新世紀エヴァンゲリオン-And become Joseph-   作:さえもん9184

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もうすぐクリスマスですが、私はまだサンタさんを信じています。

だからお願いです、サンタさん、いい子にしてますから、私に文才をください。


更新が遅くなり申し訳ありません。


序‐そして破綻へ‐

「敵先端部、本部直上、零地点に到達」

 

青葉のアナウンスが、決戦の時を知らせる。

徐々にではあるが、使徒の先端部が出現すると、あの独特の機械音とも悲鳴とも取れる声と、その先端部が変形をし始める。

そして元のサイズへと、ひし形の無機物な形状を徐々に形作っていく。

 

「綾波。まずはいつでも防御態勢を取れるようにして。君の方に何らかの攻撃をしてくる可能性もある」

 

『了解』

 

レイは狙撃用に改造したパレットライフルを装備しながら、いつでもATフィールドを展開できるよう構える。

零号機のエントリープラグ内で、レイは徐々に元の形状を形作っていく使徒を注視していた。

 

『戦場に出ているのはキミだ。ボクは、指示やアドバイスはできるけど、綾波自身で、状況を見極めて、考えるんだ。いいね』

 

「わかった」

 

レイは知らないが、シンジはかつてリュウジに言われたことを、レイにも伝えた。現状を鑑み、敵の状態を観察する、そこにシンジは余計なことは言えない、それに加え、

 

『今は、おじさんのことは考えないで。あの人が、うまくコアの出現を誘発させるから、それを信じるんだ』

 

シンジでさえ、今はリュウジの身を考えることを自分の頭から排除した。

リュウジはあくまで囮で、レイは勿論、シンジや本部の人間ですら今は干渉できない。できることと言えば、信じる事だけ。ネルフにおいて、いやこの世界において最も『戦う』という行為に身を投じてきた碇リュウジという人間が、今作戦において、最後まで務めを果たすことを信じる事だけだ。

 

そして、

 

「目標、完全にジオフロント内に侵入を果たしました」

 

その途端、

 

「目標に高エネルギー反応!」

 

「いきなり!?」

 

ミサトが、マヤの報告に驚愕しつつも、モニターの使徒が射撃形態をとるのを確認した。

 

「まさか……」

 

あきらかに使徒は零号機を攻撃目標としていた。

 

「綾波、ATフィールド全開!!」

 

レイは言われるが早いか、すぐさま展開した。

それとほぼ同時に、加粒子砲が零号機を襲った。

 

「先に零号機を排除する気だわ!!」

 

この時不幸中の幸いだったのは、リュウジの予見はやはり正しかったことだ。使徒はやはり今の零号機に、高出力の加粒子砲を撃てず、

 

「大丈夫です。零号機の損害なし。敵の加粒子砲、完全に防御しています」

 

青葉の報告に、若干の安堵が指令室に広がるが、

 

「でも不味いわね」

 

最初に盾を装備していなかったことが災いとなった。完全に防御できているが、現状攻撃ができない。コアが完全に現出していながら、完全に零号機は攻撃手段を封じられているのだ。

 

「待ってください。囮が」

 

「どうしたの?」

 

「目標に急接近しています!!」

 

モニターしていたが日向が、コアに突進するように実験機が急接近しているのを知らせる。

 

「まさか!」

 

リツコを含めだれもが、リュウジが特攻をしかけている、と直感した。

そしてぶつかる、という瞬間に、

 

「どうしたの!?」

 

加粒子砲の向きが零号機から外れた。

訳が分からない展開の連続に、ミサトは疑問を浮かべるが、なんとかその隙に、

 

「綾波、今のうちにシールドを装備して!」

 

『了解!』

 

レイは片手に狙撃用のパレットライフルを装備しながら、盾ももう片方の手で構える。

 

「再度、目標内に高エネルギー反応!!」

 

だが攻撃させまいと、再び加粒子砲を充填し始める。

 

「再度、囮が目標コアに接近!!」

 

「また!?」

 

今度は加粒子砲を充填する使徒へ接近するが。

 

「目標の、エネルギー反応、減退」

 

「なんで?」

 

安堵よりも今度は疑問が生じた。

何が敵の攻撃を妨げているのか。

 

「そういう事ね」

 

