真・ギョウカイ墓場篇 "End of world" and "Fearless world" 作:烊々
そしてあなたも、その一部。
槍は折れ、ベールが倒れた。
斧は砕け、ブランが倒れた。
「……これが、汝らにとっての絶望というものだろう? 敬意を表すると言った。故に容赦はせん。完膚なきまでに叩き潰させてもらう」
自らの目的を果たすため、その凶刃は残った二人へと向けられる。
「諦めはしないわ……!」
「絶望なんて、何度も乗り越えてきたのよ!」
Final phase
『Inherited soul
" friendship , affection , Bifröst " 』
死力を尽くし、刃を振るうネクストパープル。
しかし、その刃は軽く受け止められる。
「技名こそ口に出さなかったが、今のが『クロスコンビネーション』であろう?」
「……っ⁉︎」
ネクストパープルは刃を受け止められたこと以上に、技を出していたこと、そして技名すらも看破されたことに驚きを隠せない。
「次はどう来る? 『32式エクスブレイド』か? それとも『デルタスラッシュ』か? 『頑張れファイトファイト』や『主人公補正』で能力を上げるのも良いだろう。それとも『ハードネプテューヌ』を使ってみるか?」
見せていないはずの技ですら、その全てが知られていた。
「史書の力のもう半分『改変』は得られなかったが、『全知』は既に我が物。今の我は現世と幽世の全てを知っている」
世界の全てが記された史書の力を取り込んだデルフィナスには、世界の全てを知り、全てを見通すことができる。
「だからこそネクストブラックよ。汝が後ろから『トルネードソード』を仕掛けてようとしていることも知っているぞ」
「……!」
「そして、女神候補生たちが回復を済ませ、此処へ来ることもな」
ネクストブラックの剣を砕き、ブラックシスターの遠距離射撃を手で弾き飛ばす。
「……絶望を乗り越える、と言ったか」
死ぬことはない。
全ての技を知られている。
そして、ステータスの差も歴然。
「汝らは乗り越えられたもののみを絶望と呼んでいるに過ぎない」
そんなデルフィナスへの抵抗も虚しく、一人また一人と女神たちは倒れていく。
「真の絶望とは、このように乗り越えられぬほど、黯く淀んだものだ」
そして遂に、最後の一人、ネクストパープルが倒れた。
「……終わりだな。守護女神たちよ、良く戦った」
デルフィナスは倒れる四女神の胸に手を翳し、シェアクリスタルを取り出していく。
「これで、世界は変わる」
そしてシェアクリスタルを史書に翳し、史書を完全に起動させる。
「『恐れのない世界』においては守護女神も必要ない。戦う必要の無くなったただの娘として生きていくがいい」
「デルフィナスさん……あなた……は……」
史書の起動にエネルギーを吸われ、イストワールも意識を失った。
「イストワール、汝……いや、君もおやすみ」
*
「空が……赤くなってく……」
『あーあ。あいつら負けちまったのか。この世界も終わりだな。どうするネプテューヌ? 別の次元に逃げるか?』
「ううん、逃げないよ」
『あ? どうしてだよ? 死にてーのか? いや、死にはしねえけどよ』
「わたしならなんとかするよ。だって主人公だもん」
『……そうか』
*
「長いな……いや、世界が変わるのだ。長くて当たり前か」
起動していく史書を眺めながら、物思いに耽るデルフィナス。
その瞬間背後から、じゃり、と靴が地面と擦れる音が鳴る。
「……まだ立ち上がるか」
無論、デルフィナスは振り向くことなくネプテューヌが立ち上がったことを知る。
「しかし、シェアクリスタルを失い変身能力も失った汝に出来ることなどは無い」
「それは……どうかな?」
「何……?」
そう言ってネプテューヌは懐から菱形の物体を取り出す。
「何だ……それは……?」
世界の全てを知るはずのデルフィナスは、その物体を知らない。
「もうわたしには必要ないと思ってたけど、持ってて良かったよ」
その物体の名は『女神メモリー』。
超次元ゲイムギョウ界には存在せず、神次元のゲイムギョウ界に存在する物質で、人が女神になるためのもの。
「言ったでしょ? 絶望を乗り越える、って」
そう言ってネプテューヌは女神化し、ハイパーシェアクリスタルを使用して再びネクストパープルへと進化を果たす。
