新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
まだ未熟な部分のあるミサトさんですが、リュウジはそれを踏まえて、支えたいと思っています。
それと、前回でリュウジが葉巻を吸っていたのは、作者の趣味です。因みに作者が好きな銘柄は、パルタガスです。
すいませんどうでもいい情報でした。
零号機起動実験場
「レイの様子はいかがでしたか?」
リツコと、
「午後、行かれたのでしょう?病院に」
「問題ない。凍結中の零号機の再起動準備が先だ」
ゲンドウの声のみが響く。
「ご子息と弟さんはよろしいのですか?ご子息はともかく、弟さんもレイにお会いになりました」
「……放っておけ、奴には何もできん」
弟の話が出ると、声の質感に若干の苛立ちが混じるのを、リツコは感じた。
「とても、私はそうは思えません。彼の影響で、少なくともご子息は大きく変わりました。レイにもなんらかの影響が出る可能性があります。ただでさえ、彼は感づいていると思いますが」
「だからなんだというのだ?我々の計画に、なんら変更はない。奴が何かことを起こせば、それを口実にして、排除すればいいだけのことだ」
「……かしこまりました」
※
その時、シンジは、
「うっ!!」
殴られながらこう考えていた。
「うっ……ううっ……」
「すまんな、転校生。わしはお前を殴らないかん。殴っとかな気が済まへんのや」
(……これが、理不尽か)
シンジが学校に行くことになった早朝、中々起きてこないミサトを除き、二人で朝食をとっていた時、
「シンジ。……少し、いいか?」
「うん。ーーーどうしたの?」
「こんな時で悪いが、一応伝えておきたいことがあってな」
「なに?」
「ーーー戦場は違うが、俺も初陣から24年、戦ってきた。その戦いの中で、最も俺が耐え難いと思ったことがある。……何度も、それに負けそうになった。なんだと思う?」
目の前の叔父がはっきりと、
「耐え難い」
と言うことに一瞬たじろいたが、シンジは直ぐに思考を巡らした。
「うーん……、痛み?」
「違うな」
「……恐怖?」
「違う」
「哀しみ、とか?」
「それらの根本にあるものだ」
リュウジの意味深な言葉を聞いても、シンジにはピンときていないようだった。
「う〜ん。わかんないよ……、急に言われても」
「理不尽だ。これに耐えていかなければならない。ーーーーもっとも、それは戦場だけに当てはまらないかもしれないが」
生きていく限り、理不尽は付いて回る。誰しもが思うものだ、
ーーーーなぜ、自分だけがこんな目に会わなければならないのかーーーー
と、
「だが、戦場に立つ者には二種類の理不尽に晒される。その両方に、耐えて、再び戦い、そして生きていかなければならないんだ」
シンジはこの時、叔父がなぜ急にこんなことを話すのかは分からなかった。
だが、この人の言うことは、的外れであった試しがない。というのは、シンジはこの5年間を、共に過ごしてよく知っていた。
「一つは、己に直接降りかかる理不尽だ。ーーーーなぜ自分が戦場で、こんな、痛みを……、恐怖を……、哀しみを……、感じなければいけないのか。それ程耐えてなお、戦わなければならないのか。それはやがて、絶望に変わり、……そして、死が蝕んでいく」
理不尽の中にさらされていると、死は、あり得ないほどの甘美な選択として映る。そして、耐えられないものは、その甘美に身を委ねてしまう。
「……だがこの理不尽は、己の心次第で何とかなる。問題は、ーーー二つ目の理不尽だ」
それこそ、リュウジが最も耐え難い理不尽であった。
「第三者の理不尽が、お前に降りかかることだ。第三者が戦いに巻き込まれた場合、彼らのせいではないにもかかわらず、先ほどの負の感情がーーーそれこそ、理不尽に襲いかかってくる。そして飲み込まれたものはこう思う、ーーーあいつが戦ったせいだーーーとな」
叔父が今朝、急にあんな話をしたのは、こんなことがあるかもしれない、と思ったからなのだろう。
「悪いね、この間の騒ぎで、あいつの妹さん、ケガしちゃってさ。まっ、そういうことだから」
シンジの耳にはその言葉は入っていなかった。改めて、叔父の言葉が彼の胸に去来していたからだ。
『シンジ、お前はエヴァという武器を用いて、暴力に訴えた。この行為は、たとえどんな大義名分があっても、万人に支持されることは決してない。ーーーー暴力は、必ず誰かを不幸にするからだ。戦うということは、そんな中で、己の守りたいものの為に、地獄へと落ちていく行為だ』
