異聞帯No.EX BC.1046 仙界封神歴史 ■■■ ”歴史の道標“ 作:クリサンテモ
崑崙山脈内部、とある洞。
元始天尊との面会を終えたカルデア一行は今日はもう遅い、とのことでとある洞をあてがわれていた。
「では、また明日迎えに来ますので、それまでどうぞお休みください。」
ここまで案内した白鶴童子がそう言って飛び立っていく。
「見てください、先輩! すごい綺麗なお部屋です!」
「ふかふかのベッドだ!」
「フォーウ!」
既には暮れているが、電気などは整備されており、現代とも顕色ない技術力が見て取れた。
「うん。たしかに色々と見てみたいところはあるが、それは後回しだ。」
ホームズがはしゃぐ藤丸らを制する。
「そうですね。とりあえず、まずはシャドウボーダーと連絡がつくかどうか、ですね。」
「ああ、ここは崑崙山脈。伝説に記される本物の仙人界だ。通信になんらかの不調がかかる可能性もある。なるべく早く話したいこともできたしね。」
藤丸は先程のことを思い出す。
「... 情報が不足しています。もう少し詳細を教えていただけないでしょうか?」
封神計画への協力。いきなりそう打診されたカルデアはどういう意図か計りかねていた。
「うむ。流石に単刀直入すぎたな。では、まず封神計画について説明させてもらおう。」
そう言って語り出す元始天尊。
「おぬしらが太公望から聞いたとおり、現在人間界は妲己とその一派によってひどい有様じゃ。そういった仙道をあそこに見える封神台に封神するのが封神計画じゃ。」
元始天尊が見つめる先。そこには浮島の上に「封」と書かれてる塔が一つあった。おそらく、それが封神台だろう。
「じゃが、妲己を倒せばそれはそれで人間界は混乱に陥る。」
「... 妲己を失えば、強力な統治者がいなくなって各地で叛乱が起きるから、ですか?」
「その通り。ゆえに新たなる王を立てて混乱を最小限に収める必要がある。それが封神計画じゃ。」
一通り話終えた元始天尊はふぅ、と一息つく。だが、疑問はまだある。
「ありがとうございます。それで、なぜ我々に協力の申し出を?」
「無論、我々もできる限りお主らの言う地球白紙化とやらの解決を手伝おう。 」
「それはつまり、お互いに協力し合う、ということでしょうか。」
マシュは少し驚いたように聞き返す。元始天尊の言っていることはつまり、カルデアと崑崙山の完全協力の提案だった。
「そうじゃ。一方的に、というはずもなかろう。」
元始天尊は当たり前のように言う。たしかにそれはカルデア側にとっても都合の良いもうしでではある。しかし、だ。
「... それはこちらにとっても都合の良いことですが、そこまで私たちを信頼してよろしいので?」
「いやなに、老人の勘、というやつじゃよ。」
ホームズの疑念もどこ吹く風。「ほっほっほ。」と陽気に笑う老人に嘘を吐いている様子は見られない。それが演技、という可能性はあるが。
「まあ、今急いで結論を出さずともよい。お主らの仲間とも相談せねばなるまいだろうしな。今宵は客室に案内するゆえ、ゆっくり考えるといい。これ、白鶴。」
「はい、元始天尊さま。」
元始天尊は側に控えていた白鶴童子を呼ぶ。
「では、これより皆様を客室に案内します。それと、何かしら必要なものがございましたらなんでもお申し付けください。」
「あ、えっと、返答の期限は?」
「おお、そうじゃったな。では丸一日後、明日のこの夕暮れの時間に頼む。では、いい返事を期待しておるぞ、カルデアの者たちよ。」
「というわけですが。」
「うーん。おいしい話ではなるんだけどねー。」
以上の経緯をストーム・ボーダーの面々に説明する藤丸ら。通信の方は崑崙山の技術も借りたことで問題なくつながっている。
「しかし、うまい話の裏にはなにかしらあるものだ。実際、時計塔でこんな話を持ちかけられたら、絶対に応じるわけにはいかないしな。どんな罠があるかわかったものじゃない。」