「…………だから、何だ?」
その様子を見て、デルフィナスは呆れる様子を見せた。
「変身ができるから、何だ? 今更変身ができたところで、我と汝の如何ともし難い力の差が埋まるとでも思っているのか?」
ネクストパープルの刃はデルフィナスに届くことなく、圧倒的な力で蹂躙される。
それでも、ネクストパープルは倒れない。
「……っ! わからないのか! 希望などがあるから絶望も生まれるのだ! そんなものに縋るから世界は歪んでいく!」
力の差を何度も見せつけられたにも関わらず、最後まで諦めずに抵抗を続けるネクストパープルをデルフィナスは理解が出来ず、声を荒げる。
「心などがあるから、恐れ、悲しみ、苦しみ、憎む! 汝らが世界を愛そうが、世界が汝らを愛するとは限らないということはわかっている筈だろう!」
遂にネクストパープルの変身が解ける。
しかしそれでも、ネプテューヌは倒れない。
「それでも……私は今ここにある世界で、みんなと共に生きていきたい! 笑い合いたい! みんな大好きって思いを、失いたくない!」
その言葉を聞いて、デルフィナスは一瞬だけ動きが止まる。
「……殺す気はないと言った。だが、最後まで抵抗するというのなら、存在そのものを消し去る他ない」
しかし、デルフィナスの心を動かすには至らない。
デルフィナスは掌にエネルギーを集める。
「せめて痛みを感じる暇もなく、終わらせてやろう……!」
そして、それをネプテューヌに向かって撃ち出した。
「…………っ」
しかし、そのエネルギー砲は、突如飛んできた物体によって防がれた。
「……え?」
その物体とは、一冊の本であった。
否、一冊ではなく、一冊の方の半分であった。
「何故……史書のもう半分が……」
史書の力同士は干渉し合わない。
故に、『全知』を持つデルフィナスであっても、その理由を推測するしかない。
「まさか……意思なき力である筈の君が、その女神に力を貸すというのか‼︎」
デルフィナスの推測は少し異なっていた。
何故なら。
『……ネプテューヌさん』
「その声、いーすん?」
(……成程、教祖イストワールか……!)
イストワールは意識を史書の中に移し、史書にアクセスしていた。
そして、デルフィナスが取り込めていないもう片方の史書の力をネプテューヌに託すように設定したのである。
『私にできるのはこれぐらいですが……』
「ううん、ありがとういーすん!」
『ネプテューヌさん……あなたに力を……!』
ネプテューヌは託される。
史書の力のもう半分と、その能力『改変』を。
「だとしても、我には届か……」
言いかけて、少しよろける。
「ぬぅ……これは……」
(……やはり、真の力に加え、『改変』抜きで『全知』を使うと、我であれここまで疲労するものか……っ)
加えて、抵抗を続けるネプテューヌたちに対して冷静さを欠いていたことも、自らの疲労に気づけなかった原因でもあった。
「とりゃああああっ!」
デルフィナスがよろけた隙に、ネプテューヌが斬りかかる。
(奴が『改変』を手にした今、我が『全知』では奴の動きを知ることはできんか……! ……だが!)
「我との力の差は埋まらんぞ!」
デルフィナスが前方のネプテューヌを迎撃しようとするが、斬られたのは背後からであった。
(……っ、前から斬りかかることを後ろから斬りかかるように事象を改変したのか……!)
ネプテューヌは『改変』を上手く使い、ステータスでは大きく劣るデルフィナス相手に互角の戦いを繰り広げる。
しかし、次第にデルフィナスは『改変』を持つネプテューヌの動きにすら対応しつつあった。
「『フォールスラッシュ』!」
すると、その戦いに割って入る女神が一人。
「ノワール!」
「言ったでしょ、あなたを背負ってでも進むって! あなたが戦っているのに、寝てられないわ!」
『全知』を持つデルフィナスは、ノワールが目覚めてから戦いに乱入してくることは勿論知っていた。そして、変身能力を失ったノワールが自分の相手にすらならないことも知っている。
「……ちぃっ!」
しかし、ネプテューヌの持つ『改変』で、ネプテューヌとノワールが瞬時に位置を動かしながら戦うため、対応しつつあったはずの動きが更に読めなくなった。
(馬鹿な……何故ここまで動きを合わせることができる……?)