叔父も、地獄へと落ちていったという。それでも、理不尽という地獄に落ち、理不尽と戦い続けたのだ。結局守れなかったと言っていたが、それでも、失ってしまったものの為に戦い続けた、と言っていた。
「……大切な、ものなんだね」
「ああ!?」
「君にとって、妹は本当に大切なものなんだよね」
「当たり前や!!まだ小学生でなあ!友達もごっつうおって……」
「僕にも、大切なものがある。卑屈だった僕を唯一、愛してくれた人。大怪我しながらも、臆病な僕の代わりに戦おうとしてくれた人。……僕は、そんな人と、この先も、この世界で生きていきたい。そう思ってる」
「なんや……だから許してくださいっていうんか!」
「違う。……羨ましいんだ。さっき言った人達は、ボクにとって大切なもののはずなのに、いざ、戦うとなると、結局ボクは、自分の命のことしか考えられなくなる。死にたくない、っていう。恐怖心が勝ってしまう。君みたいに、大切なものの為に、戦えない」
叔父は、それでいい、と言ったが、どうしてもシンジは、自分に納得できなかった。死にたくないなら、言われた通り乗らなければいい。それでも、シンジは自ら戦うと決めた。だから、
「……いつか、いつかもっと強くなる。いつになるかはわからないけど、もっともっと強くなって。その人達を胸張って守ったて言えるようになる……」
「やめぃ……」
「ボクは、今更やめられない。そんな楽なことを選んだら、自分で自分を許せなくなる。本当に以前のボクに逆戻りして……」
「やめろゆうとるやろぉ!!!」
トウジは再びシンジを殴った。
「ぐぅっ……」
トウジは驚いた、先ほど殴った感覚とまるで違った。
殴られながらも、シンジは倒れることなく、直立していた。
「……悪いけど、ボクはキミに謝れない。そんな資格はない。暴力に訴えた時点で、許されることなんてないから。だから……ボクにできることは、強くなることと、戦い続けることだけなんだ」
トウジとケンスケは戦慄した。
これがエヴァのパイロットか、と。
同じ14歳とは思えない、戦士の眼を目の当たりにした。
「……もう行くよ。それじゃ」
二人を置いて、シンジはその場を後にした。
だが後に二人は間違いに気づく。
シンジも、自分たちと同じ14歳であったのだ。
※
ネルフの訓練施設にて、シンジはプラグスーツを身に纏い、
「ハァ、ハァ、ハァ……」
エントリープラグ内で、息を整えていた。
『シンジ君、大丈夫?』
「ええ、まだいけます」
『結構。それでは格闘シミュレーター。シュネルモードでいくわよ』
リツコの言葉とともに、訓練が再開される。エヴァの格闘戦闘を想定した、シュミレーターであった。
シンジは、先ほどよりも高いステータスを想定された仮想エネミーを次々と倒していく。
そしてその様子を、モニター室でリツコ、マヤ、ミサトがモニターしていた。
「あ、あの……先輩。シンジ君、本当にエヴァに乗ったのって、前の戦闘が初めてなんですよね」
「ええ、確かよ。どう?スコアは」
「すごいです。弐号機のスコアの、およそ1.5倍のペースです。この訓練にしても、初めてのはずなのに……。一体どうして」
かつて、このレベルの格闘シュミレーターをクリアした弐号機のスコアを大幅に更新している結果に、マヤは驚きを隠せない。
「決まってるでしょ?良い先生のお陰よ……」
「リュウジさ……碇三尉、ですか?」
「……やはり、男の人は苦手?」
「……否定はしませんが、正直、あの人が、自分より階級が下というのは、やりにくいです」
然もありなん。と、リツコは思う。
碇ゲンドウの弟。すなわち最高司令官の弟、という肩書きは、否が応でも周囲を萎縮させる。そんなもの、当の本人は迷惑以外の何者でもないが、その色眼鏡は、絶対に外れることはない。
それに加えて、エヴァ対使徒という、誰も経験したことがない戦闘において、的確な指示と対応をしてみせ、エヴァの損害を軽微なものに抑えた結果は、ネルフ内で半ば伝説となっている。
そんな男が、まだリツコより年下のマヤに、下の階級として配属されたのは、ある種のプレッシャーとなるであろう。
「……もういいわ、シンジ君だいぶ無理してる」
シミュレーターが終わり、先ほどより激しく息を切らせている様子を見て、ミサトがリツコに声をかけた。
「そうね……シンジ君今日はもういいわ。上がりなさい」
『大丈夫です。……もう一回お願いします』
「ダメよ。もう三時間も続けてる。脳への負荷を考えれば、これ以上は認めません」
