこい事件だろうと、放っておくワケには行かねェよ……なッ!!」

 

反発によって撃ちあがった身体を落下に向けて操作して軌道を修正し、少年は事件の舞台へと向かう。

 

━━━━その袖に翻るのは、《風紀委員》の証である腕章に加えて、()()()()()()()

本来であれば、校内の治安維持の為に各学校毎に設置されている風紀委員が校外で起きる実際の事件に首を突っ込むのは完全なる越権行為である(勘違いされがちだが、黒子の行動も当然越権行為であり始末書が山ほど発生している)。

 

━━━━だが、此処に例外が存在する。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()という異常事態に対して学園都市上層部が付けた彼だけの特権。逢辰千余の捜査特権とは似て非なる()()()()

《風紀委員特別執行役員》……と、書類上はなっているが、実際には彼個人を指して誰もが呼ぶ。

悪党(ヴィラン)をブッ飛ばす狩人(ハンター)》……()()()()()()()()()()、《反発反転(アウトバースト)》と。

 

「━━━━白井ィ!!現場に居るのは分かッてんだ!!最後の一人は車で逃走を計画中で合ってるかァ!?」

 

故に、事件現場に飛び降りながらも明晰な頭脳によって状況を理解する。

犯人は三人。うち二人は現場に居たのか乱入した黒子によって制圧。

……だが、最後の一人が人質を取って逃亡を図るも、民間人の介入により失敗。計画を変更してか車での突破に切り替えたようだ。

 

『━━━━うぇ!?無色さんですの!?

 ちょちょちょ、お姉さま!!その《超電磁砲(レールガン)》待ったァァァァ!?』

 

ならば、此方がこのまま車の直上から強襲すれば……そう思いながら掛けた声に返ってくるのは、黒子の何故か切羽詰まった声。

 

「あァン……?」

 

━━━━そして、《無為無色(むいむしき)》が車の上に着地した瞬間。車をカチ上げるように、正面から放たれた《超電磁砲》が炸裂した。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「って、飛び降りて来た人が車の上に着地した瞬間に車ごとフッ飛ばされたァ!?」

 

━━━━佐天涙子は、目の前の急展開に着いて行けなかった。

自分が勇気を振り絞った結果、この腕の中の少年が助かった事。

男が逃げ出そうとして車で御坂さんに突っ込もうとした事。

その車を、御坂さんが吹っ飛ばした事。

……そして、その車の上に、何故か人が飛び乗って来て、車と同時に吹っ飛ばされていた事。

 

それらの総ては、あまりにも一瞬で……

 

「げっ……」

 

「あー……」

 

「あらあら……」

 

ガシャン!!と、地面に突き立ち、スクラップになってなお搭乗者を保護している学園都市製の車の安全性には目を瞠るが……では、上に飛び乗った少年は?

 

「あの人……た、助けないと……!!」

 

「……問題ありませんわ。だって、あの人もまた……」

 

「御ィ坂ァ美ィ琴ォォォォ!!」

 

━━━━瞬間、車の作った塔の上から、彼は現れた。

 

「百ッ歩譲って白井が先に暴れてンのは許そう。俺も立場としちゃ似たモンだからなァ……

 だがオメェは一般人だろうがこンの電撃ビリビリ小娘がァ!!」

 

「う……いやー……その、友達が殴られたんで、個人的なケンカとして……」

 

「友達ィ?

 ……あァ、なんだ。そういう事か。

 普段通りの瞬間沸騰で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ンだよ。偶には真面目に出来ンじゃねェの、お前さんもよォ。」

 

「うあ……頭撫でるな!!

 そういうの求めてやってるワケじゃない!!」

 

「おーおー、そういうのやって欲しい奴は別に居るンだろ?応援してっから頑張りなァ。」

 

「べ、別に《アイツ》にしてもらったら嬉しいなとかそんな事……って、今は関係無いでしょ、今は!!」

 

一見すれば険悪そうだが、滅茶苦茶人相の悪い彼と美琴は知り合いらしい。

 

「えっと……」

 

「━━━━あの人もまた、この学園都市230万人の頂点。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。第三位、《超電磁砲(レールガン)》の御坂美琴お姉さまと並び立つ第十一位……ベクトルを反転させる《反発反転(アンチバースト)》の無為無色さんですもの。」

