異聞帯No.EX BC.1046 仙界封神歴史 ■■■ ”歴史の道標“ 作:クリサンテモ
呂岳との戦いが終わった夜。周軍陣地。そのとある天幕の中。
「以上が我々からの報告だ。」
藤丸とホームズはお客様用と書かれた天幕の中でシャドウボーダーと通信していた。ウイルスに感染したマシュは注射を打たれて医療用テントの中で眠っている。
「ふむ。申公豹、呂岳、太公望、周... これは、つまりそういうことかね。」
報告を受けたゴルドルフはその情報をまとめて一つの結論を出す。
「この異聞帯はあの『封神演義』の時代ということか。」
封神演義。その名前は藤丸でも知っている。確か古代中国の物語だったはずだ。
「封神演義とは殷王朝末期から周王朝への変遷の時代が舞台であり、多くの仙人や道士が登場する物語だ。
ホームズの説明になるほど、となる藤丸。だが、とも思う。
「でもさ、ホームズ。それだったらこの異聞帯は、」
「ああ。まるで特異点のようだ、だろう。」
そうなのだ。異聞帯とは本来終わっていた世界が今まで続いていたら、という
「んー。とはいっても、私たちだってシャドウボーダーで来れたわけだし、そういった前例がなかったわけじゃないだろう?」
藤丸の疑問にダ・ヴィンチが答える。前例、というのはついこの前のブリテン異聞帯のことだ。あそこは異聞帯でありながら特異点のような世界であった。
「この異聞帯自体謎が多い。なぜ突然現れたか、という時点からね。空想樹だってまだ確認できていないのだろう?」
その通りだ。異聞帯にあるべき空想樹はまだ見つかっていない。まさかとは思うが、ブリテンのように燃え尽きているわけではないだろうが。
「だから、なんらかの特殊な要因がこの異聞帯にあってもおかしくはないだろう。」
「うむ。この異聞帯の原因究明も課題だが、それよりもまずは当面のことだ。」
ゴルドルフが一旦その話題を止めて話し出す。
「現在藤丸らは周軍と行動を共にしているのは理解した。彼らとの対談は明日行われる、で間違ってないな。」
「はい。本日の敵襲によって太公望殿らは病に伏せてしまい、周軍の兵士にも少なくない被害が出ています。そのため、詳しい話は明日改めて行うとのことだそうです。」
「ならば我々は明日の会談でどうするかを決めなければ。」
つまり、このまま周軍と同行するか。それとも別行動をとるか。
今日の戦いや封神演義を見る限り、太公望らと共に行動するのは悪手ではないだろう。だが、彼らは軍隊を率いている以上あまり大きな行動はとれなくなってしまう。現状ではこの異聞帯をよくわかっていないカルデアとしてそれは好ましいものではない。
「しかし彼らと別れても行く宛がないのも事実。せめてなんらかの情報は欲しい。」
「だったらとりあえず色々と話を聞いてみてから決めてもいいかもね。実際に動くのは君たちだしね。」
「それってようは行き当たりばったりってことじゃないかね!」
ゴルドルフはそのダ・ヴィンチが出した方針に突っ込むが、実際行動を決定するには情報は不足している。
「とりあえず藤丸くんはもう寝たら? 君は生身の人間だし、疲れも溜まっているだろう?」
「いや、だけど...」
「そうだな。唯一のマスターである藤丸に疲労で倒れられたら我々としても困る。 所長命令として今日はもう休むように!」
藤丸はその言葉を受けてしぶしぶといった形で寝床につく。新中国異聞帯、申公豹、太公望、周。様々なことが頭をよぎるが、すぐに眠りについてしまった。
「では周ーカルデア会談を始める!」
「フォフォーウ!」
翌日の午前。朝食をいただいたカルデアはとある天幕に案内された。そこには既に復活したらしい太公望や楊戩、昨日見なかった大柄な男などが揃っており、マシュもその中で待っていた。マシュも昨日の抗体で元気になったようだった。奥には「周ーカルデア会談」と書かれた掛け軸が垂れ下がっており、藤丸とホームズ用の席が二つ空いていた。
