オリ主ガチャ   作:もぬ

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1. なんとかの呼吸

 放課後。

 人気のあまりない旧校舎、文芸部室のドアを開けると、今日もそこには先客がいた。

 

「………。ちわっす! 先輩」

 

 あいさつをかます。先輩は、視線を本から上げて、分厚い眼鏡越しにこちらを認めて、

 

「ああ。こんにちは」

 

 とだけ言って、再び本に目を落とした。

 うーんクールだ。クールビューティーだ。この先輩、性格はクラスにひとりはいる本好きの地味っ子って感じだけど、しかし漫画の登場人物かよってくらい顔がいいので、惚れてしまう。綺麗な長い黒髪と、雪のように白い肌。現代のやまとなでしこである。好き。

 まあもうフラれたんだけど。

 ……俺の放課後時間つぶしスポットのひとつであるこの部室が、この先輩に乗っ取られてから、もう一か月くらい。出会って初日で告白してフラれるという失敗ファーストコンタクトのせいか、俺たちの間にあんまり会話はない。

 とはいえ、彼女は黙々と本を読んでいるだけで、こちらを嫌がる様子でもない。それをいいことに俺は、彼女の存在が充満している部屋の空気を胸いっぱいに吸うべく、近頃はここに足しげく通っているわけである。

 

 荷物を放り出して、椅子に腰掛ける。

 暇つぶしのために図書館で見繕ってきた本を読む……前に、ついでにパチってきた今日の新聞を広げる。

 地元に関するニュースの、ひときわ目立つ見出しに視線が引かれた。

 

「……ん? この店……」

 

 おととい未明、大型書店が、店内を何者かに荒らされ、重い被害を受けた。

 朝、従業員が出勤すると、陳列されている書物の多くが、見るも無残に引き裂かれていたのだという。人的被害はないが、犯人は捕まっていない。現在捜索中とのこと。

 ……くだんの本屋さんは、学校、そして自分の家からそう遠くない。マンガやらラノベやら買うときによく寄る店だ。

 けが人などは出ていないとはいえ、けっこう頭のヤバいやつがこの街にいるってことになる。

 

「先輩、ニュース見た? 本屋とか行くの、気を付けた方がいいかもッス」

 

 対面に座っていた先輩に、声をかけながら紙面を見せた。

 先輩は顔を上げ、眼鏡をくいっとやって紙面を眺めたあと……、

 

「そう、だね。……君もよく気をつけるといい。ケガをするかもしれないから」

 

 というようなことを、細い声でたんたんと話した。

 

「!! う、うっす。へへ」

 

 不意打ちを喰らって、俺はどきっとした。

 あの先輩が。

 こんなに長いセリフを口にしてくれた上に、しかも俺を心配してくれたような内容……!

 もしかして……俺のこと好きなのか……!?

 脈アリとしか思えねえ。今こそ、35回目の告白だッ!

 

「せ、せんぱ……あれ?」

「………」

 

 先輩は、ぱた、と本を閉じて、席を立った。そのまま荷物を肩にかけている。

 え。まだまだ放課後はこれからだっていうのに、その帰り支度は?

 

「もう帰っちゃうんすか?」

「ああ。用事を思い出してしまってね」

 

 先輩はそう言いながら、無表情でさっさと部室のドアに手をかけた。

 出る間際、こちらに顔を向ける。

 

「では、また」

 

 ぱたん。

 彼女は、静かに出ていった。

 ………。

 聞いた?

 「では、また」だって!! 100パー両想いじゃん。もうバラ色の学校生活しか想像できねえよ。

 

「……ハッ! 先輩、俺も一緒に帰りたいッス!」

 

 彼女がいなくなった文芸部室は、あまりにがらんとしてしまっている。以前は自分の部屋のようで居心地が良かったが、もうあれには戻れない。

 なので、先輩が帰るなら俺も帰る!

