呉雷庵になったけど   作:100000

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雷庵(オリ主)くんのお披露目回です。
自分なりのこんな戦い方があったらいいなという妄想成分たっぷりです(注意喚起)

途中で三人称に変わります。


ガチバトルとか聞いてない

さて年齢も18歳となり、原作が開始するまであと少しといったところだ。確か原作開始時は雷庵の年齢は21歳だったはずなのであと3年というところか。結局高校は、呉の屋敷から近いところに行くことになった。無論、風水も同じだ。・・・というよりいい高校を紹介しても『嫌だ』の一点張りで周りも、まぁ監視役としてなら・・・と特に反対もなかったという経緯はあったのだが。

 

学校生活の方は特に音沙汰も無く、いやまぁ風水関係で色々とあったりはしたのだが、それはこの際置いておこう。うん、何も無かったな・・・。

 

高校も無事に卒業出来そうだが、俺はとある一つの『壁』にぶち当たっていた。

 

しかしそれは俺だけの問題ではない。

 

否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それはすなわち、『受験』である。

 

 

 

 

「うおおおおおおおお!!!!!」

 

参考書の解き方を見ながら、例題と演習問題をひたすら反復させて解いていく。中学時代の勉強はなんやかんや前世からの知識もあって、あと雷庵自身に何故か備わっていた頭の良さもあって学校の授業を聞いてるだけで高得点を取ることが出来ていた。

 

しかし高校の勉強、特に理系科目の難しさは明らかにその比ではなかった。

 

前世が文系で理系科目の知識が無かったこともあるだろうがそれにしても難しすぎる。ハッキリ言って舐めていた。

 

日本は学歴社会という程、学歴差別は無いと言われるが、実際良い大学を出れば良い就職先に就けるのは傾向として大いにあるのもまた事実。

 

もし俺が闘技者となるのなら大学に行かずとも、その実力で社員となれるだろうが・・・呉一族のコネもある以上、最終目標『呉一族を抜ける』というのが叶わなくなってしまうだろう。こちらとしては普通に入社→後に闘技者として採用の流れが望ましい。

 

『呉』のコネで入るのは不味いととにかく自分のチカラで大学合格を勝ち取ろうと絶賛勉強中なのだ。

 

しかし俺を勉強に駆りたてる理由はそれだけでは無い。

 

「兄貴~、そこの微分の式間違えてるよ~」

 

「へぁ!?」

 

風水が横から俺の数式の間違いを指摘する。指摘されたのを見ると確かに間違えていた。

 

そう、高三の俺に何故か高一の風水が勉強を教えているという異常事態になっているのだ。

 

いや優秀なのは兄として大変結構なのだが、それにしても頭良すぎないかと・・・そしてそんな妹のお世話になってる俺が情け無さすぎる!

 

受験勉強がいつしか兄の尊厳を取り戻す戦いにシフトしているが、もう俺は進むしかないのだ。

 

「・・・兄貴~そろそろ休憩したら~?」

 

風水はとても退屈そうに俺とノートを交互に見ている。頭の良い風水には俺がなんでこんな問題を解くことが出来ないのかさぞや疑問なのだろう。

 

「風水ごめんな、お兄ちゃんの頭悪くて」

 

「・・・?兄貴は頭良いよ、世界一」

 

いや世界一頭良いならそれに勉強を教えてる風水はいったい何者なんだ・・・神か?たしかに神だったわ神可愛い。

 

不思議そうに小首を傾げる風水を可愛いと思いつつ、謎に俺を持ち上げる思考回路に疑問を持つ。まぁここで突っ込んでも余計に事態は悪化するのでもう何も言わないが。

 

そういえば原作の呉雷庵はちゃんと学校に行ってたのだろうか。行ってないんだろうなぁあんな感じだと。

 

「少しいいか・・・?」

 

このくっそ忙しい時期に俺の部屋に入ってきたのは神威先生だ。相変わらず『先生』ではあるのだが勉強に関することは一つも習っていない。

 

「どうしたの神威先生?」

 

「・・・チッ」

 