『大丈夫です……』
ついにミサトはマイクへ口を挟み。
「シンジ君。これは上官としての命令よ。上がりなさい」
『……分かり、ました』
3人はようやく胸をなでおろした。
だが結果的に、シンジのスコアはダブルスコアの更新を果たした。
※
R-102仮説索道
ミサトとリツコが、ゴンドラに揺られていた。
「シンジ君。訓練に積極的なのはいいけど、ちょっち、無理しすぎね」
「彼のケアも、あなたの仕事でしょ?それともリュウジさんに丸投げ?」
「任せっきりなのはいけないとはわかってる。シンジ君が無理してるのも、恐らくリュウジさんの影響があるからだと思う」
「恐らくそうね、リュウジさんは、まだシンジ君にエヴァから降りて欲しいと思ってる。そんな心配してくれるリュウジさんのために、逆にシンジ君はエヴァに乗ろうとする。互いを思うが故のジレンマね」
互いに思う。だがそれは家族として当然のことである。
ミサトは普段の二人の様子を思い浮かべる。二人で台所に立ち、リズミカルに材料を切る音、鍋のスープが煮える音、そこに加わる、二人の談笑。
ここに来る前と後で、変わらない普通の光景であったのだろう。当たり前の温もりが、そこにはあった。
かつて暮らしていた場所では、シンジはごく普通の少年であったろうし、リュウジも特殊な経歴こそあれど、少なくともシンジと暮らしていた数年は、定食屋のオヤジだったのだ。
それを奪おうとしているのは、使徒か、それとも……
「シンジ君は、ただ普通の生活を守りたいだけなのよね……」
「そうね、そしてそれをもたらしてくれた、リュウジさんを守りたい。……いえ、守れるのが嬉しいのかもしれない」
そう感じた時、リツコの脳裏にかつてのリュウジの言葉がよぎる。
「ーーー時に愛情は、暴力より残酷になるーーー、か……」
「ーーー何それ?」
「……以前言われたの、リュウジさんに。……それを全部承知で、それでもなお、シンジ君を守ろうとしてる。それがより、シンジ君の思いを強くすることがわかっていても、最悪の結果になる可能性が高くなるとしても、逃げずに……。あなたや、私と違ってね」
トラウマもあるだろう。後悔もあるだろう。矛盾も抱いているであろう。それでもなお、ぶれることのない異常なまでの強さ。
「信念にしろ、狂気にしろ、とてもじゃないけど、ああは成れないな」
「常人ならまず壊れるわよ。碇リュウジが異常なだけ」
「そうね、人の生き死にの上に立ってきた歴戦の指揮官ですもの。どこかに異常性が無ければ、やってられないか……」
それがミサトとリュウジの差、なのかもしれない。
※
学校の屋上で、シンジは物思いにふけっていた。最近はこの時間になると、ネルフに行き、訓練をしていたのだが、ミサトやリュウジに今日は休むよういわれ、帰る気にもなれず、屋上で寝転んでいた。
(……何もしないでいるのって、意外に辛いな)
昨日の訓練終了後、リュウジに言われた言葉を思い出していた。
更衣室にて、シンジはプラグスーツを脱ぎ、学校の制服に着替えていた。
だが脳の疲労のためか、何時ものペースで整えられていないようである。
(くそっ、こんなんで疲れてどうするんだ。ただの訓練だぞ)
もっとも始めたばかりの訓練で、慣れないうちにぶっ通しであったのだから、疲労困憊なのは当然のことなのだが、本人は今の状態を焦っていた。
「……強く、もっと強くならなくちゃ」
「だったら、体をいたわれ」
気づけば、缶ジュースを持った、碇リュウジが立っていた。
「……似合ってないね、その制服」
「そうか?割烹着よりはましだと思うんだが……」
ほれ、と言ってシンジに缶ジュースを手渡す。当のリュウジも、自分に買った缶コーヒーをあけて飲んでいる。
「葛城二佐が言ってたぞ。無茶し過ぎてるって……」
「……大丈夫だって。僕なら」
シンジはリュウジを見上げる。
目の前の恩人には、極力心配をかけたく無かった。
「僕は、自分の意思で戦うって決めたんだ。誰かに決められたわけじゃない。今度こそ、胸を張って、おじさんを守った、て言えるように」
その言葉は、リュウジを苛んだ。
嘗てと同じだった。愛するが故に、自分のために戦い、そして逝く。自分を置いて。
「シンジ、前も言ったろ?考えなしが一番危ない」
「か、考えてるよ。どうすればいいのか……」
「なら聞くぞ?今使徒が現れたとしたら、お前のその状況で勝てるか?」
「そ、それは……」
「少なくとも、今のお前のコンディションは完璧じゃ無い。苦戦は必至、下手をすれば、負ける。負ければどうなるか、死に直結だ」