「それでは改めて自己紹介だ。わしは太公望。
再開の喜びも束の間、太公望に促されてカルデア側も席に座ると周とカルデアの対談が始まった。
「こいつは
「よろしくっす、みなさん。」
四不象を始めて見たマシュは「カバのようなのが喋っています!」と言ってまたカバじゃないと怒られていた。しょうがない。カバに見えるものはしょうがないのだ。
「私は楊戩。|玉泉山金霞洞玉鼎真人《ぎょくせんざんきんかどうぎょくていしんじん》門下・楊戩と申します。昨日は本当にありがとうございました。」
次に挨拶してきたのは昨日も会った青髪の美青年、楊戩だった。楊戩はカルデアに軽く礼をする。
「次は俺だな。俺は開国武成王・黄飛虎。よろしくな!」
そう言ったのは筋骨隆々な大男だった。いかにも強者といったような風貌だが、親しみやすさも感じる。
「俺っちは親父の息子で黄天化っていうんだ。一応崑崙の道士さ。」
最後に自己紹介したのはバンダナを巻いて革ジャンを着た沖縄弁のような口調の青年だった。
「俺は藤丸立香といいます。」
「私はマシュ・キリエライトです。」
「私はシャーロック・ホームズという。早速で悪いが情報交換をよいだろうか。」
「おっと。ちょっと待ってくれ。」
一通り自己紹介も終わってホームズが早速始めようとすると、武成王が待ったをかけた。
「会談を始める前に一つ謝罪させてをくれや。」
「ああ、俺っちからもな。」
「? 謝罪... とは何を?」
「天祥のことだ。」
それは昨日カルデアが最初に接触したオレンジ髪の少年のことだった。
「あいつは俺の倅なんだが、色々迷惑をかけちまったにたいだな。」
「いやいや、あの状況じゃ仕方ないですよ。」
「だとしても、だ。あいつがいきなり殴りかかっちまったそうで悪かった。それだけだ。」
「ああ、俺っちの弟が迷惑をかけた。すまねえさ、カルデア。」
そう言って謝罪する黄親子。藤丸とマシュは困ったようにおろおろする。
「まあ、それはさておきだ。まずおぬしたちに聞きたいことがある。」
太公望は手を鳴らして仕切り直すと、カルデアを見る。
「おぬしたちについてだ。」
カルデア側は来たかっ、とした感じで身構える。聞かれることはわかっていた。
「おぬしたちは仙道ではないな。しかしただの人とも思えぬ。問おう、カルデアよ。おぬしらは何者なのだ。」
「では、説明しましょう。」
太公望の言葉に呼応するように説明を始める。カルデアという組織について。白紙化された地球。そして突如現れたこの異聞帯について。いずれ異聞帯を切除しなければならないという一点を除いて説明した。
「以上が我々の状況です。」
「えっとー...」
突然とんでもない話を聞かされた太公望らは困惑した顔で沈黙している。四不象なんかはもう何を言ってるかまったく理解できていなかった。他の面々も似たような感じだ。
「つ・ま・り・だ!」
処理が完了したのか太公望が大声で言う。
「おぬしたちは突如現れたようにみえるこの世界を調査するために来た。そう言う認識で合っているか?」
「ええ、その認識で合っています。」
「かあーっ」と盛大なため息を吐いて太公望は脱力する。厄介事だとはわかっていたが、それが想定以上で面倒くせえ、という顔だった。
「さすが太公望どのだな。俺は全然理解できなかったってのに。」
「いや。わしも1から10まで理解できたわけではない。なんとなくとしかな。」
そう言って座り直す太公望。
「まあ、おぬしらのことはわかった。いや理解しきれてはおらんが... ともかく! 嘘はついてないな?」
「ええ。理解し難いかもしれませんが、全て真実です。」
「... ならいい。ではそちらからも質問するといい。なんでも答えよう。」
改めて真面目な顔になる太公望にホームズは問いかける。
「ではまず今の国際情勢とあなたたちの状況についてよろしいでしょうか。」
「うむ、わかった。」