 慌てて本を鞄にしまい、勢いよく部室のドアを開けた。

 

「あれ……」

 

 割かし長い廊下なのだけど、右にも左にも、先輩の姿も影も無かった。

 ……とりあえず、今日の部活はこれで終わりだ。

 俺はひとまず鍵を閉め、まずは正門に向かうルートで小走りを始めるのだった。

 

 ▼

 

 結局、先輩は捕まらなかった。

 くうっ。この虚しさよ。明日学校で会えるまで、俺はこの悲しみを抱えて生きねばならんのだ。

 さて。まだ家に帰るには少し早い。どこかに寄り道して帰ろう。

 今日は……

 そうだそうだ。たしか、気になってるマンガの最新巻が今日発売じゃなかったかな。

 本屋に……。

 ………。

 事件のあった本屋は、家に帰る途中で簡単に立ち寄れる。というか通り道だ。

 新聞にあった、中々に悪質なあの事件の現場は、いまどうなっているんだろうか。警察官がいっぱいなのかな。テレビのリポーターとかいたりして。

 野次馬衝動がわいてきた。

 いつも通り、通って帰っちゃうか。捕まっていないらしい犯人も、同じ街で二度目の犯行なんてしないだろ。たぶん。

 

 そんなことを考えながら、しばらく帰り道を歩いた。

 自分の日常にしみついた行動として、大通りを避けた人気の少ない路地を歩いていく。あ、そういえば危ないよな、と思った頃にはもう、例の書店がある大通りまではすぐそこだ。

 いつも人がいない、小さな公園に足を踏み入れる。ここを通り抜けると近道だ。

 

「……すー、さ、寒っ」

 

 自分の身体を抱いて、肩をさすさすとやる。

 今日寒いな。昼はやったらめったら暑かったのに、なんでまた。

 ……ていうか、もうそろそろ夏じゃなかったかな。

 

「……あ……?」

 

 ぽつ、と、頭になにか落ちてきた。ついで腕、鼻先。

 雨だ、と思った。

 でも、それはやけに熱く、肌を刺激してきて。

 指で取って、良く見てみる。

 それで、空を見上げてみたら……、降っていたのは、“雪”だった。

 

「おお? ほんとかこれ」

 

 いろいろ混乱したあと、かばんからスマホを取り出して、カメラなんぞをあちこちに向けてみる。

 この季節に雪って。この地方じゃありえないだろ。すげー、SNSでバズれるかな、ついに。

 俺は録画モードにしたスマホをあちこちに向けて、雪が映える絵を探した。

 そうしたら――、

 

「……?」

 

 人影が、画面の中にいた。

 その誰かは、くろくて、もやもやとしていて、人相がわからなかった。

 画面から目を外して、現実を見る。目をこすって、その誰かをよく見ようとした。

 ………。

 なんだ、あれ?

 

「……も、も、もしかして。ゆうれい……」

 

 俺の視線の先、公園の木陰に立っていた黒い人影は、文字通り『黒い人影』だ。影が三次元の世界に出歩いている、といった印象だった。

 非現実的な光景である。

 

「か、かえろ。あはは」

 

 視線を逸らせずに、それを見つめながら、ひょこひょこと後ろ歩き。

 影は――、

 首を動かして、俺を、見た。

 やばい、と思って、後ろを向いて一目散。学校の体育や運動部だったときにやったランニングのときより、呼吸も、足の回転も、うまくいなかった。

 とにかく一生懸命走る。どこに向かって? わからんけど、とりあえず大人のいるところがいい。学校だ。学校に戻ろう。そう思いながら、必死で逃げた。

 

「はあっ、はあっ、はっ、はっ、は、はあ、あ、アハハ……なんで?」

 

 気が付くと自分は、また公園の中の、同じ景色をみていた。

 公園の東側から出ていったはずだった。なのに、俺は今、西側にいる。まるでドラクエかファイナルファンタジーの世界地図みたいに、東と西が繋がっているみたいな。

 公園に、閉じ込められた、みたいな。

 

「うあ……! ひ、ひいあ……」

 

 背中を向けて逃げたはずのソイツが、また、目の前にいた。

 黒い人影が、じりじりとこちらによってくる。近づくほど、ぼやぼやとしていたシルエットが、なんとなくはっきりとしてきた。

 人間の、女性のように見える。身長がそんなに高くなくて、髪が長い。

 やっぱり、幽霊っていったら、髪の長い女。やばい。しぬ。

 黒い女の影が、こちらに何かを向ける。手に持っていた、長い何か。

 