ぐうの音も出なかった。
「まぁ、戦略的知見からすると、お前の現状は、異常だけどな」
「え???」
いきなり専門的な話になりそうで、シンジは素っ頓狂な表情になる。
「別に難しいことじゃ無いさ。普通、訓練ってのは安全な、非戦闘地域で行う。無論例外はあるが、いきなり新米に危険な訓練をさせることはしない。はるか後方で行う」
ここまではいいか?とリュウジはシンジの表情を見る。
「うん、なんとなくわかるけど……」
「お前は新米なのに、前線で臨戦態勢のまま、訓練してるんだ。これは、俺からしてみれば、異常としか言えん。そんな無茶をさせることは、よほどの緊急事態。さらに言えば新米を配置することは戦略的に愚策だ。だが、ネルフの現状では、そうせざるを得ない」
シンジはリュウジの説明に、酷く得心した。言うなれば、そんな愚策の中で、わざわざシンジを無理させては元も子もないのだ。
「だから、明日は葛城二佐に言って休みにしてもらった。学校は無論あるが。それが終わったら、家でゆっくりしろ。恐らく辛いと思うが、訓練ってのは辛いもんだ」
そう押し切られ、今日はゆっくりしようとしているのだが、
(今の僕には、これが訓練なのかも……)
やはり落ち着かない。自分を鍛えていないことに、罪悪を感じてしまうのだ。
※
同時刻
ネルフ基地内 葛城ミサトの執務室
「迎撃装置の復旧状態は?」
「現状のペースでは、完全に復旧するのに半年はかかる計算です」
ミサトとリュウジが、第3新東京市の復旧の目算を話し合っていた。
「ハァ〜、そんな悠長なこと言ってらんないわよ。それこそ今の戦力、エヴァ初号機しかないってのに……零号機凍結解除の目処は?」
「未だつかず。現状では、たった一つの兵器が、……いえ、一人の少年が唯一の戦力ですか」
「……ごめんなさい」
「葛城二佐。上司がそう簡単に部下に謝るべきではありません。この件に関して、あなたに落ち度はない」
「わかってる。でも今は本当にシンジ君にしか頼ることができない……」
この人も追い詰められてる。
シンジに対する申し訳なさと、リュウジへ感じているコンプレックス。
それが焦りとなって、現状を自分のせいだと思っている。
「……今日は本当にありがとう。シンジ君、ここ最近無理しすぎてて」
「それは私のせいです。私にこそ落ち度があります」
昨日はなんとか言い聞かせたが、いずれは、
(俺の言うことも聞かなくなるかもな……)
頑固なのは父親の遺伝か。やはり親子、似ている部分はあるらしい。
だが初号機しか戦力がない状況では、シンジに頼らないのも難しい。
だからこそ、
「現状、エヴァンゲリオンしか、対使徒において有効な手立てがないのは事実です。しかし、威力偵察を行う上で、迎撃装置の復旧は急務です。それが、エヴァを用いた戦闘にもなんらかの手立てになります」
迎撃装置の復旧を、リュウジは是が非でも進めたかった。
実際国連軍や戦自の交戦記録が、初戦の使徒戦でリュウジが指揮をとるのに役立ったには事実である。
「わかってるけど、ない袖は振れない。それに、上は戦力強化するために、零号機凍結解除を優先させようとしている。実際、二機のエヴァがあれば、シンジ君の負担も減らせる」
「そのパイロットの、綾波レイのコンディションは、未だに良いとは私は思えません。第一、私は威力偵察のための戦力を復旧すべきと具申しているんです。本戦力の増強も大事ですが、それらを十二分に活かすなら、敵の情報を多角的に得られなければ意味がありません」
リュウジの意見も尤もだとミサトは思う。だがネルフだけで出来ることは限りがある。
「碇司令は、零号機凍結解除を優先するでしょうね。それが一番コレがかからないもの」
ミサトは円のマークを作りながら、頭を抱えて言う。
「……もしそれがかからず、復旧期間を大幅に短縮できるとしたら、どうします?」
そんな夢のような話に、ミサトはすぐさま反応した。だが……
「そんなうまい話、どんな裏があるかわかったもんじゃないじゃない。第一資金だけの問題じゃない、リソースが無ければ……」
「これを……」
そう言って、リュウジは分厚い資料をミサトに差し出した。
それを読み進めていたミサトの目は、広がるばかりで、まばたきを忘れていった。
「こ、これ……!!こんなの実質な無償提供じゃない。アメリカと国連と、それにロシアや戦自まで……!!!」
簡単に言えば、今ミサトが言った国や勢力が、迎撃装置が整うまで、戦力を肩代わりしますよ。なんだったら迎撃装置の復旧のために、無期限、無利子で、資金やリソースをお貸ししますよ。と言う、裏があるとしか思えない、