そう言ってどこからか地図を取り出した太公望。その中央には朝歌という都市があり、西の方には西岐の上にバツがついて周と書かれていた。その中間には汜水関という文字も見える。そこに指さしながら太公望は説明する。
「今この大陸では殷という国が栄えていた。だが、妲己という女狐が今代の王、
そう言って締めくくる太公望。藤丸は妲己という名前を思い出す。それは先日申公豹と名乗った道化師のような男も話していた。
「あ、すいません。申公豹って知ってますか?」
そう訊くと太公望は露骨に嫌そうな顔をする。
「おぬしら申公豹と... まさか昨日の雷はおぬしらが原因か!?」
「ええ。力試しと称して... やはり太公望さんは申公豹さんとお知り合いなのですね。」
「知っとるもなんも、あやつはわしが封神計画に出発したその日にいきなり勝負をしかけてきたと思えばようわからん行動ばかり。あやつの雷公鞭を受けてよく無事だったのう。」
「あれは死んだかと思ったっす。」
太公望と四不象はしみじみと言う。藤丸たちはそこまで言うことが不思議そうな顔をしていたが、そこに楊戩の補足が入る。
「師叔たちがそこまで言うのも無理はありません。申公豹といえば三大仙人よりも強い最強の道士。最強の霊獣黒点虎に乗り、最強の
「最強の霊獣に乗って最強の宝貝を持つ最強の道士...」
藤丸は楊戩の言葉を反芻する。それが事実なら、あそこで死んでいてもおかしくなかったと思うと今更ながら冷や汗が止まらない。
「とりあえず、今の状況と申公豹についてはわかりました。ではもう一つお聞きしたいのですが...」
ホームズが次の話題を持ちかけようとすると、それを遮るように天幕に二つの影が入って来る。
「やっほー、太公望。」
「会談中失礼しますね、みなさん。」
「つ、鶴ーーー!?」
最初の人は長いマフラーのようなもの布巻いている青年だった。だが、それ以上に後から入ってきた影は衝撃的だった。3人ではなく、白い鶴だった。それは四不象と同じように人の言葉を話している。
「あなた方がカルデアのみなさんですね。私は白鶴童子と申します。」
白鶴童子と名乗る鶴は藤丸たちの驚きもなんのその、丁寧に自己紹介する。
「白鶴よ、どうした。元始天尊さまからの伝言か?」
「ええ、そうですよ、太公望師叔。ただ、今回は師叔ではなくてカルデアのみなさんに、です。」
「お、俺たちに?」
白鶴童子はカルデアに用があるという。だが、ホームズは内心疑念を抱いていた。なぜ彼は当然のようにカルデアを知っているのか、と。
「というか私を無視しないでくれるかな、君たち!」
その横から大声で存在を主張する男。白鶴のインパクトが大きすぎて完全に忘れられていた。
「ああっ、すみんせん。えーっと、」
「私は
「太乙真人ですか!」
その名前にマシュは驚く。
「おや、私のことを知っているのかい?」
「太乙真人といえば崑崙12仙の1人にして
「ふっふっふ。いやー、有名人は困るねー。」
「おい、気持ち悪いぞ。科学オタク。」
そう言って満更でもなさそうな太乙真人だったが、太公望らは冷ややかな目で我に返ったのか一回咳払いをして真面目な顔になる。
「まあ、それはともかくとして。元始天尊さま曰く、ぜひ君たちを崑崙山脈に招きたいのだが、どうだろうか?」
「もちろん、みなさんの身の安全は保証します。」
「崑崙山脈っていうと...」
「つまるところ、私たちの本拠地だね。」
「えっ!」
そう問いかける2人。カルデアの3人は一旦隅っこでひそひそとどうするかミニ会議をしている。
「どうしましょう、先輩、ホームズさん。」
「難しいところだが、まあ、身の安全を保証すると言ってくれている以上、彼らについていくのもありだが、ミスター藤丸はどうだい?」
ホームズに問いかけられて、藤丸も腹を括る。
「行きましょう。何か新しい発見があるかもしれませんし。」
かくしてカルデア一行は崑崙山脈行きを決定したのだった。
「さあ、見えてきましたよ。あそこが崑崙山です!」