「リツコ?」

 

「これを見て」

 

リツコは実験機がコアに急接近する二つの映像を、ミサトに提示した。

 

「この使徒は、コアを起点として加粒子砲を放っているわ。それが移動すれば、当然狙いをつけることが難しくなる。碇三尉は敵のコアに突進することで、わざと移動させて、狙いをそらせたり、充填させないようにしている―――つまり、特攻と見せかけて零号機を標的にしないようにしてるんだわ」

 

「とっさにそんなこと考え付く!?」

 

というより考え付いたとしても、実行するなど狂気の沙汰だ。

だが、

 

「あの人なら、これくらいするでしょ」

 

「……そうだったわね」

 

モニターには再度、充填させないために、コアに特攻をしかける実験機が映るが。勿論使徒はコアを急速に動かし回避する。

だがそんな使徒を嘲笑うかのように、実験機はクルリと一回転する。

 

「はぁ……、挑発なんかしちゃって」

 

現状、攻撃を喰らえばひとたまりもない状況で、完全生物たる使徒を挑発するなど、世界広しと言えど、リュウジくらいの物だろう。

 

「目標内に、再度高エネルギー反応!」

 

だが今までとは、明らかに照準が違う。

先ほどの挑発を受けてか、ついに使徒がうるさいハエを落としにかかった。

 

 

『綾波、使徒が遂に囮に狙いを定めた。コアが出現したら、落ち着いて狙うんだ』

 

「ええ。……碇君」

 

『なに?』

 

「……必ず、助ける」

 

そういうと、レイは照準を合わせる。

直上で薙ぎ払うかのように使徒が熱線を繰り出すが、実験機は急激な方向転換を繰り返しながら、ハエのように回避している。

追尾するが、それでも囮はそれ以上の速度を瞬時にだし、回避していく。

零号機は盾を構えながら、それを支えにするように、狙撃体制に入る。

ここからではコアは、文字通り赤い点のようにしか見えない。

使徒がコアを起点とした攻撃を、囮に向けて何度も発射する中、ここからレイの本当の戦いが始まる。

 

「頼む。綾波……」

 

シンジをはじめ、指令室全員が攻撃態勢に入るレイを見守る。

コアの位置が動かないよう、距離を取るように、囮も直線に近い動きで回避を続ける。

 

『…攻撃開始』

 

遂に狙いをつけた零号機から、攻撃が放たれる。

だが……、

 

(やはり、調整が不十分なのが仇となってるわね……)

 

その結果を見て、ミサトは悪い形で予想通りになっていることに顔をしかめる。

射撃攻撃においては、わずかなずれが大きなずれを引き起こす。そのずれの修正を、今のレイと零号機では難しいと言わざるをえない。

 

「綾波!焦らないで。敵からの攻撃を注意しながら、落ち着いて狙い続けるんだ』

 

レイはエントリープラグ内でもどかしさを感じながらも、シンジの指示通り、コアに照準を合わせ続ける。

 

(お願い……、お願いあたって!)

 

だが何度撃っても、レイの願いはかなわない。

赤い点のように見えるコアを、どんなに狙っても弾は空を切った。

レイの目から見ても神業ともいえる操縦技術で、囮は敵からの攻撃を回避し続ける。だがそれもいつまでもつか、という焦りがどうしてもレイには拭えない。

 

『綾波、やけになっちゃだめだ。その時撃つ一発に、ただ集中するんだ』

 

「ごめん、ごめんなさい。碇君」

 

そして、焦りが不安に変わっていく。

もどかしさが不甲斐無さに変わっていく。

 

『落ち着くんだ!今はコアを打ち抜くことを考えて』

 

「でも早く……、早くしないと」

 

「今は正確に狙いをつけて、射撃することに集中するんだ」

 

いいね?、とシンジは声をかけるが、指令室にいながらも、レイの焦り、いや、初陣の不安が伝わってきた。

 

(どうする?綾波のために、どうすれば……)

 

自分は叔父のように、戦闘経験が豊富というわけではない、

だが、

 

(エヴァの実戦経験があるのは、お前だけだからな)

 

それはいかにリュウジと言えど持ち合わせていないものだ。

それはシンジにしかないものなのだ。

 

