少女を連れながら、母親を捜す。
魔力をかなり消費している都合、うっすらとしか把握できないものの、手がかりがあったので把握できないわけではなかった。
ゆっくり進む、少女の歩幅に合わせる。
「おねえちゃんたち、どういうまほうしょうじょなの?」
「どういうとは?」
「ほら、あかかったりしてないから」
「う~ん、コンビ系の魔法少女かな?」
「そう、そういうのなの?」
軽口のような口調なものの、ピサールも相変わらず魔法少女として認識されていることを意識しているみたいだ。
「大体はそれであってると思いますよ。ピサールとはいつも一緒に戦ってます」
「じゃあ、おともだち?」
「……友達」
そう言われると返答に困ってしまう。
親友かと言われたらそんなこともない。
偶然、一緒に戦うことになって、生活もするようになった。それだけだ。
端的に言ってしまえば仕事の同業者。そんな関係性だ。
けれども、そう言ってしまうと夢がないような気がした。
「私たちは、仲間です」
「仲間」
「困った時、いつも助けてくれる。そんな彼女と一緒に頑張ってます」
仲間という言葉にも色んな意味が込められている。
仕事仲間とか、そういう形だけのものもあるのかもしれない。
ただ、それでもすっと思い浮かんだ言葉は仲間というものだった。
「ミストルティンってちょっと素直じゃないけど、優しいのよ~」
「そうなの?」
「うん。多分、素直に友達って言わなかったのは、そういうのがあるの」
「なるほど~」
「何を教えてるんですか」
「嘘じゃないでしょ?」
「それは……」
彼女と私は友達ではない。
そう思い込んでいるのは私だけなのかもしれない。
一緒に生活している間に、自然と会話を交わすようになっている。
気さくに話し合う仲にはなっている。
この関係は、もしかしたら友達と呼べるものなのかもしれない。
「……きっと、そうなのかもしれません」
「ほらやっぱり」
「すなおにならないとだめだよ?」
「そうですね、気を付けたいと思います」
純粋な子供に指摘されるのは悪い気持ちではない。
私はそこまでまっすぐな性格ではない。だから、まっすぐ感情を表現することができる子供が眩しく思える。
「……そろそろ、会えるかもしれません」
「おかあさんに?」
「はい、前の方に……」
動き続けたその先。街から少し外れた場所。
その前方を確認すると、紺色の服を着た女性がそこに立っていた。
「おかあさんっ!」
少女が走り、母に駆け寄る。
どうやら、うまく合流させることに成功したみたいだ。
「心配してたのよっ、突然いなくなったから……」
「だいじょうぶだったの! まほうしょうじょさんにたすけてもらったからっ」
「魔法少女?」
「ほら」
少女が指を差し、私たちに注目を集めさせる。
私は小さくお辞儀をした。
ピサールもゆったりとした仕草で頭を下げていた。
「ありがとうございますっ。このお礼はなんと言ったらいいか……」
「お礼は必要ありませんよ。無事に合流できてよかったです」
「そうそう、なにかしてほしいからやったってことはないからね~」
ピサールも私も、お礼は不必要と言葉にした。
お互いに話し合ったわけでもないのに意見が一致したのは同居生活が影響しているのかもしれない。
「やっぱりまほうしょうじょってかっこいいっ!」
「わたしとミストルティン、どっちの方がかっこいい?」
「う~ん、どっちも! でも、やりのおねえちゃんのほうがおとなっぽいかも?」
「あはは、それはそうかも~」
魔法少女としてピサールは軽い雑談を交わしている。意外と責任感はあるのかもしれない。
ただ、それでもそろそろ戻った方がいいだろう。仕事終了の手続きを済ませないといけない。
「……私たちはそろそろ行きますね」
「あっ、行くのね? わかった~」
「この恩は忘れませんっ」
「ありがとうね、おねえちゃんたち!」
「はい、これからは迷子にならないように気を付けてくださいね。約束ですよ?」
「うん、やくそくする!」
このやり取りがどれだけ力があるかはわからない。
