今にも襲い掛かってきそうな敵がいる前で、新たに召喚された人は、こちらにぶちぶちと食って掛かってくる。
「僕は男だッ! 次に間違えたら殺してやるぞ」
「すいませんでした! ナイトくん!」
「ナイトさんだろ! 僕は君よりうんと年上だぞ」
め、めんどくせぇ~! だって見た目小学生の美少女じゃん、主人公ならもっと寛容でいてくれよ。
あとで接し方を考えるとして、とりあえず今はピンチ。シャドウオリ主がそこまで来ている。俺よりずっと年下の子どもにしか見えないナイトさんだが、彼もオリ主だ。ここは戦ってもらいたい。
「ナイトさん! あの黒いのをやっつけてほしいんです!」
「ん? ああ、あれか。………。“魔力”を感じるな」
ちんちくりんのナイトさんが振り返った先にいるのは、今回の敵。若い男性の輪郭をしたシャドウだ。
これがまあ荒々しいのなんの。手から雷をビヨビヨ出してこちらを攻撃してくる。魔法使いなのかな? 雷なんて避けられるはずないし当たったら死ぬはずなのだが、こっちをいたぶっているつもりなのか、俺には直接は当ててこない。でも、一生分の死ぬ恐怖を味わうには十分な時間だった。
「ナイトさん! あいつひどいんすよ! ボコボコにしちまってくれぇ!」
「三下みたいなセリフだね……。まあいい、召喚されたからには、君は僕が守るさ」
再度顔をこっちに向け、ナイトさんは盛大なドヤ顔をした。
かわいい。
「この空戦SSSSSランク魔導師の僕がな!」
「えすえすえす…………すごいっすね!」
エスエス製薬のエスカップのCMみたいですね!
「どこの田舎の魔法使いか知らないが、古代ベルカ式とミッドチルダ式の両方を修めたこの僕には敵うまい。本物のイカズチを見せてやる――」
軍服っぽいデザインのバトルコスチュームに身を包んだナイトさんが、手にしていた斧のような武器をぶんと振り回す。
その小さな身体に、紫色のスパークをまとい始めた。スーパーサイヤ人2みたいでかっこいい。彼も雷の使い手のようだ。
……勝った! これは勝った!
「頑張れナイトさん!」
「ライトニング5、ナイト・テスタロッサ――出るッ!!」
目にも止まらぬスピードで敵に肉迫していくナイトさん。
一瞬でも目を離せばすぐに終わってしまうだろう――閃光のごとき、稲妻のごとき戦いが、幕を開ける。
▼
「ちょうしにのってすみませんでした……」
お人形さんみたいに綺麗だった顔をボコボコに腫らし、ナイトさんは涙混じりの声を漏らした。
「いたたたたっ!! もっと優しくしてくれよ! 治療魔法とかできないのか!」
「あーごめんなさいね」
手当をしてあげると、涙目で抗議をしてくる。顔がかわいいから許される性格をした人だなあ。かわいい。
シャドウオリ主を封鎖領域? とかいう結界魔法? で閉じ込めはしたものの、ナイトさんはそれはもうぼっこぼこに敗北した。エスエスエスエスエスランク魔導師とか言ってたくせに。
今は手当てと作戦会議の時間。
現在俺達がいるのは、俺の住んでいる家である。両親は夫婦水入らずでの旅行中なので、この夏の間はいない。というわけで都合よく一人暮らしだ。親父は旅行に出るにあたって、「この夏の間に誰か女の子を連れ込めよ、もうこんなチャンスはないぞ」と言っていたので、彼女をつくろうと必死になっていたが、なかなかうまくいかない。
でもいいんだ。もう彼女は。
だって今のこの光景をみてごらん?
「なかなかの強敵だったようだな」
テーブルに人数分のお茶を持ってきてくれたのは、そう、俺の愛しのアカネさんだ。長い髪を後ろでまとめていて、どこから調達してきたのかわからない現代的なラフな部屋着に着替えていて……その上から、何故かエプロンをしている。彼女はお茶を運んできたお盆を抱え、そっと俺達の近くに腰を下ろした。
なんだこの格好と仕草は。どういうこと? 俺たちもう結婚したっけ。
中身が男? だから好き。
「私が出てもいいんだが、今の状態で勝てるかどうか」
「? 今の状態……?」
「そう、そうだぞセンタロー! 力が制限されてるんじゃ、どうしようもないっての。あ、あれは僕の真の実力じゃないからな?」
どういうことだ? 制限ってなんだ。
と、ちょうど疑問を持ったところに、例の妖しい生き物がふよふよと現れた。
そして俺が何か口にする前に、あちらから話しかけてくる。聞かれるのを待っていたのだろうか。
「ガチャから召喚しただけでは、オリ主たちは真の能力を発揮できないハメ。君の手で能力制限を解除する必要があるハメ」
「そうだったのか……」
じゃあ、あのくっそ情けない負けっぷりがナイトさんのすべてじゃないんだな。口先だけのかわいさ全振りオリ主かと思ってた。
「おまえ、今失礼なこと考えなかったか? 僕のことをかわいすぎる絶世の美少女だとか思ってないだろうな? ころすぞ」
「どうやったらみんなをパワーアップさせられるんだ? ハメルン」
「“エゴストーン”を消費するハメ~」
何それ? 召喚に使うなんとかストーンとは違うの?