「綾波。今は訓練通りにやるんだ―――、目標をセンターに入れて」

 

『目標を、センターに入れて……』

 

だが、調整不足と、未だ零号機からは目標が小さすぎるのか、照準が中々定まらない。

 

「慌てないで、センターにしっかり入るのを待つんだ」

 

『……スイッチ!』

 

だが、それでもコアを穿つことはかなわない。

 

「リツコさん。今のデータから、誤差の計算をしてください!」

 

「……!わかったわ」

 

リツコはシンジの狙いを理解した。

先ほどのレイの射撃は、零号機の情報処理能力をもとに打ち出されたものだ。だがその微調整ができていないからこそ、現状攻撃がそれている。ならば、

 

(できる限り狙撃をさせて、この土壇場でデータを蓄積させるつもりなんだわ)

 

ミサトもシンジの考えに至る。

つまり戦闘しながら、シンジは零号機の最終調整をするつもりなのだ。

 

(僕の時もそうだった。落ち着いて、動くかどうかも分からない初号機を、ボクを信じて、おじさんは冷静に指示してくれた)

 

今はシンジが、レイを信じる時だ。レイであれば、コアを狙撃できると信じて。

 

「レイ。外したとしても、やることは変わらないよ。……目標を、」

 

『センターに入れて……』

 

「『スイッチ!』」

 

無論当たらないが。

 

「マヤ!誤差修正いそいで!」

 

「はい!」

 

すぐさま修正処理を続ける。

 

「囮は!?」

 

「うまく引き付けてくれています」

 

「目標の降下速度も、予想より少し遅れていますが。誤差範囲内です」

 

既に一分経過しているなか、最終目的である使徒の殲滅には至っていないが、最初の零号機への奇襲攻撃を除けば、予定通りに事は運んでいる。

 

「レイ、武器をガトリングに変更。位置と角度を調整しながら、引き続き攻撃を続行」

 

ここでミサトは動いた。

既に完全に降下してくる時間の、残り二分を切っているのだ。

 

「マヤ、誤差修正を続けて」

 

「了解!」

 

狙撃で蓄積されたデータと誤差修正を、今度はガトリング攻撃に応用し、引き続き作戦を続行する。

 

「綾波!打ちっぱなしはダメだ。トリガーから小まめに指を離して」

 

『了解』

 

シンジはとにかく、リュウジから教わり、エヴァの戦闘で体験したことをレイに伝える。

それらの蓄積が、この短い時間の中で、徐々に実を結び始めた。

ガトリングに切り替えた零号機が、コアに向かって再び攻撃を仕掛ける。狙撃とは違う攻撃でありながらも、明らかに正確性は向上してきていた。

その間も、マヤをはじめとするオペレーターたちの神業的な情報処理と、修正のおかげで、零号機の土壇場での調整がされていった。

 

「予想降下時間の半分に差し掛かりました!!」

 

加えてその分距離が近づいていく。

 

だがむろん、それを敵が善しとするはずもなかった。

 

「目標の形状が、一部変形!」

 

「また零号機への攻撃!?」

 

「違います。盾です!」

 

次の瞬間使徒の体の一部が盾となり、ガトリング攻撃を防いでいた。

 

「そんな、ここに来て?!」

 

ようやく、零号機の攻撃が、敵に通用し始めてきたというところで、それを完全にシャットアウトされてしまった。

 

「だめです!ガトリングの火力では、あの盾を突破できません!」

 

(考えるのよ……、どうすればいいか)

 

零号機を思い切って動かすことを考えるが、

 

(だめ、加粒子砲の高火力にさらされるだけ、リリスの後ろ盾から逸れることはできない)

 

「ミサト。ここは焦らず、もう降りてくるのを待つべきだわ」

 

無論それはミサトも考えた。リュウジの最初の提言通り、接近戦に持ち込むのも手だ、

だが、

 

「いえ、ここで仕留めます」

 

「ミサト!迂闊な攻撃は……」

 

「ここで攻め手を緩めれば何をしてくるかわからない。それに、時間をかければその分囮に負担がかかります。いつまでも攻撃を誘発できる保証がない以上、早急に敵を殲滅させます」

 

「ですが、この火力では、敵の盾を破るのは不可能です」

 

