初恋の人の娘のトレーナーになった   作:かのえ

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デジタル最強!


1, デジタルご乱心

 春、ここトレセン学園も出会いの季節となり、新しいウマ娘たちがやってきた。夢と希望を抱いて、そして栄光をつかめるのは一握り。一勝もできずに地元に帰ることになる子たちだってたくさんいる。

 トレセン学園は狭き門だが、そこから更にその中でトレーナーが付くか、そして勝利できるか、重賞もとれるか、G1を制することができるのか、様々な段階で大きな壁が聳え立つ。

 

「……だというのにあいつは」

 

 はあ、と大きくため息。視線の先には木の陰から期待に胸を膨らませる新入生を眺める変態。先日ドバイワールドCを制したウマ娘だとは思えない醜態を晒している。これでG1を6勝(しかも芝とダートを織り交ぜて5連勝中)しているというのだから、世のウマ娘はこいつを殴っても文句は言われないだろう。

 

 ドバイに行った時のことだ。

 運の巡りあわせがとても悪かったのか、飛行機で移動していたところ乗り継ぎ機にトラブル発生、待機を余儀なくされた挙句、現地に到着しても天候不良で満足に調整もできない状態。その他、デジタルのスマホがぶっ壊れたりするなど悉く何者の意思かしらないが、運が向いていなかった。

 

(タキオンを連れていってて良かった)

 

 アグネスデジタルは勝利を目的とせず、ただ『ウマ娘ちゃんが好き』というモチベーションだけで走る変態。つまり、空港でウマ娘が近くにいなかったり、豪雨によってウマ娘が走ってる様子を見られなかったり、スマホで推しを供給できていなかったりと、はじめて見るくらいにトラブルのたびに憔悴しきっていた。

 

『ウマ娘ちゃんの幻影が、見える』

『デジタルしっかりしろ、それはタキオンだ幻影じゃない』

『もう、ゴールしてもいいよね……』

『まだ走ってすらないけど?』

『デジタルくん!? し、死んでる……』

 

 親指を立ててデジタルは空港の待ち椅子に倒れこんでいた。いやお前絶対に余裕あるよな?

 

『さあ、実験を始めようか』

『どうした急に』

『デジタルくんのデータを採集しているところでね。今回は貴重なデータが取れそうだ』

『具体的に?』

『肉体的接触面積によるリラクゼーション効果と、それによるコンディションとの相関関係さ』

 

 基本的にウマ娘が隣にいるとうるさいためタキオンはデジタルに対し僕を挟んで座っていたが、すすすと歩み寄ってデジタルに急に抱き着いた。

 ちなみに僕が隣でもデジタルはうるさい。僕はトレーナーであって、ウマ娘を勝たせるために全力を注いでいるが、オタクではない。だというのに何故か彼女は僕のことをオタク仲間だと認識している節があるようで、オタク特有の早口で語りかけてくる。

 

 一度タキオンに相談したことがあるが「いや、デジタルくんのトークについて行ってる君もオタクだろう? 熱心に聞きこんでメモまでしてるじゃないか」と言われた。心外な、各ウマ娘のデータや癖、日常やトレーニング内容がハイレベルで無償で手に入るんだぞ? それに脳内シミュレートでレース展開まで綿密にこなせるとかトレーナーとして聞き漏らすわけにはいかないじゃないか。そう答えるとため息をつかれた。何故。

 

『はうっ!?』

『し、死んでる……』

『ううむ、刺激が強すぎたか。次回はもう少し軽くしてみるか』

『冷静に考察してる場合か?』

 

 結局、代替便がやってくるまでデジタルはそのままだった。というか普通に寝てたし移動の疲労もあっただろうけど。

 またドバイに着いてからも似たようなことがあった。

 

『雨、雨、雨……走ってるウマ娘ちゃん、どこ』

『デジタル、それより自分の調整の方を気にした方が良いと思うよ』

『そんなこともあろうかと』

『タキオン今どこから出てきた』

 

 豪雨に次ぐ豪雨、満足に走ることのできない中、デジタルはランニングマシンを使っていたがフラストレーションのせいでうまくペースを作れていなかった。どうしたものか、と考えているとぬっと地面からタキオンが生えてきた。本当にどこから出てきた。

 

『やあモルモ……トレーナーくぅん』

『うーん、嫌な予感がしてきたぞう』

『せっかくの機会だ。海外ウマ娘たちと親睦会を開くことにしてねえ、ちょっとした出し物を』

『急用を思い出した、じゃ!』

『デジタルくん、確保したまえ!』

『ヒョァア↑』

『ちょ、おま!?』

 

 タキオンに指示されて急に全力を出したデジタルに飛びつかれ一瞬で確保された。そういうとこで本気出すなよ、というか僕がトレーナーやるよりタキオンに指示もらった方が調子よくなるんじゃあないかなあ!?