「エゴストーンを使うことでオリ主のリミッターが解除されていくハメ。エゴストーンは、君がネット上に投稿した小説に、読者からの評価やポイントがひとつ入るごとに生成できるハメ~。このとき、評価の高い低いは関係ないハメ」
「なんでそんなめんどくさい仕様なの?」
「育成要素ハメ~」
じゃあ、誰かから点数つけられる程度のものは書かないと、こちらの戦力が育たないってことか……。
別にエゴストーンがなくても、なんでもいいから1話投稿すればオリ主を一体召喚できるんだから、俺の拙い文章でも「人員増強」はなんとかできる。
だが、人数で攻めようにも、オリ主を何回も呼び出して戦わせると、何故か俺がめちゃくちゃ疲れるのだ(アカネさんは常に召喚し続けるけど)。
つまり、シャドウオリ主に勝つには、何点でもいいからポイントをもらわないといけない。
「ああ~。めんどくさい」
一人暮らしで高校生活しながらシャドウオリ主探しもして、小説書く余裕なんかあるわけね~。手に入るリソースは微々たるものになるだろう。
召喚に使う方は即使っていいとして、エゴストーンの方はよく考えて使わねば。
ちら。
「? どうかしたか、千太郎くん」
アカネさんを最強にしたいな~~~~~~。
「さっそくエゴストーンを生成するハメ? 君の投稿作品の評価を確認しよう」
「いやだな~」
しぶしぶスマホを取り出し、自分の書いたやつの小説情報を調べてみる。
それを見た瞬間、背筋と心臓に、電流が走って、頭の毛が逆立ったような感じがした。
「……! 9点が入ってる! なんで!?」
10点中9点! めっちゃ高評価じゃん! 俺の時代がついにきたのか……。
そのまま、画面をスクロールして下へ下へ。
「……!!!」
それを見た瞬間、がんとハンマーで頭を殴られたみたいな衝撃。
「1点が2個入ってる……」
「0点も1個入ってるハメねえ。ハ~メハメハメハメw」
「笑うなああああああああ!!!!!!!」
俺は泣いた。
みんなだって転生オリ主もの書いてるじゃん……! 何が違うんだ。ぐうう。センタロー・エクスキューショナーのときよりだいぶまともになっただろ!
「ぬいいいいぃいぃい」
「大丈夫ハメ。マイナス評価だって、誰かが君の夢を読んで何かを感じた証なんだ。次に活かせばいいハメよ」
「は、ハメルン……」
「書く側の苦しみっていうのは私には分からないけど……君が夜な夜な頑張っていたあの時間は、決して無駄にはならないと思うよ」
「アカネさん……!」
「おなかすいた」
「ナイトさん!!」
みんなが肯定してくれる……! ひた隠しにしていた趣味だから、こんなのは初めてだ。
もうちょっと頑張れる気がする!
「へへ。あ、感想来てる! 読もうかな」
通知をぴっとタップ。顔も知らぬ読者からのコメントに、心を弾ませて、目を通す。
アルカディアス◆nakh2o3 2021年7月20日(火)
駄作者乙。夏休みキッズかな?w 二度と書くなカス
「二度と書かん」
「まあまあまあ、誰だって最初の出来はこんなもんハメ。君はまだ初心者なんだから、気にすることないハメ~」
しばらくふて寝するべく、リビングのソファに寝転がった。
このシャドウオリ主との戦い(あと読者との戦い)、身体も心も疲れる。
▼
意識が戻ってきて、しばらくもぞもぞと身じろぎする。
「あ、こら。くすぐったいだろ」
頭の上に声が降ってきて、ぱちと目を開けた。
……最初に入ってきた光景は。アニメから飛び出してきたみたいな美少女が、じっとこっちを覗き込んでいる、というものだった。
夢かな?
いや。
このやわらかい枕、まさか……。
「ウオオオオアアアーーー!?」
「あぶね」
「な、なにこれ……ご褒美!?」
思わず飛び起きて、頭の中を整理するべく、ソファに座るアカネさんの全身を舐めまわすように眺める。
ま、まさか、あのショーパンから伸びる白くてむっちりとしたふとももで……!