「……レイ、この後、何が起こってもあなたのせいじゃない。いいわね?」

 

『葛城二佐?』

 

「ミサトさん?」

 

ミサトはこの時、

 

(指揮官に大切なのは、お前の士気を受ける、その全ての部下の命を預かる覚悟だ)

 

覚悟を決めた

 

「零号機による攻撃を続行し、コアを敵が形成した盾の後ろに釘付けにします。後は、最初のコアの位置をずらした応用よ」

 

リュウジなら、こうするはず。

ミサトは己の部下であり、師匠を信じた。

 

「どうする気なんですか、ミサトさん」

 

「最初、敵のコアに囮が特攻を仕掛けて、位置をずらすことで零号機への攻撃をそらした。なら、今盾の後ろに釘付けの状態のコアに特攻を仕掛ければ、盾の後ろから、コアを引きずり出すことができるはず。零号機にはそこを狙い打ってもらいます」

 

「待ってください!通信ができないのに、おと……いやおじさんに届くはずがない!」

 

「最初にこちらが何も言わずとも、コアに特攻を仕掛けた彼なら、こちらの真意を察知できるはず」

 

「コアを敵が動かさなかったらどうするんですか!」

 

「その時は、重力暴発で、コアを殲滅できるわ」

 

その瞬間、シンジはミサトの胸ぐらをつかんだ。

 

「ミサトさん!!」

 

「私を殺すなら後にしなさい!碇シンジ!使徒殲滅のためにも。今は、私も、あなたも全力を尽くすときです」

 

ミサトはシンジの怒りも預かった。

 

「レイもいいわね、コアが盾の後ろから出た瞬間を狙いなさい」

 

『……はい』

 

一方のレイは、とにかく後ろにあるはずのコアめがけて、攻撃を続ける。

この時のレイは、不気味なほど冷静で、シンジから受けた教えを、無意識に実行していた。

 

(トリガーを引きっぱなしにせず、小まめに離す)

 

弾幕で、コアを認識できなくなるのを防ぐために、決して指切りを怠らず、チャンスを待った。

 

(碇三尉……)

 

この時、レイも、シンジも、ミサトの言う通り、リュウジはこちらの狙いを『察知してしまう』と考えていた。

最初のあの特攻ですら、常軌を逸した行動であるにもかかわらず、その時の状況を考え、瞬時に己ができる最善手を打って見せたのだ。己のことなど考えずに。

ならば、コアが後ろに釘付けになっている状況を見れば、リュウジならミサトの狙い通りに動くであろう。

 

「碇君、囮は?」

 

『まだ、避け続けてるだけだけど……』

 

だが現場にいるレイは、

 

「動いた!」

 

いの一番に、囮の動きの変化に気づいた。

 

囮は感づいてしまった。

 

一気に目標の上空まで最高高度まで上昇し、

 

『囮が、目標コアめがけて急降下していきます』

 

無論加粒子砲は、相変わらず囮に向けて発射されるが、そのこと如くを順調に避けていく。

角度を誤れば当たる、尚且つ零号機から見て射線上にでるようにコアを動かすという、あり得ないほどの難易度を求められる。

その囮の動きを注意しつつ、コアが射線上にでることを信じ、レイはひたすら攻撃を続ける。

だが、

 

『囮、被弾!!』

 

遂に実験機に加粒子砲がかすった。

それでも降下し続ける囮は、だんだんと降下というより、落下に近い動きになる。

 

つまり、

 

『……綾波、チャンスは一度きりだ。でも慌てないで』

 

これを外せば、攻撃を誘発させることができなくなる。

 

『コア到達まで、10秒、9、8、7、……』

 

真下にいるレイからでは、もう囮の様子を見ることは、盾のせいでできない。

オペレーターからの秒読みで、タイミングを計るしかない。

 

『6、5、4、……』

 

そのタイミングが、

 

『3、2、……』

 

遂にくる、

 

『1』

 

「ずれた!!」

 

レイの両眼は捉えた。最後の力を振り絞るかのように、盾への激突を寸前で回避した囮と逆方向に、コアが動いたのを。

 

そして、盾がガトリングを防ぐ轟音とは明らかに違う音が、コアに命中するとともに響いた。

 

『目標に命中!!』

 

