新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph- 作:さえもん9184
ちなみにそのマスターはマリ派です。
ミサトとリュウジは、碇ゲンドウのオフィスへと来ていた。無論その横には、冬月副司令も控えている。
「これが、第3新東京市、迎撃装置復旧計画と、それまでの戦力補強計画です」
「……ご苦労。下がれ」
以前も述べたが、リュウジのおかげで、実質無償で、第3新東京市の戦力増強を図れるのだから、ネルフ側が拒否する理由はない。後は、最高司令官がゴーサインを出せば完了である。
「失礼します」
ミサトはすぐ退室しようとするが、リュウジは座るゲンドウへ視線を止めない。未だにゲンドウへの喧嘩腰は、正式に部下の立場となった今でも変わっていなかった。
「……碇三尉」
ミサトはそのリュウジをなだめようと声をかける。
一方のゲンドウも、無言でその視線へ真っ向から自分の視線をぶつける。
「…………」
「…………」
あまりの険悪さに、
((……空気が重い……))
冬月とミサトの思いが見事にシンクロする。
(お願いリュウジさん、碇司令と仲が悪いのは別にいいから!お願いだから毎度喧嘩売るのだけはやめて!100円あげるから!!)
(二人とも、私のことはいいんだ。老い先短い身だ、ハゲ散らかろうが、胃に穴が開こうが、いっこうに構わん。だが葛城二佐は、まだ若いんだ。私やお前達と違って、まだ先があるんだ。彼女の為にやめてやってくれ。200円あげるから!!!)
二人ともあまりのストレスで、若干の精神錯乱が見られるが、それほどまでの願いが通じたのか、二人とも視線をずらし、無言でその場は収まった。
ミサトとリュウジが部屋を後にすると、
「今回は、短時間で済んだか……」
冬月が溜息と共にそうこぼした。
「仕掛けてくるのは、いつも奴からだ。私が責められる謂れは無い」
「いつも真っ向から喧嘩を買うお前もお前だ、まったく……」
冬月は、ゲンドウのデスクの書類に目を通しながら、
「……それにしても、いいのか?碇。このままで」
ゲンドウに最終確認するように問う。
「計画は滞りなく進んでいる。レイとシンジも、かなり接近しているしな」
「そうだな、14年前からのシナリオ。運命を仕組まれた子どもたち。……だが、私はその運命が、徐々に変わっている気がしてならんのだ」
「またリュウジへの懸念か?」
「……お前も、老人達も勘違いしている。彼が、エヴァやゼーレを知らないのは、たいした問題では無い。問題の本質はだ!彼の持っている力そのものだ!」
目を通していた書類を、語気を強めながらデスクに叩きつける。
「彼の力は我々が想定している以上のものだ。ゼーレは確かに裏の存在だ。だが表の世界でこれだけの力を持っているなら、その存在を認知していなくともさして問題では無い。裏の世界にいようが、彼の力の前では虫けらのように蹴散らされるかもしれんのだぞ?」
冬月の懸念は、今は互いに利用しあっているが、そのゼーレかネルフ、どちらにもすぐさま対抗し得る力を、碇リュウジという一個人が持っていることであった。
「慌てるな、冬月」
「なぜそう冷静でいられる?その計画書を見て何も思わんのか?彼がその気になれば、ここを制圧することなど造作もないんだぞ?」
軽くふるっただけで、各国各勢力の戦力、リソースを徴収できる。その気になれば、それらを自身の手で使うことができる、一介の軍事組織の、たかだか三尉風情が、司令官以上の力を持っているのだ。
さらには、
「これほどの力をふるっておきながら、その痕跡が一切ない。綺麗さっぱりだ」
このことである。
気づけば、各国、各勢力がネルフに『親切な申し出』をしてきたのだ。裏でリュウジが手を引いていることは明白だが、その根拠も、こんなことができる人物などリュウジしかいない、という状況証拠でしかない。
「何も察知出来ず、我々の真の目的が潰されることもありうる。気づけば、お前の脳天に彼の鉛玉が撃ち込まれるかもしれん」