 

『さ、日本で発見されたUMA、【怪奇! 発光人間!】のお披露目と行こうじゃないか』

『は、離せこら!』

『ヒトがウマ娘に勝てるわけないだろう? それも二人がかりだ』

『タキオンさんとの共同作業……じゅるり☆』

『Are you ready?』

『ダメです!』

 

 その後、同じく日本からやってきていた別のウマ娘のトレーナーに慰められた。発光しながら。いっそのこと殺してくれ。

 後日、日本のトレーナーはヤバいと現地で話題になったとか。風評被害もいいところだよ。

 

 更に、デジタルのスマホが壊れた時も

 

『……』

『す、スマホなら僕のを貸すからさ。あとでアプリで写真と送ればいいだろ?』

『秘蔵の、ウマ娘ちゃんフォルダを、糧に、していたのに、どうして』

 

 はじめて見るくらいに気落ちしていた。基本的にデジタルもタキオンも勝手にモチベーションを保つからこんなときの対応の仕方がわからない。ダスカちゃんとかならお菓子あげたりあやしてたら機嫌よくなるんだけど。

 どうしたらいいのか頭を悩ませる。発光しながら。

 

『ふぅむ、なら私のを貸そう』

『ウマ娘ちゃんのススススマヒョを!?』

『食いつきの差が露骨すぎやしない?』

 

 デジタルのスマホが壊れてから修理できないかやってみる、と色々やってたタキオンだったが、専門じゃないから無理だということで諦めたみたいだった。

 もしスマホの修理までできたら驚きすぎてドン引きするよ。

 

『デジタルくんなら大切に扱ってくれるだろう?』

『かっ……神対応!? 後光、後光が差してる!!』

『それは僕ね』

 

 発光する僕を置いて狂喜乱舞して部屋を出て行ったデジタルを見送り、タキオンに問いかける。

 

『で、どんなアプリ?』

『な、なんの話だい?』

『タキオン?』

『……言わなきゃダメかい?』

『うん』

『……裏でカメラ動かしてるくらいだけど』

『プライバシー! 倫理観ガバガバか!』

 

 うん。

 

(タキオンを連れていってて良かったことあったか……?) 

 

 まあ、勝ったから、ヨシ。そういうことにしておこう。

 何はともあれ、今日は選抜レースの日だ。なんかドバイでのことを思い返していただけだったのに、とても疲れた気がする。

 

 選抜レースというのはトレセン学園のビッグイベントの一つである。各ウマ娘はより良いトレーナーの目に留まろうと必死に走るし、各トレーナーはより良いウマ娘をスカウトしようと目を光らせる。

 よりディープなウマ娘ファンなんかは選抜レースまでチェックしているらしい。誰よりも先にあの子のファンだったんだ! という古参になりたい人とかそういうのだろうか。

 

「ダイワスカーレット、もうこの時点で素晴らしい仕上がりだ……!」

「入試レース、模擬レースを見てもすごいものを持ってますね」

 

 選抜レースの会場へと向かうトレーナーとそのサブトレーナーだろうか、ダスカちゃんのことを話題にしているようだった。すでに有力候補として名が上がっているようだ、ちょっと日本を離れていたからここ数日のことのはずなのに話題に遅れている。

 

「ダイワスカーレットちゃん、脚質は先行、逃げ。性格は面倒見がよく他人からよく頼りにされる。少し勝気な面もあるが常に前向きで虎視眈々とチーム所属を狙っていたようだ。誕生日は5月13日、母は重賞ウマ娘。好きな言葉は……」

「どうした急に」

「やっぱオタクのデジたんとしては、こういう説明口調も時には必要だと思うんだよね」

「はあ」

 

 いきなりノートを開いてぶつぶつと呟きだしたデジタルから距離を取った。なるべく他人のフリしておこう、それがいい。

 

「あ、そうだオタクくん」

「オタクくん言うな」

「デジたんがちょーーっとダイワスカーレットちゃんのこと調べてた時にこんな写真出てきたんだけど」

 

 デジタルがノートに張り付けていた写真をこっちに見せてくる。そこにいるのは

 

「ダイワスカーレットちゃんのお母さんの横、いるのってトレーナーさんっしょ?」

「……そうだね」

「やっぱ小さいころからオタクだったんだ。目がキラッキラしてんねえ! どうして目がしんじゃったの」

 

 よりにもよって、見つかりたくないやつに見つかってしまった。いや、見つかるのは時間の問題だったろうけどさ。

 写真の中のあの人を見ると、心が痛む。もうどれだけの時間が経った、ダスカちゃんが入学できるだけの時間があったというのに、僕はまだ囚われている。

 先日ダスカちゃんを招いてサプライズパーティしたとき、僕の家にやってきたあの人、そしてその面影が強いダスカちゃん。

 

「はぁぁぁぁ、尊い。将来を渇望される美少女ウマ娘の親戚のお兄さんが優秀なトレーナーでイケメン、目が死んでるけど。どこのアニメですかー!?」

 