とりあえず対応する俺と・・・多分向こうには見えてないだろうが凄い嫌な顔をする風水。風水、女の子がしちゃいけない顔になってるぞ・・・。

 

「雷庵、お前に客人だ」

 

「・・・俺?」

 

俺に客人とは本当に珍しい。基本ここ、呉の屋敷を出ることはない。()()でよくみんな屋敷をあとにするが、人を殺せない俺にはあまり出番がない。殺す必要が無い護衛の仕事が年に数回ある程度だ。

 

「へぇ〜誰だろ?」

 

「・・・あんまり失礼のないようにな」

 

「???」

 

失礼がないように・・・ということは結構偉い人なのだろうか?つまりは護衛の仕事?なら、窓口の人がいるはずだけど・・・わざわざ俺に会いに来るなんて。『品定め』かな?

 

たまにある依頼人が直々に護衛者や暗殺者を選別することがある。元々どんな仕事に誰が行くのかは、呉一族はそれぞれフリーランスでやってる所があるから割と()()()()とか自分で依頼を貰うという普通の会社員みたいなことをしてる。

 

こうやって自分の目で確認するのはよっぽど目利きか.......それだけの人間くらいだ。

 

そのまま神威先生の後をついて行くと屋敷の大広間の方へと連れられる。基本ここを使うのは宴会や何かの行事・・・そして()()が来た時だけだ。

 

・・・ということは?

 

「失礼します」

 

神威先生が(ふすま)を開けると同時に決まりの挨拶と同時に入室する。しっかり正座したまま入るのを忘れない。

 

「お、はろはろ〜」

 

「・・・・・・え?」

 

そこにいたのは意外な・・・というか予想外にしない人物だった。

 

「おろ?ワシのこと知ってる?」

 

「・・・・・・・・・えぇ。片原滅堂、様ですよね?」

 

長く白い髭に枯れ木のように細い身体、しかしその風貌に似合わぬ程の膨大な『圧』。片原滅堂、端的に言えばこの日本の経済界のトップが目の前に座っていた。

 

「これ、雷庵。客人を待たせるでない」

 

「え、あ、はい」

 

滅堂さんとは反対側に座っているクソジジイこと恵利央も()()()()()言葉使いで俺に座るように催促する。

 

「ふーん、ほぉー、ほほぉー」

 

恵利央の隣に座った俺を興味深そうに眺める・・・観察?する滅堂さん。隣のクソジジイがなんとも居心地悪そうにしてるのが印象的だ。

 

「・・・似とらんの!」

 

「当たり前だ!」

 

ひとしきり俺を見た滅堂さんから出た言葉はソレだった。そしてクソジジイの反応もまたそれに対するものだった。

 

・・・そういえば2人は拳願試合ではパートナーだったんだっけ?

 

もうだいぶ薄れてきた原作知識から2人の関係性を思い出す。では、そんな2人が今この場に集まり、何故俺がここにいるのか・・・それは──

 

拳願絶命トーナメント・・・?

 

・・・しか考えられない。しかしなぜ今?原作突入はまだもう少しあとのはず。そもそも今の時点では呉一族から代表闘技者を出すという話すら来ていないはず。

 

「聞いていた感じでは恵利央と同じ風貌かなと思っておったんじゃが・・・()()()()()()は正反対じゃの」

 

「だからあれほど()っておりますように、似て非なるものですぞ。・・・なんだそのニタニタ顔は?」

 

「う〜ん、なんでもないぞ〜」

 

「・・・・・・」

 

ヘラヘラとした様子の滅堂さんにピキピキと青筋が浮かび始める恵利央。2人とも高齢のはずなのにまるで少年同士の仲の良さを感じる。

 

「あ、あの〜」

 

「ん、どうしたんじゃ雷庵()()()

 

さっそくちゃん付けされた・・・。いやこれはこの人なりのスキンシップなのだろう。俺の風貌で『ちゃん』は流石に身不相応だけど。

 

「今日はいったいどのようなご要件で?なぜ自分がここに?」

 

