真・ギョウカイ墓場篇 "End of world" and "Fearless world" 作:烊々
過ぎ去った時が戻ることはなく、いつかあなたも、私の過ぎ去った時になるのだろう。
だからこそ、私たちは未来に想いを馳せる。
「ネプテューヌの容態は?」
「傷は深いですが、命に別状はないです」
「そう。流石コンパ、腕の良い看護ね」
「いいえ、ねぷねぷの傷は深かったですけど、命に関わらない怪我の仕方だったからです」
「ねぷっちが手加減された上で負けたってことかよ……」
「ごめんなさいうずめさん。私とお姉ちゃんがうずめさんにも声をかけていれば……」
『復活したマジェコンヌ四天王対策会議』には出席していなかった、プラネテューヌの過去の守護女神『天王星うずめ』。
ネプテューヌたち当代の守護女神は、今のゲイムギョウ界は自分たちで守り抜くと、世界の守護に関しては過去の女神であるうずめと距離を置くことにしていたため、今回の事態を後から知った形となっていた。
しかし、ネプテューヌが負傷しイストワールが捕まったと聞いたら即プラネテューヌ協会に駆けつけて来た。
「こっちこそ悪かったよ。そんなこと気にせず俺も戦えば良かったんだ。過去の女神だなんてのはもう関係ねえ! 俺も参加させてもらう! ……てなわけで、イストワールはどこに連れて行かれたんだ?」
「おそらく、四天王が言っていた幽世……死の世界ってところね」
「しかし、死の世界の者がどうしてイストワールを連れて行く必要があるのでしょう?」
「そもそも幽世とか死の世界ってどういうことなのよ……?」
「それは……」
女神たちは、知識も情報もないのでこれ以上何も言うことはできず、皆その場で黙り込む。
「ねークロちゃん、なんか知らない?」
その沈黙を破ったのは、うずめと行動を共にしていた大きい方のネプテューヌ。
『あ? 幽世ってのはギョウカイ墓場のことだろ。そして対する現世がこのゲイムギョウ界だ』
クロワールがさらっと答えた『ギョウカイ墓場』という単語を聞いた女神たちは表情が変わる。
「そんな、ギョウカイ墓場って……!」
「ギョウカイ墓場はネプギアが犯罪神を倒した時に消えたはずじゃ……!」
『多分、その消えたってのは現世に漏れ出た一部だよ。世界っつーのは現世と幽世のバランスで成り立ってる。つまり現世と幽世は表裏一体、もしギョウカイ墓場が消えちまえばゲイムギョウ界だって滅ぶんだぜ?』
「知らなかったそんなの……」
『知らなくて当然だろうよ。現世側が幽世を知ってると現世と幽世のバランスが崩れやすくなっちまうから、現世側には幽世の存在が知られてないってことは、ゲイムギョウ界に限ったことじゃなく現世と幽世に別れているタイプの世界では良くあるルールなんだよ。たまに例外はあるけどな』
女神たちはクロワールの解説を、素直に関心しながら聞いていた。
「じゃあどうして幽世の神がいーすんさんを連れて行ったんでしょうか?」
『そこまでは知らねーよ。気になるなら相手に直接聞きに行けばいいだろ。俺が幽世へのゲートを開けてやるからよ』
「おっ、流石クロちゃん! じゃあみんなで助けに……」
『いや、ネプテューヌ、お前は幽世に行くのはやめろ』
「え?」
『やめとけ、じゃねえ。やめろ、だ』
クロワールの表情は、いつものような人を小馬鹿にしたものでなかった。
『幽世ってのは死の世界、女神は良いが人間なら足を踏み入れた瞬間に死ぬ。入ったその瞬間に死んだことになるから、抵抗なんてできねえ。お前はただの人間ってわけじゃねえが、一応まだ人間の域にいる。だから、死にたくなけりゃ幽世には行くな』
「はーい」
だからこそ、ネプテューヌはクロワールの忠告を素直に聞き入れた。
(なら、私たちも行けないってことね……)
(お留守番です……)
それを聞いていたアイエフとコンパも同行を断念する。
『俺も幽世なんて何もなくてつまんねえとこには行きたくねえからよ。女神の方のネプテューヌが回復したら、ゲートだけ開けてやる』
「感謝するわ」
「さて、ネプテューヌが目覚めるまで私たちは何をしましょうか?」
