呉雷庵になったけど   作:100000

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雷庵かっこいいですよね。あれくらい狂人な方が一周まわって好感持てます。


呉一族とは聞いてない

起きたらどういうわけか和室にいた。天井の明かりが障子のようなよくある白い紙に覆われていることからここが和の部屋だということが分かったからだ。

 

『────』

 

『────』

 

誰かの声が聞こえる。その声は()()()()()()()()()()()()()()()。聞こえ辛い、耳が、声を拾ってくれない。

 

視界に誰かが入ってくる。

 

パッと見、老人だ。ただその老人の目は───

 

黒眼と白眼が逆だった。

 

 

俺は恐怖で泣いた。

 

 

─────────────────

 

雷庵(らいあん)!どこにいる!稽古の時間だぞ!』

 

「・・・ん」

 

懐かしい(おぞましい)夢から覚めるとともに先生が俺を呼ぶ声が聞こえる。俺の事を雷庵と呼ぶそのセリフが忌まわしき我が人生が現実であることを教えてくれている。

 

「・・・稽古したくないな〜」

 

誰も聞いてないことをいいことに文句を垂れる。ついでに寝返りも打つ。屋根の上で寝てるから瓦の硬い感触がするが、日の光で温かくなっていることもあり、むしろ心地いい。このまま二度寝でもしてしまおうか〜。

 

「兄貴やっぱりここにいたー」

 

位置的に俺の頭の上辺りか・・・。聴き馴染んだ妹の声が聞こえる。

 

「おーい兄貴〜早く起きないとまた怒られるよ〜」

 

妹が俺の体を揺するが目を開けない。ものわかりもよく、気配りのできる妹だ。きっと俺の気持ちを察してこの場から退いてくれる。

 

「早く起きないと食べちゃうぞ〜」

 

そんな可愛らしいことを聞いたら思わず頬が緩んでしまうだろ。

 

「あ!今笑った!」

 

「・・・マジか」

 

どうやら本当に緩んでいたようだ。我ながら可愛すぎる妹を持ってしまったものだ。

 

目を開く。そこにはまだ小学校入学前相応のあどけない表情をした少女が俺の横に座っていた。

 

「よ、風水(ふうすい)

 

「やっぱり起きてた!」

 

俺の狸寝入りを怒っているのか妹の風水は小さなほっぺを膨らませながら()()()()こちらを睨みつけてる。もうその眼にも慣れたものだ。頭を撫でるとそれが萎んでいく、可愛い。可愛いオブ可愛い。

 

「兄貴!練習!」

 

「あーはいはい」

 

そんな妹に急かされたのなら動かないわけにもいかない。風水をお姫様抱っこして屋根から飛び降りる。

 

「私一人でも降りられる!」

 

「はいはい」

 

確かに今の風水なら簡単に飛び降りれるし衝撃も逃がせるだろう。でも兄貴として妹を抱っこできるのももう短いと思うし今のうちに堪能できるものは堪能しておこう。

 

「さぁ、風水も何かトレーニングがあるだろ。お兄ちゃんはもう大丈夫だから行ってきなさい」

 

「またサボったらおじいちゃんに言うからね!」

 

「うん?あぁ、あの老害のことはいいんだよ」

 

やたらと()()()()()()()()()()クソジジイの姿が汚れなき風水の脳内に写っていると思うだけでも虫酸が走る。

 

「・・・ほぅ、言うではないか」

 

「うげっ」

 

噂をすればなんとやら。後ろからものすごい圧を感じる。振り向くとそこにはまさに今俺が口にしていた老人の男が立っていた。

 

「それほど大口を叩くのならばさぞ動きたくてたまらんのだろうな」

 

その老人の後ろに立つのはゴツゴツとした肉体の男三人組。

 

「さぁ、時間だ」

 

「おいふざけんなジジイ!コイツら練習と本番の違いが分かってない頭パッカーンな連中だぞ!」

 

「練習も本番も変わらん。人はな、死ぬ時は死ぬのだ」

 

「お前ホント大概だな!?」

 

─────────────────

 

 

 

 

 

人はありえない事が起こると自然と否定的な、あるいは非現実なものと脳が勝手に解釈し、現実逃避を始める。

 