「・・・・・・おぉー!そうじゃったそうじゃった!」

 

俺の質問に滅堂さんは一瞬だけど明らかに顔を変えた。

 

「・・・・・・入りなさい」

 

 

「失礼します、()()

 

 

「・・・!」

 

ひと目で誰か分かった。滅堂さんを『御前』と呼ぶこの男がどんな存在なのか。

 

「ほぅ、聞いてはいたが『五代目の牙』もなかなかですな・・・」

 

滅堂さんにはボディーガードとして『護衛者』という組織がある。この人はその護衛者の中でも頂点に位置する人。

 

そして拳願試合でも過去一度も負けたことの無い人呼んで『拳願試合の王』──

 

「紹介するぞ五代目“滅堂の牙”『加納アギト』じゃ」

 

考えてみれば当然だ。いくらここが呉一族の屋敷で襲撃なんてまずありえない場所とは言えボディーガードくらいいる。ならそこに滅道の牙がいることも当たり前だ。

 

「御前・・・この男が?」

 

「そうそう!」

 

アギトさんは俺を品定めするようにこちらを見ている。もっとも俺もアギトさんを観察しているのだが。

 

まず身長、既に2mはあるように見える。身体付きもムキムキなんていう簡素な言葉では表現出来ないほどに仕上がっている。それもスーツの上からでもわかるほどに。

 

「ふむ、失礼ながら御前。この者では()()()()()()()()()()()かと」

 

俺をひとしきり見たのか滅堂さんの方へ向き直りそんな言葉を口にする。その言葉を聞いた滅堂さんは少し残念そうな顔をしながらこう言った。

 

「ふむ、雷庵ちゃんでは『力不足』だったかのぉ」

 

「・・・・・・へぇ?」

 

言葉の真意は分からない。でもとりあえずこれだけは分かった。

 

()()()()()()・・・と。

 

「雷庵では、鍛錬相手に不足でしたかな?」

 

「・・・鍛錬相手か」

 

ジジイの言葉でようやくこれから何が起ころうとしているのかを理解する。

 

「・・・・・・測ってもいないのに力不足は、少し心外ですね」

 

挑発気味にアギトさんを見上げる。アギトさんもこちらを見るが相変わらず顔色に変化は見られない。

 

こっちとしてもそれなりに訓練してきたし実力もあると思っている。滅堂の牙には及ばないかもしれないがそれでも食い下がれるとは()()()()()()

 

「よいではないか・・・加納アギトよ、『牙』を示せ」

 

「・・・御意」

 

相変わらず感情のつかめない目で俺を見るアギトさん。しかし身体から闘気のような圧が噴出していることはわかる。

 

しかし考えてみればこれはチャンスなのだ。俺のチカラがどれくらい原作主要キャラに通じるのか知るにはこれほどの機会は無い。

 

「胸を借りますよ、アギトさん」

 

「・・・せいぜい足掻け」

 

その鼻っ柱、絶対にへし折ってやる。

 

 

 

 

そしていつも使用している道場へみんなで足を運ぶ。呉側のいつものメンツに加え、滅堂さんと護衛者一同もいるせいか移動するにもかなりの人数となっている。

 

「ねぇ、兄貴」

 

移動する途中、隣にいる風水が心配そうにこちらを見上げている。

 

「アイツ、やばいよ。凄いヤバい。戦闘タイプじゃない私でもわかる。多分あの人、ホリスさんでも勝てない」

 

風水も気づいた、否、この場にいる誰もがアギトさんの強さに気づいているのだろう。無論、俺も・・・。

 

「でも俺はそのホリスさんにも勝ってるよ」

 

「でも・・・!」

 

我ながら何故こんな危険な渦中に飛び込んでしまったのだろうか。危険を避けるために動いているのに気づけばこんな危ない場所に立っている。

 

きっと避けることは出来た。でもしなかった・・・それきっと俺が中身が違くても器が『呉 雷庵』だからなのだろうか。

 

なら、()()()()()()

 

「大丈夫だから」

 