「……そうだな」
だがゲンドウは、終始落ち着いている。
「それだけの力を持ちながら、奴はただ脅してきただけだ。いくら力をチラつかせてきても、それを使わなければ、それこそただの脅しで終わる。なんの意味もなさん」
脅しなど、自分には効かない。直接の行為に及んで来れば、話は別だが、リュウジは自分を憎みこそすれど殺すことはない。
「シンジがいる限り、奴は私を殺さん。私に『父親』になってほしいからな」
ゲンドウにとってはそこが狙い目と言える。リュウジがシンジを愛している限り、直接的な手段にはまだ出られない。
「時間稼ぎにすぎんぞ?お前を殺さなければいいなら、方法はいくらでもある」
「十分だ。その隙にこちらも罠をはる」
その時ドアをノックする音が響く。
「入れ」
「失礼します。碇司令」
その男は、入室するなり深々と頭を下げる。
「お前は、碇三尉の教え子だそうだな?」
「はい……、かつて薫陶を賜りました」
その男は、剣崎キョウヤは頭を上げながらそう答えた。
※
「ごめんなさい。それは出来ない」
シンジは、渡り廊下でトウジに頭を下げていた。
「そこを頼む!碇。そうせなワイの気が済まへんのや」
そう言うと、トウジも頭を下げる。
側から見れば、訳の解らない光景であった。
「碇、こいつそういう性格なんだ。スッキリさせてやってくれよ」
「でも、出来ない。ぼくは、君に恨まれても仕方がないから」
「恨んでなんかあらへん!ワイはなんも知らんかった。碇がどんな思いで戦ってたのか、なんも知らんと、ワイの自分勝手でぶん殴ってもうて……、せやから!」
トウジはシンジを殴った自分を許せず、シンジに自分を殴るよう懇願した。
だが、
「きみの妹を傷つけたのはぼくだ。それは紛れも無い事実だよ」
「せ、せやけど……」
「それに、訓練や戦闘以外で、暴力を振るうなって、おじさんに言われてるから」
「……さよか。なら、しゃあないな」
トウジも、そう言われて引き下がった。
「なぁ、おじさんって、あのリュウジさんか?」
「うん。そう言えば、二人はおじさんに会ったんだっけ」
「ああ、あの後、家まで送ってもらった。結構優しそうな人だったけど、あの人が訓練してんのか?」
「うん、もっとも最初は断られてたんだけどね」
「なんでや?」
「最初にお願いした時は、まだエヴァのパイロットじゃなかったし、それに、人殺しの技を習う必要無いって、言われたんだけど、普段は絶対に使わないことを条件に、教えてもらえるようになったんだ」
今では、戦闘のために銃の扱いなども習うようになったが、シンジは、リュウジが心のどこかで、まだ反対しているのを感じている。
「だからごめん。……それに、ぼくも二人を乗せたまま戦って危険な目に合わせちゃったし、おあいこってことで、ここは一つ」
そこで、予鈴のチャイムがちょうど響いた。
「次移動教室だし。戻ろ」
「ああ、せやな」
「じゃ、行こっか」
そうして戻ろうとすると、シンジの目が、レイを捉えた。
「ごめん。先行く」
「え?あ、ああ……」
シンジはケンスケとトウジを置いて、レイの元へ駆けた。
「綾波……」
「碇君、あの、その……」
口ごもるレイに、シンジは一瞬戸惑うが、
「次、移動教室だよね。一緒に行こうよ、綾波」
「……ええ」
静かに頷き、二人は準備のため、教室へ入った。
「あ、そうだ。これ……」
シンジはそう言うと、綾波に一つの包みを取り出した。
「……なに?」
「お弁当。大丈夫、お肉は入ってないから。……よかったら、食べて」
口に合うといいんだけど、と言いながら、シンジはレイにお弁当を手渡す。
「ぼくが作ったんだ。これでもおじさんに色々習ってるから、自信はあるんだ。食べ終わったら、そのまま返してくれればいいから」
「あ……、ありがと……」
「いこ?綾波」
そうして二人は教科書やPCを持ち、移動していく。
「……ねぇ、碇君」
「ん?なに?」
「あなたの父親は、碇司令、よね?」
いきなりシンジにとってはデリケートなことを聞かれ、一瞬戸惑うが、