「幽世に行って国を空けることになるから、一時的に女神の業務を教会員に委任する手続きがいるわね」
「なら、一旦国に戻らないと」
「じゃあ、お姉ちゃんが起きたら皆さんに連絡します」
「ありがとうネプギア」
ノワールたち他国の女神はプラネテューヌ教会を後にした。
「クロちゃんがこんなに協力的なのって意外だね」
『幽世が関係することってのは、だいたい世界がつまんなくなることなんだよ。俺は面白いことが好きだからってだけさ』
「……そっか」
*
「ここは……どこなのですか?」
「幽世。ギョウカイ墓場だ」
「ギョウカイ墓場……」
「現世に比べると殺風景だろうな」
「いえ、そんなことは……」
「良い。事実だ」
デルフィナスの言った通り、イストワールは傷つけられないどころか丁重に扱われていた。
故に、自らがデルフィナスの計画にとって大きな役割を担っていることを理解できた。しかし、その心当たりは微塵もない。
「……あなたの目的は何ですか?」
「知ってどうする」
「わからないことに協力はできません」
「汝の意思に関係なく役割だけは果たしてもらう。だが、知りたいのならば教えてやろう」
「……お願いします」
「少し長くなるぞ。何故なら、汝自身のことや世界の成り立ちについて話すことになるのだからな」
イストワールは何も言わず、話を聞く姿勢となる。
「はるか昔のこと、現世と幽世は一つであり、世界には生も死もなかった。その世界は三人の神となる存在に統治されていた。そのうちの一人が我。そして……」
そう言ってデルフィナスはイストワールを見つめる。
「まさか……私も……ですか?」
「そうだ。だが、汝であって汝ではない。『史書イストワール』。汝の元となった存在だ」
「……!」
イストワールは世界や自らのルーツをより知るために、デルフィナスの話に更に意識を向ける。
「そして、最後の一人は、今は亡き我が友、ゲイムギョウ界における初代守護女神のことだ。汝も知っているだろう」
「あの方が……」
イストワールの記憶に残る、自らを生み出したその人物。
しかし、その過去までを知ってはいなかった。
「その初代守護女神が、世界に革新を求め、世界を『正』と『負』、つまり『生』と『死』に分けることを提案したのだ。生が現世、ゲイムギョウ界であり、死が幽世、ギョウカイ墓場といった風にな。それにより、当時は我ら神々しか持ち得なかった感情を人々も得ることができて世界はもっと発展していく、彼女はそう言っていたな」
二度と戻らぬ遠き過去に想いを馳せながら語るデルフィナス。
「しかし、変化とは良き方向にのみ向かうものではない。感情が生まれ善意が生まれると同時に悪意もまた生まれる。もし悪意が伝播していけば、人々は滅びの道を突き進むことになる。我はそう懐疑していた。だが、友の提案を無下にできず、現世を我が友に任せ、我は幽世の守護を担うことにしたのだ。そして、イストワールの『史書の力』を使い、世界は分かたれた」
「史書の力……?」
「世界の全てが記された書を持ち、その中身を書き換えることで世界そのものを改変する。それが史書イストワールの能力だ」
「恐ろしい力ですね……」
「そうだな。だからこそ、その力が悪用されぬように、とイストワールは自らの力と記憶を封印することを選んだ。その際に、自らの容姿と性格を模した人工生命体を初代守護女神と共に作り上げ、代々守護女神を補佐することにしたのだ。ここまで言えばわかっただろう?」
「……はい。それが、私ということですね」
デルフィナスは頷き、
「現世に残った我が友には、今までに存在しなかった死の概念が生まれたことにより、永き時が経つとその生涯に幕が降りた。だが、その意思は後進となる女神たちに受け継がれていった……と思っていたのだがな」
失望したような悲哀の表情でその続きを吐き捨てた。
「さて、ここまでがこの世界の成り立ちだ。次は我が目的と汝の役目だったな。我が目的、それは再び史書の力を使って世界を書き換えることだ」
「ですが、史書の私は封印されたと……」
「その封印を解くための『鍵』が、汝こと教祖イストワールなのだ」