しかし人間とは適応する生物(もの)。それは俺も例外ではなく『自我のある赤ん坊』のまま、歩くことが出来るようになる頃にはそういうものだと雑に結論づけていた。

 

転生者。しばらくアニメ界にブームを巻き起こしていたこの単語、創作的なものと思っていたがどうやら本当にあったようだ。

 

実際に俺はこの世界(漫画)『ケンガンアシュラ』のキャラクター(くれ) 雷庵(らいあん)に転生、憑依してしまったのだから認めざるを得ない。

 

アニメの世界に転生するのはいい。少なくとも現実で生きているよりは楽しいことが起こると思う。だけど物語によってはダークサイド、いわゆる裏側の存在というものがある。

 

俺が生まれ落ちた一族は呉一族。ダークサイド筆頭殺し屋一族だ。

 

マズイ、これは非常にマズイ。殺しを生業とする一族に生まれた以上、俺も必然的に殺しを学ぶことになるだろう。

 

率直に言おう、無理である。

 

倫理観が形成されていく幼少期に命を奪っていくことを当たり前としていたのなら受け入れられただろう。

 

だが、こちとら自我の形成どころかアイデンティティまで到達している青年期の人間だ。いまさら『レッツキリング!』なんて言われても無理なのだ。

 

であるならば俺の目標はもう決まっている。

 

一つ、『呉一族を抜ける』

 

二つ、『健全な一般企業への就職』

 

三つ、『幸せな家庭を持つこと』

 

この三つだ。

 

『呉一族を抜ける』。原作は知ってても呉一族のことは頭がイカれてることぐらいしか知らないが、代々続いてきた一族を抜けるとなるとそれなりの『制裁』が待っている可能性があるため今これに手をつけることは出来ない。恐らく最終目標になると思われるためここは慎重に動きたい。

 

『健全な一般企業への就職』。この就職という言葉はこの『ケンガンアシュラ(世界)』において二つの意味を有する。

 

一つは、一般人と同じ当たり前の就職だ。もう一つは()()()()()()()()()()ということだ。

 

『ケンガンアシュラ』では、権利や土地の売買を各企業専属の選手による『殴り合い』で決めている。違法取り引き?なにそれ食えんの?

 

99.9%は普通の社員として、残りの0.1%未満は闘技者として闘いに臨むというまさに漫画の世界のようなことが起こっている。

 

しかしこの枠に関しては俺もアリかなと思っている。理由は俺が『呉雷庵』であること。そして呉一族という(殺し屋ということを除けば)戦闘スキルを育成する環境としては最適な場だからだ。

 

殺し屋ということもあり、戦闘技術を高める訓練は日常的に行われているためそこら辺のファイターよりは強くなれる。

 

『幸せな家庭を持つこと』。うん、これは当たり前だ。幸いなことに雷庵の顔はイケメンだ。原作だと狂人すぎて近寄ることも出来なさそうな感じだったが、普通に大人しくしてればモテるでしょこの顔。

 

さて、いい加減まずこの呉一族っていう極限環境に慣れないとな・・・・・・

 

 

 

と思い始めたのが半年前だったか・・・。

 

「おい、もう動けんのか」

 

「・・・・・・・・・これで動けると思ってんのかよ」

 

指を動かすのも億劫な程にボコボコにされ、倒れ伏した俺は気遣いの言葉もない先生『達』へ精一杯抗議する。

 

俺を見下ろすのは三人の呉一族の屈強な男たち。つい先程この三人にフルボッコにされて俺は今地べたに這いつくばっている。

 

「動け。動かないと殺す」

 

「動いても殺すだろ!」

 

「そうだ。だからお前の力で、技で、乗り越えろ!」

 

その言葉を皮切りに俺の先生、呉 神威(かむい)は足を振り上げる。

 

それを地面を転がることで回避する。しかし起き上がった先には既に先生の拳が目の前まで迫っていた。

 

「っ!!」

 

ギリギリのところでガードするが威力を殺し切れず、後ろに吹っ飛ぶ。・・・しかし距離は稼げた。

 

「相変わらず容赦ねえな。それが子どもに向けてすることか」

 

「・・・キックボクシングか。()()()()()()()()()()()()

 

「聞けよ!」

 

距離をとって構えた俺の言葉を無視して先生は考察を述べている。

 

「この前は・・・・・・太極拳だったか?」

 