 

「はぇ……?」

 

━━━━私にしてみれば、《あまりに突然のことがつぎつぎと起こり、どうお答えしてよいかわかりません》と言うしかないよ。

後日、彼女は周囲にそう語った。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「……不幸だ……」

 

━━━━ツンツン頭の少年が、《立入禁止》のテープを前にして呟いた。

少年の名は、上条当麻。この第七学区に住む学生であり……今日は、偶には奮発しようかな~などと考え、預金を降ろす為に銀行に向かおうとしていた……の、だが……

 

「えっと……ドンマイ、上条くん……!!元気だして!!」

 

「うぅ……ありがとうジュディ……《不幸友達(フコトモ)》にそう言ってもらえるとカミジョーさん的には心が軽くなりますですよ……」

 

見ての通り、目指していた銀行は事件に巻き込まれたのか全壊しており、とてもお金を下ろせるような状況では無かった。

そんな上条を慰めるのは、隣に立つ霧ヶ丘女学院の制服を着た、桃色の髪の少女━━━━ジュディ・C・リード。

英国からの留学生であり、とても()()()()()であるとして霧ヶ丘に入学したのだという。

 

「あはは……うん。私としては、そうやって上条くんから友達って言ってもらえるのは嬉しいな。」

 

━━━━ジュディという少女は、幸運である。

くじ引きで欲しい物があれば必ず当たり、シャッフルしたデッキから狙った一枚でトップ解決するのは当たり前。

持つ能力もまた、それに相応しい物……だというのに、上条は彼女を《不幸友達》だという。

 

それは、彼女が上条当麻と……否、《幻想殺し(イマジンブレイカー)》と共にある時だけは《不幸》になれるからだった。

 

くじ引きをすればポケットティッシュが当たり、シャッフルしたデッキからは事故札を引き、道を歩けば打ち水に打たれ、挙句の果てには空から植木鉢が落ちてくる。

後者に関しては上条当麻が庇った事で事なきを得たものの、命にもかかわりかねない《不幸》である。

 

━━━━けれど、それはジュディにとっては世界が変わる程に劇的な事だった。

自らが幸運であり続ける事は、誰かを不幸にし続ける事と同義である。

彼女がくじ引きで狙った物を欲しがっていた者が居た。彼女が勝負で勝ったことで負けた者が居た。

そして、彼女は()()()()()()()()を知らなかった。

 

だからこそ、彼女は自分の幸運を恐れた。怖くて怖くて眠れない夜だってあったのだ。

━━━━だから、彼女は《不幸友達》の上条当麻が大好きで……上条当麻と一緒に居ると、それだけで幸福になれるのだ。

 

「━━━━あらあら、当麻さんはやっぱり事件を見逃さないんです……ね?」

 

不幸だと言いながら、帰り道へと歩みを進めていた二人の前に現れる影、一人。

 

「ん……?おぉ、美麗さんじゃナイデスカ。偶然だなー。」

 

「ウフフ、そうです……ね?

 ()()です……ね?」

 

━━━━影の名は、御坂美麗。

 

「あ、美麗さん!!お久しぶりです!!」

 

「えぇ、ジュディさんも久しぶり……ね?

 当麻さんが無礼を働かなかったかしら……ね?」

 

「おいおい美麗さんや。その言い方だとまるで上条さんが紳士的ではないと言ってるように聴こえるのでせうが?」

 

「上条さんが紳士的であろうとしても、その右手は素直なので……ね?」

 

「いや素直じゃねーよ!?

 仮令(たとえ)右手が素直だったとしても、それはこの世の理不尽に対してであってレディに無礼を働くつもりはさらさらないのでございますのよ!?」

 

「フフッ、大丈夫ですよ、美麗さん。すっごく紳士的で……素敵でした。

 ━━━━じゃあ上条さん、私は此処で失礼しますね。」

 

「おぅ、またな~。」

 

そう言って、少女は別れて行く。

━━━━だが、御坂美麗は別れない。

 

「ウフフ……当麻さんは今日の夕飯は何がいいですか……ね?」

 

「カミジョーさん的にはそこで当たり前のように夕飯を作りに来ようとする美麗さんの思考回路が分からないのでせうが?