「あ! しぬ」

 

 その“切っ先”を向けられた途端、ぞっとした。

 俺は。観念してしまったのか、防衛反応なのかなんなのか、怖くて、目をぎゅっとつぶってしまった。つぶりながら思考している。とにかく終わった、と。

 身体が冷たくなる。幽霊の放つ冷気は、熱いと思うくらいに、冷たかった。

 ………くそ、なんだよ。夢かなこれ。

 同じ夢だったら、こんなホラーより。

 先輩とラブラブちゅっちゅする夢が見たかった――。

 

「見つけたハメ~~~~~~」

 

 まぶたの向こうで、何かがカッと光って。それで、俺は再び目を開ける気になった。

 あと、なんか変な声がした。

 

「なんだ……?」

 

 おそるおそる目を開けてみる。

 周りを見てみると、ここはまだ公園。けれど、目を閉じる前にいたのとは違うエリアだった。あそことは離れた場所だ。

 

「どこ見てるハメ? こっちを見るハメよ」

「ん? オアアアアアアア!?」

 

 俺はひっくり返った。

 それで、低い位置にいたそいつと目線が合う。目の前には……ぬいぐるみ、みたいな生き物? が、宙に浮いていたのだ。

 そして、口を動かして、しゃべった。

 

「な、なんだおまえ……」

「ボクは創作の悪魔……じゃない、ボクの名前は、あー、ボクは『ハメルン』っていうハメ!」

「いま悪魔って言ったよね?」

 

 外見のモチーフはネズミ、だろうか。薄目で見るとファンシーなデザインに思えるが、ちゃんと見るとなんかキモい。ぬいぐるみになりきれていない生物感がなんとなくある。

 

「君のような“夢力”の持ち主を捜していたんだハメ! ボクの力を借りて、あいつを倒すハメ!」

「あいつって……うっ、これ! やばい、いくぞ!」

「ハメェーーーッ!?」

 

 急激な気温の低下を感じ、ぬいぐるみを抱えて走り出す。

 ひとまず、気温があったかそうな方向に! ……わからん! 勘!

 

「逃げちゃダメでしょ~、あいつを倒せるのは君しかいないハメよ?」

「あ、あいつって?」

 

 おそらくあの黒い影の女を指して、腕の中の異常存在は語る。

 

「あれは“シャドウオリ主”ハメ。常人じゃ太刀打ちできないし、本を持ってる人間を襲うハメよ。とっても危険な存在ハメ」

「本……!? あ、今持ってるか……」

「君が倒さないと、あいつは他にもあちこち襲うハメ。具体的には、本屋とか、蔵書の多い家とか、文芸部所属の本好きの美少女とかを襲うハメ」

「な、なんだとーっ!?」

 

 じゃあ戦うしかないじゃん! クソっ!

 ブレーキをかけ、恐怖でどくどく言ってる胸を押さえ付けながら、あたりを見回す。

 

「ハメルン、だっけ!? 俺、選ばれし勇者とかだったりするの? どうやったら倒せるんだ!? ていうか、本当に怖いんだけど……」

「君が直接バトルとかする必要はないハメ。オリ主にはオリ主……」

 

 怪しい生物は俺の腕から出てきて、ふよふよと浮かんで言う。

 

「――『オリ主ガチャ』を回して、彼らの力を借りるハメ」

 

 真剣ぶったその声に、俺はごくりと喉をならした。

 “オリ主”。

 自分にとっては、意味の分かる単語だった。

 だが、普段そうしているように、俺はその言葉を知らないふりをして、ネズミもどきに聞き返す。

 

「オリ主ガチャ?」

「初回は無料で回せるハメ。色んなオリ主たちの力を借りて、この街の危機を救うハメよ!」

 

 ぱっと怪生物が光り輝くと、同じ色の光が、俺の制服のポケットから漏れだした。

 ……スマホだ。それがぴかぴかと光っている。画面じゃないところも何故か光っている。

 