「あ、視線キモいなぁ。嫌いになりそー」
雪の妖精みたいな容姿で、にやっと俗っぽく笑い、アカネさんは愉快そうにしている。
「ああ、枕がないみたいだったからさ。……男はこういうの好きでしょ? いいリアクションをありがとう」
「け、結婚してください」
「お断りだ。それより、夕飯をつくってみたよ。食べるだろ、千太郎くん」
「え……? もう結婚していた……?」
それからしばらくして。
いつもひとりで囲んでいた食卓を、3人と1匹で囲む。友達を自分の家に呼んだときの晩飯……みたいな、わくわくした気分だった。
とはいえ、会話の内容は、主に例のシャドウをどう倒しに行くか。
「とりあえず、エゴストーンで制限を解除して……、それで再戦かなあっ味噌汁うまい」
「ふふ、ありがとう。現代日本の炊事場に立つのなんて、どれくらいぶりだったかな」
……なんか、あれか。アカネさんは前世の記憶を持って漫画の世界に生まれ変わった人……いわゆる転生オリ主だから、俺達の暮らす日本のなんでもない様子が、懐かしく感じるようだ。下心丸出しで家に呼び出してから、ずっと機嫌が良さそう。
「今の貯蓄だと、ひとりにリソースをそそいだ方が良いハメよ。ボクのおすすめユニットは、君が頑なに呼び出さないあの強そうなヤツハメね」
「ああ~~ああ~~~あいつはいいの、戦わせないの、ゆっくりしててもらうの」
そりゃあ強いでしょうけどよ? 彼には眠っていてほしいのだ。起きてたら俺にダメージが入る。
そういうわけだから、
「アカネさんっ、俺の愛を受け取ってく……」
「はいはいはい!!! 僕があいつを倒すッ!!」
「ええ~」
勢いよく立候補してきたのは、ボロ負けを喫したナイトさんだ。
「頼むセンタロー、やらせてくれ。本当の力の半分でも出せたら、今度こそやつを打倒して見せる」
「うーん、でも」
「負けっぱなしじゃ、自分の物語に帰れないよ」
赤い色の瞳で、まっすぐにこちらを射抜くナイトさん。
彼にやらせないのは、俺がアカネさんを贔屓しようとしていること以外にも、ちゃんと理由があるのだが。それは彼もわかっているはず。
そのうえで、そこまで言うのなら……。
「……いいッスよ。リベンジしにいきましょう!」
「よく言ってくれた! 良いヤツだな君! 一緒に風呂でも入って語り合おうぜ!!」
「わはは! 嫌です」
美少女にちんこついてるの見たくないしな!
その後、嫁……いやアカネさんの料理に舌鼓を打ち。嫁……アカネさんやナイトさんと、他愛ない世間話をして、食休みを終えたら。
外の世界は良い夜。普段の日常なら、家から出ることなんてせず、あとは布団にもぐるだけだけの、くらくて静かな時間。
もし、雷が落ちたりなんかしたら。それは凄烈に、目と耳に焼き付くことだろう。
▼
ナイトさんの結界魔法の中に、再度進入する。結界は、一般人は入れないようになっているらしく、見知らぬ他人を戦場に巻き込むことがない、すごい魔法だ。今後も頼りになりそう。
「いた……!」
ぼうっとそこに立っていた黒い影は、こちらを認め、再度動き出した。
肌がぴりつく。ふふ……これが殺気ってやつか! 俺も“戦う者”としての感覚が目覚めたようだな……。
あっ違う、ナイトさんがびりびり電気オーラを放ってるだけだった。
彼は懐から、小さな三角形の何か……キーホルダーみたいなものを取り出す。
しゃりん、と鈴が鳴るような音とともに、紫色の魔法陣(多分)が、ナイトさんの足元に現れる。
「――ラブリュス。セットアップだ」
『Stand by ready』
「うわっ、えっ、英語だ! 英語コワイ!」
ばちばちっ! と光が閃くと、さっきまでどこかの小学校の制服みたいなのを着ていたナイトさんは、軍服っぽい戦闘装備に早着替えしていた。手には斧……のようなデザインの、魔法のステッキ。
ふつうの服ではなく、バリアジャケットというらしい。斧のほうは、インテリジェントデバイスとかいうらしい。突然英語でしゃべって俺を威嚇してきたのは、あの斧に仕込まれたAIの音声だ。
ここまでが、さっきナイトさんに聞いた彼の設定に関する話。英語でしゃべるとは聞いてないけどな!
「英語じゃないぞ。ミッドチルダ語だ。……さあセンタロー、制限解除を」
ナイトさんがにらみを利かせている隙に、スマホのオリ主アプリを操作する。
登録済みユニット一覧から、ナイト・テスタロッサを選択し……制限解除の実行ボタンを。
エゴストーンを消費します。
はい。
……押した!!