「わあっ!」
「あれがっ!」
白鶴童子の先導で崑崙山に向かうこと数時間。一向の目の前には浮遊する巨大な山があった。その正面にはデカデカと”崑崙山“ と激しく主張している。
一向が乗っているのは黄天力士という太乙真人の作った宝貝ロボの一つである。いかにもひと昔古い感じのロボットだが、凄まじいスピードで載っている人間に負荷をまったくかけないのは流石といったところだろう。
「崑崙山脈内は色々とあるのですが、まずは元始天尊さまの下へ向かってもらいます。」
「元始天尊...」
元始天尊といえば道教の最高神であり、仏教でも天帝かその上司ともされる中国における最高存在の一柱である。太公望の師匠でもあるそうだが、当の本人は「あのジジイは何考えてるのだ。」などと不敬な呟きをしていた。
「緊張することはないさ。あの人は結構軽い人だし。気楽に接してもらって大丈夫だよ。」
太乙真人はそうカバーを入れるが、カルデアとしてはここが正念場であると考えている。元始天尊ほどの存在ならば、もしかしたらこの異聞帯が突然現れた理由の一端を、あるいはその原因ですらある。そう考えるとここに来たのは早計だったかとも思う藤丸だったが、ここまで来た以上、弱音を吐いてはいられない。そんな覚悟を胸に、カルデア一行は崑崙山脈へと入っていった。
崑崙山脈内部。その中心にある元始天尊座す
「この中で元始天尊さまがお待ちです。粗相のないように... とは言いませんが、一応言動には気をつけてください。」
太乙真人らと別れ、玉虚宮に通されたカルデア一行。その奥、謁見の間に入る。
そこにいたのはいかにも仙人といったような長い髭が立派な老人だった。だが、その身に纏った魔力は太公望や楊戩の比ではない。
「よく参った。歓迎するぞ、カルデアよ。」
その老人は「ふぉっふぉっふぉ」と笑いながらカルデアを歓迎する。
「あなたが元始天尊殿、で相違ないでしょうか?」
「いかにも。わしが崑崙山教主・元始天尊である。いやしかし、本当よく来てくれた、カルデアよ。」
想定していたのとは違い、好々爺といったような様子に呆気にとられていたカルデア。
「あ、すみません。私は...」
「マシュ・キリエライト、じゃろう。」
「え!」
自己紹介しようとしたマシュに被せるように名前を当てた元始天尊は悪戯が成功した小僧のような顔をする。
「それと藤丸立香とシャーロック・ホームズ、あとはフォウというのじゃろう?」
「なんでわかったんですか!?」
「わしくらいになるとなんでも知っとるんじゃよ。」
「何言ってるんですか、元始天尊さま。」
なんでも知ってると豪語する元始天尊に水をかけるように、いつのまにかいた白鶴童子が水を差す。
「元始天尊さまの千里眼で始めから見ていたんでしょう?」
「別に言わんでもよいではないか... 白鶴...」
ネタばらしされた元始天尊はがっくりと項垂れた。だが、カルデアとしては聞き逃せない一言があった。
「元始天尊殿は千里眼をお持ちなのですか?」
「ああ、天然物ではないがな。ほれ、わしの額を見てみい。」
そう言って自身の額にある赤い宝石のようなものを指さす元始天尊。
「これが千里眼になっててのう。常にこれで大陸全土を見ておるんじゃよ。」
「だから、わたしたちのことも知っていたということなのですね。」
「ではひと段落ついたところでよろしいでしょうか、元始天尊殿。」
ホームズの言葉で玉虚宮の中に緊張感が戻る。
「なぜ我々をここに呼び出したのでしょうか? 我々の素性を問う、ということでもありますまい。」
「うむ、そうじゃな。では単刀直入に言おう、カルデアよ。」
元始天尊の目つきが鋭くなる。それは先程の好々爺ではなく、中国に名高き大仙人の風格があった。
「カルデアよ。この世界を正常に正すためにわしらの計画、封神計画を手伝ってくれないか。」
太公望「本当ならわしメインの話になるはずだったのに、何出しゃばっとんじゃいあのボケじじい!」