風水に特に根拠の無い言葉を投げる。そんな言葉を言われて心配するなという方が無理があるだろうか。風水が心配を通り越して泣きそうな顔をする。・・・そんなに頼りないだろうか俺が。

 

「大丈夫、これが終わったら二人でアイスでも食いに行こうか?」

 

「・・・兄貴、それフラグだよ」

 

・・・やっべ、俺も不安になってきた。

 

────────────────────

 

 

 

 

向かい合うアギトと雷庵。いつも練習で扱う道着を着て準備万端な雷庵とは対照的に変わらずスーツ姿のままアギト。まさに朝飯前といったところだろうか。

 

しかしそんな挑発とも取れる態度を受けても雷庵の表情は極めて穏やかだった。

 

(さて、アギトさんはどんなスタイルで来るかね)

 

正確にはその挑発など既に思考の外に追いやり、自身の戦略を練るのに必死になっていた。

 

(アギトさんには()()がある。アギトさんに勝つにはアレの攻略が必要不可欠・・・さて、どうしたものか)

 

「さて、両者とも準備はいいかな?」

 

二人が立つ位置のちょうど中間にいる恵利央が両者に準備の有無を聞く。

 

「先に言っておく。この試合・・・いや『死合』にスポーツマンシップなど無い。心置きなく殺し合いなさい」

 

「え、流石に殺し合いは・・・」

 

恵利央のまさかの言葉に雷庵は驚きを隠せないでいる。雷庵本人は殺し合いまでは、それどころか不殺のつもりでいたからだ。

 

「問題ない。そうなる前に終わらせる」

 

雷庵の言葉を遮るようにアギトが言葉を発する。そこにあるのは挑発ではなく絶対の自信があったからだ。

 

「それもそうじゃな。だがアギト殿、気をつけなされ」

 

そんなアギトを見て、恵利央は不敵に笑う。アギトはそれが何を意味するのかそして──

 

「『禁忌の末裔』を、『一族の異端』を、舐めるでないぞ?」

 

その言葉が示すものをまだ知らなかった。

 

『始め!』

 

恵利央の開始の声と共に構える両者。お互いの風貌も対照的なら、その構えも正反対と言えた。

 

腰を低く落とし、両手を開き前傾姿勢に構えるアギトの姿はまさにケモノだった。そして雷庵は、右半身を前に出し、重心も少し後ろに預ける程度のリラックスした姿勢だった。特徴をあげるとするならば肩の高さに置いた手がどちらも軽く広げ、その甲を敵に向けていることか。

 

立ち上がりはどちらともゆったりとしたものだった。雷庵はアギトの様子を観察、アギトはわざわざ自分から出ることは無い・・・始めから()()()()のつもりだった。

 

「ふぅ・・・」

 

これではラチがあかないと雷庵が動く。

 

姿勢を崩さず、すり足でアギトへ迫る。しかし体格はアギトの方が上、雷庵が先に詰めても、先攻するのは間合いが長いアギトの方だった。

 

「シィ・・・!」

 

開手した手を握りしめ、両手によるパンチで雷庵の間合いを潰しにかかるアギト。

 

しかしその攻撃を雷庵は同じく両腕で巧みに捌いていく。

 

『アギトのラッシュに対応するか・・・!』

 

その姿に護衛者側にも少なからず驚きが走る。しかし呉一族側からすれば既に見慣れた光景であり、その顔が変わることは無い。

 

『雷庵ちゃんのスタイル・・・変わっとるのぉ』

 

雷庵の姿を見た滅堂はそんな疑問を零す。元々呉一族を知る彼としては雷庵の戦闘スタイルはとても()()には映らなかった。

 

『雷庵のスタイルは・・・敢えて言うなら両極端なもの、まぁ我流ですな』

 

その疑問に答えたのは恵利央だった。

 

『まぁ、見ればすぐに分かるはずですぞ』

 

アギトのしたように不敵に笑う恵利央。その姿に滅堂は少しワクワクしながら雷庵の様子を伺う。

 

開始から既に防戦一方となっている雷庵。だが、その姿に不思議と頼りなさを感じていなかった。

 

──何かを狙っておるな・・・?

