初恋の人の娘のトレーナーになった   作:かのえ

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0.1, reunion

 運命の出会い、それは多くの人たちが夢想するも実際には滅多に起こりえないもの。運命かどうかなんていうことも、後になってからではないと分からない。

 しかし、私たちウマ娘やそのトレーナーには確かに存在している。それこそ相手を一目見たときに感じるのだ。

 

 例えばあのトウカイテイオー。彼女は七冠ウマ娘のシンボリルドルフに運命を感じたと語っていたし、シンボリルドルフの方もトウカイテイオーに何か近しいものを感じていたともとれる発言をしている。

 

 例えばあのスーパークリーク。彼女がトレーナーを見かけて『逆指名』した、というエピソードは有名だろう。

 

 他にも「ダービーで先頭を走るのを見た」だの「有マでセンターにいるのを見た」といってスカウトにいったトレーナーも存在するという。そして、実際に成し遂げた。

 

 私たちウマ娘やトレーナーにとって運命だったり近しいものだったり、そういったフィーリングはバカには決してできないものなのだ。

 

 

 

 

「お兄さん!」

 

 待ち合わせ時間よりほんの少し前。優等生な私は余裕をもって集合場所についたというのに、彼はもうその場所に立っていた。

 線の細い、良く言えば女性的な顔立ちをしている彼は、その整った容姿を台無しにするかのように目が死んでいた。

 

「久しぶり、ダスカちゃん。まずは合格おめでとう」

「ふふん♪ 当然の結果よ」

「そうだとしても、だよ。よく頑張ったね」

 

 成長期になって少しは背も追いついたけれど、やっぱりまだ届かない。

 お兄さん(ママの従弟だからおじさんではあるんだけれども、年齢が若いこともあってお兄さんと呼んでいる)は中央のトレセン学園でトレーナーをやっている。それも無敗の四冠バや、あの勇者を担当している超エリート。

 

「けどこうやって気軽に呼べるのもあと少しだけかあ」

「別にアタシのことなんて好きに呼べばいいじゃない」

「立場だよ立場。トレセンではスカーレットさんって呼ぶからね」

「えー」

 

 ちなみにダスカ、って呼び方はお兄さん考案。スカーレットって呼ぶと自分の苗字とか母親の旧姓で呼んでるようで違和感あるし、だからといってダイワって呼ぶのもなあ、とのこと。前々から思っていたけれどお兄さんはダイワに対して当たりが強いんじゃない?

 

「で、今日はどうする?」

「んー、特に決めてなかったわ。それにほら、あまり連れ回してもお兄さん疲れちゃうでしょ」

「あはは、それは、そう」

 

 何せあの勇者が海外遠征を控えているのだから。

 

「ドバイに行って、そのあと香港?」

「うん。香港は冬に行ったけどドバイは初めて」

 

 街を歩きながらいろいろな話をする。正月には顔を合わせていたけれど、有馬もあったし、そのあとのアグネスタキオンさんの故障のこともあって、本当に顔を合わせるだけになってしまっていた。

 

 お兄さんが本格的にメインのトレーナーとしてアグネスデジタルさんの担当になってからは、小さいころのように会うことが難しくなった。それまでは近所に住んでいたこともあったし、私がトレセン学園を目指していたこともあって、家庭教師のような形でお兄さんには色々と教わっていた。

 中央のトレーナーになれるだけあって、学生のころからお兄さんは優秀だったし、その指導を受けられるのは本当に貴重な体験だった。幼いころからこうやってトレーナーとトレーニングを共にできるのは名家のウマ娘でも早々できるものじゃない。

 

「じゃあ今年の夏からはまたレースに出られそうなんだ」

「お医者さんの話だとね。ま、そのときのタキオンの調子次第かな」

 

 有マ記念でのアグネスタキオンさんとマンハッタンカフェさんとの対決。互いに似たようなものを感じ、譲れないものがあり、つまり宿命のライバルとの大決戦。それを制したのはアグネスタキオンさんだった。

 素直にいいなあ、と思う。絶対に譲れないライバルとの戦い。すべてを出して己の限界を突破して、つかんだ勝利。

 故障してしまったのはショックだけれど、勝利のためにはそれも厭わないのがウマ娘の本能。

 

「あ! 新しいぱかプチじゃない! あっちにいくわよ!」

 

 クレーンゲームでマンハッタンカフェさんのぱかプチを狙う。アグネスタキオンさんもそうだけど、死んだ魚のような目というと失礼だけど、そこが可愛くて好き。お兄さんの目みたいだからだ。

 

「ねえなんで僕の前でカフェのを狙うかな。タキオンの取ろうよ」

「そっちはもう家にあるからいーの!」

 

 ずっと受験勉強をしていたから、こうやって遊ぶのがとても楽しい。学校の友達とも遊びに出かけたりしたけれど、やっぱりお小遣いも限りがあるわけで気にしなくていい、というのはとても良いものだ。うん。