 これでも一人暮らしのの男子高校生ですのよ?

 ……《超能力者(レベル5)》だってのにウチの高校なんかに入学してくるし……」

 

御坂美麗の通う高校は、上条当麻と同じ。第七学区にある《とある高校》。

目立った功績がある訳でも無く、有名著名な学校というワケでも無いスタンダードな学校だ。

 

━━━━それでも、彼女は無理をしてまでこの高校に入学した。

 

「そんなの決まってるじゃないですか、当麻さん。

 ━━━━(カミサマ)殺した(ヒトにした)責任、取ってもらうんですから……ね?」

 

━━━━その理由は、今更に語るまでも無いだろう。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

━━━━それは、暗がりの中に浮かび上がる星だった。

光の差さぬ空間の中、中空に投影されたディスプレイが無数の星を描く人工天蓋(プラネタリウム)

だが、その数々のディスプレイの総てを圧倒する威容が……否、異様なる星が、部屋の中央に鎮座している。

巨大なビーカーの中に浮かぶ、逆さ吊りの《人間》。

 

《それ》は男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも罪人にも見える━━━━ただの、人間だった。

 

『……率直に言ってしまえば。

 《アレ》を放置しておくのは危険では無いかと思うよ、私は。』

 

そんな《人間》に声を投げかけるのは、投影されたディスプレイの内の一つに映し出された存在。

そこに映るのは、何故か葉巻を吸っているゴールデンレトリバーの姿。

だが、《人間》は動じない。彼が何者であるかも……そして、彼の進言が《好悪ゆえでは無い》事を理解しているが為に。

 

「《最大主教(アークビショップ)》の送り込んで来た埋伏の毒(ユディト)の事なら、対処など……そもそも必要は無いとも。」

 

『というと?()()()()()()()()()()である彼女が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼女の存在が……

 キミにとっての危険にならないとでも言うのかい?

 ━━━━アレイスター。』

 

━━━━アレイスター・クロウリー。オカルト界隈でその名を知らぬ者は居ないだろう。

20世紀初頭、マクレガー=メイザースと共に《黄金》の創設に関わり、《法の書》の作成、近代西洋魔術基盤の作成など、現代における魔術の大部分を造り上げた偉大な人物であり……

同時に、表側の世界に魔術を持ち出そうとした大狂人としてその名が知られている。

 

━━━━そして、1947年12月1日に死亡した事もまた。

 

「……《彼女》……ジュディ・C・リードの祖母がテレマの僧院に入っていた事は事実だ。そして、彼女がテレマの僧院の解体の半年後に子を産んだのも、だ。

 だが、彼女と()()()()()()()()()()()()()()()の間に魔術的な結びつきが無い事はとうに立証されている筈だが?」

 

『……キミがそれでいいと言うのなら、それでいいさ。

 ()()()()()()()()も、上条当麻というファクターによって()()が収束している内は爆発しないだろうからね。』

 

()()()()()()()()()()、《絶対調運(パラドクス)》の少女、ジュディ・C・リード。

その能力は、《意図した場合に絶対に望む結末を引き寄せる》という物。

表を願って打ち上げたコインは()()表になり、裏を願って打ち上げたコインは()()裏になる。

確率論への干渉とも、或いは世界全体への干渉とも考えられながらも、《再現性が無い》事からレベル5の末席という事になっている、儚げな少女。

 

━━━━その真なる危険性を知る者は、ごく限られている。

たとえば、《真なる科学を以て世界の歪みを断ち切ろうとする人間》……だとか。そういった()()()()()を知る者だけが、彼女の危険性を理解し、それ故に《幻想殺し(イマジンブレイカー)》に彼女を託しているのだ。

 

……それが、不器用な愛ゆえなのか、抑えきれぬ憎悪の為なのかは、誰も知らない。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

学園都市に七人しか居ない()の《超能力者(レベル5)》達。

━━━━だがもし、その人数が二倍の《十四人》だったら?

 

裏外七席(アウターセブン)》と上条当麻達の物語が交叉する時、異質なる物語が始まる……!!




第十二位が言及されないのは、この時点では位置が不明な為。
また、短編として一話に纏める為に本来ならこの時点では描写されないメンバー(次元減算、時間穿通、情報改竄など)の場面を改めて追加しています。
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