 

防御に手一杯というよりは吟味しているそんな印象を滅堂は受けた。

 

そしてその見立ては間違っていなかった。

 

(早い・・・そして重い!一発でもマトモにもらえば崩れる・・・!)

 

実際、雷庵はアギトの攻撃を防ぎながらそのパターン、威力、スピードを推し量っていた。そしてその上で──

 

(よし、これなら()()()()・・・!)

 

バッと攻撃の隙間をぬい、間合いを取る雷庵。アギトはそれに追撃することはなかった。

 

「調査はもういいのか?」

 

「・・・はい、充分です」

 

アギト自身も雷庵の意図は見抜いていた。見抜いた上で乗っかっていた。それが自身が背負うハンデだとても言うように。

 

「じゃあ・・・いきますよ!」

 

今度は雷庵は駆け出す、すり足を使わず。

 

それに対するアギトはやることを敢えて変えない。雷庵の間合いを潰すように高速ラッシュを──

 

「・・・!」

 

しかしその前に雷庵が一気に姿勢を前に倒し、加速した。アギトに仕掛けた攻撃はタックルだった。

 

(・・・この程度か)

 

何を仕掛けてくるのかと思えば・・・とアギトは心の中で落胆する。呉一族に面白い者がいると仕える滅堂から聞いていたが先程動きからアギトも雷庵の動きを観察しており、それを踏まえてなお興味を引くほどではなかった。

 

(終わりだ)

 

すぐさま膝蹴りを迫る雷庵の顔面に叩き込む。タックルに急に変えたとしてもそれでもアギトには対応可能の範囲内だった。

 

アギトの攻撃に吹き飛び、あえなく撃沈する雷庵・・・少なくともそうなるはずだった。

 

──そうか、雷庵ちゃんの型は

 

 

「捕まえた」

 

──カウンター・・・!

 

アギトの膝蹴りは顔面に刺さることなく、雷庵に抱えられる形で受け止められていた。

 

そのまま雷庵は全力で背を反らし、力の限りアギトを()()()()

 

その姿はまさに漁師の一本釣りを彷彿させるものだった。

 

風水の型・釣転(ちょうてん)

 

雷庵が自分の型を模索しながら身につけた技の一つ。攻撃の終わりを抑え、止まった瞬間に一気に床に叩きつけるカウンター技だ。

 

「オラァ!」

 

さながらバックドロップのように仰け反る雷庵。そして一気に床へ急降下するアギト。

 

メキッッッと床に顔をめり込ませるアギト。そのダメージは誰が見ても甚大なものだった。

 

「よっしゃー!」

 

その様子に確かな手応えを感じる雷庵。同じように呉陣営もホッとしたように胸を撫で下ろす。

 

しかし──

 

『さすがですな。まさかアギトに一矢報いるとは』

 

感心したようにウンウンと唸る滅堂。自分の配下が倒されたというのにあまりにも余裕なその様子はかなり不気味だった。

 

(なんで・・・まさか、あれをくらってまだ・・・?)

 

風水も流石におかしいと思うが、今の技は普通の人間なら即死でもおかしくない威力だったことも確か。しかし・・・

 

『しかし、今ので眠れる獅子起こしてしまったかもしれませんな』

 

ムクっと何事も無かったかのように立ち上がるアギト。

 

「強い強いとは聞いていたけどまさかここまでとは・・・」

 

その様子に技を仕掛けた雷庵も驚きを隠せずにいる。

 

「認めよう。・・・貴様は、弱くない」

 

さっきまでの無表情とは違う。獰猛という言葉を体現したような強烈が表情がそこにあった。

 

「だが、俺には勝てん!」

 

その言葉と共に一気に雷庵へ距離を詰めるアギト。

 

「シャア!」

 

もはや別人と見違うような変貌。もはやさっきまでの冷徹な男はそこにはいなかった。

 

アギトの右ストレートを雷庵は素早くかわし、その()()()を掴む。

 

「なら、もう一回『回れ』!」

 

