新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
ですので、少し短めにはなります。
外伝-A.D.2000.8.13-
「私の顔に、何かついてますか?」
余りにもまじまじと見られるので、リュウジは目の前の女性、つい一週間前に、その存在を知った、碇ユイにそう聞いた。
「ごめんなさい。……今でも信じられなくって。まさかこの人に、弟さんがいるなんて、想像できなかったものですから」
「だったら、会う必要などなかったろう」
いつも不機嫌そうなゲンドウは、今日は輪をかけて不機嫌そうであった。実際不機嫌なのだが。
「何言ってるの。唯一の家族じゃない。これから、仲良くしましょう」
ユイはゲンドウを宥めるように言うが、その効果は無い。
何とか3人で都合を合わせ、挨拶をする為に予約した、ゲンドウとユイの職場の近くの喫茶店の一角の空気は、どんどん冷たくなっていった。
「お気遣いなく、兄とは馴れ合う気は、私もありませんので」
「リュウジさんも、そんなこと言わず」
「だから言ったんだ、こんな奴に挨拶などしなくていいと」
ちなみに、ユイもリュウジの存在を知ったのは、たった一ヶ月前だ。
ゲンドウが持っていた、数少ない写真の一つに、映っていた人物をなんとなしにゲンドウに聞いてみたところ、
「弟だ」
と言った時、ユイは我が耳を疑った。
そして、一悶着が起きる。
やれ、結婚してそこそこ経つのに、初めて聞いた、だの。
やれ、妻に家族を紹介しないなんて信じられない、だの。
怒ると怖い妻に押し切られ、今日の『結婚後』の家族の挨拶となったわけである。
だがそうなるまでも大変であった。
なにしろ自衛隊入隊以降の消息を、ゲンドウが知らなかったからだ。
自衛隊に問い合わせれば、既に除隊。アメリカに渡った形跡を知り、アメリカ陸軍に入隊したことがわかり、問い合わせてみれば、
「彼の情報は、諸事情によりお伝えできません」
と、門前払い。
元特殊部隊員なのだから、当然ではあるのだが。
ゲンドウは、これでユイも諦めるだろう、と思ったのだが、
「是が非でも、探すわよ」
となぜか躍起になった。
だがアメリカ軍の名において、その情報が隠匿されている以上、どうこうできるできるとは思えない。
だが一週間前、ユイの電話に、
『碇ユイ。旧姓綾波ユイさんで間違い無いでしょうか』
と突如電話がかかってきた。
「どちら様で?」
『貴方の旦那の弟です。兄がいつもお世話になっております』
「え!!??」
さすがの彼女もこれには驚いた。
「あ、あの!初めまして。ユイと申します。申し訳ありません。ご挨拶が遅れて……」
『お気になさらず。どうせ、兄が私のこと等、何も話していなかったんでしょう』
この反応から見て、やはり兄弟仲は良くないようだ、とユイは感じ取った。
「あ、あの、どうしてこの番号が……」
『仕事柄、情報を調べるのは得意でして。特に自分を調べる連中を逆探知するのは得意なんです』
サラッと恐ろしいことを言う。
「あの、折角ですし、予定を組んで、是非ともご挨拶を……」
『無用です。失礼とは思いますが、兄が結婚しようが、何しようが、私に報告など必要無いですし、私もそれで構いません。ですが、遅ればせながらお祝いの言葉を贈ります。おめでとうございます』
「待ってください。私は是非お会いしたいんです。お忙しいとは思いますが、お願いします。何でしたらそちらの都合に合わせますし、場所も指定していただければ、お伺いします」
『……なぜ、そうまでして私なんかに会いたいんです?』
「……申せません。ですが、お願いします」
そう、ユイは是が非でも会いたかった。
今後の世界を考えれば、ユイやゲンドウに携わる者には、彼女は会わなければならないのだ。
『一つだけ、聞いてもよろしいですか?』
「何でしょう?」
『なぜ、兄と結婚したんですか?今や貴方の夫ですから、悪く言うのはどうかとは思いますが、決して『良い性格の男』とは言えません』
リュウジも、わざわざ連絡したのはそこを聞きたかったからでもあった。