「そうだね。それに、かの元始天尊といえばそれこそギリシャ異聞帯のゼウスにも匹敵しかねない存在だ。それこそ、この異聞帯の原因となっていても不思議ではないね。」
元始天尊。その名は中国に古くから伝わる道教の最高存在の一つ。一部の書物には世界を創造した存在であるとも記されるほどだ。本来ならば先程のように会話できるような相手ではなく、本物の神に匹敵する超越存在である。ましてや、協力を持ちかけられるなど。
この異聞帯はまだ不可思議なことは多い。その原因の可能性がある相手である以上、下手な手は打てない。
現カルデアの司令官であるゴルドルフは元始天尊の提案に否定的。ダ・ヴィンチも懐疑的だ。
「とはいえ、我々に拒否する選択肢はないだろう。」
そこに
「この異聞帯を攻略する以上、協力者は必要だ。こちらのリソースの観点からも、ここを断って他の協力者を探している暇はないだろう。」
「それに、」とホームズは続ける。
「ここは崑崙山脈の内部。現在は友好的だから良いものの、下手に断った場合、向こうが我々を害さないという確証はない。もしそうなれば、ここでそのまま全滅でもおかしくはない。以上のことから、私は崑崙山脈と協力関係を結ぶのを進めるよ。」
「ミスター・ホームズの言う通りです。それに、地上で共に戦った太公望さんたちは良い人たちでした。ですから、崑崙山は信頼に足りる勢力だと思います。」
ホームズに続いてマシュも協力関係を結ぶのに肯定的な意見を出す。ゴルドルフは「うーむ。」と唸って、藤丸に問いかける。
「藤丸くん。我ら唯一のマスターとして、君はどう思う?」
「俺は、協力関係を結んでいいと思います。マシュの言う通り太公望さんや崑崙の人たちは悪い人じゃないと思いますし。」
藤丸としては、元始天尊がこちらを罠にかけようという悪意は感じとれなかった。それこそ、ブリテンの妖精王のようなとっかかりは。
「まー、もしこの異聞帯の王が元始天尊だったなら、私たちはとっくに潰されててもおかしくはないんだし、とりあえずは信じてみたら?」
「ダ・ヴィンチの言う通り。それに、この会話も千里眼で盗聴されている可能性が高いのですから、悩んだところであまり意味はないと思いますよ。」
「た、たしかに!?じゃあ、なんだ?こっちの情報は筒抜けじゃないか!?」
ホームズの指摘に震えるゴルドルフ。そもそも、カルデアの存在を察知したのがあの千里眼である以上、こうやってこそこそ話し合うのは無意味なのかもしれない。
「と、ともかくだ!ノウム・カルデアの所長として、我々は崑崙山脈と協力関係を結ぶ!異論はないな!」
新所長の決定に、「はい!」と言う良い返事が、洞の中でこだました。
「ちょっと崑崙山に攻め入ってくるよ。」
殷の首都、朝歌。その中心にある王城内にて、その最高責任者である聞仲から留守を任されていた張奎は日夜仕事に追われていた。聞仲の腹心であり、心酔している張奎は聞仲には及ばずとも優れた道士であり、優れた内政官でもあった。
当然、無駄にできる暇なぞない。が、これには声をかけずにはいられなかった。
その相手とは崑崙山とは異なるもう一つの仙人界、金鰲島からに客人として駐在している「金鰲三強」の1人、趙公明である。
世界観にそぐわないフランス貴族のようないでたちをした彼は、それとは裏腹に凄まじい実力者であり、生粋の
張奎としてはあまり関わりたくはないが、同時に無視できる存在ではなかった。そのため、遠巻きに行動をチェックする程度に留めていたのだが、昨日彼の部下である呂岳が太公望らに敗れたと聞くと、突如出立の準備を始めたのだ。
出て行くのはいい。率直に言って目障りな存在ではあったから。張奎は内心で思う。
しかし、それ以上に奇妙であった。
故に、報告を受けた張奎は趙公明の下に急いだ。その真意を問いただすために。
(聞仲様に留守を任された以上、絶対に変なことは起こさるわけにはならない...!)