史書の力は本来『全知』と『改変』がセットである。つまり、『改変』を他者に使うには、制御のために『全知』が必要。
故に、『改変』の持ち主の思考を覗きでもしない限り、動きを合わせることなど不可能である筈。
しかし、ノワールはネプテューヌに絶対の信頼を置き、『改変』の位置変えを即座に対応する。
「ぬぅ……っ!」
『全知』を持つはずのデルフィナスは翻弄されていた。
それは『改変』には『全知』が及ばぬことが原因ではない。
自らの命運を他者に託す者たちの意思を、知ることはできても理解はできないからだった。
「……そこかっ‼︎」
それでも、デルフィナスの卓越した反応速度が遂にネプテューヌを捉えた。
「……かはっ……でも残念、ネプテューヌじゃなくて私よ……っ」
……かのように見えた。
デルフィナスの攻撃を受けたのを、ネプテューヌではなくノワールと改変したのだ。
(ノワール……どうしてこんな無茶な作戦を……!)
(私……は……平気……よ、だから……やって……やりなさい……‼︎)
(……わかった!)
ネプテューヌの攻撃を確実に届ける隙を作るために。
「……っ! 『次元……一閃』っ‼︎」
再び炸裂する誓いの刃。
史書の力の半分を得た今のネプテューヌには、ネクストフォームでしか使用できない必殺技も使用が可能。
そして、次元一閃は物事の概念すらも斬り裂く技。
それにより、デルフィナスと史書を分離させ、加えて、史書を分離させたことにより、『改変』がデルフィナスにも効くようになる。
「ぐっ……おおおおぉぉぉぉ!」
死の概念が無いためダメージが通らないデルフィナスにダメージが通るように、と。
「ぬぅ………ぅぅ…………!」
今まで感じたことのない衝撃に怯むデルフィナス。
そこへ、ネプテューヌは最後の一撃を繰り出さんとする。
「はぁぁぁぁっ!」
デルフィナスは、ネプテューヌが繰り出す技を知っていた。
それは『全知』を持っていたからではない。
その技はかつての親友が最も得意としていた技だったからである。
「『クリティカルエッジ』‼︎」
瞬間、デルフィナスの頭の中に、かつての親友との会話の記憶が溢れ出す。
『世界を二つに分ける……?』
『ええ。今の世界は零。それを正と負……生と死に分けることで、私たち神以外の生命も感情を持つことができるわ。私たちが持つ友情、愛情、絆。それを人々が持つことにより、世界はいい方向へと変わるはずよ』
『だが、それにより、悪意や、悲しみ、苦しみ、そしてそれを拒む恐怖も生まれてしまうよ?』
『そうね。ただ、今の世界には恐怖はないけど、それに立ち向かう勇気もない』
『勇気……か。君がやりたいことなら、私は止めはしないさ。しかし、生の世界と死の世界に分け、君が生の世界に残るなら、君にはいつか死が訪れることになる。君の崇高な思いも、君の死後、時代の流れと共に悪意に呑まれて消えていくかもしれない』
『大丈夫よ』
『どうしてそう言い切れる?』
『私がいなくなっても、私の意思を継ぐ子たちいるから』
『……そうか。だが、君のいなくなった後に、世界が滅びに向かうようなら、私は世界を一つに戻す』
『構わないわ。多分、私の後を継いだ子があなたを止めてみせるだろうし』
『ふっ……それは、楽しみだ』
(…………ああ、そうか)
……君の意思は……
確かに、受け継がれていたんだな……!)
友の意思を受け継ぎ、友の力を託されたその女神の一閃を、デルフィナスは両手を広げて受け入れる。
そして……………