イストワールはもう驚かなかった。なんとなく、そんな予想はできていた。
「……なるほど。では、史書の私を使って世界をどう書き換えるつもりなのですか?」
「救済だよ」
『救済』という言葉は予想していなかったイストワールは、目を丸くして声を失う。
「教祖イストワールよ。何故人々は幸福を追求するかわかるか?」
イストワールの反応をよそに、デルフィナスは語り始める。
「それは『死』という逃れられぬ絶対的な『恐れ』があるからだ。人々はその『恐れ』から目を逸らすため、自らの『生』に価値を見出そうとし、幸福を追求する。だが、過ぎた幸福の追求は他者との軋轢を生み、そこから憎しみ、争いが生まれ、そしてまた、悲しみ、苦しみも生まれる。争いが繰り返されてきたゲイムギョウ界の歴史とは、悲しみ、苦しみの歴史なのだ」
イストワールはデルフィナスの言葉を否定しきれなかった。
国同士の対立から始まった守護女神戦争、犯罪神マジェコンヌの誕生、反女神市民団体の出現とタリの女神による暴虐、そして『暗黒星くろめ』。
そんな苦しみや悲しみの歴史が、ゲイムギョウ界で引き起こされたことは事実だったからだ。
「今のままではゲイムギョウ界は滅びへと突き進む。だからこそ、我は再び世界を一つにし、生と死を消し去り新たな世界を創る。人々が苦しみ悲しむ必要のない新たな世界を」
「それこそが……『恐れのない世界』だ」
Phase2
『Fearless world』
「……ん、わたしは……」
「あっ! ねぷねぷ、目覚めたですか」
「コンパ……あいちゃん……」
身体の傷が塞がったネプテューヌが目を覚ます。
「ごめんね。わたし、負けちゃった。わたし……女神なのに……みんなを守らなくちゃいけないのに……」
「ネプ子……」
しかし、完敗したという心の傷はまだ塞がっていなかった。
「起きたのね、ネプテューヌ」
「ノワール様? さっきラステイションに戻ったんじゃなかったんですか?」
「ねぷねぷのことが心配で戻って来てくれたです?」
「べ、別に私は……! ……いえ、そうね。心配だから仕事を終わらせてすぐに様子を見に来たら、案の定ね」
いつもの溌剌さを微塵も感じられないネプテューヌを見て、呟く。
「ノワール、わたしを怒りに来たの? それとも、笑いに?」
「いつになくネガティブね。ちょっとネプテューヌと二人きりにしてもらえる?」
「構いませんけど……」
部屋の外へ出るアイエフとコンパ。
「……行ったわね。いい機会だからずっとあなたに言いたかったことを言おうと思って」
「なに……?」
「一度しか言わないからね」
ネプテューヌは不安げな表情でノワールの顔を見て、すぐに俯く。
今のネプテューヌはどうにもマイナスの方向へ物事を考えてしまうため、ノワールの言葉が怖くてしょうがなかった。
「ネプテューヌ、今の私がいるのはあなたのおかげなの。私たちがまだ争っていた頃、最初に争いをやめて手を取り合おうって言い出したのはあなたで、私たちの心を絆で繋いでくれたのは他でもないあなただった。あなたは私の心を散々引っ掻き回してくれたわよね。でも、そうやって凝り固まってた私の心をほぐしてくれたから、私の視野が広がったの。あの頃の私は国のことで精一杯でユニのこともよく見えていなかったけど、今はあの子とも上手くやれるようになれた」
そんな不安を振り払うように、ノワールは優しく語りかける。
「だから、私は決めた。あなたがもし進めなくなった時は、私が背負ってでも進むって。今も、これから先の未来も、私たちが死ぬまでずっと」
その言葉を聞き、ネプテューヌの沈んでいた表情が、光を取り戻していく。
「ノワール……それ、プロポーズ?」
「なっ! ち、違うわよ‼︎」
「冗談だよ冗談」
「もう……! ……その様子じゃ、立ち直ってくれたようね」
「まだ、ボロボロにやられて凹んでるけどね。でも、ノワールたちが一緒ならもう負ける気はしないよ」
「その意気よ、ふふっ」
「あははっ」
笑い合う二人。
もう、不安も迷いもなかった。
「みんなを呼ぼう。そしていーすんを助けに行こう!」