 またズブズブと後悔と諦念に沈みそうになっていたが、デジタルのうるさい声に引き戻された。

 

「あたしも美少女ウマ娘ちゃんの幼馴染とか親戚とかそういうアレが欲しかった……あっ、親戚いるししかも同室……推しと同じ空間で生活してて、ごめん全国のオタクくんたち!」

「……置いていくか」

 

 とりあえず一人でヒートアップしているデジタルを放置して進む。あのまま放置してても問題はない。近くにウマ娘がいたら一瞬で壁と同化するので周囲に迷惑はあまりかけないし。

 

「おい、タキオンのトレーナーだ」

「やっぱりスカーレット狙いか? 親戚だもんな」

「最初からウオッカに絞った方がいいか? これは」

 

 レース場に近づくにつれて、こっちへの視線が厳しくなってくる。去年とかはそんなことなかったのにな。

 デジタルとタキオンが結果を出していくにつれて、選抜レースに足を運ぶたびにほかのトレーナーからの視線が強くなってきている気がする。初めての正式契約を結んだデジタルがよくわからないローテで勝ち、タキオンが無敗の四冠を達成したのが大きいのだろうが、中身はまだ走り出しの新米なので勘弁してほしい。

 

「やあ、トレーナーくん。デジタルくんはどうしたんだい?」

「デジタルなら置いてきた。そのうちそこらへんでこそこそ動き回るでしょ」

「それもそうだね」

 

 基本、選抜レースにウマ娘が観戦にくるなんてことはあまりない。トゥインクルシリーズを退いたシンボリルドルフやマルゼンスキーといった連中が遠くから覗きに来ることはあるが、現役ウマ娘が見に来ることは滅多にない。

 血縁がいる場合などは応援にくることもあるが、基本的にここはトレーナーを探すウマ娘とトレーナーが主役。それにメイクデビューが終わってからでも走りを見るのは遅くない。

 

 だというのに何故デジタルとタキオンがこの場に向かうのか。デジタルは言わずもがなだが、タキオンは満足に走れない分、研究でこもりがちのためこうやって僕が外に誘った。

 

「研究も良いが、コーヒーブレイクついでに出歩くのもいい。気分転換になる」

「たまには出歩かないと。白いを通り越して青白くなるよ」

「キミは1680万色に発光するけどね」

「誰のせいか言ってごらん? ん?」

「あっはっは」

 

 もうそろそろ医者からもokが出る頃合いだ。夏のとりあえず宝塚を目標に手頃なレースを叩いてから行く予定だ。もちろんその時の足次第だし、場合によっては直接行くことも考慮している。最終的には秋シニアに向けて調整していく。

 

 レース場につくと、集合時間から30分以上前だというのに、そこにはもうたくさんのトレーナーとレースを待つウマ娘たちがいた。ウマ娘たちはこれからのレースに不安と期待に揺れているものの、誰もがこのトレセンに通うことを許されたエリートたちだ。

 すると、何人かがこちらに気が付いたような素振りを見せ始めた。

 

――あれってアグネスタキオンさんじゃない!?

――ウソ、私ファンなの!

――なら隣の人はトレーナーね。いいところ見せないと!

 

 こちらをちらちら見つつ何やら話しているようだ。ただ僕は人間、彼女らの会話を聞き取るのは難しい。

 タキオンは耳をピクピクと揺らしてなんとか聞き取ったようだ。

 

「おや、見つかったようだねえ。あの子たちは君にいいところを見せようとしているようだよ」

「ふーん」

「興味なさげだね」

「タキオンこそ」

「私が興味あるのは君が気にしているウマ娘だけさ。当然入学してきているんだろう?」

 

 タキオンがそう言い終わるか終わらないかのタイミングで、ちょうどダスカちゃんはレース場にやってきた。隣には先日マンションの駐輪場で出会ったウマ娘が一緒だ。名前はたしか、ウォッカといったか。いやウオッカだったな。

 

「ウオッカちゃん、脚質は先行、差し。性格は――」

「それはもういいよデジタル。というか急に出てこないで、心臓に悪い」

「あれ、タキオンさんは?」

 

 デジタルに言われてさっきまでタキオンがいたところを見る。いない。

 そしてレース場の方に視線を戻すと

 

「は?」

「さすが超光速のプリンセス、超光速の粒子! ブランクはあってもその走りは健在……はぁ推しが今日も速くて尊い」

 

 新入生たち、しかもダスカちゃんに向かって一直線に駆けるタキオンの姿があった。

 いや何してんの!?




●アグネスデジタル
供給が足りなくて死にかけた。ダメージが深かったら一年くらい立ち直れなかったかも。

●アグネスタキオン
意図的にトレーナーを光らせた

●トレーナー
光った

●ダイワスカーレット
選抜レース頑張らなきゃって思いつつお兄さんいないかなって探してた。タキオン着弾まであと3秒
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