「君の名前を教えるハメ! ボクと契約するハメよ!!」

「絶対嫌だけど……」

「ならここで死ぬがいい」

夜見山(よみやま) 千太郎(せんたろう)です……」

「契約成立ハメ~~!」

 

 スマホの光が収まり、画面表示が見えるようになる。

 覗いてみると、見たことあるようなデザインの“ゲーム画面”みたいなのが映っていた。

 ゲーム、といっても、スマホゲームだ。

 つまり、ガチャがあるやつ。

 

「これか!?」

 

 画面に表示された、1回召喚(初回無料)、と書かれているボタンをタップする。

 そうすると、小さな画面が、バッテリー切れが気になるくらいまばゆく光りだし――、

 

「なんだ……!?」

 

 俺達の眼前に、光る円型の紋様が現れる。一呼吸の間のあと、紋様を形作る線を経路にして、虹色の光がめぐり始めた。

 

「これは! SSRの気配ハメ! 強力なバトルもの向けのオリ主が現れるハメ~! 勝ったも同然ニジね! ファ、ファ、ファ……」

「いまスーファミのファイナルファンタジーの悪役みたいな笑い方しなかった?」

 

 やがて、光がおさまる。

 そして……そこに、()()()()()()()

 

「俺を召喚したのは君か? 召喚者よ」

「き、君は……!?」

 

 体格は俺と同じくらいの少年だ。

 一見して、すぐに目を奪われるほどの美少年。

 しかし、異様な雰囲気の目つき。

 背中から生えた片翼。肩にかついだ真っ黒な剣。

 ………う、うそだろ。まさか。こいつ、こいつは……!

 

「センタロー・エクスキューショナーだ。俺への仕事は高くつくぜ?」

 

 ――俺が前に書いた転生ものに登場させた、主人公(おれ)じゃん!?

 

「ぐあああああっ!!?? こ、こんなバカなことが……」

「ど、どうしたんだ召喚者? 既にダメージを負っていたのか!? くっ。俺の仲間を傷つけるやつは、この俺が――――――殺す」

「ダッシュをそんなにたくさん使うな!! くおおお~……」

 

 脳みそと腹の中のだいじな部分がキュンとする。

 こんなこと……あってはいけない……。

 

「ちぇ、チェンジ。このオリ主だけはダメだ」

「なに? なぜだ」

「こいつ強そうじゃんハメ? ちょっと調べてみようか。『設定開示(ステータスオープン)』!」

「あ! やめろ!!!!!!(切実)」

 

スキル開示レベル2:『センタロー・エクスキューショナー』

 ・万華鏡写輪眼:うちはイタチ級

 ・滅竜魔法(闇)

 ・特質系念能力者(能力名:???)

 ・身体能力:ソルジャークラス1st級

 ・装備:エリュシデータ

 

「ぎいいいいいぃいいぃぃぃ」

 

 突然宙に現れたウィンドウの内容を見て、地面をのたうちまわる。

 もう、やめてくださいね。

 

「やっぱりSSRハメねえ」

「があああ。何をもってレアリティを決めてるの? 滑稽さ?」

「……。どうやら俺は、君の求めに足る人間じゃなかったようだな――すまない」

「うううん、その優しさもつらい、お前に罪はない」

 

 転げまわる。

 

 そうしているうちに……、やがて肌寒さを感じて、立ち上がる。

 まずい、やつだ……!

 

「もう一体召喚させてくれ、ハメルン!」

「無料ガチャは終わったハメよ。さらに回すには、条件があるハメ」

「条件ってなに!?」

「どんな内容でもいいから君が小説を1話分書いて、どっかに投稿すればいいハメ。それで“ニジストーン”を1個作れるハメよ!」

「ぐうううううう、なんだそれ」

 

 も、もうエクスキューショナーに戦わせるしかないか!?

 ……クソ!!

 

「……ん? いや、君は既に1話投稿してるハメね。そら、あと1回召喚していいぞ」

「なっ!! なぜそれを……ええい!」

 

 何故も何も目の前にいるからな! 1話投稿してぼろくそに叩かれたやつが!!