*
「完全復活パーフェクトネプテューヌだよ!」
既にネプギアが集めていた仲間たちの前で、元気いっぱいにネプテューヌは復活を宣言する。
「これで、準備完了だな」
「じゃあ、クロちゃん。お願いね」
『わーったよ。開くぜ』
クロワールの力で、次元を超えるゲートが生成される。
その先にあるのは幽世。守護女神にとっても未知の世界。
「さぁ、行こうみんな。真・ギョウカイ墓場へ!」
「何よその『真』って」
「だって、私たちの知ってるギョウカイ墓場と今から行くギョウカイ墓場は別だから、それっぽく付けたわけだよ」
「私は良いと思うわ」
「私も良いと思いますわ」
「おぉっ! ブランもベールもノリがいいね〜! それに比べてノワールは……」
「あーはいはい、『真』でもなんでも勝手にしなさいよもう」
「よし、じゃあ気を取り直して! 真・ギョウカイ墓場へ、出発‼︎」
*
「……む? どうやら来たようだな」
「来た……?」
「汝を助けに、守護女神が幽世へと堕ちてきた。マジック、ジャッジ、トリック」
その声と共に、幽世に漂う魂を呼び出し、四天王の身体を顕現させる。
「いかがされましたか?」
マジック・ザ・ハードが四天王の代表をして、跪きながら用件を伺う。
「守護女神が幽世へ堕ちてきた。もてなして来い」
「かしこまりました」
「その前に、今まで汝らは現世で死んだから何度も蘇ることができた。しかし、幽世で死ねば我の力を以ってしても蘇ることはない」
「わかっています。しかし、現世が奴等のフィールドならば、幽世は我らのフィールド。女神に遅れを取ることはありません」
「そうか。では任せたぞ」
「はっ!」
*
幽世、真・ギョウカイ墓場。
その景色は、女神たちの想定していたものとは異なっていた。
ゲイムギョウ界に現出していたギョウカイ墓場は、廃墟や瓦礫の広がった大地であった。
しかし、真・ギョウカイ墓場は、赫い空と黝い大地がどこまでも広がっていた。例えるなら、死という概念の果てを表したような世界だった。
「なんか、よくわかんないところね」
「うん……」
わかりやすい恐ろしさではないため、ラムとロムはあまり怖がっていなかったが、
「……」
逆に、ブランはその壮大さに圧倒されていた。
「なんとなく、イストワールが囚われている方向がわかるわね」
「ええ、この世界に来てから、嫌というほど感じるプレッシャー……その方向に行けばおのずと会えるでしょうね」
幽世の神であるデルフィナスの放つ重圧は、遠く離れていても女神たちに感知できた。
だからこそ、迷うこともなかった。
「行こう、みんな」
真っ直ぐデルフィナスの元へ向かう女神たちに向かって、急速に接近してくる巨大な影が二つと、女神と同じぐらいな大きさの影が一つ。
「….…やっぱりまた現れたわね」
「貴様ら女神を斃すまで、我らは何度でも蘇る」
「いい加減あんたたちにはもう飽きたわ」
そう吐き捨てたユニは、ノワールに視線を向ける。
「お姉ちゃん。ここはあたしたちに任せて先に行って」
「ユニ……でも……」
「敵の親玉にはお姉ちゃんたちじゃないと勝てないと思うから、こんなところでお姉ちゃんたちを消耗させるわけにはいかないわ」
「……わかった。任せるわね」
「ネプギア、ロム、ラム、それでいいわよね?」
「いいよ!」
「勿論よ!」
「わかった……!」
妹の意を汲み、姉たち守護女神は先へ進む。
四天王たちがそれを妨げようと襲いかかるが、
「あんたたちの相手はあたしたちよ!」
変身したユニたちの攻撃により、姉たちの道が切り拓かれる。
「ちっ……そんなに死にたいのなら貴様らから殺してやろう……!」
「ったくよぉ〜、候補生どもじゃつまんねえぞ!」
「アククク……吾輩は幼女がいるから構わんけどな」
四天王たちは守護女神を追うことを諦め、候補生に意識を向けた。
「……さぁ、来るわよ。準備はいい?」
「みんなと一緒なら負ける気はしないよ」
「言うじゃないネプギア……あたしもよ!」
女神候補生vsマジェコンヌ四天王。
幽世にて、一つの戦いの幕が上がる。
ここで折り返しです。