 むむ、やっぱ難しい。結局何回かやってあきらめてお兄さんに取ってもらった。何だか昔から妙に上手なのよね、こういうの。けどなんか洗練されてきたように見えるんだけど。

 

「デジタルがね、こういうの欲しがるんだけどゲーセンで見つかって騒ぎになると大変だから代わりに取ったりしてたんだ」

「えぇ……」

「あいつ、推しのグッズは死んでも集める! とか言ってたな。まあ本人の金だから文句は言わないし満足してるようだからいいけどさ……」

 

 ウマッターに戦利品! とかいって画像たくさん上げていたけどその一部はお兄さんが取ったものだったのかもしれないという衝撃の事実。

 

「部室も溢れそうになってついには倉庫とかも借りたようでな。賞金の使い道がそれでいいのか……もっとほら、後進の子に希望を与えるような使い方とか無いのか?」

「な、なんだか苦労してそうね」

 

 今話題の名バの裏話とか、記事にしたら反響のありそうな出来事とかをいっぱい教えてもらった。世間でよく言われる勇者の姿と、ウマッターとかお兄さんの話で聞くウマ娘オタクの姿、どっちが本当の姿なんだろう。顔を早く合わせてみたい。

 

 ゲームセンターで満足するまで遊んだ後、お昼を食べにきた。

 お兄さんによると「今どきのウマ娘ちゃんたちに大人気なお店」とのことで、ちょっとお洒落なお店だった。私もアグネスデジタルさんが常連で、よくここに来ているとウマッターで紹介しているのを見たことがあった。

 まだ私には敷居高いかなあ、なんて思っていたけれど何事も経験よね。

 

 件のアグネスデジタルさんは芝だけでなくダートも走れて、しかもG1までとっていく謎のウマ娘。それでいてウマッターで話題にするのは同じトレセン学園の推しウマ娘についてだったり、ファンアート? だったりで自分のレースの宣伝とかそんなのあんまりやってない。

 お兄さんが初めて担当したウマ娘なんだけど、その、個性が強すぎないかしら。

 

「でもあいつ、あんなんだけどマルチリンガルなんだよね」

「帰国子女だったわよね。英語以外にいけるの?」

「フランス語とかいけるらしいぞ? いつか凱旋門賞に行けるようにって」

 

 更にトレセン学園の全員の顔と名前が一致してるし、過去のレース結果とかも網羅しているらしい。お兄さんは生き字引として活用しているとかなんだとか。便利そうね、それ。

 

「僕がデータ収集するよりも彼女の好き勝手させたほうが綿密なデータ集まるんだよね」

「トレーナーとしてどうなの、それ」

「デジタルがもし担当から離れたらトレーナー廃業かな、あはは」

「トレーナーとしてどうなの、それ!?」

 

 さ、さすがに冗談よね?

 

「あ」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 

 注文を終えた後にお兄さんは、何かに気が付いた様子でスマホを取り出して誰かにメッセージを送ったようだった。むう、せっかくのデー……お出かけでそういうのはちょっと良くないわよ。

 

「ちょっと。今日は私の日でしょう?」

「ごめんって」

 

 本気で怒ってるわけじゃないし、これはいつものじゃれ合い。ないがしろにされたとかそんなこと全く思ってもいない。ええ、そんな怒ってなんていないですとも。メニューの一番最初にでかでかと書いてある一番お高そうな特大パフェとか食べさせてくれたら許してあげなくもないわ。

 

「……入学したらすぐ身体測定とかあるから気を付けてね」

「は?」

「ダスカちゃん正月に比べたら受験までに絞ってたの考えても、ちょっと体重増えたでしょ? まあ入学までには余裕で調整できる範囲ではあると思うけど――」

 

 へぇ、人が気にしていることを指摘しちゃうんだ? たしかに? 合格したから? 少し羽目を外したりしたし? ちょっとは体重増えたのは理解していますけれど?

 

「あ、店員さんすみません。食後にお願いしてたこのパフェ、あともう一つ追加でいただけるかしら?」

「ダスカちゃん!?」

「かしこまりました」

「店員さん!?」

 

 ダイワスカーレット、キレるわよ!!