そしてあたりに使徒の悲鳴が響き、展開していた使徒の体が徐々に崩れ始める。

 

『やったの?』

 

ミサトはコアを打ち抜いたことで、半ば安堵するが、

 

『目標の反応、まだ消滅していません!』

 

最後の力を振り絞るかのように、一筋の加粒子砲が零号機を襲った。

 

『綾波!』

 

寸でのところで、回避するも、

 

『ガトリング破損!!』

 

持っていた武器に命中してしまう。

使徒は無茶苦茶にあたりに加粒子砲を打ちながら、なんとか形態を保とうとする。

仕留めきれてはないが、ダメージを与えたのは確かだ。

 

『零号機、プログレッシブナイフ装備!』

 

レイはその間に、敵の崩れかけた使徒の体の一部を掴んでおり、コアへと一気に接近する。

 

「そこっ!!」

 

敵が立て直しを終えようとした寸でのところで、零号機の攻撃が直接コアに届いた。

 

『……やった』

 

敵は勿論、指令室も静まる中、シンジだけが呟いた。

そして、モニターにはコアが崩壊し、その体も崩壊していく使徒が映った。

 

『目標の反応、完全に消滅しました!!』

 

零号機は着地すると、

 

「碇三尉!」

 

辺りを見回し、墜落寸前の実験機をとらえた。

 

「くっ!」

 

ナイフを投げ捨て、煙をあげる実験機を追いかけ、

 

「ふんっ!」

 

見事ダイビングキャッチした。

 

『綾波!』

 

そのまま倒れながらも、実験機は落とさないよう、レイは両腕を浮かせ、その後静かに地面に降ろした。

エントリープラグからLCLを強制排出させると、すぐさま実験機に駆け寄った。

自分でも何故ここまで慌てているのかわからない。

 

「三尉!……聞こえますか!?碇三尉!!」

 

だが反応がない。その間、彼女の脳裏には、出撃前に彼に抱きしめられた記憶が去来していた。

 

「返事をしてください!お願いです!!」

 

初めて頭を撫でてくれた時や、夕食に招待してくれた時など、それが頭をよぎるたびに、胸が苦しくなる。そして機体をたたき、

 

「返事をしてください!!三尉!!」

 

その願いが通じたのか、彼女のすぐ隣の機体のパネルが僅かだが開いた。

機体が歪んでおり、自動で開ききらなかった隙間から、少しづつLCLが流れ出始める。

 

「碇三尉!」

 

なんとかこじ開けようと、その隙間にレイは手をかけ、

 

「く、ぐぅ……」

 

彼女が体をくぐらせるほどまで開けることができた。

その、コックピットというにはあまりに狭い空間に、頭から血を流しながら力なく首をもたげるリュウジがいた。

 

「碇三尉?」

 

だが反応が全くない。

レイは肩に手をかけ、

 

「碇三尉、……三尉」

 

体をゆするも、変化はない。

 

「う、うぅ……」

 

変化のない体をゆすりながら、レイはうつむく。

 

「碇……三尉……」

 

「……レイ?」

 

急に聞こえた自分以外の声に、ハッとしてレイは顔を上げた。

 

「……レイ、無事か?」

 

そう言いながら、リュウジは力なくレイの頬を撫でた。

 

「はい、三尉」

 

「よ、かった……。き、君が、ぶ…じで」

 

そういうと、リュウジは出撃前と同じように、レイを抱きしめようとするが、

 

「ハハ、力が入らん。格好悪い」

 

はにかみながら話しかけるリュウジをみて、レイの中に喜怒哀楽が同時にこみあげ、

力なく、

 

「いたっ……」

 

リュウジの胸をたたいた。

 

「う、ウソつきです。い、碇三尉は……」

 

感情がごちゃ混ぜになりながら、リュウジの胸を両手で、ポカポカと綾波は叩きつづけた。

 

「生きることは、諦めない、って言ったのに。あんな、あんな……」

 

まるで死んでもいい、というような滅茶苦茶な行動を思い返し、レイは無表情に見えながらも、リュウジに感情をさらけ出していた。

 

「いてっ、痛い、レイ。……すまない」

 

リュウジもこんない痛い思いをしたのは初めてかもしれなかった。

だが、レイを悲しませた自分への罰として、あるいはレイの感情が成長していることの喜びとして、この痛みを噛みしめていた。

 