「冷静に考察しやがって。一泡吹かせてやるからな!」

 

「ふ、面白い。・・・来い!」

 

先生の言葉を皮切りにお互いに距離を詰める。先生の言う通り、俺のスタイルは今キックボクシングだ。ボクシングにキックが加わった・・・と言葉だけなら大したことないように聞こえるがこの差はデカい。足の力は腕の何倍もある、当たれば必殺の一撃になりうる。

 

そのキックを当てるためにジャブのコンビネーションで先生を攻めたてる。

 

最初は俺の連撃を防御していた先生も少しずつ対応が遅れ始める。

 

「シャア!」

 

遂に俺の攻撃が先生の顔面に直撃する。その一撃を受けた先生の体勢が崩れる。

 

今だ!!!

 

顔面へハイキックを放つ。最高のタイミングに最適な力で最速のスピードで放つ。本来なら当たっている・・・しかし。

 

「うっそ!?」

 

「狙いが読みやすいんだよ」

 

俺が放ったキックは先生の厚い腕に阻まれていた。流石に齧った程度の練度じゃ奥深い攻撃もできないのか、こちらの手を読まれていたようだ。

 

でも、そこまでは()()()()だ。

 

防がれたとしても体勢が崩れているのは事実。すぐさま距離を詰める。

 

(・・・詰めるか!アホが!)

 

間合いを詰める俺を先生はカウンターを放つべく右腕を伸ばす。だが、俺は狙っていたのは先生がそのカウンターで()()()()()()()()()だ。

 

俺は握りしめていた拳を『開く』。

 

(奥襟・・・!こいつまさか!?)

 

「引っかかったな!」

 

ガードを固めた先生に俺が仕掛けたのは衣服の奥襟を掴むという行為・・・それが意味するのは。

 

(柔道───)

 

「セイヤッ!!」

 

先生に足払いを仕掛け、残り足を軸に背負い投げをする。

 

先生を地面に叩きつけた後、すぐさまマウントをとる。

 

「トドメ────ぶべ!?」

 

マウントをとり、トドメを刺そうとした瞬間顔面を誰かに蹴り飛ばされる。

 

「だから!複数人は卑怯だろ!」

 

俺を蹴り飛ばしたのはもう一人の呉一族の男。名前は知らないがついさっき先生と一緒に俺をボコしてきやがった奴だ。

 

「問題ない。お前は()()だからな」

 

「お前らそうやってやたら俺を痛めつけるけどな、そういうのをいじめって言うんだよ!教育に悪いぞおい!」

 

「それだけ喋れるのなら問題ないな」

 

「あ、ちょ、やめ、ごめんなさ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いてててて・・・」

 

「兄貴、大丈夫?」

 

傷口への消毒液は本当に染みる。その痛みには慣れたが、だから大丈夫というものでもない。

 

「あいつら、絶対いつか泣かす」

 

そう言いながら半べそをかいている俺だが、それも今の間だけ。戦闘スキルが向上しきった暁には絶対に土下座させると心に決めている。

 

「あ、風水。絆創膏取ってくれ」

 

「はい!」

 

笑顔で絆創膏を渡してくれる風水はもはや俺の心の癒しになっている。周りの奴らは誰を殺したか、何を壊したかで己の武勇を語る殺伐とした環境だが、そんな中オアシスとなってくれているのが妹の風水だ。

 

「・・・?兄貴どうしたの?」

 

「いや、ちょっと考え事してただけさ」

 

不思議にこちらを覗き込む風水の頭を撫でる。猫のように目を細める風水を見てるともうずっとこのまま撫でていたくなる。

 

「おい、雷庵」

 

「・・・なに?先生」

 

そんな俺の唯一の癒しのひとときを邪魔する輩が一人。おのれ先生、この罪は重いぞ・・・!