「……うん、そうだよ」
不自然で無いよう、返事を返す。
「碇司令とは、一緒に暮らさないの?碇三尉とは暮らしているけど……」
「……父さんとは、いつか向き合わないといけないことはわかってる。でも……、おじさんのことを考えると、どうしても踏み切れなくて……」
「……どうして?」
「おじさんは、ぼくがいなければ、今より上の立場になれる人なんだ。……多分、父さんと同じかそれ以上の地位にだってつけるんだと思う。……でも、この5年間は、ぼくの面倒を見たり、守ってくれたり、自分の事なんて二の次で……」
リュウジにとって、シンジは実の息子では無い。ゆえに、親戚とは言え、ユイに頼まれたとは言え、実の父親がまだいるのだから、彼がシンジの面倒を見る義務はない。
シンジもそれは重々承知している。
だからこそ、
「ぼくって、恩知らずなんだ。こんなにぼくのことを思ってくれる人がいるのに、その恩を忘れて、父さんにも振り向いて欲しいって思ってる」
そう思わずにはいられなかった。
「……おじさんが、そんな事思ってないのはわかる。けど父さんとまた家族になって、一緒に暮らすってなったら、そのおじさんを今度は一人にすることになる」
「……どうして?碇三尉も、一緒に暮らせばいい」
そのレイの純真な言葉に、シンジは目を丸くする。
「そう…だね……。そう出来たら、どんなにいいか……」
だがあの二人は水と油だ。
シンジの前では、リュウジはゲンドウのことを、努めて悪くいうことはしないが、子供ながらも、あの兄弟の確執は理解していた。
(でも……、でもいつか仲直りしてくれないかな。……家族は二人だけなんだし。……少なくとも、今の状態よりは、仲良くなった方がいいと思うんだけどな)
※
「で、どうなの?男二人連れ込んでの生活は慣れた?」
「ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでくれる?」
夜。仕事を終え、ミサトとリツコは行きつけのバーに飲みに来ていた。
「でも事実じゃない。それに、男と暮らすのは、初めてじゃないでしょ?」
「学生の頃とは違うわよ。それに今回のは、恋愛じゃないし」
「まぁ、シンジ君はともかく、リュウジさんはどうなの?」
「……あの人とはそういうのはないわ。断言できる」
「あら、好みじゃないの?年齢は離れてるけど、見た目は若いし、悪くないと思うけど」
そういう意味では、あの兄弟はとことん似ていない。
「そういう問題じゃないのよ、なんて言うか、先生とか教官と一緒に暮らしてるみたいで……、少し緊張感があるのよ」
「それでも、伝説の軍人と、今をときめくエースパイロットに、家事全部任せてるんでしょ?」
リツコは揶揄うつもりでミサトへ言ったのだが、
「……そうなのよねぇ〜」
揶揄われているのに気づいていないのか、柔らかい目になり、その目でどこか遠くを見はじめるミサト。
「仕事帰りに、3人で買い物に行ってさ、帰ったらあの二人が料理作るのを眺めるの。特に何もせずに。……な〜んか、それだけで、いろいろ、どうでも良くなって、なんか満ち足りてきて、えも言えぬ雰囲気なのよね、これがまた」
突如リツコから頭部へ強めのツッコミが入った。
「いった〜〜。なんでぶつのよ?」
「当たり前でしょう?何今の、世の独身女性、誰もが羨む男を手に入れたみたいな状況!それも子供付き!加えてその子供まで家事スキル完璧!?あなた、どんだけ贅沢してんのよ!!」
バーの雰囲気に見合わぬ、リツコのヒステリックに、
「やっちゃった」
と思うミサト。
「……やっぱ、恵まれてる?私って」
その時、ミサトは何かがブチ切れる音を聞いた。それと同時に、リツコの顔が般若と変貌した。
「……そう、喧嘩売ってるのね、ミサト。部下としても主夫としても超優秀な男と、パイロットとしても、貴方のお手伝いとしても超優秀な男の子を捕まえて、私に見せびらかしてるのね?」