 

「俺を使えば片が付くのに。……頑張れよ、召喚者」

 

 すっと消えていくエクスキューショナーを尻目に、スマホを素早く操作する。

 気温が急激に下がっていく。目で見える範囲に、あの黒い女がやってきていた。

 ガチャのボタンを押す。サークルが目の前に現れる。

 すぐ近くまできている影が、“レイピア”の切っ先をこちらに向けていた。

 サークルの模様を光が走る。

 女の剣先が光り、なにかがこちらに飛んでくる。それは空気を凍てつかせ、氷の刃を形作り、俺を串刺しにしようと――、

 

「う、うわあああっ!」

 

 きん、という音がした。

 ……自分をかばって縮こまるのをやめて、立ち上がる。

 俺の目の前には、新しい誰かが立っていた。

 氷の攻撃を弾いたその人がこちらへと振り向く。

 

 思わず、息を呑んだ。

 背は自分より少し低い。女の子だ。

 長い髪の色は、白。あるいは銀。若白髪って感じじゃなくて、どうしてか、漫画のキャラみたいに似合っている。

 服装は、着ているものがとにかく黒い。あと和装だ。肩から何か羽織ってる。

 腰には、刀。

 そして――、

 顔が、死ぬほど好みだった。

 

「あの。私は君に召喚されたってことでいいのかな」

「はっ? あ、は、はい」

「わかった。あいつを倒せばいいんだろう」

「え、で、でも」

 

 少女はあちらに向き直り、髪がしゃりんと揺れた。

 こんな華奢な女の子が、おっそろしい幽霊とやれるのか。え、どうしよ。なんか良い匂いする。俺女の子の背中に守られちゃっていいのかな。やばい、好きになりそう。告ろうかな。

 

「ッ、うおあーっ!?」

「君は離れた方がいいな」

 

 気が付くと、彼女の肩に担がれていた。離れた所に下ろされる。

 さっきまで俺達のいたところに、かちこちのつららが地面から生えてる。つららなのに地面から。あそこにいれば串刺しにされていただろう。

 ……黒い女の持っている武器。フェンシングに使うやつみたいな、細い剣だ。あれを振ると、つめた~い氷が出てくる仕組みらしい。

 剣を注視してみると、なにかオーラのようなものが、ゆらゆらと揺れている。

 

「設定開示! ……どうやらあのシャドウオリ主は、“ボンゴレファミリー・雪の守護者”らしいハメ。雪属性の炎を使うハメね」

「なんだ雪属性の炎て」

 

 ぜんぜん意味分からんね。雪属性なのに炎て。

 

「はは、雪属性の炎ね……」

 

 とつぜん、クールに見えた少女が笑った。

 そして、ぼそり、と小声で何かつぶやいた。たぶん独り言だったと思うんだけど、先輩のちっさい声を聞き逃さないように耳を鍛えた俺には、彼女がなんと言ったのかがわかった。

 

「私とキャラが被ってるな」

 

 そう言いながら、少女は腰の刀を抜いた。

 いよいよ、対決か……!

 惚れた女の子をかっこよくかばうシチュにも憧れるが、普通に怖いから遠くから見ておこう。

 

 ふたりの剣士は対面するやいなや、激しい剣の打ち合いを始めた。

 ていうか腕の振り? とか速すぎてよく見えなかったので、剣の打ち合いかどうかも定かではないんだけども、キンキンキンキンキンキンキン! って聴こえるから、たぶんチャンバラしてると思う。

 しばらく攻防を続けたのち、ふたりは距離をあけてにらみ合った。

 ……よく観察すると、黒いやつの肩が上下している。息切れしてるみたいだ。

 おお! こっちが優勢だ!!

 

「どうやらあっちは、恋愛重視の愛されタイプハメね。勝ちは決まったシブ。ニ~ジファッ、ファ、ファ……」

 

 お前の邪悪な笑い方は何?