「うお……」
ナイトさんを取り巻く雷のオーラが、激しさを増していく!
これは……すごいパワーだ。いやわからんけど、すごそう。ドキドキしながら、彼の小さな背中を見つめる。
やがて、一際強烈な閃光が目を焼き――、
……目を開けると。
「なるほど、こういう仕組みか。……これでもう、君にかっこ悪いところは見せないぜ、センタロー」
長身の金髪イケメンが、快活に笑っていた。
もどして。
「どうやらアニメ第三期StrikerS時の姿に進化したようハメね。この作品のオリ主は、エタらないで連載が長続きすれば、途中でいきなり10年ぶん歳を取るハメよ」
「せっかくかわいかったのに……」
「いくぞ、ラブリュスッ!」
「声も男性声優になっちゃって……」
いよいよ、決戦が始まった。
今のナイトさんはどう見ても強い。かわいさと引き換えに。
……だが、それでも勝てるのかどうか、俺には不安があった。理由は、最初の戦いの様子から予想できた、あの敵の特殊な能力にある。
「ええと、『
ガチンコバトルでものすごく動きまくるシャドウオリ主を、なんとか一瞬スマホカメラに捉える。
オリ主アプリの機能で、やつの設定が一部表示された。
スキル開示レベル2:『????・????』
・西洋魔術師:ナギ・スプリングフィールド級 ※制限中
・咸卦法
・仮契約:桜咲刹那(従者)
・仮契約:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(主人)
・所持アーティファクト:『
「あのガントレット? があやしい」
先の戦いでは、あのシャドウが腕に、どこからか現れたガントレットを装着した途端、戦局が傾くことになった。
……やつのガントレットは、“雷”を、吸収してしまうのだ。そのうえ恐らく、それを自分のパワーにプラスする。
いま、あいつの設定を見て確信した。雷の魔法使いであるナイトさんは、明確に、バトルでの相性が悪い。
やっぱり、アカネさんの方が勝ち目あったんじゃないか。
「………」
いや。
今、一瞬だけ。目にも止まらぬ速度で戦っているはずのナイトさんと、たしかに目が合った。
あの紅い瞳。子どもの姿のときと変わらない。これまでの日々でつくりあげた自分の力を、どこまでも信じている――そんな幼稚な、傲慢な、かっこいい目だ。
「いけえっ!! ナイトさん! いやもう、テスタロッサ一等空尉!!」
空中で、敵と武器をぶつけ合うテスタロッサ一等空尉さん。
俺を見下ろして、にっと笑ったのが、雷の閃光ではっきりと見えた。
さわやかイケメンスマイルだった。
「“ブラスター4”ッッ!!」
どん、とナイトさんの身体から紫色のもやもやが発生し、突風のように辺りに広がった。すごいパワーアップ感!
同時に、彼の手に持つ斧から、小型の支援機がいくつか飛び出す。
ひとりでに飛行するそれらは、強力なビームを敵に発射し――いや、光の縄だ。紫色の縄が、シャドウをがんじがらめに縛り付ける。敵は、空中で、動きのすべてを封じられた。
ナイトさんは地上に降り立ち、やつの真下に位置取り、武器の先をまっすぐ頭上に向けた。
魔法陣がいくつも出現し、ナイトさんとシャドウの間に整列する。あれらは“砲身”なんだ、と直感した。
きっと、雷に頼らない、すごい攻撃の魔法を撃つ気だ……!
「吸収できるもんならしてみろ……! どんな化け物になってくれるか見ものだッ!!」
いや、雷属性を撃つ気だ。メチャクチャ脳筋だった。
ナイトさんの斧が、ガッショガッショと荒ぶり、何かをぽろぽろと排出している。地面に転がるそれを見る。薬莢だった。
薬莢が切れたら、ナイトさんはどこからかもう1セット取り出して、追加で装填していた。入れ過ぎじゃね?
やがてびりびりと空気が震え、立ち並ぶ魔法陣がさらに強く発光し始める。
ナイトさんの纏うオーラが、斧の先に収束し――、
「トール……ハンマァアア……ブレイカーーーッ!!!」
鼓膜破れたかと思った。轟音で。
シャドウは、影なのにわかるくらい黒焦げになって、炭になって消えていった。
「ふ。おーい! 見てたかセンタロー!!」
「ハ~メハメハメハメ! やっぱり、完結作品のオリ主は強いニジねえ」
オリ主的なパワーを使い果たしたのか、子どもの姿に戻ってしまったナイトさんが、満面の笑みで駆け寄ってくる。かわいい。一生そのままでいてほしい。
「これで見直しただろ? まあ、笑っちゃう肩書だけど――ちゃんと、最強なんだってさ!」
たぶん、雷属性が吸収できるとか、そんなの関係ない威力だったのだろう。
なにせ彼は、SSSSSランクなのだし。