「マッテマッテマッテ、リツコ。貴方とは長い付き合いだけど、そんな顔初めて見た!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、リツコ。謝るから!だからゴメン!!」
死を覚悟しながらも、必死に鬼をなだめるミサト。その顔が若干にやけてるのは気のせいではあるまい。
「その手の話、次私の目の前でしたら、貴方どうなるかわからないわよ」
(話ふってきたのリツコの方じゃない)
と、ミサトは思うが決して口には出さなかった。なぜなら死ぬからである。
「でもね、一個だけ愚痴というか、分からないことがあるのよ。……待って!ホンット嫌みとかじゃないから!!」
再び般若と変貌しつつあるリツコを、ミサトは必死になだめる。
「碇司令とリュウジさん、なんであそこまで仲悪いのか、それが分からないのよ。昔なんかあったのか、聞くのもなんか気がひけるし」
さすがにリツコも般若面が解けた。
「昔なんかあったのかしらね〜」
「……多分、大した理由なんてないわよ。互いに、只々気に入らないのよ、あの二人は」
「だから、その理由がなんなのか……」
「理由なんて、大した意味ないのよ。あの二人にとっては、碇ゲンドウが生きていて、碇リュウジが生きている。それだけで、互いに気に入らない。……そりが合わない、水と油、同族嫌悪。……私たちには決して理解できない、男兄弟のくだらない意地の張り合いでしかないのよ」
そう言われ、ミサトは深くため息をついた。
「それで、毎回碇司令と対面する時、喧嘩腰になられちゃ、たまったもんじゃないわ」
「……そのかわり……、アナタ、イエノコト……、ゼンブヤッテモラッテルンデショウ?」
「はい!その通りであります!!私はこの上ない幸せ者であります!!」
無意識に、ミサトは姿勢を正し、無意識にリツコに敬礼していた。
「……ハァ……、今度リュウジさん貸してよね、あの人、プログラマーの技術と、科学技術も半端ないから、人手が足りないうちに手伝いに来て欲しいのよ」
「わかったってば、あの人なら何も言わずに、貴方の助手もやってくれるわよ」
うちも人手が足りない、とミサトは言いたかった。だが言わない。
何故なら、言えば死ぬからである。
※
「教官、ひっさしぶり〜。チップの中身も確認オーケーだにゃ〜」
「助かる。で?結果は出たか?」
「モチのロ〜ン。……結果から言うと、侵食は進行してる。貴方はもう、人間じゃない」
「……それはどうでもいい。問題は、俺を侵食しているのは、『なにか』と言うことだ」
「……まだ確証は持てない。でも、貴方があの人体実験を受けた時期を考えれば、おおよそ、見当はついてくるよ」
「そうか……いつまでなんだ?」
「え?」
「侵食が、完全に済む時期だ。いつまで猶予がある?」
「……断言できないにゃ。だって、教官が人体実験を受けてから、11年も経ってる。それなのに、なんの処置もしないで、これだけの侵食で済んでるなんて、説明がつかない。普通の人なら、一気に侵食が進んでもおかしくないのに……」
「……わかった。かわりに……」
「大丈夫。頼まれた資料はちゃんと送る。ゲンドウ君や、冬月先生に気づかれないよう、カバーコード1954で……送ります。碇教官」
「……助かる。……ただ、君は俺の為にではなく、ユイさんと、シンジのために動いてくれ。俺のことは構うな」
「何言ってるんですか。ユイさんは、貴方を頼れと言ったんです。貴方にも、まだまだ頑張ってもらいますよ」
「……ありがとう、だが……いざという時は」
「わかってます。介錯は、是が非でも私がします」
「それもあるが……どうか……」
「シンジ君の事ですね?大丈夫、任せてください」
燃えよ剣を見てきたんですが、土方歳三はカッコいいですね。
リュウジがミサトさんを支える感じも、あんな風に描いていきたいです。
ご意見、ご感想お待ちしております。
誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがご報告ください。
何卒、よろしくお願いいたします。