ひぐらしのなく頃に・絶 /小説Ver   作:soatok

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六月二一日 火曜日

 夜が明け、私は自分がまだ生きていることにホッと安堵すると同時に、次こそは殺されるかもしれないという怯えを胸にまた一日を過ごす。

 

 

 

 教室の雰囲気はいつもと同じ――だけど『何か』が少し違う気がした。

 今日は私ではなく、圭一が前日夜遅くまで深夜番組を見ていたとかで元気がなく、ずっと机に突っ伏して居眠りしていたからだろうか。

 昼休みになっても起きだしてこない圭一をよそに、私たちはめずらしくメンバーだけでなくクラスメイトたちと時間を過ごしていた。

 そんな時だった。

「それって……まさか〝鬼隠《おにかく》し〟……!?」

「しっ――!! だめだよ、誰にも秘密なんだからっ」

 私はビクリとして声の方を見やった。魅音とレナが教室の隅で人目を避けるように何事かを囁き合っていた。私は沙都子やクラスメイトたちとの談笑からはずれ、そっとそちらに聞き耳をたてた。

「……そう、綿流しの晩に失踪したらしいよ。富竹さんと、鷹野さんが……」

「今年も起こったんだね……〝オヤシロさまの祟り〟が……」

 さすがに地獄耳のお(りょう)の跡継ぎである魅音は情報が早い。おそらくは富竹が変死したことも掴んでいるのだろうが、レナを怯えさせないために死因は伏せているのだろう。

 魅音が今レナにだけ事件のことを話しているのはたぶん、レナは日頃から自分が〝オヤシロさまの祟り〟と呼ばれる連続殺人事件と無関係ではないと思いこんでいるからだろう。それを知っている魅音は、彼女を安心させるために自分の知り得た情報を与えたのだ。

「……富竹さんたちは不幸だったけれど、レナは大丈夫だった。ほんとはいつも心配してたんでしょ? 今年は自分が消されるかもしれないって。でもレナはちゃんと雛見沢に帰ってきたんだから、心配なんていらないんだよ。ね?」

「…………」

 うつむいたレナの頭を、魅音が優しく撫ぜた。

 と――、

「……あー、よく寝たぜっ」

 少し離れた席で眠っていた圭一が勢いよく身を起こしたので、魅音たちはハッとしたように話を中断した。

 圭一はもしかしたら、私と同じように二人の話を盗み聞きしていたのかもしれない。だとすると少し不審に思っただろうが、彼には理解できない内容だし、そもそもまるで関係のない話なのだから大丈夫だろう。

 私はそのことを深く考えもしなかった。……だが、この時の自分はあまりに物事を安易に捉え過ぎていたと、後になってから思い知るのだった。

 その日の放課後は、魅音がバイトを頼まれたという理由で部活はまたもお流れとなった。

 少し残念にも思ったが、これで踏ん切りがついた。私は沙都子と今夜は二人でたくさんご馳走を作ろうと話し合って、早めにうちに帰ることにした。

「今夜はこの沙都子さまの練習の成果を遺憾無く発揮してごらんにいれますわよ! 残り物は明日のお弁当にして、みなさんにも自慢してさしあげましょうかしらっ、オーホホホッ♪」

「みー。たくさんたくさん作って、ボクたちもみんなもおなかポンポンにするのですよ」

 部活がないことを沙都子も残念に思っていたのだろう、私の提案に彼女は帰途の間ずっと上機嫌だった。私たちは笑いさざめきながら浮き足立って家路をたどった。

「でも、珍しいですわね。お誕生日でもないのに梨花が急にご馳走を作ろうだなんて?」

「……たまにはこういうことをするのも、腕を鈍らせないために必要だと思いますですよ。にぱー☆」

 もちろんそんなのはただの詭弁だ。

 私は今夜、殺されるかもしれない。それはもしかしたら明日かもしれないし、明後日かもしれないけれど、今夜を最後の晩餐にしようと決めたのだった。いつになるかわからない終わりなら、思い残すことのないようにやるべきことは先に済ませておきたかったから。

 

 

 

 ……だが、結局その晩も何も起こらなかった。

 私はまた生き延びた。

 今か今かと待ち構えていると、それはなかなか訪れない。

 やめてやめてと逃げ惑うと、それは必ず訪れるのに。

 いつまでこんな日々が続くのだろう。私はいつまで耐え続ければいいのだろうか……。

 夜明け間近の空をぼんやりと見つめながら思う。

 こんなのは……もういやだ……。

 磨耗し、砂のように削れた私のココロが。

 さらさら――沙ら沙らと。

 深くこぼした溜息の中に混じりこんでいる気がした。

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