憧憬の先に映る未来   作:宿木ミル

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2 『アンド・レイジー』

「戦闘については各々の戦い方を活かした形で問題はありませんね」

 

 仕事。それは、異族との戦闘だ。

 今日も、不安に駆られ異族を召喚してしまった街の人を助ける仕事を開始する。

 戦闘前、事前に伝えていたことを再度確認する。

 怠惰な彼女に指揮を任せるのは、悪印象を与えそうだと思ったので、私の方から動くことにした。

 

「問題ないよ~」

 

 ピサールは相変わらず、やる気を感じさせないような態度を保ったままだ。

 戦闘前の緊張など、感じられない。

 

「ピサールさんは槍術を、私は杖と植物を使った戦闘を得意とします。お互い、邪魔にならないように行動していきましょう」

「ミストルティンに合わせて行動するのはめんどくさい~」

 

 ……計画的に行動するという目論見が外れそうで心配になる。

 彼女と足並みを合わせるのは困難ではないだろうか。

 

「……では、なるべくこちらが善処します。もし、間違えて攻撃が当たったりしても恨まないでくださいね?」

「うん、わかった~」

 

 皮肉を込めて言ったつもりでも、彼女は気にしない態度を取っていた。

 適当にあしらわれて、なんだか蔑ろにされているようにも思うのは考えすぎだろうか。

 

「では、いきましょう」

「は~い」

 

 気にしても仕方がない。

 とりあえず考えることはやめて、仕事に取り掛かることにした。

 各々が街を駆け、異族に向かう。

 異族の数は7体。個人が発生させているのなら、異常事態ではあるものの、今回はそういった状況ではない。大勢の人が不安を抱えて、それが異族の発生に繋がったという流れだろう。ありがちな展開だ。

 杖を構え、異族に向かう。

 異族を討伐する私たちは、武器を持ち、戦うことを公認されている。その為、街への被害を発生させなければ、武器や能力を使っていることに対して咎められることは少ないし、厄介事の種も発生しにくい。今回も街への被害を出さないように戦う。それは変わらない。

 

「捕まえました」

 

 杖の魔力を利用して、植物に力を与える。

 街の道路ではなかなか利用できる植物は少ないものの、ケヤキの木などは利用することができる。魔力を与えすぎなければ、元通りにすることもできるので、攻撃手段にするのはドリュアスの力も利用すれば容易だ。

 ケヤキから伸びた蔦が着実に異族の胴体を貫き、ひとつひとつ姿を消していく。

 私の調子は問題ない。隣人が増えてもやること、やれることは変わっていない。

 発生した異族を倒し、報酬を貰い、生活する。一定の評価を貰えて、私の存在意義を誇示できればそれでいい。評価されている間は捨てられたりすることはないのだ。

 ふと、怠惰な隣人……ピサールの様子を確認してみた。

 私が視野に入れていない異族に対して、槍を突き刺していた。それも一度ではなく、二度、三度。

 

(……念のため?)

 

 自分の役割を放棄しないように意識を回しながらも、余力で彼女の様子を伺う。

 一度傷つけた後、もう一回確実に仕留めるように槍を突き刺す。

 この世の原体する余力を失いつつある異族に対しても、同じように槍を突き刺していた。その行動は私からしてみると無駄な行動のようにも思えた。

 一定の攻撃を加えた異族は消えてなくなるもの。それなのに、わざわざ何度も攻撃を加えるというのは手間を感じさせる。

 ……そして、少しの違和感も感じる。

 

(怠惰な彼女らしくはない、ですね)

 

 そもそも、余計な手間を発生させていることそのものが面倒ではないのだろうか。念の為にと、攻撃を加えるような性格には思えない。怠惰な態度を見せていたピサールという人物のことを考えると、どうしてもしっくりくる評価を下せない。

 そのもやもやした感情は、異族をすべて撃退したあとにも晴れることはなかった。

 

 

 

 

 

「お疲れ~」

 

 戦闘が終わった後のピサールは変わらぬ様子で、私に話しかけてきた。

 

「お疲れ様でした。とりあえず、この場からは離れましょう」

 

 そんな彼女に対し、私は端的に話を進める。

 

「どうして?」

「単純に、人の目に付くのが嫌なだけです」

 

 いらない噂が発生したり、過度に褒められたりするのもそれはそれで違うと思っている。だから、事件を解決したら、早期にその場を離れる。それがいつものやり方だった。

 

「ふ~ん。面倒だからとかじゃないの?」

「……面倒、という言葉でくくられるのは釈然としませんが」

 

 完全に否定することができない。

 どんなに言葉を取り繕ったとしても根幹に面倒という感情があるなら、それはきっとめんどくさいということになるだろう。それこそ彼女と同じように。

 

「いいんじゃない? わたしだって面倒なのは嫌だし~」

「……怠惰に思われるのは嫌ですね」

「その方が楽になれるのに」

「……帰りますよ」

 

 これ以上話を続けても平行線をたどることになりそうだと思ったので、話を切り上げ、街から立ち去ることにした。

 異族を発生させていた人物もそろそろ落ち着いてきたころだろう。再び異族が発生することはない。

 歩き続け、帰路を進んでいく。

 

「もしかして、ミストルティンって気が利く方だったりする?」

「どうしてですか?」

「う~ん戦ってる最中、視線を感じたから?」

「……よくわかりますね」

 

 不備やトラブルが発生しても困るから意識していたのは事実だ。

 ただ、手助けしようという親切心からやっていたということはない。

 

「ずっと見ていました」

「なんで?」

「戦い方を知る為です。実戦中、お互いに邪魔しあうような立ち回りになっても困りますから」

「合理的~」

「そうかもしれませんね」

 

 茶化すような言い回し。それに対して突っ込みを返すのは体力を余分に使いそうだったのでそれとなく肯定した。

 

「……ピサールさんは私のことを邪魔と感じましたか?」

「え? う~ん、前のパートナーよりいくつかやりやすかったかな? 色々行動に文句を言ったりしてこないから、楽かも~」

「そうでしたか。それならよかったです」

 

 対人関係で面倒事が発生したら、お互いにいい気持ちはしないだろう。問題行動を起こすようなことがなければ、私も彼女にそこまで干渉するつもりはない。

 

「面倒だったのよ~、本当に」

「……愚痴を聴くつもりはありませんよ?」

「お酒も添えて色々言っちゃ駄目?」

「話半分で聞いてもいいのなら、構いませんよ」

「勝手に呑むのは?」

「それくらいならいいですよ。ただ、呑みすぎないようにしてくださいね」

「は~い」

 

 実戦の結果は良好。

 この調子でいられるなら、私生活に人が増えたということ以外はいつも通り日常を過ごすことができるだろう。

 平穏に生きられることを願いながら、私は拠点の扉を開いた。

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