 

「前は太極拳、その次はキックボクシング、そして柔道。お前はいつになったら()()()を使うのだ」

 

・・・始まった。先生はいつも呉一族の技術を使わない俺を叱っている。教育係としてだろうが昨今子どもの個性を主張する風潮が強いのだからこちらのやり方を否定しないで欲しいところだ。

 

「呉の技は危険すぎる。俺が目指しているものとは正反対だ」

 

呉一族は伝統的な、先祖代々受け継がれてきた技というのが意外と少ない。それは呉一族が絶えず外の技術を取り入れ続け、進化し続けてきたからに他ならない。

 

だからこそ、殺し屋として一族総出で磨き続けてきたその技術はあまりにも危険すぎるのだ。

 

ただの正拳突きにすら一撃で人を死に至らしめる技の数々が眠っている。それを継承するということは自らを殺人マシーンに改造していくということ。

 

この世界に生まれ落ち、『不殺』を掲げた俺としては決して受け入れることの出来ない代物だった。

 

「だから、呉の技は使わないと?」

 

「何度も言ってるだろ?致死性を除けば使うがそれだとそこら辺の格闘術と変わらんしな」

 

「・・・そうか」

 

残念そうな顔をする先生。先生的には俺を呉一族でも立派な男にしたいんだろうが、あいにくこっちは普通の人間として生きていきたいんだ。すまんな。

 

「よし、時間だ!」

 

「なんのだ?」

 

「勉強だよ!お前らがボコすから全然課題に手をつけられてないんだよ!終わらなかったらマジで手伝わせるからな!」

 

もっとも小学生の宿題なんて難しいものではない。ほんの冗談のつもりだ。

 

「ふっ、なら拳法だけでなく勉強の方も俺が教えてやろう」

 

「え、先生出来んの?勉強」

 

「ナメるな。数学くらいできる」

 

「・・・算数なんだよなぁ」

 

せっかくだし風水の方の勉強も見てもらおうかな。

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜」

 

呉一族当主、(くれ) 恵利央(えりおう)は静かにため息を吐く。

 

1300年と続く呉一族の当主であり、齢90を超えながらまた桁外れの実力の持ち主であるがそんな男の悩みの種は()()()()()だった。

 

名を雷庵、人呼んで『呉一族の異端』。

 

呉一族に生まれながら雷庵は殺すことを拒んだ。代々殺し屋、暗殺者として生きてきた呉一族にとってそれがどれだけ異質なことだったか。

 

実力が伴わず暗殺から手を引くというのはよくあることだ。だが雷庵はそうでない。恵まれた才能を持ち、実戦に出れば間違いなく一線級の実力者となるはずだった。

 

始めはある程度()()()使()()に教育を進めてきたのだが、ここで一つ誤算が生まれてしまった。

 

それは、雷庵の類稀なる才能である。

 

それはある日のことである。いつも通り雷庵は人を殺したくないと言い放つ。元々雷庵も呉一族が課す修行には協力的だった。だが、何を思い立ったのかそんな世迷言を言うようになった。

 

これに怒った教育係が雷庵を()()。当然そこに写るのは圧倒的戦力差にものを言わせた暴力・・・のはずだった。

 

勝ったのは──雷庵だった。

 

成人の、仮にも呉一族の男をまだ小学生の少年が倒すなど全くもって考えられない事だった。当時の教育係が平均よりも下の実力であったとしても、だ。

 

だが、それを雷庵は出来てしまった。その原石は磨かなくともダイヤモンドのように輝いていた。

 

その次の日から雷庵は他の者とは違うトレーニングを課されることとなった。

 

呉一族の実戦部隊の男達との組手、雷庵への修行はそれのみだった。

 

強い力をより強い力で抑えつける。教育としては一方的ながらこれ以上ない()()()だった。だが、雷庵は相手の技術、スタイルをスポンジのように吸収し続け、加速度的に強くなっていった。

 

極めつけには最近は他の格闘技も取り入れ、本来の呉の戦闘術とは違う雷庵式戦闘術を確立しつつある。

 

呉一族も常に外部の技術を取り入れ続け進化を続けている。しかし雷庵はそれを独自に行っているのだ、小学生という若さで。

 

雷庵がこのまま戦闘員として育ってくれれば呉一族当主として言うことは無いが現状雷庵が従う気配もない。だからといって殺すにはあまりにも惜しい逸材。しかしこのままではいずれ手がつけられなくなる。

 

「まったく・・・あのガキは・・・!」

 

今日は3人がかりで痛めつけていたが、2人がかりだと押し返すようになってきた。

 

その成長ぶりに当主として嬉しくも、その存在に危機感を覚える恵利央だった。




原作開始までは結構ダイジェストでやりたかった(過去形)
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