他人との必要以上のコミュニケーションはいらない。
以前の私はそのように考えていた。
ただ、生きられればそれでいい。平穏に、静かに、私ひとりでいればいいとも考えていた。
けれども、彼女と同居することになってから、生活が変わっていった。
信頼すること、されること。そのどちらも大切なことだと思えるようになったのだ。
「ミストルティン、誕生日おめでとう~」
8月25日、私の誕生日。お祝いするピサールの声が住居に響いた。
「……ありがとうございます」
「ケーキも買ってきたのよ? ほら」
「用意がいいですね」
「こういう楽しい日くらいは、怠惰じゃなくなるよ?」
イチゴが乗ったケーキをピサールが取り出す。甘い香りが美味しそうだ。
彼女と出会ってからもう、いくつかの日が経過していた。
最初は怠惰な彼女に対してどこか、嫌悪感のようなものも抱いていたような気がする。絶対に分かり合えないような存在だとか、そんなことも考えていた。今の私とは大違いだ。
「どうしたの、ミストルティン。ぼーっとして」
「ピサールとの接し方も変わってきたと思っただけです」
「まぁ、前より緩くはなったよね~、もっとサボってもよさそうなくらいに」
「サボりすぎるのはやめてくださいね?」
「は~い」
テーブルに次々と料理が運ばれていく。
ピサールのお手製料理だ。手間はかかっていないものの、味付けがしっかりしている彼女の料理は密やかな楽しみだったりする。
「誕生日は祝った方がいいと思うのよね~」
「どうしてですか?」
「だって、その方が楽しい日が増えるじゃない? 面倒な日が増えるよりよっぽどいいって」
「一理ありますね」
「だから、友情誕生日とかそういうの作って、休みの日を増やそうよ~」
「……ピサールは休みたい日を増やしたいだけなんじゃないですか?」
「まぁね~」
些細な会話も不思議と心地よく感じるのは、彼女の距離感の掴み方が上手だからなのかもしれない。突っかかるような言葉がないのもあって、やりやすい。
「増やしすぎるのはよくないですが、休む日も大切ですね。検討しましょう」
「じゃあ、今回、巨大異族を倒した日は魔法少女ミストルティン誕生日ってことで~」
「……少し、待ってください。どうして私が魔法少女になってるんですか?」
「え? 自称してたじゃない」
「別の名前にしてください。少し……恥ずかしいです」
「じゃあ、魔法少女の日?」
「それでいいと思います」
新しい予定を考えながら、テーブルの上を仕上げていく。
今日は無礼講。……というわけではないものの、私にしては珍しくお酒を呑むことも考えている。
葡萄酒の瓶を取り出し、ワイングラスに注いでいく。
「今回の葡萄酒は年代物なのよ~、ちょっとリッチな感じがするかも?」
「……そんなに味わったことがないのでわかりませんが」
「そんなのもったいな~い。もっと呑むべきよ~」
「……呑むとしても、仕事に支障が出ない日になると思います」
「休日とか?」
「はい、穏やかな時間に味わいましょう」
それぞれの席が完成して、料理とお酒がきっちり分けられた。
ケーキはまだ切られていないものがテーブルの中央にある。
「じゃあ、誕生日パーティーしよっか」
「パーティーといっても盛り上がるわけではないですけどね」
「ミストルティンは少し静かな方がいいのよね?」
「そうですが」
「なら、ゆったりと食べちゃおう~」
「いい加減かもしれませんが、それがいいかもですね」
私たちには私たちの動き方がある。
怠惰に生きる時間も、真面目に活動する瞬間も、どちらも大切だ。けれども、一人で抱え込みすぎるといつか、気持ちが不安定になってしまう。
抱え込まず、話す。それが大切なのかもしれない。
対人関係も、趣味も、コンプレックスも、全部。
眩しかったあの魔法少女のように、一途なまでにまっすぐ生きることはできないかもしれない。けれども、魔法少女のように人を助けることは私にもできた。私にやれることを、これからもピサールと一緒に頑張りたい。そう思った。
「……ピサール、これからもよろしくお願いしますね」
「来年のミストルティンの誕生日まで、生きていられたらいいね」
「……私はピサールを支えますよ」
「じゃあ、わたしもミストルティンのサポート、頑張っちゃおうかな~」
一緒に生きているという縁を大切にしたい。
ピサールと一緒にいて、私はそう思うようになった。
評価だけに全てを囚われないように、前向きになるのはこれからだ。
私たちにできることを、今はただ一緒にいるピサールと共にやっていくのだ。
誕生日を祝うケーキが、輝いて見えたのはきっと仲間のプレゼントだからだろう。そんなことを心の内で考えていた。