調べれば、ユイという人物は、あのゲンドウと釣り合うとは思えぬ才女であり、何か打算があって結婚したのでは、とは思わずにはいられなかったのだ。
「……かわいかったんです」
『…………は?』
リュウジは思わず、間の抜けた声をあげてしまった。
「あなたも含め、皆んなあの人を誤解してるんです。最初は確かに仏頂面でしたけど、やっと笑ってくれた時の顔が、……とても、かわいかったから。好きになって、結婚しました」
リュウジもここに来て、まさか惚気話を聞かせられるとは思わなかった。
だが、
『……ありがとうございます』
「え?」
今度はユイが間の抜けた声を上げる。
『あんな兄ですが、最後の肉親ですから、幸せに生きていけるなら、それが何よりです。碇ゲンドウをそこまで言ってくださるあなたなら、兄は幸せになれるでしょう』
「リュウジさん」
『来週、日本に行く機会があります。その時、1時間ほどですが時間が取れます』
「あ、ありがとうございます。場所は……」
『お気遣いなく、そちらにお伺いします。あなたの職場の近くに、小さなカフェがありますね』
「ええ」
『そこに、一週間後の正午にお伺いします。お手数ですが、予約しておいていただけますか?』
「勿論です。ありがとうございます。」
そうして今日の運びとなったのである。
「ところで、リュウジさんは、軍人なんですか?」
「かつては、米軍の特殊部隊に籍を置いていました。俗に言う、グリーンベレーですね」
「え!?あ、あの……実在するんですか?」
「フィクションじゃありませんよ。アメリカ陸軍特殊部隊のことを、そう呼んでいるんです」
本当に知らなかったのか、どこか抜けた表情に、リュウジは気が抜ける思いだった。
是非とも自分に会いたいと言われたので、何か思惑があるのかと来てみたが、まるで、
「暖簾に腕押し」
であった。
「それで、今は何を?」
「所属はCIAです。仕事内容までは言えませんが、こう言えば検討は付きますでしょう?」
「要は人殺しか」
リュウジは紅茶を啜るゲンドウを睨んだ。
「あなた。そんな言い方……」
「かまいませんよ。兄の言う通りですから」
リュウジはコーヒーを啜り、ユイを制した。
「自分の仕事を正当化するつもりはありません。一人殺せば殺人犯、百人殺せば英雄、なんて誰かが言ってましたが、千人殺そうが、一万人殺そうが、それこそ五十歩百歩です」
パンを齧りながらも、リュウジはゲンドウへ視線を向け続ける。
「貴方達とは違います。貴方方科学者は、人類の為になるものを創れる。よかったなゲンドウ。アンタが唾棄する弟は、まさに唾棄すべき存在に成り果ててる」
「なら、なぜ続ける?」
「護りたいものがあるからだ。アンタにもあるんだろう?」
そう言って、ユイを見る。
「……私には、この先も縁のないものだろうが、これから、アンタは護りたいこの人と共に、護りたいものが沢山できるんだろう。私が触れることが永遠にない、いわゆる温もりってやつだ」
「縁のないって、どうして……」
「……戦場で負傷しましてね。私は、もう不能者なんですよ」
それの辛さを、リュウジはヒシヒシと感じていた。
子を残せない。それが、一人の人間にとって、どれだけ虚しいか。それを完膚なきまでに痛感しているからだ。
「……ゲンドウ。もし子供ができたら、何が何でも守ってやれよ。その為なら……、癪だが、俺もなんでもする。それこそ人殺ししかできないが、……もし俺にできることがあれば、料理だって作れるようになってみせる」
「……いらん。余計な気を回すな」
「あなた!」
「いいんです、ユイさん。子供には、人殺しなんて、近付かない方がいい。そもそも、この人がちゃんと、子供と向き合ってくれるなら、私の出番なんて、ないんですから」
リュウジはユイとゲンドウを見渡し、二人に、自身の拳を差し出した。
それは、使い古されたと、人の体の一部に言うべきではない言葉が、ピッタリと合うほどゴツく、歪になっていた。
「私の手は、血で染まりきっています。私のこんな手が、子供に触れることはあってはならない。……願わくば、私があなた方の子供に、会うことがないことを祈るばかりです」
「あの、リュウジさん……」
「ユイ……余計なことは喋るな」
「でもあなた……」