その瞬間、アギトの視界は回る。

 

そしてその視界は再び木の板に塞がれた。

 

「!?」

 

突然の出来事に一瞬、アギトの脳内はパニックになる。しかしなんてことは無いアギトはただ()()()()()なのだから。

 

風水の型・風車(かざぐるま)

 

雷庵が攻撃した瞬間に重心が乗った足を思いっきり蹴り飛ばすことにより生じた行き場のないチカラを軸にそのままに投げ飛ばす技である。

 

「ガァ!」

 

しかし技の威力は釣転ほどでは無い。アギトは直ぐに立ち上がり、雷庵を攻め立てようとする。

 

だが、それにも先に反応したのは雷庵だった。

 

アギトが立ち上がった瞬間に頭を押さえ、踵を払い再び叩きつける。

 

「チィ!」

 

三度叩きつけられたアギトも素早く復帰し、雷庵を高速ラッシュで攻め立てる。

 

「チェァ!」

 

アギトのローキックが雷庵の左膝を捉える。

 

「グゥ!?」

 

その瞬間、雷庵に脳裏によぎったイメージは・・・薙刀。それに切り裂かれる自らの足だった。ガクッと体勢が低くなり、ガードも下がる雷庵。それをアギトは見逃さなかった。

 

すぐさま放つ渾身の左ストレート。体勢が崩れ、ガードも下がった

 

「・・・!」

 

そしてそれも雷庵の想定通りだった。崩れる体勢と重力に逆らわず、むしろ下へ加速しながらアギトの懐へ潜り込む。

 

攻撃が当たる瞬間、アギトの視界から消えた雷庵。アギトが感じたのは急速に床へ引き込まれる感覚だった。それが雷庵に背負い投げをされたからだと気づいたのは床に衝突する直前だった。

 

『カッカッカッいかがですかな、うちの雷庵は?』

 

アギトの出鼻をくじくような出来事に笑う恵利央は滅堂を見る。滅堂もその光景には閉口する・・・ことは無かった。

 

『これは・・・本当に試合ではなくなるのぉ』

 

『・・・・・・ほぉ?』

 

むしろこれから起こることになにかしら危惧していることがあるようだった。

 

(これは・・・!)

 

一方、会心の一撃を決めた雷庵にはさすがに笑みがこぼれる・・・ことはなかった。雷庵がそこに感じたのは、違和感だった。

 

『アギトの真価は進化にあり。残念ながら・・・()()()()()()()()()()

 

(来るか・・・!)

 

滅堂の言葉にこれから起こることに確信を得る雷庵。ここまでは前座、次が本番ということを理解した。

 

(さぁ、俺の全力が『アレ』にどこまで通用するか・・・!)

 

不気味に立ち上がるアギト。その顔は血を流しているが・・・笑っていた。

 

そして構えも変わる。先程の攻撃的な姿勢とは一変、まるで軟体動物のように上半身をグネグネと動かすものだった。

 

『なんだあの構えは・・・!?』

 

呉一族サイドではあまりの奇抜な構えに驚愕の声が上がる。それほどまでにアギトの構えは不自然なものだった。

 

『兄貴!』

 

さしもの風水にもアレが普通の構えではないことは理解出来た。だからこそ親愛なる兄を心配して言葉を飛ばす。

 

(分かってるよ──)

 

「ここからが本番ってことだろ?」

 

雷庵の構えにより一層のチカラがこもる。雷庵は知っている・・・あの構えが何なのか。それがどれほどやばいのか。

 

(来いよ、『無形』!!)

 

──アギトの真価は進化にあり。

 

今まさにアギトの真価が発揮されようとしていた。

 

 

 

 




風水の型
実は元々暴走する風水を無傷で取り押さえるために雷庵が考案した合気をベースにした戦い方。他の格闘技をかじっているオリ主雷庵ゆえに多様な絞め技、投げ技で相手を攻める。風水の型の特徴として打撃を捨てることで手に入れた防御力にある。防御に専念し、相手の攻撃に合わせて投げ技を仕掛けるのが基本的な戦い方である。

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