張奎が覚悟を決めて趙公明に宛てがわれた部屋へと着く。そこでは荷造りを部下に任せ、優雅にお茶をしている趙公明がいた。
張奎は問いただす。一体何をしでかすつもりなのか、と。それを受けて、趙公明は開口一番に爆弾発言をしたのだった。
「.........へ?」
「こらこあん♡いきなりそんなことを聞かされて張奎ちゃんが困っちゃってるじゃなぁい♡」
予想を遥かに上回った返答に固まった道士に助け舟を出したのは、一緒に茶会をしていた一人の女性。否、妖怪。10人いれば100人が目を奪われる絶世の美女。殷の腐敗の原因である傾国の女。
紂王の妃、蘇妲己。1000年以上を生きる狐の妖怪にして、趙公明、聞仲と並ぶ実力者でもある。
妲妃の言葉に「おっと、まさしくその通りだねっ!」とハイテンションに返す趙公明。彼の言動に呆然としていた張奎だったが、脳を再回転させて詰め寄る。
「い、いやいやいや。ど、どういうことですか!?話が追いつかないんですけど!」
「いや、どうもなにも、言葉通りの意味だよ。ちょっと崑崙山に戦いに行くだけのことさ。」
「いやなぜ急に!?」
張奎が食ってかかるも、趙公明「フハハハハ」と意に介さない。
「先程呂岳くんが帰ってきたことは知っているだろう?」
「ええ、その報告を受けたあなたが不審な行動をしていることも。」
「その報告でちょっと気になることがあってね。そのついでに、原始天尊くんと久々に殺り合おうかと思ってね。」
「そんなスナック感覚で!?」
さらっと崑崙山への攻撃がついででしかないと述べる趙公明。この男の考えは到底理解できない、と張奎は頭を抱える。
「これは妾からのお願いでもあるのよおん♡」
それを見ていた妲妃は殆どお茶が残っといないティーカップを持ち上げて言う。
「太公望ちゃんたちだけならまだ放置でいいんだけどねん♡ちょーっとだけ気になることがあるから、趙公明ちゃんに確かめてきてもらおうと思ってねん♡」
「だ、だからって、」
「あらん♡別に張奎ちゃんにとっても悪い話じゃないでしょん♡周を手助けする崑崙山を攻めることはん♡」
「うっ。」
考えてみればそうだ。もし周に直接手を出すならば多くの無辜の民が傷つくが、崑崙山ならばその心配はない。太公望ら崑崙の道士を倒すのならば願ったり叶ったりだ。
「私も賛成ですね。」
「!?」
扉前に立っていた張奎の背後、そこから現れたのは同じく殷の食客である最強の道士、申公豹であった。
「おや、申公豹くん、戻ってたのかい!」
「ええ、それよりも随分と楽しそうなことをするようで。戦闘狂のあなたとはいえ、崑崙山に直接手を出すとは思い切ったことですね。私はてっきりあなたの船で彼らと戦うつもりかと思っていたのですが。」
奇抜なピエロのような道士は心底愉快そうに趙公明へと問いかける。もっとも、申公豹からすればその理由はわかりきっているのだが。
「ああ、僕も初めは進軍してきた太公望くんたちを僕の船『クイーン・ジョーカーII世号』で迎え撃つつもりだったんだがね!事情が変わったということさ。」
そう言って冷たくなったカップを置いて立ち上がる趙公明。
「というわけで、僕はそろそろ失礼するよ。では、僕の華やかな戦果を期待して待っていてくれたまえ!フハハハハハ!」
結局最後まで話に追いついていけずに立ちすくんでいた張奎を放って去って行く趙公明。妲己と申公豹も意味ありげに微笑むだけだ。
(聞仲様〜。早く帰ってきてください〜。)
張奎は自室から胃薬を取ってこようと考えながら頼れる上司に心の中で泣きつく。同時に、趙公明をあそこまでやる気にさせた原因について思いを巡らす。妲己ならともかく、趙公明が崑崙を攻めればそれは崑崙と金鰲の2大仙人界の衝突を意味する。それがわからない人物ではないはずだが...。
これからより一層状況は混乱するなと、張奎は気を引き締めた。
一方で、趙公明と張奎が出て行ったその部屋では、残された妲己と趙公明が座っていた席に腰をかけた申公豹が空になったポットを挟んで話していた。
「それで、何を考えているのです?」
「あらあらあん♡一体なんのことかしらん♡」