けれども、魔法少女としての言葉なら、きっと彼女に届くだろう。そう思い、なるべく明るい声で伝えた。
笑顔で受け答えてくれた少女は、とてもまっすぐな瞳をしていた。
「では」
「じゃあね~」
手を振って、遠くに離れていく。
これから帰路に戻っていくのだ。
少女とその母の姿が見えなくなった街で、ピサールが話しかけてきた。
「真面目だよね、ミストルティンって」
「そうですか?」
「だって、あの子の前ではわざと呼び捨てにしてたんでしょ? ピサールって」
「よく気が付いていましたね」
「ミストルティンから呼び捨てされるの、珍しいな~って思ったからね~」
指摘されたその言葉は嘘ではない。
事実、わざとピサールと呼び捨てにしていた。
そうした方がいいと思っていたからだ。
「魔法少女と名乗っていた以上、仲間の人に『さん』と付けるのはどうかと思っていただけです」
「この間見てたアニメの魔法少女は名前で言いあってたからね~」
「引っかかりを覚えさせてしまっては申し訳ないと思っただけです」
「う~ん、真面目」
「気にしすぎているだけかもしれませんよ?」
私よりも真面目な人はいるだろう。
それに、個人の考え方と言ってしまえばそれで終わってしまう問題だ。
「あと、気が付いたことがあったの」
「なんですか」
「やっぱりミストルティンって魔法少女へのこだわりが強いよねって」
「……それは」
今更、否定する必要はないだろう。
少し、悩んだものの言葉を繋げた。
「……単純に、憧れているわけではないんです。ただ、誠実なところは見習いたいとも、まっすぐさは尊敬していたりします」
「自分もそうなりたいって思ったりとか?」
「……考えてないわけではないです。私は劣等感が強いと自覚していますし、まっすぐな意思というのがそこまで強くないように思いますから」
「そっか」
ゆっくり歩きながら、想いを告げる。
こういうことはあまりしたことがなかったから、変な緊張を覚えたりもしている。
私の言葉を受け止めたピサールが少し考えたあと、言葉を繋げた。
「多分だけど、ミストルティンって結構魔法少女っぽいと思うよ?」
「……そうなのですか?」
やってきた肯定の言葉に困惑を覚える。
「うん。だって、見ず知らずの人も助けようとするし、なんだかんだで世話焼きだし、ちゃんとやるべきことをやろうとする。ちょっと捻くれてる部分はあるけど、本当は優しいし、頑張り屋な部分もあって……」
「ちょっと待ってください」
いきなりやってきた誉め言葉をどう受け止めていいのかわからなくなる。
「うん? どうして?」
「……そこまで、褒められる必要はあるのでしょうか」
「いつも頑張ってるから、たまにはいいんじゃない?」
「……そうですか」
普段の私を評価するのではなく、しっかりと見つめてくれている。そういう温かさを感じる言葉。それを受け止めるのは少しだけ気恥ずかしいけれど、悪い気持ちはしなかった。
「ありがとうございます」
「ただ、頑張りすぎちゃうのは悪い意味で魔法少女っぽいから気を付けないとね。もっと甘えないと~」
「甘えるのは、すこし恥ずかしいです」
「どうして?」
「……気持ちの問題です」
すぐに気持ちを切り替えられるほど、私は大人ではない。きっとそういうところはまだ未熟で、幼い心のままなのだろう。少しずつ、切り替えていきたい。
「……ただ、ピサールさんと一緒に戦うのは悪くはないって思えてきました」
「悪くないんだったらこっちも我儘を言いたいかも?」
「なんですか?」
「普段から、呼び捨てで言ってほしいな~って」
「……わかりました、ピサール。これでいいですか?」
「まだちょっと照れてる」
「慣れてないだけです」
「カワイイよね」
「かわいくないです」
「そういうところだってば」
依頼は達成。
その最中にあったトラブルも無事に解決できた。
ピサールとの距離が少し縮まったのは成長したということでいいだろう。
少なくとも、最初の時のような距離感はなくなっている。怠惰な彼女に学ぶべきこともきっと多いだろう。パートナーとして一緒に活動しよう。改めてそう思えた日だった。