「私には何も言う必要はないですし、私も何も聞きませんよ。こいつに使われるのは癪だが、義姉さんなら話は別です」
「ね、義姉さん!?」
「おっと、まだ早かったですか?」
心なしか、ゲンドウの目が異常に鋭くなった。
「リュウジ、願わくば、今日限り、私たちと会うことがないことを、祈る」
「残念だが俺が会いたくないのは、アンタだけだ。よかった、アンタの願いと違う内容で」
売り言葉に買い言葉で、またもや周囲をそっちのけで、二人は外気温を下げにかかる。
「貴様が何をしようと勝手だが、我々に迷惑をかけるような真似はするな。あとは野垂れ死ぬなりして構わん」
「アンタに迷惑をかけるほど落ちぶれちゃいない。アンタにケツ持ちなんて、するのもされるのもゾッとする」
「私は、自分のことは自分で責任を持つ。貴様に世話になることはない」
「自分のこと?アンタはユイさんの旦那だろ?この人は勿論、これから生まれる子供の責任も生じるんだぞ。自分のことだけじゃ……」
「ストップ!二人とも!」
ついにユイが声を張り上げる。
「あなた。リュウジさんと過去に何があったかなんて聞かないし、興味もないわ。でも、折角来ていただいたんじゃない。その態度はなに?」
「私は頼んでない……」
「アナタ」
そう言っているユイの目は据わっている。この時の彼女に、ゲンドウは何か言えた試しがない。
「……リュウジさん。うちの人が気に入らないなら構いませんが、周囲への配慮をもう少し考えたほうがいいんじゃないですか?いつか取り返しのつかないことになるかもしれませんよ?」
「いや、ですが……」
「先程私のことを義姉と呼びましたね?」
「え、ええ……」
「義弟なら、義姉の言うこと聞いてくれますね?」
「それは……」
「聞いてくれますね?」
リュウジも得体の知れない迫力から、
「……はい。お義姉さん」
と、素直に返事をするしかなかった。
「結構。……数少ない家族なのよ。ほんの少しでいいから、仲良くしましょ。いいわね?」
そう言われながらも、兄弟は睨み合いを再開していた。
「……返事は?」
だが再び迫力を増したユイに、
「「ハイ!!」」
初めて兄弟仲良く返事をした。
※
「それでは、これで……」
「リュウジさん。今日は本当にありがとうございます」
一時間が経ち、リュウジの予定もあるため、お開きとなった。
「ユイさん。こちらこそ、礼を言わせてください」
そう言うと、リュウジは深々と頭を下げた。
「信じられないかもしれませんが、最後の血の繋がった家族として、兄には、幸せにはなってほしいと思ってます。ですが、誰ならそれができるか見当がつかなかった。ですがあなたなら、それができる。今日は、そう思うことができました」
そして、ゲンドウへと目を向ける。
「あんたが、この人とこの先、生まれるであろう子供をしっかりと見てくれるなら、望み通り、俺が現れることはない。……だから、しっかりしてくれ、兄さん」
そして、兄の肩を一度だけ叩いた。
「願わくば、あなた方家族に、幸せが訪れ、俺が、野垂死にますよに」
そう言うと、リュウジはその場を後にした。
「……いい人じゃない。リュウジさん」
「……だから気に入らんのだ」
「いざとなったら、力を借りるべきよ。私たちとは違う力がある」
「いらん。ヤツにどうこうできる次元ではない」
「私はそうは思わないわ」
そう言うと、ユイはリュウジの後ろ姿を見る。
「いつだって、最後は、人の意思が、物語を決定付けるのよ」
※
A.D.2004
某日。
「先輩?面会がいらしてますよ?」
「面会?誰かしら?」
「さあ?なんでも、あなたの弟、って言ってましたけど……」
「本当!!??」
「な、なんなんですかいきなり……」
「マリ!悪いけど、あとはお願い!!」
「ちょ!ちょっと、ユイ先輩!!」
今後、他の外伝を描くかは不明ですが、リュウジとユイの出会いは書いてみたかったので、外伝という形で出してみました。
ご意見、ご感想お待ちしております。
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これからも、応援よろしくお願いいたします。