 

「ちょっと、女の子に体重の話はタブーじゃないの!?」

「いやあ、どうしても気になっちゃって」

「デリカシー!」

 

 ほんっと、こういうところは昔から変わってない。トレセン学園で女の子たちに囲まれて、少しはそういうところ気にするようになったかな、なんて思ってた自分がバカだったわ。

 ま、まあ慣れすぎたりされても困るんだけれど。目は死んでるけど顔立ちは良いわけだし、ウマ娘の血が濃いからそりゃ目を引くわけでカッコいいとこも――いやいやそんなことは全然ないし。目が死んでるし。

 

「まあダスカちゃんは成長期だしね。前よりも大人っぽくなって綺麗になったじゃない、本格化も近いし大丈夫だよ」

「――ッ! このおたんこにんじん!」

「褒めたのに怒られた!?」

 

 不意にそういうこと言うの、よくない。全然うれしくなんてないんだから。

 

――また今日も立ったまま気絶してる……

――そろそろ出禁にしようかしら、この子。変装もグラサンにマスクとか怪しさ満点だし

――ドバイも近いのに何やってるのかな、トレーナーは見たことないウマ娘連れてるし

 

 店員さんたちが何かこそこそと話している。ちょっとうるさくしすぎたかもしれない、反省。でも全部お兄さんが悪いんだからね?

 こほんと咳ばらいを一つ。ちょっと話題を変えましょ。

 

「そういえば新しくバイク買ったんですって?」

「ウマ娘たちが走ってるのを見ると僕も走りたくなちゃってね」

「ほどほどにしてよね? 怪我とかされたら困るんだから」

 

 お兄さんは趣味としてバイクに乗っている。人間はウマ娘よりも弱いんだから、事故とか心配。

 どうしてバイクに乗っているの、って聞いたことがある。そしたらウマ娘の走る感覚を自分も感じていたいって言っていた。

 確かに、二人乗りをさせてもらったときに風を切る感覚は走っているときに近いものがあった。まあ、前にお兄さんがいる分ちょっと感覚は違ったし温もりとかもあったしいい匂いも……いやそれは関係なくて。

 

 バイクの名前は聞いたけど、なんかウマ娘の名前にありそうな名前だった。興味薄いから多分すぐ頭から飛んでっちゃいそう。

 

「多分それヤマニンゼファーだよ」

「ヤマニンゼファー……ああ、安田記念とかの!」

 

 お兄さんのバイクはヤマニンゼファー、うん覚えたわ。

 そんな話をしつつ、運ばれてきた料理をいただく。とてもお洒落だし美味しかった。写真も撮ったしあとでウマートしておこう。

 

 お昼も食べ終わって街をぶらり。入学祝いなんかも買ってもらっちゃって、ルンルン気分でお兄さんと歩く。久しぶりのお兄さんとのデー……お出かけ。正月に満足するまで構ってもらえなかった分を取り戻せた気がする。

 帰りはママが迎えに来てくれるとのことで、それまでお兄さんの家にお邪魔することになっている。

 

「バイクはあそこに停めてるよ……誰かいるな」

「いるわね。バイク好きなのかしら。触ってはいないようだけど、どうするの?」

 

 マンションの駐輪場。お兄さんが指さしたところには大きめのバイクが一台と、それに至近距離で眺めているウマ娘がいた。

 

「うっわー。カッケー!」

 

 声にも出てるし。お兄さんと顔を見合わせて、笑う。本当にバイクが好きな子みたい。お兄さんが声をかけて、その子が振り向く。だが、私はそこからのお兄さんの言葉なんて聞こえなかったし、アイツも聞こえてなんていなかっただろう。

 

 そこにいたのは、鹿毛の、

 

 私が生涯かけて競い合うことになるだろうと、そういう運命を感じるアイツがいた。

 

 

 

 

 運命の出会い、それは多くの人たちが夢想するも実際には滅多に起こりえないもの。運命かどうかなんていうことも、後になってからではないと分からない。

 しかし、ウマ娘やそのトレーナーには存在している。そして私にも、その出会いがあった。

 

 ウマ娘とトレーナーも、初めて出会ったときに運命を感じることがあるという。私がお兄さんと出会ったのは赤ちゃんの頃、だからその時の自分がどう感じたのなんかは覚えていないし分かりようがない。

 

 知っているのは、大泣きしていた私が泣き止んだということだけ。これはママから聞いた話。

 

 直接聞くのは恥ずかしいけれど、お兄さんが私を見たときに何を感じたのか知りたい。もし運命を感じてくれていたのならいいな、とも思う。まあそんなこと素直に言い出せないのが私なんだけど。

 

 これは、選抜レースを控えた私をタキオンさんが抱き着いてきて、彼女の温もりにとても切なくて近しいものを感じる、そのちょっと前の話。

 

 ちょっと私の運命、多すぎ……?




かんたんキャラ紹介

●ダイワスカーレット
その後トレーナー宅でサプライズパーティが始まった。ママからティアラをもらってご満悦

●グラサンにマスクの不審バ
尊い…と言い残して気絶した。「偶然だね。話しかけに行くとこの子が拗ねるから、すまんね」というメッセージが来ていたが気付いていない。

●鹿毛のアイツ
入学前に地理確認も兼ねて走ってたら最近出たバイクを見かけて目を輝かせていた。

●トレーナー
下手に研究するよりデジタルに任せた方が確実と開き直っている。
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