 どうせマスコットキャラを演じる黒幕とかなんだろうな。今後が怖い。

 

「そら、互いの必殺技が出るハメ。今のうちにしっかり見るがいいハメ」

「!!」

 

 剣士たちが剣を構える。

 ぴり、と凍てついた空気の中。先に、影の女が動いた。細剣は勢いよく白い炎につつまれ、刃の軌跡を凍り付かせていく。

 そして。

 

「雪の呼吸、弐ノ型――」

 

 美しい少女は、白い吐息を唇から漏らす。

 

「“(さか)氷柱(つらら)”」

 

 銀閃がまたたく。

 ……黒い影は、やはり幽霊のように、音もなく消えていった。

 

 ▼

 

 戦いの後。

 ……技の名前と地面からつららが出たみたいなエフェクトからして、マジで敵と技被りしてたなこの人。

 

「アカカカカッ! これで力をひとつ取り戻せたハメ~」

 

 全身を光らせて喜ぶ怪生物を尻目に、俺は例の美少女へと声をかけた。

 

「あの! 助けてくれて、ありがとうございました」

「……別にいい。そういう役割で呼ばれたみたいだし」

 

 少女に、まずは礼を言う。厳密にはハメルンも命の恩人なので礼を言うべきなのかもしれないが、言動のすべてが怪しいのでやめておいた。

 さて、気になったことをひとつ聞いてみよう。

 

「ところで、雪の呼吸なんて原作にありましたっけ?」

「………」

「もしかして自分で考えたんですか? すごいですね」

「う、うるさい。それ以上言うな」

 

 少女は、白い頬をほんのり紅くして口ごもった。

 え? なにこれ? かわいーーーーー。俺の考えたオリ主とちがって、スペックより技で勝った感じだったから、ふつうに凄いと思ったんだが。なんか気に障ったらしい。でもかわいーーーーーー。

 惚れた。

 

「……俺と付き合って下さい!!!」

「は?」

 

 つい、いつものやつを言ってしまった。

 ……あ、うわ、不誠実だな。まったく先輩という人がいながら俺ときたら……。こんなナンパだっけ俺? うーん! でもかわいいからつい……。先輩とこの人……選べねえ! たぶんどっちとも両想いだと思う。

 などと頭をぐちゃぐちゃにしながら、ちら、と相手の顔色をうかがう。

 彼女は、なんかこう。

 クールな第一印象とは違って。にまっと、妙なうすらわらいを浮かべていた。

 

「あー、残念でした。……()()は“TS”だよ。だから、男に興味ないの」

「てぃーえす……?」

 

 そ、それって。

 こんななりして、中身は俺と同じ男……ってこと?

 

「余計好みだ……」

「なに?」

「あ、な、名前を! 名前を教えてください!」

 

 先のエクスなんとかみたいに、すうっと足元から消えていく少女。

 彼女は消える前に、俺を見て、きれいに笑った。

 

「雪村あかね。以後よろしく、召喚者くん」

 

 そうして、まるで夢であったかのように、アカネさんはこの世界から姿を消したのだった。

 ………。

 めっちゃ好きになっちゃった。

 

「ハメルン」

「アルカカカカ~ッ!! ……ハメ?」

「あの人、もう一回会えるかなあ」

「一度ガチャから引いたオリ主は、スタミナを消費していつでも呼び出せるハメ」

「マジかよ! やった!!」

 

 小躍りする俺。

 ふよふよと浮いていたナニカは、そんな俺を見て。

 うっすらと、不気味な笑みを、ぬいぐるみ未満の顔に貼りつけて。にちゃ、と口を開く。

 

「……では、これからもシャドウ共と戦ってくれるハメね? 一緒にこの街を救うハメ」

「うん!!! いいよ!!!!」

「ファ、ファ、ファ……君のような単純なガキは好きハメ~」 

 

 こうして、俺とアカネさんのひと夏の恋物語が、始まったのであった。

 

 ▼

 

「ヤバい! あいつ強いぞ! ここはアカネさんを……」

「ここは新たなオリ主を召喚するハメよ! さあ!」

「妙にガチャ回させようとするね君!」

「そんなことないハメ~」

 

 シャドウから隠れ、スマホをさわる。

 まばゆい光と共に、新たな仲間が召喚された。

 

「――時空管理局・次元航行部隊所属、ナイト・テスタロッサ一等空尉だ。キミが僕を呼んだのか?」

「美少女だ! やった!」

「なんだと!? 僕は男だッッッ」

「めんどくさい男の娘オリ主だった!」

 

 

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