「協力の申し出」
であった。
「こんなもの承認できないわ!!なんでこんなこと言い出したのか、しっかり裏を取って……」
「書いてあるじゃないですか、人類の危機を前に要らぬ摩擦を排除し、一丸となって戦うために……」
「碇三尉!あなたそれを鵜呑みにしたんじゃないでしょうね!!」
もしそうだとしたら、とてもじゃないが碇リュウジとは思えぬ短慮である。
だがそんなミサトとは裏腹に、リュウジはミサトの耳に口を近づける。
「ーーー裏は私です。コイツらは、私が焚きつけたんですよ」
そう言われて、ミサトはリュウジの経歴を忘れていた己の迂闊さを恥じた。
「あ、あ、なた……まさか!」
これ以上広がることはないほどに見開かれたミサトの目が、さらに広がった。
「コイツらがこんな『申し出』を出さなければいけない状況を、私は作り出すことができます。それこそ、鶴の一声というやつです」
ミサトは戦慄を隠せなかった。
普段は人のいい表情をしてはいるが、いざとなればこの男は自分など及びもしない力を持っている。戦闘能力にしても、軍事力にしても、その気になれば……そう思うと、ミサトの背中が急激に冷えていった。
「葛城二佐。あなたが命じれば、私が各国、各勢力の軍事力を動かせます。飽くまでも、貴方が命じれば、です」
「私が!?なんで……!」
「貴方が私の上司だからです。この『申し出』も貴方がまとめた。良いですね?」
リュウジは飽くまで動かせるだけ、それをどう動かすかは、ミサトに委ねようとしている。世界中の軍事力を、である。
「誤解しないでください。ここまでするのは、飽くまでシンジのためです。貴方に委ねるのは、碇司令は私がまとめれば、ゴーサインを出さないに決まっているからです。ですが、貴方のご下命があれば、いかようにも動かしてご覧に入れます」
この男の狂気は、先刻承知のはずであったが、これ程のあり得ないものとは思えなかった。
「私とて、こんな手は使いたくありません。それこそ要らぬ摩擦を生みかねない。ですが、エヴァンゲリオンの効率的な運用をするためなら、どんな手立てもいといません。……どうか、私の思いを汲み取っていただきたいのです」
シンジが、子供達が安全に戦えるよう、彼は用いうる最大限の力を行使する。
下手をすれば、リュウジ自身の命をも危険にさらす。弱みを握り、それを行使すれば、彼を排除しようとする可能性もあるからだ。
それを承知で、リュウジはこの力を行使したのだ。
「……私が、サインすれば良いのね?」
「ありがとうございます。決して、葛城二佐にご迷惑はおかけしません」
リュウジはミサトに頭を下げる。
これ程の男が、自分に本心から頭を下げているのに、ミサトは再び戦慄した。
もしもの時は、全て自分が責任を負う覚悟なのだろう。それが私利私欲ではなく、シンジを守るためであることにも、ミサトは驚愕した。
(ここまで……ここまでするの?シンジ君のために……)
その時、内線をつなぐベルが鳴るが、ミサトは頭を抱えて出られなかった。
その様子を見たリュウジが代わりに出る。
それを尻目に、ミサトはなんとかペンを持ち、作戦部長として、サインしようとする。
「はい、はい、分かりました。早急にパイロットたちにも招集をかけます。……はい、こちらに葛城二佐もおります。…………分かりました、私が迎えに行きます。葛城二佐に、すぐ司令室へ向かうようお知らせします。はい……では」
その話ぶりから、ミサトも連絡内容を察した。
「……来たのね?」
「ええ、第五の使徒が襲来しました。私はこれより、パイロットを迎えに行きます」
「頼むわ、それと……」
ミサトはリュウジに自身の車の鍵を投げ渡す。
「私の車を使って。その方が早いわ」
「ハッ、ありがとうございます」
敬礼をすると、リュウジはすぐさまミサトの執務室を後にした。
(……これが私の初陣か)
ミサトもすぐさま、司令室へと向かっていった。
リュウジの信念は、飽くまでシンジを助けたいというものです。
今回の話で、とてつもない力を行使できる描写がありますが、それは飽くまで、シンジを助けたいが故です。
普段から、そんなものを使うようなことはしません。
ご意見、ご感想お待ちしております。
誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがご報告ください。
何卒、よろしくお願いいたします。