「う、嘘つき、です。あ、……なたは」

 

遂に嗚咽が混じり始め、叩く手も止まる。

 

「言い訳かもしれないが、俺は信じてたんだ。――――レイが、助けてくれるってな」

 

そうだろ、と言われたレイは、そのままリュウジの胸に顔をうずめた。

そしてレイが入ってきた隙間から、エンジン音が聞こえ始めた。恐らく、救護班が駆けつけてきた音であろう。

リュウジは力が入らないながらも。レイを抱きしめながら、その音に聴き入っていた。

 

 

「やめてください、自分で歩けます」

 

「その体で説得力ないわよ。いいから運ばれてなさい。命令よ」

 

ストレッチャーに寝かせられながら、リュウジは顔をしかめる。あまり自分がいたわれるのが、リュウジは好きではないのだ。

 

「みっともないですから、歩きますよ」

 

「おじさん、お願いだから大人しくして」

 

シンジにまで諭されるが、余計にリュウジは今の状況を煩わしく思ってしまう。

 

「ICUの準備、急いで!」

 

リツコが電話で指示を飛ばす。

 

「大げさにしないで、大したことないですから」

 

呼吸器を外そうとするが、

 

「お願いです。じっとしててください」

 

レイにその手を掴まれる。

 

(はぁ……。格好悪い)

 

ミサトやリツコはおろか、シンジやレイにまで気遣われるのが、とにかくリュウジはいやだった。

 

(自分で作戦を得意げに提言して、大人として責任を取るため、等と息巻いたはいいが、これじゃみっともなさすぎる)

 

周りの人間が、自分を運ぶ中、そんな子供じみた考えをしていると。

 

「父さん……」

 

そこに、予想外の人物が現れ、ストレッチャーに寝ていたリュウジも、首を気配のする方に向ける。

 

「……リュウジ」

 

「……命令違反で射殺したいなら、今なら簡単ですよ」

 

その物騒な物言いに、この状況であるにも関わらず、周囲の温度は一気に下がった。

 

「碇三尉!こんな時にやめなさい!」

 

流石にミサトも声を荒げた。

 

「碇司令。処罰ならせめて治療の後にしてください。しかるべき処罰は、私が責任を持って……」

 

「下がれ、葛城二佐」

 

力なく上半身を起こすリュウジに、ゲンドウは視線を向ける。

 

「お前には思うところはある。だが今回の功績を認め、命令違反は不問とする」

 

「父さん……」

 

「よくやった」

 

それだけ言うと、ゲンドウは踵を返し去っていった。

 

「おじさん」

 

リュウジを見ると、ゲンドウから顔を背けていたが、シンジはうれしかった。

 

(もしかしたら、仲直り、できるかな……)

 

ようやく、家族が一つになれるかもしれない。そんな希望を、感じることができたのだ。

 

後にそれは、かなわぬ希望とシンジは知る。

 

だがリュウジとゲンドウは知っていた。いや、覚悟していた。

兄と弟。そのどちらかしか、残ることができないことを。

 

 

『……剣崎か?』

 

「ああ、そちらに内容は送った。こちらの勝手で悪いが、よろしく頼む」

 

『随分と人使いが荒くなったな、おまけに、かなり漠然としている』

 

「わかっている。だがこれを調べれば、お前が求める真実に、たどり着けるかもしれない」

 

『……何故そう言える』

 

「確証はない。だが、明らかに知られたくない情報が隠されている」

 

『それなら、なぜ碇司令や、冬月副司令は、許可したんだ』

 

「……知られてでも、この依頼者を殺したいからだ」

 

『何者なんだ。そいつは……』

 

「余計な詮索はするな、それが俺たちの暗黙の了解だろう」

 

『……わかった。お前さんとは長い付き合いだからな。すぐに取り掛かる』

 

「よろしくたのむ、……加持」




ここで序は終わり、次回から破になります。

活動報告でも言いましたが、最初から、アスカが登場しますので、どうぞご期待ください。

ご意見、ご感想お待ちしております。

誤字、脱字等ございましたら、お手数ですがご報告ください。

これからも、応援よろしくお願いいたします。
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