「随分と早く趙公明を嗾しかけたことですよ。いずれ彼を戦わせるつもりはあったにせよ、これはいささか急で雑ではありませんか?」
最強の道士の漆黒の瞳が妲己を捉える。しかし、女狐は意味ありげに悪どい笑みを浮かべるだけだ。
無言で睨み合っていた両者だったが、申公豹はやれやれといわんばかりに首を振って席を立つ。この様子では、決して口を割らないだろうと察したためだ。
口を開かずに去っていく申公豹だったが、部屋を出る一歩前で振り返って告げる。
「最後に一つ。カルデアとやらは、あなたが思ったよりやるようですよ。」
返答を待たずに去りゆく申公豹。余裕の態度を崩さず最後まで残っていた美女の思考を見抜いている存在は、まだ誰一人いないのだった。
明朝、藤丸が洞から出ると、そこには青い中性的な青年がいた。
「君がカルデアっていうところの人たちかな?」
「あ、はい、藤丸立香っていいます。あなたは...」
「僕は普賢真人。よろしくね。」
普賢真人と名乗った彼は、天使の輪っかのようなものが頭上に浮かんでおり、その手にはサッカーボール大の球体を持っていた。その声や仕草からは優しそうな雰囲気が滲み出ている。
「ほら、君たちが元始天尊様と会うのって午後でしょ。それまでの間、僕が崑崙山を案内しようと思って。」
カルデアが今日再び元始天尊と会うのは午後4時。それまでどのように過ごすか考えていた藤丸にっとって、その申し出は青天の霹靂だった。
「それはありがたいですけど、いいんですか?」
「うん、もちろん。それに、そっちの世界のことも知りたいしね。お相子だよ。そちらの御二方も、どうだい?」
「それでは是非お願いします!」
「フォーウ!」
普賢真人はそう言ってマシュとホームズの方を向く。フォウくんを肩に載せたマシュは興味津々といった様子で答える。未知の世界を知ることはマシュにとって何よりの楽しみだ。
「私も興味はあるが、遠慮しておくよ。2人とも、楽しんでおいで。」
「わかりました。では、何かあったら連絡しますね。」
「うん、それじゃあ行こうか。2人とも、落とされないように注意してね。」
そう言って辞退したホームズを残して、3人と1匹は崑崙山脈に来る時も乗った黄巾力士に乗って出発する。辺りにはまるで宇宙空間のように大小さまざまな岩が浮かび、これまで多くの時代と土地を見てきた彼らからしても、斬新な光景だった。強いて言うなら、ギリシャ異聞帯のオリュンポスやインド異聞帯の神の空岩が近しいものではあったが、前者は近未来的で一つの塊であり、後者は
普賢真人からもたらされる仙人界の話も楽しい。が、しかし、
「やっぱこれ乗りにくいというか設計ミスなんじゃ...」
そう、飛行宝貝、黄巾力士。名の通り力士のような見た目をしており、崑崙12仙の1人、宝貝開発者として名高い太乙真人作の宝貝ロボである。崑崙山の上位層の足としてよく使用されるが、搭乗方法がその丸っこい大きな動体の上に乗ることで、安全柵などはない。一応、頭部にあたる部分にコクピットはあるが、1人乗りであり、数人で乗るには向いていない。
サーヴァントとしての身体能力を持つマシュはともかく、生身の人間である藤丸からしてみれば、これほど身の危険を感じる乗り物もない。
「まあ、僕たち仙道用に作られたものだからね。万が一落ちても僕がどうにかするから安心して。」
「とはいっても、やはり危険です。あちらのコクピット部分は使えないのですか?」
「一応これもれっきとした宝貝だからね。仙道でもない人間が触れば、たちまち生命力を吸われてミイラになっちゃう。この動体部分なら問題はないけど、直接制御するコクピット部分にのって、下手に触ったら君はともかく、藤丸くんが死んじゃうよ。」
「......やっぱし、設計ミスでは......」
そんな会話を繰り広げつつ、彼らの前方に他よりも大きな洞が近づく。そこには1つの人影もあった。
「あれは...」
「あそこは、九仙山・桃源洞。崑崙12仙の1人、広成子のところだね。あそこにいるのは、彼の弟子かな?ちょっと寄っていこうか。」
崑崙観光を楽しむ彼らは、まだ、平和だった。
FGO太公望実装ということで再燃しました。
※なお、今話に太公望は出てきません。
太公望「それはおかしいじゃろ!」